出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル136(2019年8月1日~8月31日)

 19年7月の書籍雑誌推定販売金額は956億円で、前年比4.0%増。
 書籍は481億円で、同9.6%増。
 雑誌は475億円で、同1.2%減。その内訳は月刊誌が384億円で、同0.1%減、週刊誌は91億円で、同5.4%減。
 返品率は書籍が39.9%、雑誌は43.0%で、月刊誌は43.4%、週刊誌は41.3%。
 書籍のほうは新海誠『小説 天気の子』(角川文庫)が初版50万部で刊行された他に、東野圭吾『希望の糸』(講談社)、百田尚樹『夏の騎士』(新潮社)などの新刊が寄与している。
 雑誌は定価値上げに加えて、定期誌『リンネル』(宝島社)などが好調で、コミックは『ONE PIECE』(集英社)の新刊発売にも支えられている。
 例年は『出版年鑑』(出版ニュース社)の実売総金額も挙げてきたが、出版ニュース社が閉じてしまったので、それももはや提示できなくなってしまったことを先に付記しておこう。

小説 天気の子 希望の糸  夏の騎士  リンネル ONE  PIECE 



1.出版科学研究所による2019年上半期の紙+電子出版市場の動向を示す。

2019年上半期 紙と電子の出版物販売金額
2019年1〜6月電子紙+電子
書籍雑誌紙合計電子コミック電子書籍電子雑誌電子合計紙+電子合計
(億円)3,6262,7456,3711,133166731,3727,743
前年同期比(%)95.294.995.1127.9108.584.9122.098.9
占有率(%)46.835.582.314.62.10.917.7100.0

 前年と同様にインプレス総合研究所の18年電子書籍市場調査と合わせて言及してみる。
 出版科学研究所による19年上半期紙と電子出版物販売金額は7743億円で、前年比1.1%減。そのうちの電子出版市場は1372億円、同22.0%増で、そのシェアは17.7%、前年は16.1%。
 電子出版の内訳は電子コミックが1133億円で、同27.9%増、電子書籍が166億円で、同8.5%増、電子雑誌が73億円で、同15.1%減。
 電子コミックの3割近い伸びは海賊版サイト「漫画村」の閉鎖によるものとされる。前年に続く電子雑誌のマイナスは「dマガジン」の会員減が影響し、大幅減となった。
 電子出版市場は前年比プラス247億円だが、それは電子コミックの同247億円プラスとまったく重なる数字で、電子出版市場が電子コミック市場に他ならないことを象徴していよう。したがって今後の電子出版市場にしても、その成長は電子コミック次第ということになる。

 その一方で、インプレス総合研究所によれば、18年度の電子出版市場規模は3122億円で、前年比22.1%増。
 その内訳は電子雑誌が296億円、同6.1%減で、統計開始以来の初めての減少。電子書籍は2826億円、同26.1%増。
 電子書籍の分野別はコミックが2387億円、同29.3%増、文芸、実用書、写真集などの「文字もの等」が439億円、同10.8%増で、コミックのシェアは84.5%。

 出版科学研究所とインプレス総合研究所による電子出版市場規模は前者が上半期、後者が年間データで開きはあるのだが、電子市場のマイナス、電子コミックのシェアの高さは共通している。それゆえにインプレスの場合も、電子書籍市場は電子コミック次第ということに変わりはないといえよう。



2.『日経MJ』(7/31)の18年度「日本の卸売業調査」が出された。
 そのうちの「書籍・CD・ビデオ部門」を示す。

 

■書籍・CD・ビデオ卸売業調査
順位社名売上高
(百万円)
増減率
(%)
営業利益
(百万円)
増減率
(%)
経常利益
(百万円)
増減率
(%)
税引後
利益
(百万円)
粗利益率
(%)
主商品
1日本出版販売545,761▲5.81,026▲56.61,084▲57.5▲20912.9書籍
2トーハン416,640▲6.13,887▲12.71,819▲24.653114.3書籍
3大阪屋栗田74,034▲3.9書籍
4図書館流通
センター
45,2390.21,90715.72,117151,37818.3書籍
5日教販28,0242.44153.224512.421610.4書籍
9春うららかな書房3,465▲4.2書籍
MPD168,314▲6.9112▲73.1122▲70.8164.1CD

 日販とトーハンの決算に関しては本クロニクル134で詳述しているので、ここでは前年と同様に、決算を発表していない大阪屋栗田にふれてみる。
 それに折しも、ノセ事務所の能勢仁が『新文化』(7/25)に、「大阪屋栗田は情報発信を」という投稿をしているからでもある。能勢は大阪屋栗田のネット上の決算公告により、上記の調査表の空白を埋めるかたちで、次のように述べている。

「それによると、大阪屋栗田の売上高は740億3400万円で、前年比3.9%減である。日販やトーハンと比べて減少幅が低い。しかし、営業損失は3億6100万円、経常損失は2億7800万円、当期純損失は4億2200万円だった。
 昨年度、業界誌に大阪屋栗田の記事が載ることはほとんどなかった。役員・執行役員など14人以外、人事情報も公開されていない。取次会社はこの業界の公器で、取引書店にとっては親のようなものである。大阪屋栗田の沈黙は不安感を与えかねない。」

 
 さらに続けて、大阪屋栗田が書店に促進しているのは楽天ポイントキャンペーンが主で、それより重要な品揃えや接客といった読者ニーズ、来店動機への取り組みが欠けているのではないかとの疑念も発せられている。
 だが現在の大阪屋栗田には、かつて大阪屋や栗田が備えていた書店経営勉強会促進といった機能を望むことは不可能であろう。大阪屋栗田は書店の取次というよりも、もはや当然のことだが、ネット企業楽天の傘下取次の色彩が強くなっている。
 現在の出版状況において、「大阪屋栗田の沈黙は不安感を与えかねない」と能勢は書いているけれど、それは日販やトーハンも同様であろう。
 前回、文教堂GHDの「事業再生ADR手続き」やフタバ図書の長期にわたる粉飾決算などに言及したが、日販は沈黙を守っているに等しいし、それは新聞や経済誌にしても同じだ。トーハンもそうした書店を抱えているにもかかわらず、こちらも何も発信していない。
 しかし19年の書店売上と閉店状況を見る限り、書店市場は多くが赤字に陥っていると考えざるを得ない。そのバブル出店のつけを取次は清算することができるであろうか。
 なお中央社の決算が発表された。売上高212億円、前年比2.1%減で、減収減益の決算。

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3.『新文化』(7/25)が「TSUTAYA『買切仕入れ』の狙い」との見出しで、同社取締役でBOOKカンパニーの鎌浦慎一郎社長、内沢信介商品部長の話を掲載している。
 

 本クロニクル134で、TSUTAYAの買切に関して、詳細がはっきりせず、現在のようなTSUTAYA状況の中での疑問を呈しておいた。そうした見解はこの一面特集を読んでも変わらないけれど、ここで示されたデータからTSUTAYAの現在を観測してみる。
 本クロニクル133でTSUTAYAの18年度、書籍・雑誌販売金額が過去最高額になったことを既述しておいたが、その店舗数は不明だった。この記事には18年末の直営店、FC店合わせて835店、販売金額は1347億円とある。これまでのTSUTAYAの年間販売金額に関しても『出版状況クロニクルⅤ』などで試算してきたように、あらためて確認してみると、一店当たりの書籍・雑誌販売金額は年商1億6000万円で、月商1300万円となる。
 これに対して、日販の「出版物販売金額の実態2018」によれば、17年の書店坪数と販売金額は83.7坪、年商1億23万円とされる。08年には70.7坪、1億1474億円だったので、書店坪数の増床と反比例して、販売金額が減少していったことを示している。

 ところがTSUTAYAの場合、18年には30店が新規出店し、その平均坪数は700坪である。もちろんこれが書籍・雑誌売場だけでなく、複合であることは承知しているけれど、70、80坪でないことは自明だろう。すなわち、TSUTAYAは単店でみるならば、驚くほど書籍・雑誌を売っていないし、しかも雑誌、コミック比率が高く、書籍販売の蓄積を有していないと見なせよう。
 さらにこの記事にはTSUTAYAの返品率は雑誌・書籍を合わせて35%で、それを買切仕入れで30%未満にしたとの言もある。しかし18年に続いて、19年もTSUTAYAの大量閉店は止まず、7月で40店を超え、その坪数は1万坪近くに及んでいる。それらのトータルな返品も含めれば、返品率は優に50%を超えているはずだ。
 文教堂やフタバ図書だけでなく、日販とMPDはこのようなTSUTAYAを抱え、三つ巴の大返品状況を迎えている。それらの行方はどうなるのだろうか。
出版状況クロニクル5

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4.全国大学生活協同組合連合会(大学生協連)は秋から日販による専門書新刊の見計らい自動配本を取りやめ、全国共同仕入事務局と主要店舗選書担当者が選書と発注を行う「書籍事業再構築方針」を発表。
 大学生協連には206大学生協が加盟し、431店舗を有し、年間の出版物販売金額は240億円。

 6月に九州大学生協文系書籍店と理農購買書籍店の閉店が伝えられ、大学生協書籍店にも否応なく、危機が露呈し始めていることをうかがわせた。
 とりわけ九州大学文系書籍店は鈴木書店時代に小社によく注文があったこと、また大学生協連の日販への帖合変更が鈴木書店の倒産のひとつのきっかけだったことを思い出させてくれた。
 あれから20年近くがたち、大学生協書籍店も想像以上の変化と異なる事態に直面していると推測される。



5.小中学校の図書館に書籍を卸していた武蔵野市の東京学道社が破産手続きを開始。
 同社は公立小中学校280校の図書館に書籍を卸していたが、資金繰りの悪化と代表者の死去もあり、今回の措置となった。負債は1億円。

 このような民間の図書館納入会社が破産する一方で、映画『ニューヨーク公共図書館』がロングラン化している。また超党派議員からなる活字文化議員連盟(議連)の「公共図書館の将来」という答申を提出している。それは10年の議連の「一国一書誌」政策に端を発し、国会図書館の書誌データ一元化推進を主とするもので、TRCは「民業圧迫」と反発しているようだ。
 それは当然のことで、「公共図書館の将来」答申は議連と日本インフラセンター(JPO)のパフォーマンスにすぎず、実現することはないと断言していい。それよりも、現在の書店と図書館の関係の希薄化、東京学道社のような民間の図書納入業者が消えていく、小中学校も含んだ図書館市場の動向が気にかかる。



6.経済誌『Forbes Japan』を発行するリンクタイズは男性誌『OCEANS(オーシャンズ)』の発行所ライトハウスメディアのゼ株式を取得。それに伴い、リンクタイズの角田勇太郎社長が代表取締役に就任。
 ライトハウスメディアの太刀川文枝社長は退任するが、『オーシャンズ』編集体制はそのまま継続される。
Forbes オーシャンズ

7、『うんこドリル』の文響社は(株)マキノの全株式を取得し、同社とその子会社わかさ出版を完全子会社化した。
 わかさ出版の石井弘行社長は留任し、文響社の山本周嗣社長が取締役に就任。
 わかさ出版は1989年創立で、健康雑誌『わかさ』『夢21』『脳活道場』及び健康・医療関係の単行本などを編集発行。

うんこドリル わかさ 夢21 脳活道場

 たまたま今回は続けて2誌の買収が明らかになったが、出版社と雑誌のM&Aも水面下で多くが検討されているにちがいない。
 本当に雑誌の運命もどうなっていくのか。



8.LINEは8月5日にスマホ向けアプリ「LINEノベル」の配信を開始。
 「LINEノベル」はオリジナル作品の宮部みゆきの『ほのぼのお徒歩日記』、中村航『♯失恋したて』などが読めるアプリと、小説投稿アプリをベースにして、講談社や集英社など12社、2000作が搭載され、投稿数はすでに8000を超えているという。
 専門アプリのダウンロードは無料で、アイテム課金制。全作品の1話から3話まで無料公開され、4話以降は1話につき20コイン(20円)。投稿作品はすべて無料で読める。

 『日経MJ』(8/14)に中村航への「なぜスマホアプリに書き下ろし?」という長いインタビュー、及び「参加する出版社とLINEノベルの仕組み」というチャートが掲載されているので、必要とあれば参照されたい。



9.『週刊ポスト』(8/30)で、横田増生の潜入ルポ「アマゾン絶望倉庫」の連載が始まった。
 かつて『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(朝日文庫)を刊行した横田は、二度目の潜入を「とてつもなく大きくなったなあ……」と始めている。
 この15年の間にアマゾンに何が起きていたのか、どのように変わっていったのかがレポートされていこうとしている。


週刊ポスト 潜入ルポ アマゾン・ドット・コム

 郊外消費社会は3C、すなわちcheap、convenience、comfortableをベースにして形成され、それがcheapであることは共通しているけれど、convenienceでもcomfortableでもない仕事によって支えられている。
 その典型を拙著『郊外の果てへの旅/混住社会論』の中で、桐野夏生『OUT』のコンビニ弁当工場に見たことがあったが、アマゾンの倉庫現場にもそうした労働によって成立しているはずだ。それらの詳細がこれから伝えられていくのだろうか。
 そのかたわらで、アマゾンのクラウドサービスの大規模障害が発生し、ペイペイやユニクロにも被害が及んでいる。こちらもどのようにレポートされていくのか、留意すべきであろう。
郊外の果てへの旅 OUT 上



10.
『東京人』(9月号)に北條一浩の「高原書店が遺したもの」というサブタイトルの「ダム湖のような古書店があった」が6ページにわたり、写真を含め、掲載されている。
 リードは次のようなものである。
 「2019年5月8日。
 町田の古書店・高原書店が閉店を発表した。書店閉店のニュースが多い昨今でも同店のクローズは最大級の衝撃をもって受け止められたと思う。
 高原書店はなぜあれほど大きく拡がり、人々を魅了したのだろうか。
 この稀有な存在を忘れないためにも、高原書店が遺したものについて考えてみたい。」

 

 高原書店に関しては本クロニクル133でふれている。だがこれは高原書店の創業から45年の歴史を丁寧にトレースし、創業者高原坦一の独自の半額販売と店舗展開、データベースに基づくネット古書店への進出、高原の死とその後までをたどっている。そのことによって、貴重な現代古本屋史でもあるので、一読をお勧めしよう。
 また『週刊エコノミスト』(8/6)にも「『古書店』と『新古書店』のあいだに―東京・町田高原書店が遺したもの」が掲載されていることを付け加えておく。

東京人 週刊エコノミスト 



11.漫画評論家の梶井純が78歳で亡くなった。
 

 梶井の本名は長津忠で、彼はかつて太平出版社の編集者、『漫画主義』の同人だった。
 拙稿「太平出版社と崔溶徳、梶井純」(『古本屋散策』所収)でふれているように、石子順造『現代マンガの思想』や石子、菊池浅次郎、権藤晋『劇画の思想』は梶井の企画編集によるものである。
 梶井も『戦後の貸本文化』(東考社)を上梓し、その後貸本マンガ史研究会を立ち上げ、『貸本マンガ史研究』(シノプス)を創刊している。
 梶井とは長らく会っていなかったけれど、『貸本マンガ史研究』や『貸本マンガRETURNS』(ポプラ社)が恵送されてきたのは彼の配慮によっていたのだろう。
 拙稿の最後で、「お達者であろうか」と書いたばかりだった。ご冥福を祈る。
f:id:OdaMitsuo:20190828150331j:plain:h112 劇画の思想 f:id:OdaMitsuo:20190828152146j:plain:h112 貸本マンガRETURNS



12.何気なく『本の雑誌』(9月号)を手にしたら、目次タイトルに「小田さん、その後の加賀山弘について少しお伝えします」とあった。 
本の雑誌 古本屋散策

 これは「坪内祐三の読書日記」の見出しで、彼が『古本屋散策』をジュンク堂で購入し、所収の一編「『アメリカ雑誌全カタログ』、加賀山弘、『par AVION』」に対し、加賀谷のその後についてのコメントを寄せていたのである。
 目次と見出しの呼びかけは途惑ったけれど、「坪内さん、こちらこそ高価な拙著を購入して頂き、本当に有難う」と返礼するしかない。



13.次著『近代出版史探索』のゲラが出てきた。
 こちらも『古本屋散策』と同様に、200編を収録した一冊である。
 今月の論創社HP「本を読む」㊸は「恒文社『全訳小泉八雲作品集」と『夢想』」です。

出版状況クロニクル135(2019年7月1日~7月31日)

 19年6月の書籍雑誌推定販売金額は902億円で、前年比12.3%減。
 書籍は447億円で、同15.5%減。
 雑誌は454億円で、同8.9%減。その内訳は月刊誌が374億円で、同8.0%減、週刊誌は80億円で、同12.9%減。
 返品率は書籍が43.4%、雑誌は44.7%で、月刊誌は44.8%、週刊誌は44.4%。
 5月に続いて、6月も大幅なマイナスで、2ヵ月連続の最悪の出版流通販売市場となっていることが歴然である。
 まさに7月からの出版状況はどうなっていくのだろうか。



1.出版科学研究所による19年上半期の出版物推定販売金額を示す。
 まず最初に出版科学研究所による1~5月期のデータに誤りがあり、書籍雑誌推定金額と雑誌推定販売金額が修正されていることを断わっておく。
 2019年上半期の書籍雑誌推定販売金額は6371億円で、前年比4.9%減。
 書籍は3626億円で、同4.8%減。
 雑誌は2745億円で、同5.1%減。その内訳は月刊誌が2241億円で、同4.3%減。週刊誌は504億円で、同8.4%減。
 返品率は書籍34.9%、雑誌が44.2%で、月刊誌は44.7%、週刊誌は41.9%。


■2019年上半期 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2019年
1〜6月計
637,083▲4.9362,583▲4.8274,500▲5.1
1月87,120▲6.349,269▲4.837,850▲8.2
2月121,133▲3.273,772▲4.647,360▲0.9
3月152,170▲6.495,583▲6.056,587▲7.0
4月110,7948.860,32012.150,4745.1
5月75,576▲10.738,843▲10.336,733▲11.1
6月90,290▲12.344,795▲15.545,495▲8.9

 上半期トータルで見ると、書籍雑誌のマイナス幅は少し改善されているように見える。だがこれはひとえに5月連休前の大幅な送品の増加に伴う、4月の8.8%増というデータによって支えられているからだ。
 これから問題なのは5、6月のような最悪の出版流通販売市場が続いていけば、書店市場そのものが恒常的な赤字に陥ってしまうであろう。
 一部ではそれが続けてふれる2、3、4のように現実化し、徐々に全体へと波及していく。それは19年下半期にさらに加速していくであろう。



2.文教堂GHDと子会社の文教堂は6月28日、事業再生実務家協会に「産業競争力強化法に基づく特定認証紛争解決手続」(事業再生ADR手続き)を申請し、受理された。
 それに伴い、2社と事業再生実務家協会は金融機関に、借入金元本の返済などの「一時停止の通知書」を送付した。
 7月12日に「事業再生ADR手続き」に基づく第1回債権者会議が開かれ、出席金融機関のすべてが2社の借入金元本返済の「一時停止」に同意した。
 この「一時停止」の期間は9月27日の事業再生計画案を決議する債権者会議終了時までで、今後はすべての金融機関と協議しながら、事業再生計画案を策定し、その成立をめざす。

 文教堂GHDの債務超過や大量閉店、上場廃止問題に関して、本クロニクル129や132などでずっとトレースしてきたが、ついにこのような事態となった。「事業再生ADR手続き」とは会社更生法や民事再生などの法的手続きによらず、債権者と債務者の合意に基づき、債務を猶予、または減免するための手続きとされる。
 結局のところ、8月までの債務超過解消は困難で、上場廃止も避けられないことから、「事業再生ADR手続き」がとられたと判断できよう。
 それに対して、金融機関は借入金元本返済の「一時停止」に同意し、日販も「これまで通りの取引を行い、営業面で支援していく」ということだが、書店市場が最悪の中で、本業の回復は不可能に近い。そのような状況において、上場書店、大手取次、金融機関のトライアングルはどのような展開を示していくのであろうか。
 なお6月の文教堂閉店は6店である。
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3.『FACTA』(8月号)が「粉飾歴40年『フタバ図書』に溜まった膿」という記事を発信している。それを要約してみる。

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* フタバ図書は1913年創業で、広島県を中心に60店舗移譲を展開する大型書店であり、年商は373億円。
* 発端は6月初旬のシステム障害で、商品の入荷が遅れ、予約や注文ができない異例の事態に陥り、混乱を招いた。それと同時に5月末の取引先への支払いも遅延していたことが判明し、「単なるシステム障害」ではないとの不安が広がった。
* 緊急招集したバンクミーティングで、「40年前から粉飾決算をおこなってきた」と告白し、取次の日販の支援と銀行団からの返済の一時棚上げは認められたが、経営再建できるのかは未知数。
* 昨年10月、世良與志雄社長が急死し、財務などの経営管理担当の実弟世良茂雄専務が後継したが、すぐに手をつけたのが資金調達で、既存借入金だけで100億円を超えているにもかかわらず、60億円という巨額だった。
* それによって、従来の決算内容に疑惑が生じ始めた。表面上は毎期10億円規模の営業利益を出していたが、在庫が100億円強と多すぎるので、利益率も不自然に高かった。
* そのことに対して、フタバ図書は飲食店、コンビニ、コインランドリー、VRゲームとカフェバーの複合店、24時間営業のジム「ハイパーフィット24」のFC店などの多角経営による高収益と説明してきた。だが今回のシステム障害で、長年の不足会計が露呈してしまった。
*今後、数ヵ月かけて、専門家によるデューデリジェンスが行われるが、20億から30億の簿外債務が指摘され、在庫などの資産評価の洗い直しが必至である。  


 本クロニクル128で、同じく広島の老舗書店広文館の破綻とトーハン主導の第二会社設立を伝えたが、フタバ図書と日販はどのような道筋をたどることになるのか。
 前回のクロニクルで、フタバ図書TERAワンダーシティ店1100坪の閉店を伝えているが、それは象徴的な始まりに他ならず、いずれにしてもリストラと大量閉店は避けられないだろう。
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4.札幌市のなにわ書房が破産申請。
 なにわ書房は1954年設立で、ピーク時の2000年には売上高13億円を計上していたが、それ以後は販売不振が続き、17年には大垣書店とFC契約を締結していた。
 しかし売上高は18年には4億8000万円となり、業績回復は困難で、今回の処置となった。負債は2億9000万円。

 なにわ書房といえば、かつてはリーブルなにわというよく知られた店を有していたけれど、今世紀に入ってからは出店と閉店の繰り返しの中で、後退を続けていたようだ。
 6月の閉店状況を見ると、なにわ書房が4店あり、いずれも東光ストアや西友のテナントとしてで、おそらくそのようなトーハンとのコラボによって延命していたと思われる。それに相次ぐ閉店は自己破産とリンクしている。
 トーハンの代理のようなかたちで、大垣書店はなにわ書房のFC化、2でふれた広島の広文館の受け皿的役割を果たしているが、双方とも清算を迫られているのかもしれない。



5.『日経MJ』(7/10)の「第47回日本の専門店調査」が出された。
 そのうちの「書籍・文具売上ランキング」を示す。


■ 書籍・文具売上高ランキング
順位会社名売上高
(百万円)
伸び率
(%)
経常利益
(百万円)
店舗数
1カルチュア・コンビニエンス・クラブ
(TSUTAYA、蔦谷書店)
360,65730.419,651
2紀伊國屋書店103,144▲0.21,35670
3ブックオフコーポレーション80,7962,120795
4丸善ジュンク堂書店74,390▲2.2
5未来屋書店52,531▲6.3▲118272
6有隣堂51,7382.030345
7くまざわ書店41,9851.2241
8フタバ図書38,9854.41,07270
9ヴィレッジヴァンガード33,466▲3.5392358
10トップカルチャー(蔦屋書店、TSUTAYA)31,4823.6▲1,20178
11三省堂書店25,400▲0.435
12文教堂24,337▲9.6▲593162
13三洋堂書店20,300▲4.4▲7781
14精文館書店19,6640.348350
15リラィアブル(コーチャンフォー、リラブ)13,8630.447310
16キクヤ図書販売11,200▲3.536
17大垣書店10,4060.99737
18オー・エンターテイメント(WAY)10,391▲6.014261
19ブックエース9,783▲4.53230
20京王書籍販売(啓文堂書店)6,447▲2.56826
21戸田書店6,010▲6.2▲6430
ゲオホールディングス
(ゲオ、ジャンブルストア、セカンドストリート)
292,560▲2.217,6321,878

 この出版危機下にあって、ほとんどが前年マイナス、もしくは微増であるのに、CCCの売上高は3606億円、前年比30.4%増、それに加え196億円という1ケタちがう経常利益率は尋常ではない。経常利益はブックオフの約10倍、紀伊國屋の15倍に及んでいるのだ。
 しかもこの「書籍・文具」全体の売上高は前回調査よりも8.8%増と大きく伸び、それはCCCによるもので、徳間書店や主婦の友社の買収効果に加え、大型店も好調ゆえだとの調査コメントも付されている。
 それだけでなく、この売上高と経常利益は連結数字によるものとされるが、どのようにして出されたものなのか、Tポイント事業はともかく、物販、図書館事業などでは多くが赤字と見られるし、釈然としない。本クロニクル132で、TSUTAYAの書籍雑誌販売額は1330億円であることを既述しておいたけれど、それに2000億円以上が上乗せされている。
 前回の本クロニクルで、CCC= TSUTAYAとコラボしてきた日販の赤字やMPDの後退も見てきたし、CCCの売上高の10%近くを占める上場会社で、10位のトップカルチャーも赤字になっている。それに今回ので、フタバ図書の長年の粉飾決算、及び文教堂の「事業再生ADR」申請にもふれたばかりだ。
 またこれも本クロニクル130などで、文教堂以上にTSUTAYAの大量閉店が18年から続いていることにも言及してきたし、CCCの2011年からの連結決算の推移についても、『出版状況クロニクルⅤ』などでトレースしてきている。

 それらの推移をたどると、CCCは出版危機が進行するほど売上高や経常利益を伸ばしていることになる。売上高における連結決算のメカニズムは不明だが、経常利益に関しては、CCCがFCに対して銀行機能を代行することで、信じられないような利益率と増益を可能にしているのではないだろうか。
 これを具体的に説明すると、CCCのフランチャイズ店は100%支払を原則とし、中取次としてのCCCはそれをベースとして日販とMPDにも100%支払を実行することによって、コラボしてきた。ところがFCの大量閉店に加え、売上の低迷もあり、100%支払が困難となり、そのショート分の金額をCCC本部が銀行金利よりも上乗せするかたちで、FCに貸付金とする。それゆえに、CCCのFCに対する貸付金の増加に伴い、利益も上昇していくことになる。FCの大量閉店はそれ自体で清算を意味していないし、未払い金が積み重ねられていくメカニズムを有しているからでもある。
 もちろんこれは日販やMPDにもダイレクトにリンクしていく取次と出版金融の危ういメカニズムに他ならないが、その資金調達が臨界点を迎えるまでは続いていくだろう。
出版状況クロニクル5
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6.『世界』(8月号)が特集「出版の未来構想」を組んでいる。そのリードは次のようなものだ。
 「第一に、このような破滅的な市場縮小は世界各国で同時進行していることなのか。もしそれでなければ、なぜ日本でこうなのだ。第二に、この傾向を反転させる道筋はありうるのか。」
 そしてこの特集は出版ニュース社の清田義昭「出版はどこから議論すればいいのか」から始まり、新文化通信社の星野渉「崩壊と再生の出版産業」で終わっている。


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 出版危機がまさに臨界点を迎えている現在において、これほど不毛な特集「出版の未来構想」が組まれたことに唖然とするしかない。
 そのリードにしても、これらは本クロニクルが10年以上にわたってレポートし、詳細に記録してきたもので、何を今さらというしかない。それに所謂「出版に詳しい」業界誌の二人の公式見解の表明を掲載すること自体が、『世界』の認識を疑わしめている。
 もし本気でこのような特集を組むとすれば、この10年間における『世界』の実売部数の推移、それから岩波新書+岩波文庫の動向も含め、岩波書店の出版物全体の現在をまず提示すべきであろう。そして自らの言葉で、「このような破滅的な市場縮小」を「反転させる道筋」を語り、岩波書店の高正味と買切制の行方も含め、「出版の未来構想」を具体的に提案しなければならない。
 しかしこの期に及んでも、岩波書店にそのような現在的認識すらもないことを、この『世界』の特集は図らずも明らかにしてしまったことになろう。



7.『自遊人』(8月号)がやはり「『本』の未来』」特集を組んでいる。

自遊人

 これもまたリードにあるように、駅前書店の消滅に象徴される出版不況の中にあって、「本の未来」を信じ、期待するという意図によって編まれた特集といっていいだろう。
 そのメインとなっているのは「箱根本箱」の開業物語であり、そのプロジェクトに携わった、他ならぬ『自遊人』編集長と日販の「担当者」が自らプロパガンダすることを目的としている印象を否めない。
 それに続く他の「本の未来」物語にしても、様々な本に関するコンサルタントたちが勢揃いしてのパフォーマンスと見なせよう。 
 このような特集を見ると、『出版状況クロニクルⅣ』で繰り返し批判しておいた丸善の小城武彦と松岡正剛の松丸本舗プロジェクトを想起せざるをえない。これは書店の実情に通じていない二人が「本の未来」に挑んだことになるけれど、失敗に終わったプロジェクトである。それなのに「奇蹟の本屋、3年間の挑戦」と銘打たれ、『松丸本舗主義』(青幻舎)として、あたかも成功したプロジェクトであるかのように喧伝されたことになる。
 その延長線上に、様々な「本の未来」にまつわるプロジェクトと言説が横行するようになったことはいうまでもあるまい。 
 それから取次が試みている不動産プロジェクトのひとつとして、「箱根本箱」は位置づけられよう。だが最も有効な不動産活用は、できるだけ高価で売却することに尽きる。実例は挙げないけれど、そのようにして多くの出版社がかろうじてサバイバルしてきた事実を認識すべきだろう。
出版状況クロニクル4 松丸本舗主義



8.久間十義『限界病院』(新潮社)を読んだ。

限界病院

 これはタイトルに示されているように、北海道の財政危機と人材難に見舞われ、民営化を迫られる市立病院を舞台とする小説にほかならない。
 それゆえに、本クロニクル133でふれたPFI(Private Finance Initiative)や指定管理業者制度が生み出した「行政市場」の中で翻弄される病院と医師の姿を描いて、出色の小説として読める。
 そのような『限界病院』を読みながら想起されたのは、公立図書館の現在の姿であり、やはりこの小説と重なるような「限界図書館」的状況が全国至るところで生じているにちがいない。
 残念ながら「限界図書館」的小説は書かれていないので、『限界病院』を読むことを通じて、それらを想像するしかない。
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9.安田理央『日本エロ本全史』(太田出版)が出された。
 1946年から2018年までの創刊号100冊をカラー図版で紹介し、その帯には「とうとうエロ本の歴史は終わってしまった」とある。


日本エロ本全史

 その面白さをどう伝えればいいのかと考えていたが、著者が中学生の頃からエロ本を買って衝撃を受け、「自分もいつかはエロ本の編集者になりたい」と思うようになり、実際になってしまったという事実に尽きるだろう。
 実は私も中学生の頃から「売れない物書きになりたい」と思い、本当にそうなってしまった。おかしいことは人後に落ちないけれど、まさかエロ本の編集者になりたいと思っていた中学生がいたとは!
 ただ残念なのは、私がインタビューした飯田豊一『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』(「出版人に聞く」シリーズ12)が参考文献として挙がっていないことだ。
 だがそれはともかく、資料的にも優れ、楽しい一冊なので、全国の公共図書館3300館にも必備本として推奨したいが、リクエストしても無理かもしれない。
『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』



10.レオナルド・パデゥーラ『犬を愛した男』(寺尾隆吉訳、水声社)を読了。

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 このキューバ人作家の小説を読むのは初めてだったが、19年上半期ベスト1に挙げたいと思う。670ページに及ぶ長編『犬を愛した男』は、1940年のトロツキー暗殺者が生涯の最後の数年を犬とともにキューバで過ごしたことに触発され、ロシア革命とスターリン体制、スペイン内戦を横断し、暗殺者と犠牲者の生涯が追跡され、小説的物語へと昇華していく。
 ロシア革命やスペイン内戦の翻訳編集に携わっていたこともあり、久し振りにフィクションへの堪能感を味わい、ラテンアメリカ文学の健在さを確認した次第だ。またやはりトロツキー暗殺をテーマとするジョセフ・ロージー監督、アラン・ドロン、リチャード・バートン主演の『暗殺者のメロディ』(1972年)を思い出したりもした。
 この『犬を愛した男』は水声社の「フィクションのエル・ドラード」の一冊でもあるので、この叢書のすべてを読むことにしよう。

 この読了に味をしめ、次のマーロン・ジェイムズの大長編『七つの殺人に関する簡潔な記録』(旦敬介訳、早川書房)にも挑んだのだが、『犬を愛した男』ほどには乗り切れなかった。それでもこの小説のテーマであるボブ・マーレイ殺人未遂事件から、1980年代に読んだコミックの一シーンが浮かび上がってきた。
 それは『出版状況クロニクルⅣ』などで二人の死を追悼してきた狩撫麻礼作、谷口ジロー画『LIVE ! オデッセイ』(双葉社)である。アメリカからかえってきたオデッセイは誰も聴いていないビアガーデンでバンド活動を再開しようとしていう。
「奴らをこっちに向けてみせる。フルボリュームで “ I SHOT THE SHERIFF ” だ。あの世のボブ・マーレイに捧げる」と。そして10ページにわたって描かれる演奏シーンはあたかもレゲエを描いているようで、二人の作品のコラボの秀逸さを見事に伝えるものだった。
 この調子でと、さらにウィリアム・ギャディスのこれも大長編『JR』(木原善彦訳、国書刊行会)も読み出したのだが、まだ読了していない。


暗殺者のメロディ 七つの殺人に関する簡潔な記録 LIVE! オデッセイ JR



11.拙著『古本屋散策』はまったく書評も紹介も出ないので、おそらく「忖度」により、『日本古書通信』(8月号)に樽見編集長との3ページ対談が掲載されます。
古本屋散策

 またこれは18年10月のシンポジウムの記録ですが、好評ということで、最近になって「CINRA.NET「郊外」から日本を考える 磯部涼×小田光雄が語る崩壊と転換の兆し」がネットにアップされました。若い人たちの試みなので、アクセスして頂ければ幸いです。

 なお今月の論創社HP「本を読む」㊷は「紀田順一郎、平井呈一、岡松和夫『断弦』」です。

出版状況クロニクル134(2019年6月1日~6月30日)

 19年5月の書籍雑誌推定販売金額は755億円で、前年比10.7%減。
 書籍は388億円で、同10.3%減。
 雑誌は367億円で、同11.1%減。その内訳は月刊誌が291億円で、同9.5%減、週刊誌は75億円で、同16.9%減。
 返品率は書籍が46.2%、雑誌は49.2%で、月刊誌は50.6%、週刊誌は42.9%。
 前月の反動で、全体の推定販売金額、書籍、雑誌の推定販売金額がトリプルで二ケタ減という、これまでにない最悪のデータになってしまった。
 とりわけ週刊誌の16.9%減は『週刊少年ジャンプ』や『週刊現代』などが1号少なかったことも要因とされるが、かつてなかったマイナスである。
 たまたま日本ABC協会の「ABC雑誌販売部数表2018年下期(2018年7~12月)」が出され、こちらも同11.9%減となっていることからすれば、2019年上期のデータもさらなるマイナスで推移していくと予測される。
 それは書籍、雑誌の返品率も同様で、双方が50%近くに及んでいる月例も初めてだと思われる。
 いずれにしても、推定販売金額と返品率が最悪の状況を迎えている中で、19年の後半に入っていくことになる。


1.アルメディア調査によれば、2019年5月1日時点での書店数は1万1446店で、前年比580店の減少。
 売場面積は126万872坪で、4万7355坪のマイナス。
 1999年からの書店数の推移を示す。

■書店数の推移
書店数減少数
199922,296
200021,495▲801
200120,939▲556
200219,946▲993
200319,179▲767
200418,156▲1,023
200517,839▲317
200617,582▲257
200717,098▲484
200816,342▲756
200915,765▲577
201015,314▲451
201115,061▲253
201214,696▲365
201314,241▲455
201413,943▲298
201513,488▲455
201612,526▲962
201712,026▲500
201811,446▲580

 島根県だけが前年同数で、その他の全都道府県で減少。その中でもマイナス幅が大きいのは東京都81店、大阪府67店、北海道39店、愛知県33店、神奈川県、福岡県32店である。
 東京都の場合、書店数は1222店だが、そのうち日書連会員店は324店で、後者は東京古書組合加盟の古本屋の半分という事態となっている。
 またアルメディの書店数は売場面積を有しない本部、営業所も含んでいるので、実際の書店数は1万174店であり、来年は1万店を下回ることは確実だ。それとパラレルに、東京都日書連会員数も300店を割りこみ、全国日書連会員数も現在の3112から2000台へと落ちこんでいくだろう。
 1999年の全国書店数は2万2296店だったわけだから、半減してしまったことになるけれど、下げ止まる気配はまったくない。



2.アルメディアによる「取次別書店数と売場面積」も挙げておこう。

■取次別書店数と売場面積 (2019年5月1日現在、面積:坪、占有率:%)
取次会社書店数前年比(店)売場面積前年比平均面積売場面積占有率前年比
(ポイント)
トーハン4,404▲84493,289▲98211239.11.3
日本出版販売3,900▲352615,859▲46,68115848.8▲1.8
大阪屋栗田979▲78116,964661199.30.4
中央社399▲921,190▲268531.70.1
その他943▲1913,570510141.10.1
不明・なし
合計10,625▲5421,260,872▲47,355119100.0

 前期のデータは本クロニクル122で既述しているが、日販は同130でふれたように、TSUTAYAの大量閉店もあって、マイナスは前年の222店に対し、352店に及び、取引書店は4000店を下回ってしまった。売場面積にしても、4万6681坪の減少で、1のトータルとしての売場面積の減少は4万7355坪であるから、今期のマイナスは、日販帳合書店の閉店によって大半が占められていると見なすこともできよう。 
 トーハンは前年の130店に対し、84店とマイナスは縮小しているが、大阪屋栗田は同72店が78店と増加し、こちらも取引書店はついに1000店を割りこんでいる。
 しかも19年に入って書店の閉店は加速していて、この5月までにすでに350店近くに及び、その一方で、出店は極めて少ない。来期の閉店は今期の542店を確実に超えてしまうであろう。

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3.「喜久屋書店BOOK JAM」を運営していた「BOOK JAM K&S」が破産。
 同社は2007年にコープさっぽろの100%子会社として設立され、ピーク時には16店を有し、11年には年商13億6600万円を計上していた。しかしその後、売上高の減少と閉店が続き、昨年は年商7億6100万円まで落ちこみ、赤字決算、債務超過に及んでいたとされる。負債は2億3000万円。

 この破産が物語るように、5月には本部のBOOK JAM K&S、及び喜久屋書店BOOK JAM 8店の閉店が伝えられている。取次はトーハンで、売場面積は合わせて700坪となる。その立地は6店がコープさっぽろ内であり、それなりに恵まれた立地とコープ会員に支えられていたにもかかわらず、破産へと追いやられてしまった。その事実は、コープにおいても出版物販売も難しくなっていることを示していよう。
 5月の閉店も76店を数え、TSUTAYAは 8店、売場面積は喜久屋書店BOOK JAMの倍以上の1680坪となっている。また文教堂も7店、1000坪を超え、フタバ図書TERAワンダーシティ店に至っては1店だけだが、1100坪という想像を絶する閉店である。
 これらの閉店状況は書店市場が最悪の事態を迎えていることを告げている。

 なおキクヤ図書販売の「喜久屋書店」と「喜久屋書店BOOK JAM」は、資本関係はなく、納品先で、「喜久屋書店小樽店」「同帯広店」は通常通り営業のリリースが「喜久屋書店」から出されている。



4.日本雑誌販売が債務整理。
 同社は1955年創業、雑誌、コミックス、アダルト誌を主とする取次で、ピーク時の1993年には売上高59億円、書店、ゲームショップ、インターネットカフェなど1000店を超える取引実績を有していた。
 しかし中小書店の廃業、閉店が相次ぎ、雑誌売上も低迷し、18年には売上高22億円、取引先も500店まで減少していた。
 負債は5億円で、7月には自己破産申請するようだ。

 日本雑誌販売は多くのアダルト誌を持っていた取次で、太洋社帳合の書店も引き継いでいたこともあり、小取次の破綻だが、その波紋は小さなものではないように思われる。
 折しも『出版月報』(6月号)が特集「変容するアダルト誌」を組んでいる。そこで戦後のカストリ雑誌から2010年のDVD付アダルト誌に至る歴史と変化、コンビニでの販売中止、読者の高齢化、アダルト誌の行方などが論じられている。
 これは『出版月報』としては出色の企画で、「雑誌市場の未来を予見する? アダルト誌」という見出しは、的を射ているかもしれない。それに私見を添えておけば、戦後のアダルト誌とコミック誌の出現は軌を一にしているし、アダルト誌の行方は「コミック誌の未来をも予見しているようである。



5.日販の連結子会社25社を含めた連結売上高は5457億6100万円で、前年比5.8%減。
 営業利益は10億2600万円、同56.6%減、経常利益は10億8400万円、同57.5%減、純利益は2億900万円の損失で、2000年以来の19年ぶりの赤字決算。
 そのうちの日販やMPDなどの「取次事業」売上高は5052億1700万円、同6.3%減、営業損失3億3700万円。
 日販単体売上高に関しては、下記に示す。

■日販単体 売上高 内訳(単位:百万円、%)
金額増減額増加率返品率
書籍216,858▲11,090▲4.931.9
雑誌137,603▲12,837▲8.545.8
コミックス65,1374310.729.2
開発商品26,915▲620▲2.341.5
446,515▲24,116▲5.137.1


 MPDについては同社の「2018年度決算報告」を見てほしい。
 「小売事業」売上高は639億1300万円、同0.5%増、営業損失2100万円。グループ書店は10社、266店。


6.トーハンの単体売上高は3971億6000万円で、前年比7.1%減。
 営業利益は42億7200万円、同15.2%減、経常利益は21億3900万円、同29.3%減、当期純利益は6億5200万円、同64.2 %減で、2年連続減収減益。
 日販同様に売上高内訳を示す。

 
■トーハン 売上高 内訳(単位:百万円、%)
金額増減額前年比返品率
書籍169,734▲4,324▲2.540.8
雑誌133,105▲10,608▲7.448.5
コミックス43,940▲36▲0.130.1
開発商品50,379▲15,335▲23.417.8
397,160▲30,304▲7.140.7

 連結子会社16社を含む連結決算の売上高は4166億4000万円、同6.2%減。
 営業利益は38億8700万円、同12.7%減、経常利益は18億1900万円、同24.7%減、当期純利益は5億3100万円、同30.0 %減。

 これはあらためていうまでもないけれど、日販にしてもトーハンにしても、連結決算で、「事業領域の拡大」や持株会社移行によって、ポスト取次をめざしているようなイメージを生じさせている。
 しかし今回の決算においても、取次事業シェアは日販が93%、トーハンは95%に及び、両社が紛れもない取次の他ならないことは明らかだ。それゆえに本クロニクルでもトーハンのいうところの「本業の回復」にふれてきたが、この「本業の回復」がなされないかぎり、必然的に赤字が累積していく段階へと入るであろうし、もはやそれが否応なく現実化していることを日販の赤字は浮かび上がらせている。

 『日経MJ』(6/3)の一面で、プロデュース事業を手がけるスマイルズが紹介されていたことで知ったが、日販の「文喫」も店名も含め、スマイルズの企画だという。日販やCCC=TSUTAYAの周辺にはこうしたコンサルタントが様々にパラサイトし、新たな複合型書店、パルコ型システム、ツタヤ図書館なども、そのようにして出現してきたのだろう。
 トーハンにしても、8月には旧京都支店跡地にホテルが開設され、本社の再開発においても、6月にトーハン別館の解体工事が始まり、12月に新本社建設が着工されるという。おそらくこのような不動産プロジェクトにも、多くのコンサルタントが関わっていると考えられる。
 コンサルタントにあやつられ、失敗に終わった地方の行政市場プロジェクトをいくつも見てきた。取次がその轍を踏まないように祈るばかりだ。



7.トーハンは文具製造のデルフォニックスを子会社化。
 デルフォニックスはリングノートの「ロルバーン」などの機能性やデザイン性が高い文具を特徴とする。それらの自社ブランドに加え、国内外の文具や雑貨を扱うセレクトショップを、首都圏を中心に30店舗展開。18年売上高は40億円。
 トーハンは既存の書店にデルフォニックス文具を合わせた複合店舗開発や、デルフォニックスの海外販売などを進める。

 本連載131でふれてきたように、デルフォニックスの子会社化も、フィットネスジムの運営、サービス付き高齢者住宅の開業などに続く、トーハンの「事業領域の拡大」ということになろう。そしてさらにで言及したホテル開設、本社をめぐる不動産プロジェクトが始まっていくのである。
 それは「本業の回復」と乖離するばかりのプロセスをたどっていくだろう。
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8.三洋堂HDの決算発表によれば、売上高は204億円で、前年比4.4%減。
 営業利益は3200万円、同86.9%減、経常利益は6300万円、同77.2%減、当期純利益は3億800万円の損失。

 続けて三洋堂HDの決算を挙げたのは、前回の本クロニクルでもふれておいたように、19年は純損失3億円が予想されていたこと、筆頭株主がトーハンで、フィットネスや古本などの「ブックバラエティストア」を推進している三洋堂こそは、「事業領域の拡大」を実践する書店に他ならないからだ。すでに「書店」売上は204億円のうちの129億円、63%のシェアに縮小している。
 しかし来期もフィットネス事業投資、出店、既存店改造の計画もあって、純損失1億3000万円が予想されている。取次と異なり、書店の場合、撤退とリニューアルコストが必然的に生じ、「事業領域の拡大」とのバランスが難しいことを伝えていよう。



9.アメリカの大手書店チェーンで627店舗を有するバーンズ&ノーブルは、ヘッジファンドのエリオット・マネジメントに6億8300万ドルで自社の売却に合意したと発表。
 18年にエリオット・マネジメントは英国の大手書店チェーンのウォーターズ・ストーンも買収していて、ウォーターズ・ストーンのCEOジェイムズ・ドーントがB&NのCEOも兼ねるとされる。

 これらの海外書店事情はつい最近まで、『出版ニュース』の「海外出版レポート」でその詳細を確認できたのだが、3月の休刊によって、それもかなわぬことになってしまった。本当に残念であるというしかない。海外とはいえ、このような大手書店チェーンのM&Aの行方はどうなるのだろうか。



10.地方・小出版流通センターの決算も出された。 売上高10億2181万円、前年比9.25%減。
 「同通信」No514は次のように記している。

 経常利益は182万円となりましたが、取次・栗田出版販売、太洋社、東邦書籍の倒産債権157万円を特別損失で処理し、純益68万円という苦しい決算です。
 昨年後半期の売上は前年比13.7%減となっており、3年連続の赤字決算は免れたものの、今後、この縮小傾向が上向く可能性はほぼないと思いますので、役割機能を継続維持しつづけるためには規模の縮小を検討せざるを得ないと考えています。


 最後に述べられた「この縮小傾向が上向く可能性はほぼないと思いますので、役割機能を継続維持しつづけるためには規模の縮小を検討せざるを得ないと考えています」は、とりわけ大手出版社、取次、書店にとっても深刻な問題として、すでに現実化している。



11.日教販とNECはデジタル教科書・教材、学習アプリなどの流通や普及活動について業務提携。
 日教販は教科書発行者社など教育系出版社1000社と取引があり、書店を通じて全国の学校への流通網を有する。一方で、NECは学校向けパソコン、タブレット端末、最適な学習コンテンツを見出すAI技術を持つ。両社の業務提携はシナジー効果が大きく、デジタル学習コンテンツやICサービスを提供していくとされる。

 この背景にあるのは4月から改正学校教育法が施行され、小中高校の授業で、デジタル教科書と紙版教科書を併用できるようになったことだ。
 それに加え、2020年度には小学校を始めとして、プログラミング学習の導入などのICT(情報通信技術)に関わる教育が強化されん、中高校でもデジタル教科書の活用が進むと予想されているからだ。
 とすれば、デジタル教科書の販売権はどこが握ることになるのだろうか。



12.小学館の決算が出された。
 売上高は970億5200万円、前年比2.6%増、2年連続の増収で、当期利益は35億1800万円、4年ぶりの黒字決算。

 しかし内訳を見てみると、「出版売上」は544億円、同4.1%減に対し、「デジタル収入」205億円、同16.0%増となっている。デジタル部門が200億円を超えたのは初めてで、その売上の90%以上がコミックスだとされる。
 「出版売上」のうちの「コミックス」は183億円だから、紙とデジタルはほぼ同じで、来期はデジタルが上回ることになるだろう。
 これは本クロニクル131で挙げておいた講談社の決算と共通している。



13.カドカワの連結決算は売上高2086億500万円、前年比0.9%増、営業利益は27億700万円、同13.9 %減、経常利益は42億500万円、同13.2%増、当期純損失は40億8500万円で、14年の発足以来、初の赤字となった。
 KADOKAWAなどの「出版事業」は 売上高1159億円、同2.9%増、営業利益72億円、同20.9%増と好調だったが、ドワンゴなどの「webサービス事業」が営業損失25億円となったことが影響している。

 カドカワは(株)KADOKAWAに商号変更し、その傘下には56の子会社、孫会社が配置されている。それらに加えて、本クロニクル132で取り上げた「ところざわサクラタウン」などの「事業領域の拡大」も繰りこまれていくのである。
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14.ブックオフGHDの連結決算は売上高807億9600万円、前年比0.9%増、営業利益は15億5000万円、同152.6%増、経常利益は21億2000万円、同94.0%増、当期純利益は21億2000万円、前年は8億8900万円の純損失だったので、4年ぶりの黒字転換。

 ハグオール事業における催事販売からの撤退、リユース店舗事業の既存店の増収増益が寄与したとされるが、グループ再編に伴う税負担の軽減などの一過性の要素も大きいと見られる。
 だが「本」に関しても、前年比2.3%増とされているものの、「ブックオフオンライン事業」は売上高が75億600万円、同22.2%増だが、2億8900万円の営業損失を計上していることからすれば、実質的にマイナスと考えられる。
 それに19年3月自演の店舗数は直営店379店、FC店413店となっているので、当初の「本」をメインとするフランチャイズビジネスとしてのブックオフ事業の成長は終わったのではないだろうか。



15.TSUTAYAは書籍、ムックを返品枠付き買切条件で仕入れる方針で、出版社向け説明会を開催し、194社が参加。

 取次のいうところの「プロダクトアウトからマーケットイン型し入り」に呼応しているのだろうが、詳細がはっきりしないので、アマゾンの買切仕入れ以上に釈然としない。
 TSUTAYAは本クロニクル130などでトレースしてきたように、昨年から大量閉店状況を迎え、それが今年も続いている。それらの大量閉店において、買切の書籍、ムックはどのように処理されるのか。
 また『週刊ダイヤモンド』(6/22)でも、レンタルと複合のTSUTAYAはビジネスモデルとして崩壊しているのではないかと言及されている。
 その一方で、CCCグループのTマガジンは、雑誌400誌が月額400円で読み放題となる「T-MAGAZINE」の提供を開始している。これが成功すれば、さらなる閉店へとリンクしていくだろう。
週刊ダイヤモンド
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16.図書カードNEXTを発行する日本図書普及の事業、及び決算概況の発表によれば、期中の発行高は397億8900万円、前年比5.1%減で400億円を割った。それに対して、回収高は403億6100万円、同5.4%減で、前年に続き、発行高を上回った。

 『出版状況クロニクルⅤ』において、1997年から2015年までの図書券、図書カードの発行高、回収高の推移を示しておいた。
 15年は発行高が500億円を割りこむ484億円だったが、今期はついに400億円を下回ってしまった。
 それは何よりも加盟店数の激減で、2000年は1万2500店だったのが、19年には5845店と半分以下になってしまったのである。前年比で255店減とされるので、発行高のマイナスはまだまだ続いていくだろう。
出版状況クロニクル5



17.『週刊ダイヤモンド』(6/1)が「コンビニ地獄 セブン帝国の危機」、『週刊東洋経済』(6/8)が「コンビニ漂流」という特集を組んでいる。

週刊ダイヤモンド 週刊東洋経済

  かつては出版業界において、コンビニ批判はタブーだった。
 『出版状況クロニクル』の2008年のところで、古川琢也+週刊金曜日取材班の『セブン-イレブンの正体』((株)金曜日)がトーハンから委託配本を拒否されたことを既述している。そうした時代があったことからすれば、このような特集が組まれるのは隔世の感がある。
 だがここではそれらの特集にふみこまないが、このようなコンビニ状況、及びスマホ時代を迎えてのコンビニの雑誌売場はこれからどうなっていくのかに注視していきたいと思う。

出版状況クロニクル セブン-イレブンの正体



18.凸版印刷が図書印刷を完全子会社とし、図書印刷は上場廃止となる。
 凸版印刷はこれにより、20年連結売上高1兆5200億円、連結営業利益570億円と予測。

 このような印刷業界の再編が出版業界にどのような影響や波紋をもたらしていくのか、それが今後の焦点であろう。
 すでにDNPによって、出版社や書店などの再編が進められていったのは周知の事実であるからだ。



19.今月の論創社HP「本を読む」㊶は「種村季弘『吸血鬼幻想』」です。
 同HPには拙著『古本屋散策』の最初の書評が「矢口英祐ナナメ読み」No12として掲載されています。
 よろしければ、拙文ともどもアクセスして下さい。

古本屋散策

出版状況クロニクル133(2019年5月1日~5月30日)

 19年4月の書籍雑誌推定販売金額は1107億円で、前年比8.8%増。
 書籍は603億円で、同12.1%増。
 雑誌は504億円で、同5.1%増。その内訳は月刊誌が416億円で、同5.9%増、週刊誌は88億円で、同1.4%減。
 返品率は書籍が31.4%、雑誌は43.0%で、月刊誌は43.1%、週刊誌は42.7%。
 書籍、雑誌がともに前年増となったのは、初めての10連休の影響が大きく、とりわけ書籍は連休前の駆け込み発売で、出回り金額が5.9%増となったことによっている。また5月連休明けまで書店の返品も抑制されたことも作用していよう。
 それゆえに今月の大幅なプラスは大型連休がもたらした一過性の数字とみな日販の赤字決算すべきで、その反動は5月の販売金額と返品に露呈することになるだろう。
 月末になって日販の赤字決算が出されているが、6月にトーハンなども含め、言及するつもりだ。


1.『出版月報』(4月号)が特集「ムック市場2018」を組んでいる。そのデータ推移を示す。

■ムック発行、販売データ
新刊点数平均価格販売金額返品率
(点)前年比(円)(億円)前年比(%)前年増減
20057,8590.9%9311,164▲4.0%44.01.7%
20067,8840.3%9291,093▲6.1%45.01.0%
20078,0662.3%9201,046▲4.3%46.11.1%
20088,3373.4%9231,0621.5%46.0▲0.1%
20098,5112.1%9261,0912.7%45.8▲0.2%
20108,7622.9%9231,0980.6%45.4▲0.4%
20118,751▲0.1%9341,051▲4.3%46.00.6%
20129,0673.6%9131,045▲0.6%46.80.8%
20139,4724.5%8841,025▲1.9%48.01.2%
20149,336▲1.4%869972▲5.2%49.31.3%
20159,230▲1.1%864917▲5.7%52.63.3%
20168,832▲4.3%884903▲1.5%50.8▲1.8%
20178,554▲3.1%900816▲9.6%53.02.2%
20187,921▲7.4%871726▲11.0%51.6▲1.4%

 18年のムック市場は初めて800億円を下回り、726億円、前年比11.0%減となった。
 販売冊数もさらに悪化し、こちらも8000万冊を割りこみ、7440万冊、同16.2%減である。1億冊を割ったのは昨年だったことからすれば、2年で25%以上のマイナスで、19年は16年の半分近くになってしまうかもしれない。
 返品率も4年連続で50%を超え、下げ止まる気配はない。ムックの場合、週刊誌や月刊誌と異なり、書店滞留時間も長く、ロングセラーも生まれ、再出荷もできることがメリットであったが、それももはや失われてしまったのであろう。
 ムックの起源は1960年代後半の、平凡社の「別冊太陽」だとされるが、それは半世紀前のことで、スマホ時代に入り、雑誌刊行モデルとしては広範に機能しなくなっていると考えられよう。
 それに決定的なのは書店の半減、及びコンビニ売上の失墜であり、とりわけ今世紀に入って進行した雑誌販売市場のドラスチックな変容というしかない。
 なおここでのムックには廉価軽装版コミックは含まれていない。



2.紀伊國屋書店弘前店が閉店。

 これは4月の大分店の閉店に続くものである。弘前店は1983年の開店で、仙台店よりも早く、東北で初めての紀伊國屋書店だった。
 弘前店は372坪、大分店は734坪であり、この2ヵ月で紀伊國屋の売場面積は1100坪が減少したことになる。



3.三省堂名古屋高島屋店が閉店し、名古屋本店へと統合。

 名古屋高島屋店は2000年の開店なので、20年の歴史に幕を下ろしたことになる。それは書店市場の悪化の中で、テナント契約更新が難しかったことを推測させる。
 4月の書店閉店は47店と、19年に入って最も少なかったが、それでもTSUTAYAと宮脇書店が各3店、文教堂と夢屋が各2店、また文真堂や Wonder GOOの各1店も含まれている。
 また文真堂は資本金を500万円減少して1000万円に、資本準備金6億5265万円を0円にすると発表。

 5月以後の書店閉店状況はどうなるのかが、19年後半の出版業界の焦点となろう。これは不動産プロジェクトのコストやテナント料の問題から見れば、大型化した書店はチェーン複合店も含めて、もはや採算がとれなくなってきている現実を露呈させているからだ。
 本クロニクル130などで既述しておいたように、18年から続くTSUTAYAの大量閉店はその事実を象徴しているし、4月のTSUTAYA3店の閉店坪数も600坪を超えている。
 それは大量返品として大手取次と出版社へと跳ね返り、本クロニクル131のコミックス、コミック誌、前回の文庫、1のムック販売状況へとリンクしているのである。

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4.そのWonder GOOはRIZAP傘下にあるのだが、今期のRIZAP連結決算は193億円の赤字となっている。

 この決算で明らかになったのは、Wonder GOO=ワンダーコーポレーションの不採算事業の撤退費用として、48億円の特別損失が出されていることである。
 本クロニクル130でふれたワンダーコーポレーションが売上高からすれば、RIZAPの中核企業であり、TSUTAYAのFC、つまり日販が取次だから、その再建の行方は両社にも多大な影響を及ぼしていくだろう。また同127で既述しておいたように、そのうちの15店は大阪屋栗田に帳合変更しているので、そちらへも波及するかもしれない。
 前回、文教堂GHDにふれ、その不採算店の閉店などにより、債務超過もさらに拡大していると伝えてきた。それはワンダーや文教堂だけでなく、撤退、閉店にはそれに伴う特別損失が生じているという事実を浮かび上がらせている。
 とりわけ文教堂やワンダーは上場企業であるだけに、再建の行方が注視されているし、文教堂は残された時間が少ないところまできていよう。



5.三洋堂HDの加藤和裕社長は粗利益を35%に改善する7ヵ年計画を発表。
 「書籍・雑誌」から「古本」「フィットネス」へ売上構成比を高めていくことで、19年には粗利益率30.8%、25年には35.0%にする。

 本クロニクル124などで、三洋堂の筆頭株主がトーハンになったこと、フィットネス事業などへの参入に関して既述しているが、もはや三洋堂にしても、ポスト書店の段階に入っていることの表明である。
 加藤社長によれば、週刊誌と月刊誌は20年半ばに消滅するかもしれないし、19年には三洋堂コストとしての信販手数料、返品運賃ポイント関連費用などで2億円増加するとのことである。
 それからあらためて認識させられたのは、返品運賃の急騰で、19年には18年の1.8倍の1億3000万円に達するとされる。これはすべてのナショナルチェーンに共通するものだと考えられる。それはこれからのキャッシュレス決済コストも同様であろう。
 7年後に35%の粗利益を達成するにしても、そこに至るまでに一体何が起きるのか、それが上場企業でもある三洋堂の焦眉の問題であろう。
 これも本クロニクル122でふれておいたように、18年は500万円という「かつかつの黒字」、19年予想は純損失3億円と見込まれているからだ。

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6.トーハンの近藤敏貴社長はドイツをモデルにしたマーケットイン型流通を主とする5ヵ年中期経営計画「REBORN」において、従来の見計らい配本から発売前に書店注文を集約しい、AIを駆使した配本システムを融合するかたちに移行すると表明。
 それにより返品率を抑制し、そこから派生する利益を出版業界全体で再配分し、18年の40.7%の返品率を23年度には33.4%、最終的に20%まで引き下げる。

 本クロニクル124で、近藤社長によるトーハンの「本業の回復」と「事業領域の拡大」を紹介しておいた。だが後者の不動産事業などはともかく、前者はさらに出版状況が失墜していく中で、埼玉の書籍新刊発送拠点「トーハン和光センター」の稼働を挙げることしかできない。 
 ドイツをモデルとしたマーケットイン型流通にしても、これも本クロニクル131で言及しておいたが、設備投資の失敗で、マーケットイン型流通が日本の出版業界において成立するとは考えられないし、誰もが信じていないだろう。それは取次や書店の現在状況からして明らかなことだ。
  
 大阪屋栗田の子会社であるリーディングスタイルも2店目の「リーディングスタイルあべの」を180坪で開店。デジタルサイネージを50台設置し100席のカフェとイベントスペースを併設。それこそ大阪屋栗田の「本業の回復」と「事業領域の拡大」に貢献するのだろうか。
 それらはともかく、取次の決算発表も間近に迫っている。



7.『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(アスキー新書)などの大原ケイが『文化通信』(5/20)に「米2位の書籍取次が書店卸から撤退」を寄稿している。
 それによれば、北米第2位の書籍取次(ホールセラー)であるベイカー&テイラー、以下(B&T)がリテール(書店)向け卸業から撤退すると発表した。
 アメリカの書籍流通業には日本の取次に近い「ホールセラー」と、中小出版社に代わり、受注、発注、営業も請け負う「ディストリビューター」がある。
 ホールセラー第1位のイングラムがリテール(書店)に広く書籍を流通させているのに対し、B&Tは書店だけでなく、全米公立図書館の9割に及ぶ6000館を抱えている。後者の年商は22億ドルだったが、2016年にフォレット社傘下に入った。
 フォレット社は北米の他に140ヵ国で、小学校から大学、学校図書館など9万団体に及ぶ教育機関を対象とし、電子教科書を含む教育コンテンツを製作販売する企業である。
 今回のB&Tの書店からの撤退は、「地域コミュニティを支えている公共図書館を支援する」という親会社のフォレット社のビジネスに適ったものだとされる。

  それに加え、アメリカでは出版社と書店の直接取引が主流になったこと、ふれられていないが、アマゾン問題も絡んでいるのだろう。
 このB&Tの撤退を受け、書店では日本でいう帳合変更、全米書店協会や大手出版社のサポート、中小出版社の「ディストリビューター」の支援も始まっているようだ。
 アメリカのことゆえ、他山の石とも思えないので、ここに記してみた。

ルポ 電子書籍大国アメリカ(『ルポ 電子書籍大国アメリカ』)



8.『日経MJ』(5/6)に「ゲオが新業態」という記事が掲載されている。
 ゲオ傘下の衣料品販売のゲオクリアが横浜市に「ラック・ラック クリアランスマーケット」を開店した。これはメーカーや小売店から余った新品在庫を直接買い取り、定価の3割から8割引きで販売するという新業態店である。
 売場面積は1400平方メートルの大型店で、衣料品はブランド類100種類を扱い、雑貨や装飾品も含め、商品は5万点に及ぶ。
 ゲオはグループで最大手の1800店を有し、古着、中古スマホ、余剰在庫や中古ブランド品などの新業態で、さらなる成長を模索するとされる。

 これもポストレンタルを見据えた上での新業態ということになろう。それがTSUTAYAと異なるのは、前回も示しておいたように、TSUTAYAが他社とのジョイントによって新業態をめざしていることに対し、ゲオの場合は自社によるチェーン店化も想定されているし、「メルカリ」などとともに、中古品市場をさらに活性化させるかもしれない。
 このようなゲオとTSUTAYAのコントラストは、直営店とフランチャイズシステムによる企業本質の違いに基づくものであろう。



9.町田の大型古書店の高原書店が破産し、閉店。
 高原書店は1974年に町田の最初の古書店として開店し、支店も出店する一方で、85年には小田急町田駅前のPOPビルに移転し、大型古書店の名を知らしめた。2001年には町田駅北口の4階建に移り、徳島県に広大な倉庫を置き、インターネット通販にも力を入れていた。
 作家の三浦しおんがアルバイトしていたこともよく知られ、古本屋のよみた屋や音羽館が高原書店の出身で、他にも古本人脈を形成するトポスであった。

 親しい古本屋から高原書店の危機の話が聞いていたが、その予測どおり、連休明けに破産してしまった。 
本クロニクル129で、大阪の天牛堺書店の破産を伝えたが、古書業界では在庫量と店舗数で西の天牛堺書店、東の高原書店と称されていたという。
 その2店が破産してしまったのだから、古書業界も書店市場と同様の危機に見舞われていることになる。

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10.『日本の図書館統計と名簿2018』が出されたので、公共図書館の移を示す。

日本の図書館統計と名簿2018

■公共図書館の推移
    年    図書館数
専任
職員数
(人)
蔵書冊数
(千冊)
年間受入
図書冊数
(千冊)
個人貸出
登録者数
(千人)
個人貸出
総数
(千点)
資料費
当年度
予算
(万円)
1971 8855,69831,3652,5052,00724,190225,338
1980 1,3209,21472,3188,4667,633128,8981,050,825
1990 1,92813,381162,89714,56816,858263,0422,483,690
1997 2,45015,474249,64919,32030,608432,8743,494,209
1998 2,52415,535263,12119,31833,091453,3733,507,383
1999 2,58515,454276,57319,75735,755495,4603,479,268
2000 2,63915,276286,95019,34737,002523,5713,461,925
2001 2,68115,347299,13320,63339,670532,7033,423,836
2002 2,71115,284310,16519,61741,445546,2873,369,791
2003 2,75914,928321,81119,86742,705571,0643,248,000
2004 2,82514,664333,96220,46046,763609,6873,187,244
2005 2,95314,302344,85620,92547,022616,9573,073,408
2006 3,08214,070356,71018,97048,549618,2643,047,030
2007 3,11113,573365,71318,10448,089640,8602,996,510
2008 3,12613,103374,72918,58850,428656,5633,027,561
2009 3,16412,699386,00018,66151,377691,6842,893,203
2010 3,18812,114393,29218,09552,706711,7152,841,626
2011 3,21011,759400,11917,94953,444716,1812,786,075
2012 3,23411,652410,22418,95654,126714,9712,798,192
2013 3,24811,172417,54717,57754,792711,4942,793,171
20143,24610,933423,82817,28255,290695,2772,851,733
2015 3,26110,539430,99316,30855,726690,4802,812,894
20163,28010,443436,96116,46757,509703,5172,792,309
2017 3,29210,257442,82216,36157,323691,4712,792,514
2018 3,29610,046449,18316,04757,401685,1662,811,748

 21世紀に入ってからの書店の減少は本クロニクルでずっとトレースしてきているが、公共図書館は書店とは逆に700館ほど増えている。19年は戦後初めての3300館を超えることになるだろうし、それがさらに書店数のマイナスへとリンクしていくのは自明だろう
 しかし貸出数は2010年代に入り、7億冊を超えていたが、14年以後は下降気味で、18年は6億8000万冊と、この10年間で最低となっている。ひょっとすると、図書館にしても、スマホの影響を受け始めているのだろうか。
 いずれにせよ、登録者数も微減しているし、高齢化社会の進行もあり、個人貸出数は10年代前半でピークを打ち、これ以上の増加は難しく、こちらも微減を続けていくように思われる。



11.たまたま新刊の曽我謙悟の「170自治体の実態と課題」というサブタイトルの『日本の地方政府』(中公新書)を読み、10の公共図書館に関しても教えられることが多かったので、ここで取り上げておきたい。
 とりわけ言及するのは第2章「行政と住民―変貌し続ける公共サービス」である。そこでの図書館絡みの重要なところを要約してみる。世界的に1990年代までは公共サービスや公共事業は行政がほぼ一手に担っていたが、2000年代以降、民間企業、NPO、及びPFI(Private Finance Initiative)を始めとする種々の官民協働方式が登場して大きく様変わりした。
 PFIは公共施設の建設に、指定管理者制度は公共施設の運営に、民間部門を参入可能にするものである。日本では1999年にPFI法、2003年に指定管理者制度が導入され、さらに2011年のPFI法改正で、コンセッション方式と呼ばれる民間部門の手で、施設の建設から運営までが可能になった。
 そこで登場してくるのが「ツタヤ図書館」なのである。これは要約しないで、直接引用しておくべきだろう。

日本の地方政府

 佐賀県武雄(たけお)市に登場したいわゆる「ツタヤ図書館」も、指定管理者制度によるものである。二〇一三年四月の武雄市にはじまり、その後神奈川県海老名(えびな)市、宮城県多賀城(たがじょう)市、岡山県高梁(たかはし)し、山口県周南市(しゅうなん)市宮崎県延岡(のべおか)市に導入され、和歌山市にも導入予定である。他方で、愛知県小牧(こまき)市での計画は住民投票の結果を受け、撤回された。書店やカフェを併設することにとどまらず、新たな書籍の購入や独自の配列基準に基づく書架への配列、ポイントカードを貸し出しカードとすることなどは、指定管理者の制度によって可能となった。
 PFIや指定管理者制度を地方政府が多く用いるのは、財政と職員の不足が要因である。これにより新たな市場が生まれることを歓迎する民間事業者も背景にある。たとえば、二〇一八年に開館した周南市の「ツタヤ図書館」に支払われる指定管理費は年間一億五〇〇〇万円である。PFIと指定管理者制度が生み出した「行政市場」は、現在の日本には珍しい成長市場である。行政と事業者の双方が求めるのだから、PFIや指定管理者制度が拡大するのも当然である。


 この部分を読むに至り、10において、公共図書館の専任職員数が1999年の1万5000人から、2018年には1万人と減少していることとパラレルに指定管理者制度が導入され、「行政市場」が成立したとわかる。
 それはまさに公共における「新自由主義」の導入に他ならず、思わず中山智香子の『経済ジェノサイド』(平凡社新書)を連想してしまった。こちらに引きつけて例えれば、純然たる「民営化」と「行政市場」のメカニズムの相違は、出版と出版業の乖離以上のものがあることになる。いずれも新書として好著なので、一読をお勧めする。
 本当に公共図書館もまたどこに向かおうとしているのだろうか。
 経済ジェノサイド



12.『人文会ニュース』(No131)に東大出版会の橋元博樹営業局長による「平成の『出版界』―専門書と書籍流通の30年」が掲載されている。

 このような論稿が『人文会ニュース』に書かれるようになったのは、行き着くところまで来てしまったことに加え、その内部の営業責任者もそうしたプロセスの中で、否応なく成熟せざるを得なかったことを告げているように思われる。
 筑摩書房の田中達治営業部長が存命の頃は私も出かけていって、出版社、取次、書店の人たちと話し合う機会を多く持った。しかし特に出版社の人たちは自らのポジションからの思い込みに束縛され、トータルな視座からの出版業界の分析、それに基づく危機の問題を説明することは難しい印象が強かった。だからこのような出版史も、出版社側からは提出されてこなかったのである。
 ただそれは2010年までのことであり、現在ではもはや危機は至るところに露出し、このような橋元の論稿も書かれ、掲載されることになったのだろう。
 拙著も出てくるからではないけれど、広く読まれることを願う。


13.またしても訃報が届いた。講談社の元編集者白川充が亡くなった。

 白川は1980年前後に船戸与一『非合法員』、志水辰夫『飢えて狼』を送り出し、冒険小説ブームのきっかけを担ったといっていい。
 その仕事は原田裕『戦後の講談社と東都書房』(「出版人に聞く」14)でふれられ、新保博久『ミステリ編集道』(本の雑誌社)で語られている。
 最後に会ったのは5年前の、前者の出版記念会の席だった。
 ご冥福を祈る。
非合法員  f:id:OdaMitsuo:20190530001657j:plain:h111 戦後の講談社と東都書房  ミステリ編集道



14.拙著『古本屋散策』が刊行された。
 読み切り200編を収録しているが、きっと何冊かは読んでみたいと思う本に出会えるはずだ。
 600ページという大冊になってしまい、高定価でもあるので、図書館にリクエストして頂ければ、有難い。
古本屋散策


15.今月の論創社HP「本を読む」㊵は「草風館、草野権和、『季刊人間雑誌』」です。

出版状況クロニクル132(2019年4月1日~4月30日)

 19年3月の書籍雑誌推定販売金額は1521億円で、前年比6.4%減。
 書籍は955億円で、同6.0%減。
 雑誌は565億円で、同7.0%減。その内訳は月刊誌が476億円で、同6.2%減、週刊誌は89億円で、同11.3%減。
 返品率は書籍が26.7%、雑誌は40.7%で、月刊誌は40.7%、週刊誌は40.8%。
 4月27日から大型連休が始まり、当然のことながら、書籍雑誌の送品は減少するだろう。
 4月、5月はそれがどのような数字となって跳ね返るか、書店売上にどのような影響を及ぼしていくのかが、問われることになろう。


1.『出版月報』(3月号)が特集「文庫本マーケット2018」を組んでいるので、その「文庫本マーケットの推移」を示す。

■文庫マーケットの推移
新刊点数推定販売部数推定販売金額返品率
増減率万冊増減率億円増減率
19954,7392.6%26,847▲6.9%1,396▲4.0%36.5%
19964,718▲0.4%25,520▲4.9%1,355▲2.9%34.7%
19975,0577.2%25,159▲1.4%1,3590.3%39.2%
19985,3375.5%24,711▲1.8%1,3690.7%41.2%
19995,4612.3%23,649▲4.3%1,355▲1.0%43.4%
20006,09511.6%23,165▲2.0%1,327▲2.1%43.4%
20016,2412.4%22,045▲4.8%1,270▲4.3%41.8%
20026,155▲1.4%21,991▲0.2%1,293 1.8%40.4%
20036,3733.5%21,711▲1.3%1,281▲0.9%40.3%
20046,7415.8%22,1352.0%1,3132.5%39.3%
20056,7760.5%22,2000.3%1,3392.0%40.3%
20067,0253.7%23,7987.2%1,4165.8%39.1%
20077,3204.2%22,727▲4.5%1,371▲3.2%40.5%
20087,8096.7%22,341▲1.7%1,359▲0.9%41.9%
20098,1434.3%21,559▲3.5%1,322▲2.7%42.3%
20107,869▲3.4%21,210▲1.6%1,309▲1.0%40.0%
20118,0101.8%21,2290.1%1,3190.8%37.5%
20128,4525.5%21,2310.0%1,3260.5%38.1%
20138,4870.4%20,459▲3.6%1,293▲2.5%38.5%
20148,6181.5%18,901▲7.6%1,213▲6.2%39.0%
20158,514▲1.2%17,572▲7.0%1,140▲6.0%39.8%
20168,318▲2.3%16,302▲7.2%1,069▲6.2%39.9%
20178,136▲2.2%15,419▲5.4%1,015▲5.1%39.7%
20187,919▲2.7%14,206▲7.9%946▲6.8%40.0%

 文庫の推移販売金額はついに1000億円を割りこみ、しかも前年比6.8%減という最大のマイナスで、946億円となった。ピーク時は2006年の1416億円だったことからすれば、18年は500億円近くの減少となる。それでいて、14年からの前年比を見ても、下げ止まる気配はまったくない。 
 同特集はスマホが与えた影響を大きいとし、10年にスマホの世帯保有率が9.7%だったことに対し、17年が75.1%に及んでいることを挙げている。
 確かにそれも大きな要因だが、推定出回り冊数から見ると、1998年は4億2025万冊で、18年は2億3677万冊とほぼ半減している。それはちょうどこの20年で書店が半減してしまった事実を反映しているし、書店における文庫の滞留在庫も同様であることを意味していよう。

 1980年代の郊外書店全盛期において、主力商品は雑誌、コミックス、文庫が三本柱で、売上の半分以上のシェアを占めていた。だが本クロニクル129で示しておいたように、雑誌は1990年代の1兆5000億円から、18年には6000億円のマイナスとなり、コミックスも前回挙げておいたように、2400億円から1500億円台へと落ちこみ、今回の文庫も加えれば、トリプル失墜という販売状況である。 
 また複合店にしても、それらとDVDレンタルが主力だったわけだから、こちらは四重苦のような中で、暗中模索、もしくは閉店に追いやられている。

 3月の書店閉店状況も86店に及び、1月の82店を超えている。それに100坪以上の大型店は24店を数え、こちらもとどまる要因は見つからない。取次の決算も絡んで、4月はどうなるのだろか。

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2.トーハンと日販は検討を進めてきた物流の協業化に関して、「雑誌返品処理」「書籍返品処理」「書籍新刊送品」の3業務の協業を進めることで合意と発表。

 前回、ドイツの大手取次KNVの倒産を伝え、それが広大なロジスティックセンターの新設という設備投資の失敗によることを既述しておいた。
 トーハンにしても日販にしても、桶川SCMセンターや王子流通センターを始めとして、多大の設備投資を行なった。その果てに、本クロニクル129などでトレースしておいたように、出版物推定販売金額は1996年の2兆6000億円から、2018年には1兆3000億円を下回り、半減してしまったのである。それによって生じた過剰設備化が、トーハンと日販の物流協業化の背後に潜んでいる大きな問題であろう。すなわち半減しているのだから、一社でまかなえるということにもなろう。

 しかしさらなる重要な取次問題は、今回の協業化に含まれない「雑誌送品」で、総コストにおける配送運賃の7割を占めている。結局のところ、先送りされていることになるが、前回や同127などで取り上げておいたように、出版物関係輸送も危機に追いやられている。このままでいけば、さらなる出版物の発売の遅れも蔓延化していくかもしれない。



3.文教堂GHDの2019年第2四半期連結決算が出された。
 売上高は127億300万円、前年比10.2%減、営業損失2億3200万円、経常損失2億8800万円、親会社に帰属する四半期純損失3億6500万円で赤字幅が増加。
 そのために、前年連結決算における2億3358万円の債務超過もさらに拡大し、5億9700万円となった。期中における不採算の6店の閉店などにより、売上、利益が圧縮され、財務が悪化した。
 昨年度に引き続き、増資を検討し、金融機関からの借入金返済、支払い猶予の同意を得ているとされる。

 本クロニクル129などで既述してきているが、文教堂GHDの増資や再建は難しく、赤字幅は増加していく一方である。
 3月も400坪の大型店も含め、3店が閉店しているし、さらに売上、利益、財務が悪化していくことは必至だ。
 東京証券取引所は文教堂GHDに対し、最後通牒というべき上場廃止猶予期間入り銘柄に指定している。そのために今期中に財務を健全化しなければ、上場廃止が待ち受けていることになる。文教堂GHDにとって、残された時間は少ない。



4.TSUTAYAの2018年1月から12月の書籍雑誌販売額が1330億円、前年比3.3%の増で、過去最高額を更新と発表。
 その理由として、全国に於ける大型店40店の新規オープン、「TSUTAYA BOOK NETWORK」への新規加盟による店舗数の増加、独自の商品展開やデータベースマーケティングが挙げられている。
  40店は「BOOK&CAFE」スタイルだが、「TSUTAYA BOOKSTORE」は「ライフスタイル提案型」店舗である。島忠とジョイントした「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ新山下店」はホームリビング、オートバックスとの「TSUTAYA BOOKSTORE APIT東雲店」はカーライフをテーマとしている。

 しかしそれらのトータルな店舗数は開示されておらず、大型店出店と「TSUTAYA BOOK NETWORK」の新規加盟店の増加によって、「過去最高額」がかさ上げされたと推測するしかない。また旭屋書店も子会社化されている。
 TSUTAYAの18年の出店については本クロニクル130、大量閉店に関しては同129で取り上げているので、そちらを見てほしいが、閉店に追いつく出店なしといった状態で、それはやはりこれも同130で示しておいたように、19年に入っても続いている。
 これらの出店と閉店の尋常ではないコントラストは、日販とMPDの決算に確実に反映されるだろうし、それらはTSUTAYAの「過去最高額」の内実を知らしめるであろう。

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5.丸善CHIホールディングの連結決算が発表された。
 連結子会社は丸善ジュンク堂、hontoブックサービス、TRC、丸善出版、丸善雄松堂など29社。
 売上高は1770億円、前年比0.7%減、当期純利益は24億円で、前年の赤字から減収増益決算。セグメント別の90店舗とネット書店売上高は740億円、同2.2%減、営業利益は3300万円。

 店舗ネット販売事業も前年は赤字だったので、減収増益ということになるが、営業利益は3300万円で、かろうじて黒字を保ったとわかる。それは出版事業も同様で、売上高43億円に対し、営業利益50万円。
 つまり丸善CHIホールディングスの場合、書店や出版事業は利益がほとんど上がらず、文教市場販売や図書館サポート事業などにより、バランスが保たれているである。
 株価もずっと300円台だが、今期はどうなるのか、とりわけ丸善ジュンク堂はどこに向かおうとしているのだろうか。



6.大垣書店が京都経済センターに京都本店をオープン。
 同センターは京都府や京都市などが再開発を進めてきたビルで、その商業ゾーン「SUINA室町」1階全フロア700坪を大垣書店が借り上げ、そのうちの350坪を書籍、雑誌、文具、雑貨売場とする。そして残りの350坪には大垣書店とサブリースした8社が飲食店、フードマーケット、カフェなどの10店を出店し、大垣書店はデベロッパーを兼ねるポジションでの出店となる。。
 なお大垣書店は続けて、「京都駅ビルTHE CUBE」、堺市に「イオンモール堺鉄砲町店」を出店。

 これはまったく新しいビジネスモデルというよりも、TSUTAYA=CCCが先行し、本クロニクル120で紹介しておいた有隣堂の東京ミッドタウン日比谷の「HIBIYA CENTRAL MARKET」などに続くものだろう。
 さらに今年は日本橋の複合商業施設「コレド室町テラス」に、有隣堂がライセンス供与を受け、「誠品生活日本橋」を出店することになっている。ポストレンタル複合店の模索がなされていくわけだが、年商7億円を目標とするサブリースによるデベロッパーを、書店が兼ねることができるであろうか。



7.東京都書店商業組合員数は4月現在で324店。

 『出版状況クロニクルⅢ』において、1990年から2010年にかけての各都道府県の日書連加盟の書店数の推移を掲載しておいた。
 東書商組合員数もほぼそれと重なっているはずなので、それを引いてみると、1990年には1401店、2010年には591店となっている。何と30年間で、1000店以上の書店が消えてしまったのである。しかもそれはまだ続いていて、この10年でさらに半減し、来年は300店を割ってしまうだろう。
 1400万人近くの人口を擁する東京ですらも、こうした書店状況にあるのだから、他の道府県の書店環境も推して知るべしといっていい。書店の黄昏は出版や読書の現在を紛れもなく照らし出している。
出版状況クロニクルⅢ



8.幻戯書房の田尻勉社長が「出版流通の健全化に向けて」というプレスリリースを発表し、出荷正味を60%とすると表明。そのコアの部分を引いてみる。

 小社では少部数で高定価の書籍が多く、新刊は書店様から事前注文に基づいて、取次会社に配本していただいており、取次の見計らいの配本は多くありません。しかしながら、配本後すぐの返品も増え、返品類も増えています。また、一部の取次は、月一度の締日を考慮することなくムラのある返品となり、小社の資金計画に支障を来しています。こうしたことから、出版流通に携わる方々も厳しい状況にあると推察しております。
 業界をあげて、先人が築いてきた出版流通の仕組みが疲弊していることに対して、表立った改善策の提案が上がっていません。小社としては、読者の方々に届けていただくためにも、取次会社・書店が機能していただかなくてはなりません。そのために小社としては出荷正味を原則60%といたします。(但し、お取引先からのお申し入れをいただき、詳細は別途相談させていただきます)。

 この提起に対して、『文化通信』(4/8)や『新聞之新聞』(4/12)も、田尻社長のインタビューを掲載しているので、それらも参照されたい。

 こうした提起を幻戯書房の田尻があえてしたのは、次のようなインタビューの言葉に集約されていよう。
 「出版流通がどうしようもなくなっているにもかかわらず、どこからも表だって具体的な改善策は示されない。そこで、小さいとはいえ、一石を投じたいと思いました。」「そもそも販売を取次、書店へ外部依存してきた出版社として、何ができるかと考えたとき、最もインパクトがあるのが『正味』を下げる宣言だと考えました。」
 このような田尻の視座は、彼が冨山房で書店、藤原書店で取次書店営業、そして12年から幻戯書房を引き継いだことで、出版業界の生産、流通、販売という3つのメカニズムを横断し、熟知していることで成立したといえるだろう。
 幻戯書房へは大手取次や書店からもすぐに連絡が入り、書店ではフェアを開くといった話も出ているという。これからも幻戯書房に関しては見守っていきたい。



9.文藝春秋がスリップを廃止。

 本クロニクル125で、スリップレス出版社を挙げておいたが、その後も続き、現在では60社に及んでいる。
 とりわけ文庫本はKADOKAWAから始まり、講談社、幻冬舎、光文社、実業之日本社、祥伝社、宝島社、徳間書店、竹書房、PHPが続き、それにこの4月から文春も加わることになる。
 スリップ関連経費は2円から3円とされ、そのコストカットは取次の運賃協力金の原資になっているとも伝えられている。
 それとは別に、小出版社にとってもスリップ経費は年間を通じると、それなりのコストとなってしまうので、スリップレスに向かう状況にあるようだ。
 近代出版流通システムの終焉は、このようなスリップレス化にも象徴されているのだろう。

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10.『FACTA』(4月号)が「『川上切り』角川歴彦の大誤算」というレポートを発信している。それを要約してみる。

* ネット業界の有望株ドワンゴと出版業界の異端児KADOKAWAによる経営統合から4年半がたち、カドカワが窮地に追い込まれている。2019年3月期は43億円の最終赤字に沈む見通しである。
* 経営統合当初はドワンゴの「ニコニコ動画」を柱とする「niconico」事業が右肩上がりで、ドワンゴ優位だったが、その後「YouTube」に太刀打ちできず、プレミアム会員数も256万人から188万人にまで減少してしまった。
* それにM&Aの失態も重なり、ドワンゴは17年から赤字続きとなり、今期も12月までの純損失が63億円に上り、もはや土俵際に追いこまれた状況にある。
* ドワンゴの川上量生創業者は統合後のカドカワの社長を務め、辞任して取締役に降格、ドワンゴはKADOKAWAの子会社へと格下げになった。だが川上はカドカワの8.4%の株を握る筆頭株主で、角川歴彦はその5分の1以下しか所有していない。
* だが絶大の権力者である角川歴彦は川上を後継者として考え、ドワンゴはその壮大な構想を叶える推進力はずだった。しかしそれらを失った中で、400億円の投資となる「ところざわサクラタウン」の建設が進み、昨年は冨士見の社屋に高級レストラン「INUA」を開店している。


 このレポートは「その行く末が案じられるばかりだ」と結ばれている。
 このカドカワとドワンゴ問題に関しては、本クロニクル130で既述しているし、さらなるリスクとしての「所沢プロジェクト」にもふれてきている。
 これは詳細が定かでないけれど、かつての角川書店とCCC=TSUTAYAは深く関係し、後者が大手株主だった時期もあった。そのような関係から、角川はTSUTAYAが手がけている代官山プロジェクトのような不動産開発プロジェクト事業へと接近していったのではないだろうか。 
 しかし1980年代から90年にかけて、郊外型書店全盛時代に、ゼネコンやハウスメーカーの不動産プロジェクトに巻きこまれ、多くの悲劇が起きたことを知っている。大垣書店のサブリースデベロッパーに危惧を覚えるのも、それゆえだが、「ところざわサクラタウン」は400億円という巨大な投資に他ならず、「その行く末が案じられるばかりだ」と思わざるをえない。

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11.フレーベル館がJULA出版局の全株式を取得し傘下に収める。
 JULA出版局は1982年に日本児童文学専門学院の出版部として始まり、絵本「プータン」シリーズがロングセラーとして知られていた。

「プータン」シリーズ
「プータン」シリーズ

12.岩崎書店が海外絵本輸入卸の絵本の家の全株式を取得し、子会社化。
 絵本の家は1984年に設立され、英語の海外絵本の輸入・卸販売を主として、キャラクター関連グッズの制作なども手がけ、ショールームも兼ねた直営店では小売りも行なっていた。
 岩崎書店は絵本の家の子会社化によって英語教材の強化を図る。

13.辰巳出版グループの総合図書、富士美出版、スコラマガジンの3社が、スコラマガジンを存続会社として合併し、経営の効率化をめざす。

14.主婦の友社は、子会社の主婦の友インフォスの株式をIMAGICAグループに譲渡。
 主婦の友インフォスは、主婦の友社発行の雑誌、書籍などの編集製作会社で、「ヒーロー文庫」「プライムノベル」などのライトノベル、月刊誌『声優グランプリ』を手がけている。
 IMAGICAグループはロボットなどの61社の連結子会社を有し、劇場映画、テレビドラマ、アニメ作品などの幅広い分野の映像コンテンツの企画、製作を行なっている。
 今後、主婦の友社、主婦の友インフォス、IMAGICAグループは新たな企画開発、戦略的メディアミックスの取り組みを推進していく。

15.世界文化社が100%子会社としてプレミアム旅行社を設立し、旅行事業へと進出。

16.JTBパブリッシングは中央区築地に新店舗「ONAKA PECO PECO byるるぶキッチン」をオープン。
 新店舗は地方創生共同事業として、「るるぶキッチン」を運営するJTPパブリッシング、デジタルマーケティング支援のmode,コラボレーション店舗の企画、運営ノウハウを持つツインプラネット3社のタイアップ。
 「るるぶキッチン」は東京の赤坂見付、京都、広島に続く4店目のオープン。

 11から16は、たまたま3月から4月に集中してしまったけれど、ポスト出版時代に向けての各出版社をめぐるM&A、合併、他業種進出の動向を伝えていることになろう。
 トーハンもサービス付高齢者向け住宅事業の第2弾「プライムライフ西新井」を開業しているし、出版社、取次、書店の他業種進出はこれからも続いて行くだろう。もちろん成功するかどうかはわからないにしても。



17.『朝日新聞』(4/16)の一面に『漫画アクション』(No.9)本日発売広告が掲載され、矢作俊彦×大友克洋による新作「気分はもう戦争3(だったかもしれない)」の告知があったので、それを購入してきた。

漫画アクション ( 『漫画アクション』) 気分はもう戦争

 『漫画アクション』を買ったのは何十年ぶりで、確か『気分はもう戦争』が連載されていたのは1980年代初頭で、リアルタイムで読んでいたことからすれば、広告にあるように「38年ぶり」の再会ということになる。17ページの「完全新作」は国際状況の変化とテクノロジーの進化を伝え、読者の私だけでなく、矢作や大友の高齢化をも想起してしまう。私たちだって38年前は若かったのである。
 「気分はもう戦争3(だったかもしれない)」の後に、本連載122で取り上げた吉本浩二『ルーザーズ』が続き、1960年代後半から70年代にかけて連載されたモンキー・パンチ『ルパン三世』、小池一夫、小島剛夕『子連れ狼』を始めとする作品が紹介されていく。当時は『漫画アクション』の読者だったことを思い出す。
 それから数日して、モンキー・パンチと小池一夫の訃報が伝えられてきた。彼らの死はやはりひとつの時代が終わってしまったことを痛感させられた。

 たまたま私は坂本眞一『イノサン』(集英社)をフランス版『子連れ狼』として読んでいるのだが、その第3巻にダンテの『神曲』を想起させる見開きのシーンがあり、そこに「この得体の知れない不安感は何だ……?/まるで僕一人だけが真っ暗な穴に迷いこんでいくような……」という言葉が表記されていた。これこそは20世紀後半の『漫画アクション』ならぬ21世紀コミックの声なのであろう。
ルーザーズ f:id:OdaMitsuo:20190427152907j:plain:h112 >『子連れ狼』 イノサン 

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18.今月も出版人の死が伝えられてきた。
 それは太田出版の前社長の高瀬幸途である。

 前回、宮田昇の死を記したが、高瀬も宮田と同じく、日本ユニ・エージェンシーに在籍していた。その関係もあって、『出版状況クロニクルⅤ』で取り上げておいた、宮田の『出版の境界に生きる』を始めとする太田出版の「出版人・知的所有権叢書」の成立を見たと思われる。その後の続刊を確認していないけれど、宮田に続いて高瀬も亡くなってしまうと、刊行も難しくなるかもしれない。
 いずれ太田出版と高瀬のことは近傍にいた編集者が書いてくれるだろう。

出版の境界に生きる



19.今月の論創社HP「本を読む」㊴は「新人物往来社『近代民衆の記録』と内川千裕」です。
 『日本古書通信』に17年間連載した拙著『古本屋散策』は200編1000枚を収録して、連休明けに刊行予定。

古本屋散策