出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル138(2019年10月1日~10月31日)

 19年9月の書籍雑誌推定販売金額は1177億円で、前年比3%減。
 書籍は683億円で、同0.2%増。
 雑誌は494億円で、同7.3%減。その内訳は月刊誌が409億円で、同8.4%減、週刊誌は85億円で、同1.5%減。
 書籍のプラスは4.7%という出回り平均価格の大幅な上昇によるもので、消費増税を前にした駆け込み需要などに基づくものではない。
 返品率は書籍が32.8%、雑誌は40.3%で、月刊誌は40.0%、週刊誌は41.8%。
 10月はその消費増税と台風19号などの影響が相乗し、どのような流通販売状況を招来しているのだろうか。
 大幅なマイナスが予測される。
 今年も余すところ2ヵ月となった。このまま新しい年を迎えることができるであろうか。


1.日販の『出版物販売額の実態2019』が出された。
 17年までは『出版ニュース』に発表されていたが、同誌の休刊により、18年の出版データの切断も生じる危惧もあるので、例年よりも簡略化するけれど、同じ表のかたちで掲載しておく。


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■販売ルート別推定出版物販売額2018年度
販売ルート推定販売額
(億円)
前年比
(%)
1. 書店9,455▲7.8
2. CVS1,445▲8.3
3. インターネット2,094▲5.3
4. その他取次経由528▲28.5
5. 出版社直販1,971▲18.0
合計15,493▲4.5

 出版科学研究所による18年の出版物販売金額は1兆2921億円、前年比5.7%減だったのに対し、こちらは出版社直販も含んで、1兆5493億円、同4.5%減である。
 本クロニクル127で予測しておいたように、18年はついに書店が1兆円、コンビニが1500億円を下回り、取次ルート販売額の落ちこみを示している。それはその他取次のマイナス28.5%にも明らかだ。
 本クロニクルでもふれてきたが、19年の書店閉店は多くのチェーン店や大型店にも及んでいる。またコンビニの場合もセブン-イレブンは1000店の閉店が伝えられているし、書店とコンビニの出版物販売額はさらなるマイナスが続いていくことが確実であろう。
 それらの事実は、取次と書店という流通販売市場がもはや臨界点に達してしまったことを告げていよう。それは生産を担う出版社にしても、インターネットや直販ルートは伸びているけれど、同様であることはいうまでもないだろう。
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2.出版科学研究所による19年1月から9月にかけての出版物販売金額音推移を示す。

■2019年上半期 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2019年
1〜9月計
935,484▲4.2520,522▲3.8414,962▲4.6
1月87,120▲6.349,269▲4.837,850▲8.2
2月121,133▲3.273,772▲4.647,360▲0.9
3月152,170▲6.495,583▲6.056,587▲7.0
4月110,7948.860,32012.150,4745.1
5月75,576▲10.738,843▲10.336,733▲11.1
6月90,290▲12.344,795▲15.545,495▲8.9
7月95,6194.048,1059.647,514▲1.2
8月85,004▲8.241,478▲13.643,525▲2.4
9月117,778▲3.068,3560.249,422▲7.3

 19年9月までの書籍雑誌推定販売金額は9354億円、同4.2%減、前年比マイナス408億円である。
 この4.2%マイナスを18年の販売金額1兆2920億円に当てはめてみると、1兆2378億円となり、20年は1兆2000億円を割り込んでしまうだろう。そうなれば、1996年の2兆6980億円の半減どころか、1兆円を下回ってしまうことも考えられる。
 それに重なるように、19年の書店閉店は大型店が多く、その閉店坪数は最大に達すると予測される。例えば、9月のフタバ図書MEGA岡山青江店は1100坪で、在庫は軽くなったと見なしても、返品総量は途方もないだろう。19年はそうした大返品が出版社に逆流し、予想もしない大返品に見舞われている。それはいつまで続くのであろうか。



3.文教堂GHDの事業再生ADR手続きが成立し、債務超過をめぐる上場廃止期間が1年延長される。
 筆頭株主の日販は5億円出資し、帳合変更時の在庫の一部支払いを再延長し、事業、人事面で支援する。アニメガ事業はソフマップの譲渡し、20年8月期に債務超過を解消予定。
 一定以上の債権を持つみずほ銀行などの金融機関6行は既存借入金の一部を第三者割当方式により、41億6000万円を株式化することで支援する。
 さらなる詳細は文教堂GHDのHP「事業再生ADR手続きの成立及び債務の株式化等の金融支援に関するお知らせ」を参照されたい。
 なお発表を控えていた文教堂GHDの3月期決算連結業績は売上高243億8800万円、前年比11.0%減、営業損失4億9700万円、経常損失6億1000万円、親会社株主に帰属する当期純損失39億7700万円。42億1200万円の債務超過。


 取次と銀行による46億円の債権の株式化という事業再生計画が提出されたことになる。だが肝心の書店事業に関しては返品率の減少や不採算店の閉鎖などが謳われているだけで、上場廃止猶予期間を1年間延長する先送り処置と判断するしかない。
 このような銀行の債権の株式化を含むスキームは、出版業界の内側から出されたものではなく、経産省などが絵を描いたと思わざるをえない。書店という業態がまさに崩壊しつつある現在、このような金融支援だけで再生するわけがないことは、出版業界の人間であれば、誰もが肌で感じていることだろう。折しも『創』(11月号)で、「書店が消えてゆく」特集が組まれているが、そこからは書店の悲鳴の声が聞こえてくる。
 
 本クロニクルから見れば、文教堂問題は、1980年代から形成され始めた郊外消費社会における出店のための不動産プロジェクトの帰結といっていい。チェーン店のための出店バブルは、書店という業態が成長しているうちは露呈しないが、衰退していくと必然的に崩壊していくプロセスをたどる。それは書店のみならず、コンビニやアパレルをも襲っている現実である。
 またレオパレス21問題とも共通している。レオパレス21はサブリースのアパート、マンション3万9000棟、その関連会社は4、5000社に及び、破綻した場合、その影響は多くのオーナーだけにとどまらない。そのために資産売却で特別利益を計上している。
 文教堂の場合も、上場廃止となれば、出版業界に与える影響が大きく、日販を直撃するし、このような先送り処置が選択されたのであろう。
創



4.精文館書店の売上高は194億200万円、前年比1.9%減、当期純利益2億7500万円、同7.8%増の減収減益決算。

 あまり遠くないところに精文館書店があるので、時々出かけているが、数年前からTSUTAYAの屋号となっている。
 それに期中の精文館は静岡のTSUTAYA佐鳴台店864坪を始めとして、出店を続けている。それは精文館もTSUTAYAのFCに組みこまれたことを示しているのだろう。日販、子会社書店、TSUTAYAの複雑な絡み合いの行方はどうなるのであろうか。
 精文館の書籍・雑誌売上は114億円、同1.4%増で、そのシェアは58%となり、DVD、CDなどのセル、レンタルは大きく減少し、出店しなければ、さらなる減収は明らかだ。そのようなメカニズムの中で、出店がなされ、閉店が続いているのである。



5.台風19号により、埼玉県の蔦屋書店東松山店は床上1.6メートルの浸水など、多くの書店で被害が生じたようだ。

 蔦屋書店東松山店の近くに住む出版関係者からの知らせによれば、浸水は深刻で、雑誌、書籍はすべてが水につかり、自然災害ゆえに、出版社は全部を返品入帳するしかない状況になるのではないかということだった。
 博文堂書店千間台店にしても、かなりの出版物にそのような処置をとらざるをえないだろう。それにまだ書店被害の全貌は明らかになっていないけれど、トータルとすれば、大きな返品となり、これも出版社へとはね返っていく。
 それに加えて、台風21号も千葉県や福島県などで河川が氾濫し、市街地や住宅地が冠水、浸水したとされるので、10月の台風による書店被害はさらに拡がり、閉店へと追いやられる書店も出てくるように思われる。



6.出版物貸与権センターは2018年度の貸与兼使用料を契約出版社48社に分配した。
 分配額は16億300万円で、レンタルブック店は1973店。
 17年度の分配額は21億1000万円だったから、5億円以上のマイナスとなった。

 本クロニクル126で、18年全国のCDレンタル店が2043店であることを既述しておいたが、定額聞き放題音楽サービスの広がりもあり、19年はさらに減少しているだろう。
 それはコミックレンタルも同様で、電子コミックの普及により、19年度は20億円を大きく割りこみ、レンタルブック店も減少していくことは確実だ。
 大型複合店の業態を支えてきたのはレンタル部門で、それがCD、DVD、コミックとトリプルの衰退に見舞われている。
 またこれらの水害の後始末はどのような経緯をたどるのであろうか。
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7.大阪屋栗田は楽天ブックスネットワーク株式会社へ社名変更。
 「親会社である楽天家牛木会社とのシナジーをより強固なものにするとともに、出版社等の株主の各社との連携のもと、書店へのサービスネットワークをさらに拡充することを目指す」と声明。
 その一方で、株式会社KRT(旧商号:栗田出版販売株式会社)から、「再生債権の追加弁済(最終弁済)のご連絡」が届いている。これは「50万円超部分」を対象債権額とし、その6.9%を追加弁済するというものである。

 これらのプロセスを経て、大阪屋と栗田の精算は終了し、楽天ブックスネットワーク株式会社へと移行していくのであろう。
 それとパラレルに、旧大阪屋と栗田を取次としていた書店はどのような回路をたどっていくのか。例えば、栗田をメインとしていた戸田書店は8月に2店、続けて9月には青森店350坪を閉店しているし、これから大阪屋栗田時代の書店の選別がさらに本格化するにちがいない。



8.『日経MJ』(10/25)が「シニアの市場 トーハン攻める」との見出しで、「出版不況受け、収益源開拓」として、「高齢者住宅10棟体制へ」をレポートしている。
 それによれば、トーハンはグループ会社のトーハン・コンサルティングを通じ、3月にサ高住「プライムライフ西新井」を開業した。今後の自社所有地の他にも用地を探し、中期的に10施設まで増やす計画で、トーハンの掲げる「事業領域の拡大」に当たる。

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 本クロニクル125などで、トーハンと学研の提携による「サ高住」事業進出にふれ、取次による不動産事業と介護事業の陥穽にふれておいた。
 それは出版社も同様で、『FACTA』(11月号)が「『冠心会』理事負債が10億円の不正流用!」という記事を発信している。これは同誌8月号の医療法人「冠心会」傘下の一成会の「さいたま記念病院」の破産レポートに続くものである。この冠心会の事業パートナーは小学館のグループ会社「オービービー」で、不動産投資して病院建物などを32億円で取得し、経営は冠心会に丸投げしていた。
 ところが冠心会は毎月の診療報酬債権を次々と売り払い、そのファクタリング代金を簿外に移し、一成会は経営不振に陥り、「オービービー」はさらに7億円を注ぎこみ、支援を余儀なくされていた。刑事事件化は必至で、「オービービー」は代理人弁護士を通じて、冠心会前理事夫妻に交渉を始めたが、もはや連絡が取れなくなっているという。
 「病院経営に明るくないオービービーは与しやすい相手」だったとされ、ここにその不動産投資の典型的陥穽が示されていることになる。
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9.能勢仁の『平成出版データブック―「出版年鑑」から読む30年史』(ミネルヴァ書房)が出された。

平成出版データブック―「出版年鑑」から読む30年史 出版の崩壊とアマゾン

 同書は出版ニュース社が刊行していた『出版年鑑』に基づく、平成時代の出版データで、「記録」の他に、「統計・資料」もコンパクトにまとめられ、まさに平成出版史を俯瞰する一冊といえよう。出版関係者は座右に置いてほしいと思う。
 これはと関連してだが、本クロニクル136で、能勢の「大阪屋栗田は情報発信を」という『新文化』(7/25)の投稿にふれておいた。しかしおそらく楽天ブックスネットワークへと移行したことで、出版業界に対する「情報発信」はさらに後退すると考えられる。
 またこちらは『出版の崩壊とアマゾン』(論創社)の高須次郎によれば、『出版ニュース』が休刊してから、一段と「情報発信」が少なくなったという。それは『出版ニュース』休刊だけでなく、肝心な情報、重要な問題への言及は極めて少なくなっており、そこには出版業界の行き詰った閉塞感がこめられていよう。
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10.東京・新宿区の和倉印刷が破産手続き決定。
 1963年創業で、パンフレット、マニュアルを主体とする書籍・雑誌などのオフセット印刷を手がけ、2010年には売上高3億5000万円を計上していたが、近年は売上が減少し、赤字決算を余儀なくなれていた。
 負債は5億8000万円。

11.東京・板橋区の倉田印刷が事業を停止し、破産申請予定。
 1966年設立で、法令関連の書籍や定期刊行物を主力としてきた。
 2013年には売上高8億円を計上していたが、インターネットにおける格安印刷業者の台頭などで、業者間の競合が激化し、売上減少と利益低迷が続いていた。

 出版業界の危機は当然のことながら、印刷業界にも及び、中小の印刷業者の破産となって表出している。その典型がこの2社ということになろう。
 それは製本業界も同様のようで、これらの中小企業、関係会社は相互保証し合っていることもあり、連鎖倒産している。
 これから年末にかけて、中小出版社、書店だけでなく、印刷、製本業界にもこうした倒産が否応なく起きていくだろう。



12.『ニューズウィーク日本版』(10/8)が水谷尚子明治大学准教授による「ウイグル文化が地上から消える日」を掲載している。
 リードは「元大学学長らに近づく死刑執行/出版・報道・学術界壊滅で共産党は何をもくろむ?」
 それによれば、地理学、地質学の専門家の新彊大学学長、ウイグル伝統医学の大家で、新彊医科大学元学長、新彊ウイグル自治区教育長の元庁長らが拘束され、その後の消息が不明で、死刑執行が懸念されている。
 中国共産党はウイグル人社会を担ってきた知識人を強制収容所送りとし、その収監者数は100万人を超すとされる。ウイグル語や文化の消滅を目的とするようで、この2年間で、知識人の社会からの「消失」とともに、ウイグル語の言語空間は消滅しつつある。
 それはウイグル語専門書店の相次ぐ閉鎖、経営者たちの強制収容所への収監、ウイグル語出版社の壊滅、出版社員、編集者、作家、ジャーナリストも同様である。
 「共産党によって押し込められた『ウイグル社会の宝』は今、劣悪な矯正収容所の中で消えようとしている」

 ニューズウィーク日本版 ウイグル人に何が起きているのか
 
 ひとつの民族迫害が起きる時、知識人のみならず、言語、書店、出版が壊滅的状況に追いやられ、かつてのソ連に代わって、あらたに中国が「収容所群島」と化していることを告げていよう。
 さらなる詳細なレポートとして、福島香織『ウイグル人に何が起きているのか』(PHP新書)も出されていることを付記しておこう。



13.アビール・ムカジー『カルカッタの殺人』(田村義道訳、ハヤカワ・ミステリ)を読了。

カルカッタの殺人

 1919年の英国当時下のインド帝国のカルカッタを舞台とするミステリで、著者は1974年生まれのインド系移民2世である。
 主人公はインド帝国警察の英国人警部だが、その存在と登場人物たちは植民地における帝国主義のメカニズムと葛藤を象徴的に浮かび上がらせ、事件もまたその渦中から発生したことを物語っていよう。
 このような帝国主義下の混住ミステリ小説を読むと、船戸与一の「ハードボイルド試論序の序―帝国主義下の小説について」における、次のような一節を想起してしまう。

 「ハードボイルド小説とは帝国主義がその本性を隠蔽しえない状況下で生まれた小説形式である。したがって、その作品は作者が右であれ左であれ、帝国主義のある断面を不可避的に描いてしまう。優れたハードボイルド小説とは帝国主義の断面を完膚なきまでに描いてみせた作品を言うのである。」

 今年ももはや2ヵ月しか残されていないし、多くを読めないだろう。そこでこの『カルカッタの殺人』を海外ミステリのベスト1に挙げておく。



14.下山進『2050年のメディア』(文藝春秋)を恵送された。

2050年のメディア
 これはタイトル、帯文に示されているように、インターネット出現後の読売、日経、ヤフーの三国志的ドラマ、「技術革新とメディア」の20年の物語と見なしていいし、それは本文中の次のような一節に端的に示されていよう。

 「既存の市場が技術革新によって他の市場に移ろうとする時、技術革新によって生まれる市場は最初小規模な市場として始まる。そうなると、大手企業は、わざわざそのゼロの市場に勢力をつぎこみ出て行こうとしないのだ。カニバリズムが恐れられる場合はなおさらだ。」


 この言はジャーナリズムのみならず、出版業界に当てはめることができる。
 だがそれらはともかく、同書からうかがえるのは、2019年まで下山が在籍していた文藝春秋の社内事情で、本クロニクルの立場からすれば、どうしてもそのような裏目読みに傾いてしまうのである。



15.拙著『近代出版史探索』(論創社)が10月25日に刊行された。

近代出版史探索

 今月の論創社HP「本を読む」㊺は「立風書房『現代怪奇小説集』と長田幹彦『死霊』」です。

出版状況クロニクル137(2019年9月1日~9月30日)

 19年8月の書籍雑誌推定販売金額は850億円で、前年比8.2%減。
 書籍は414億円で、同13.6%減。
 雑誌は435億円で、同2.4%減。その内訳は月刊誌が359億円で、同1.2%減、週刊誌は75億円で、同7.5%減。
 書籍の大幅減は7月に大物新刊が集中したこと、前年同月が3.3%増と伸びていたことによっている。
 返品率は書籍が41.6%、雑誌は43.3%で、月刊誌も43.3%、週刊誌は43.4%。
 トリプルで40%を超える高返品率となった。
 いよいよ10月からは消費税が10%となる。この増税は出版業界にどのような影響を与えることになるだろうか。


1.8月の書店閉店状況は76店で、6月が57店、7月が33店だったことに比べ、増加している。
 9月以降はどうなるのか、書店市場は予断を許さない事態を迎えているはずだ。

 やはりチェーン店の閉店が続いているので、それらを挙げてみる。
 TSUTAYA5店、未来屋5店、フタバ図書3店、文教堂、戸田書店、くまざわ書店、とらのあなが各2店である。ちなみに閉店合計坪数はTSUTAYA 1460坪、フタバ図書 1530坪、文教堂 350坪。
 この3店を抽出したのは本クロニクルなどで、TSUTAYAの18年から続く大量閉店、フタバ図書の長きにわたる粉飾決算、文教堂の債務超過と「事業再生ADR手続き」などに関して、ずっと言及してきたからだ。
 しかも文教堂の場合、このタイムリミットは9月末であり、どのような結末となるのだろうか。経済誌などでも、その後の推移はレポートされていない。

 月末になって、文教堂の再生計画が報道され始めている。また文教堂は「事業再生ADR手続の成立及び債務の株式化等の金融支援に関するお知らせ、日販は株式会社文教堂グループホールディングス事業再生計画における当社の支援についてというニュースリリースを出している。これらは10月に言及することにする。



2.8月の書店閉店状況において、突出しているのは日本雑誌販売を取次とする24の小さな書店がリストアップされていることだろう。

 これは本クロニクル134で既述しておいた日本雑誌販売の債務整理と、それに続く自己破産を受けての閉店に他ならない。そのことに関して、多くのアダルト誌を扱う「小取次の破綻だが、その波紋は小さなものではないように思われる」と記したばかりだが、所謂 街のエロ雑誌屋を壊滅状態へと追いやっていく状況が浮かび上がってくる。
 折しもこの9月からセブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートが「成人向け雑誌」の販売を中止した。それに合わせるかのいうに、『ソフト・オン・デマンド』10月号が「コンビニエロ本・イズ・デッド」と銘打ち、最終号となっている。
 エロ雑誌の終わりは前々回の安田理央『日本エロ本全史』においても伝えたが、まさに取次や販売市場も終わりを迎えようとしている。
日本エロ本全史
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3.丸善丸の内本店と日本橋店が日販からトーハンへ帳合変更。

 本クロニクル131などでふれてきた、日販の10月1日付での持株会社移行に伴う取次事業としての新子会社日本出版販売の発足とほとんどパラレルであるから、連関していると考えざるをえない。2店の売り上げは60億円に及んでいるので、日販にとっては痛みを伴うであろう。
 それに1に挙げた3社の書店の問題も大きく影響していることは想像に難くない。それこそ、はたして落としどころはあるのだろうか。
 いずれにせよ、丸善の帳合変更、3社の書店問題を抱えて、日販の持株会社体制への移行は最初から波乱含みということになろう。
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4.9月27日に日本橋の複合商業施設「コレド室町テラス」に「誠品生活日本橋」がオープン。

 これは本クロニクル132でふれておいたように、台湾の人気複合書店の日本初出店で、有隣堂がライセンス契約を得て運営する。
 坪数は877坪で、取次は日販。当然のことながら、この「誠品生活日本橋」の出店も丸善のトーハンへの帳合変更の理由のひとつに挙げられるであろう。しかし有隣堂も書店経営というよりも、「誠品生活」を中心とするサブリース・デベロッパーで、年商7億円をめざすとされている。
 このような複合書店は「誠品生活」だけでなく、カナダの「インディゴ」もアメリカに初進出している。同社はカナダ最大の書籍チェーンだが、ブックストアではなく、「カルチュラル・デパートメントストア」として、書籍だけでなく、ホームファッション、衣料、雑貨などを揃えるフォーマットである。
 おそらく10月以後の出版業界の話題は「誠品生活」一色になるだろうし、いずれ「インディゴ」の日本進出もありうるかもしれない。その際にはもちろん取次はトーハンとなろう。
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5.大垣書店の今期決算見通り売上高は119億9000万円、前年比6%増で、過去の最高額を更新。直営店35店、提携店2店で、既存店だけでも2%増。
 部門別では「Book」前年比4%増、「CD・DVD」同7%減、「文具」同6%増、「カフェ」同36%増、「カードBox」同18%増。

 これも本クロニクル132で取り上げておいたように、大垣書店は京都経済センターの「SUINA室町」に京都本店をオープンしている。それは大垣書店が1階全フロア700坪を借り上げ、そのうちの350坪を書籍、雑誌、文具、雑貨売場とし、残りの350坪は大垣書店のサブリースによる8社の飲食店、カフェなど104店が出店している。
 いうなれば、の有隣堂と同じデベロッパーを兼ねるポジションの出店で、それが部門別売上にもリンクしているのだろう。しかし利益面に関しては公表されていないし、来期売上高目標は121億円となっているので、やはりデベロッパーも難しいことを告げているように思われる。



6.集英社の決算は売上高1333億円で、前年比14.5%増。当期純利益も前年の4倍強の98億7700万円。
 その内訳は「雑誌」が513億円、同2.3%増、「書籍」が123億円、同3.9%増、「広告」96億円、同3.7%増、デジタル、版権、物販などの「その他」は599億円、同30.0%増。

 前期売上高は1164億円で、「その他」は461億円だったので、今期の決算の好業績はデジタル、版権、物販などの「その他」の138億円の増加に多くを負っていることはいうまでもないだろう。
 「雑誌」も内訳を見てみると、コミックスの映像化によるヒット、『ONE PIECE』の単行本が前年より1巻多いことに支えられ、「書籍」にしても、書籍扱いの『SLAM DUNK』新装再編版全20巻の寄与によるものである。
 つまり定期雑誌や書籍が回復したわけではなく、コミックスのフロック的寄与が大きい。したがって来期も続くとは限らない。結局のところ、集英社の場合も「その他」収入がどれだけ伸ばせるかということに尽きるだろう。
ONE PIECE SLAM DUNK



7.光文社の決算は売上高203億円、前年比6.5%減の3年連続の減収で、経常損失7億6500万円。だが保有していた光文社ビルを売却したことにより、当期純利益は36億2400万円と黒字決算。

 やはりその内訳を見てみると、「販売」96億7500万円、前年比9.7%減で、そのうちの雑誌66億1500万円、同7.3%減、書籍が30億6000万円、同14.6%減となっている。
 月刊誌『VERY』『STORY』も振るわず、光文社文庫や光文社新書も前年を下回り、返品率は雑誌が48.5%、書籍は40.2%と高止まりしたままだ。
 本クロニクル129で、光文社古典新訳文庫の誕生秘話としての駒井稔『いま、息をしている言葉で。』(而立書房)を推奨したこともあり、同文庫がリストラの対象とならないことを祈るばかりだ。

 いま、息をしている言葉で。
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8.メディア・コンテンツを展開するイードはポプラ社と資本業務提携し、第三者割当による25万株の自己株式の処分を行う。
 両者の業務提携の内容は、既存事業のノウハウの共有、相互連携強化などによる事業の拡大と深耕、ポプラ社の有する多数のコンテンツとイードのデジタルマーケッティング力を融合させた新規事業の創出である。

 具体的にいえば、イードが第三者割当により2億円を超える資金を投入し、ポプラ社の大株主になることだ。またイードは富士山マガジンサービスとも業務提携している。
 出版社のM&Aは公表されているケースとそうでないケースが多く生じているけれど、やはりM&Aされた場合、既存の出版路線を貫くことは難しく、在庫の問題も含め、否応なく転換が迫られているようだ。

【付記】10月1日
その後、消息筋からの情報によれば、ポプラ社がイードの株を引き受けたとのことで、イードがポプラ社の大株主になったのではないようだとの指摘もなされている。



9.『人文会ニュース』(No132)で知ったが未来社が人文会から退会し、誠信書房も2年連続の休会となっている。

 人文会は創立50周年を迎えていることからすれば、1960年代末に創立されている。
 そういえば、かつて人文書取次の鈴木書店の店売には、人文会会員社の書籍が揃って常備として置かれていた光景を思い出す。それももはや20年前のものになってしまった。
 まさに人文会の「オリジナルメンバー」に他ならない未来社の退会も、人文会の設立、鈴木書店の倒産と同様に、出版業界の変容を象徴しているのだろう。



10.『岩田書院図書目録』(2019~2000)が届いた。

 巻末に「新刊ニュースの裏だより2018・7~2019・4」がまとめて収録されている。
 久しぶりに「裏だより」を読み、歴史書の岩田書院のこの10カ月の動向と内部事情を教えられる。岩田書院も創立25周年を迎えているのだ。その中から興味深い記述を拾えば、4回にわたる「在庫半減計画」が挙げられる。これは直接読んでもらったほうがいいだろう。
 また一人だけの「新たな出版社」として、歴史、民俗、国文系の3社が紹介されていた。
 「「小さ子社」は思文閣出版にいた原さん、「七月社」は森話社にいた西村さん、「文学通信」は笠間書院にいた岡田さん」で、私もここで初めて知ったといっていい。
 それは次のように続いている。
 「私が岩田書院を作った時(25年前)は、景気こそ良くなかったけど、今に比べると、まだ本が売れていた時代。でもこれからやる人はたいへんだ。10年先、この業界がどうなっているかも、見えないし。」
 この続きもあるが、これも直接読まれたい。



11.日本ABC協会の新聞発行社レポートによる、2019年上半期(1月~6月)の平均部数(販売部数)が出されたので、全国紙5紙のデータを挙げてみる。

■2019年上半期(1~6月)ABC部数
新聞社2019年上半期前年同期比増減率(%)
朝日新聞5,579,398▲374,938▲6.3
毎日新聞2,435,647▲388,678▲13.8
読売新聞8,099,445▲413,229▲4.9
産経新聞1,387,011▲115,009▲7.7
日経新聞2,333,087▲102,886▲4.2
合計19,834,588▲1,394,740

 全国紙5紙の合計マイナスは139万4740部で、『毎日新聞』は約39万部減で、ついに250万部を割り込んでしまった。新聞配達の人に聞いても、地方紙はともかく、近年の全国紙の落ち込みは激しということだ。朝日新聞の500万部割れも近づいていよう。
 本クロニクルで繰り返し書いてきたように、毎日の新聞に掲載される雑誌や書籍広告が書店へと誘うチラシであり、それによって出版物販売と購入が促進されてきたのである。
 しかしこのような新聞の落ち込みは、その効果がもはや衰退しつつあることを示しているし、まして新聞書評に至ってはいうまでもないことだろう。



12.またしても訃報が届いた。
 それは木村彦次郎で、講談社の『群像』や『小説現代』の編集長を務め、退社後『文壇栄華物語』(筑摩書房)などを著わしている。

 大村からは5月に手紙が届き、下咽頭癌で入院すると知らされていた。それから便りがなかったので、その後どうしているのかと気になっていたところに、訃報がもたらされたのだった。
 彼からは何度も「浅酌」に誘われていたが、なかなか時間がとれず、またしても呑まずじまいに終わってしまった。
 大村の死で、宮田昇に続き、私のいう出版界の四翁のうちの二翁が失われ、これまた講談社の原田裕、白川充の三トリオも鬼籍に入ってしまったことになる。
文壇栄華物語



13.こちらも死者をめぐってだが、追悼本『漫画原作者 狩撫麻礼1979-2018』(双葉社)が出された。

 狩撫麻礼に関しては本クロニクル135でもふれたばかりだが、このような追悼本が刊行されるとは予想だにしていなかった。しかもそれは双葉社・小学館・KADOKAWA・日本文芸社による狩撫麻礼を偲ぶ会・編である。
 確かに1960年代から70年代にかけて、「漫画原作者」の時代があり、狩撫がその系譜上に位置する最後の「漫画原作者」だったことをあらためて認識させられる。
 それも含め、現代マンガ史のための必読の一冊として推奨しよう。
漫画原作者 狩撫麻礼1979-2018
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14.『古本屋散策』に続き、10月半ばに『近代出版史探索』(論創社)が刊行される。
 やはり200編収録だが、こちらは長編連作で、前著を上回る770ページの大冊となる。

古本屋散策  近代出版史探索

 今月の論創社HP「本を読む」㊹は「平井呈一『真夜中の檻』と中島河太郎」です。

出版状況クロニクル136(2019年8月1日~8月31日)

 19年7月の書籍雑誌推定販売金額は956億円で、前年比4.0%増。
 書籍は481億円で、同9.6%増。
 雑誌は475億円で、同1.2%減。その内訳は月刊誌が384億円で、同0.1%減、週刊誌は91億円で、同5.4%減。
 返品率は書籍が39.9%、雑誌は43.0%で、月刊誌は43.4%、週刊誌は41.3%。
 書籍のほうは新海誠『小説 天気の子』(角川文庫)が初版50万部で刊行された他に、東野圭吾『希望の糸』(講談社)、百田尚樹『夏の騎士』(新潮社)などの新刊が寄与している。
 雑誌は定価値上げに加えて、定期誌『リンネル』(宝島社)などが好調で、コミックは『ONE PIECE』(集英社)の新刊発売にも支えられている。
 例年は『出版年鑑』(出版ニュース社)の実売総金額も挙げてきたが、出版ニュース社が閉じてしまったので、それももはや提示できなくなってしまったことを先に付記しておこう。

小説 天気の子 希望の糸  夏の騎士  リンネル ONE  PIECE 



1.出版科学研究所による2019年上半期の紙+電子出版市場の動向を示す。

2019年上半期 紙と電子の出版物販売金額
2019年1〜6月電子紙+電子
書籍雑誌紙合計電子コミック電子書籍電子雑誌電子合計紙+電子合計
(億円)3,6262,7456,3711,133166731,3727,743
前年同期比(%)95.294.995.1127.9108.584.9122.098.9
占有率(%)46.835.582.314.62.10.917.7100.0

 前年と同様にインプレス総合研究所の18年電子書籍市場調査と合わせて言及してみる。
 出版科学研究所による19年上半期紙と電子出版物販売金額は7743億円で、前年比1.1%減。そのうちの電子出版市場は1372億円、同22.0%増で、そのシェアは17.7%、前年は16.1%。
 電子出版の内訳は電子コミックが1133億円で、同27.9%増、電子書籍が166億円で、同8.5%増、電子雑誌が73億円で、同15.1%減。
 電子コミックの3割近い伸びは海賊版サイト「漫画村」の閉鎖によるものとされる。前年に続く電子雑誌のマイナスは「dマガジン」の会員減が影響し、大幅減となった。
 電子出版市場は前年比プラス247億円だが、それは電子コミックの同247億円プラスとまったく重なる数字で、電子出版市場が電子コミック市場に他ならないことを象徴していよう。したがって今後の電子出版市場にしても、その成長は電子コミック次第ということになる。

 その一方で、インプレス総合研究所によれば、18年度の電子出版市場規模は3122億円で、前年比22.1%増。
 その内訳は電子雑誌が296億円、同6.1%減で、統計開始以来の初めての減少。電子書籍は2826億円、同26.1%増。
 電子書籍の分野別はコミックが2387億円、同29.3%増、文芸、実用書、写真集などの「文字もの等」が439億円、同10.8%増で、コミックのシェアは84.5%。

 出版科学研究所とインプレス総合研究所による電子出版市場規模は前者が上半期、後者が年間データで開きはあるのだが、電子市場のマイナス、電子コミックのシェアの高さは共通している。それゆえにインプレスの場合も、電子書籍市場は電子コミック次第ということに変わりはないといえよう。



2.『日経MJ』(7/31)の18年度「日本の卸売業調査」が出された。
 そのうちの「書籍・CD・ビデオ部門」を示す。

 

■書籍・CD・ビデオ卸売業調査
順位社名売上高
(百万円)
増減率
(%)
営業利益
(百万円)
増減率
(%)
経常利益
(百万円)
増減率
(%)
税引後
利益
(百万円)
粗利益率
(%)
主商品
1日本出版販売545,761▲5.81,026▲56.61,084▲57.5▲20912.9書籍
2トーハン416,640▲6.13,887▲12.71,819▲24.653114.3書籍
3大阪屋栗田74,034▲3.9書籍
4図書館流通
センター
45,2390.21,90715.72,117151,37818.3書籍
5日教販28,0242.44153.224512.421610.4書籍
9春うららかな書房3,465▲4.2書籍
MPD168,314▲6.9112▲73.1122▲70.8164.1CD

 日販とトーハンの決算に関しては本クロニクル134で詳述しているので、ここでは前年と同様に、決算を発表していない大阪屋栗田にふれてみる。
 それに折しも、ノセ事務所の能勢仁が『新文化』(7/25)に、「大阪屋栗田は情報発信を」という投稿をしているからでもある。能勢は大阪屋栗田のネット上の決算公告により、上記の調査表の空白を埋めるかたちで、次のように述べている。

「それによると、大阪屋栗田の売上高は740億3400万円で、前年比3.9%減である。日販やトーハンと比べて減少幅が低い。しかし、営業損失は3億6100万円、経常損失は2億7800万円、当期純損失は4億2200万円だった。
 昨年度、業界誌に大阪屋栗田の記事が載ることはほとんどなかった。役員・執行役員など14人以外、人事情報も公開されていない。取次会社はこの業界の公器で、取引書店にとっては親のようなものである。大阪屋栗田の沈黙は不安感を与えかねない。」

 
 さらに続けて、大阪屋栗田が書店に促進しているのは楽天ポイントキャンペーンが主で、それより重要な品揃えや接客といった読者ニーズ、来店動機への取り組みが欠けているのではないかとの疑念も発せられている。
 だが現在の大阪屋栗田には、かつて大阪屋や栗田が備えていた書店経営勉強会促進といった機能を望むことは不可能であろう。大阪屋栗田は書店の取次というよりも、もはや当然のことだが、ネット企業楽天の傘下取次の色彩が強くなっている。
 現在の出版状況において、「大阪屋栗田の沈黙は不安感を与えかねない」と能勢は書いているけれど、それは日販やトーハンも同様であろう。
 前回、文教堂GHDの「事業再生ADR手続き」やフタバ図書の長期にわたる粉飾決算などに言及したが、日販は沈黙を守っているに等しいし、それは新聞や経済誌にしても同じだ。トーハンもそうした書店を抱えているにもかかわらず、こちらも何も発信していない。
 しかし19年の書店売上と閉店状況を見る限り、書店市場は多くが赤字に陥っていると考えざるを得ない。そのバブル出店のつけを取次は清算することができるであろうか。
 なお中央社の決算が発表された。売上高212億円、前年比2.1%減で、減収減益の決算。

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3.『新文化』(7/25)が「TSUTAYA『買切仕入れ』の狙い」との見出しで、同社取締役でBOOKカンパニーの鎌浦慎一郎社長、内沢信介商品部長の話を掲載している。
 

 本クロニクル134で、TSUTAYAの買切に関して、詳細がはっきりせず、現在のようなTSUTAYA状況の中での疑問を呈しておいた。そうした見解はこの一面特集を読んでも変わらないけれど、ここで示されたデータからTSUTAYAの現在を観測してみる。
 本クロニクル133でTSUTAYAの18年度、書籍・雑誌販売金額が過去最高額になったことを既述しておいたが、その店舗数は不明だった。この記事には18年末の直営店、FC店合わせて835店、販売金額は1347億円とある。これまでのTSUTAYAの年間販売金額に関しても『出版状況クロニクルⅤ』などで試算してきたように、あらためて確認してみると、一店当たりの書籍・雑誌販売金額は年商1億6000万円で、月商1300万円となる。
 これに対して、日販の「出版物販売金額の実態2018」によれば、17年の書店坪数と販売金額は83.7坪、年商1億23万円とされる。08年には70.7坪、1億1474億円だったので、書店坪数の増床と反比例して、販売金額が減少していったことを示している。

 ところがTSUTAYAの場合、18年には30店が新規出店し、その平均坪数は700坪である。もちろんこれが書籍・雑誌売場だけでなく、複合であることは承知しているけれど、70、80坪でないことは自明だろう。すなわち、TSUTAYAは単店でみるならば、驚くほど書籍・雑誌を売っていないし、しかも雑誌、コミック比率が高く、書籍販売の蓄積を有していないと見なせよう。
 さらにこの記事にはTSUTAYAの返品率は雑誌・書籍を合わせて35%で、それを買切仕入れで30%未満にしたとの言もある。しかし18年に続いて、19年もTSUTAYAの大量閉店は止まず、7月で40店を超え、その坪数は1万坪近くに及んでいる。それらのトータルな返品も含めれば、返品率は優に50%を超えているはずだ。
 文教堂やフタバ図書だけでなく、日販とMPDはこのようなTSUTAYAを抱え、三つ巴の大返品状況を迎えている。それらの行方はどうなるのだろうか。
出版状況クロニクル5

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4.全国大学生活協同組合連合会(大学生協連)は秋から日販による専門書新刊の見計らい自動配本を取りやめ、全国共同仕入事務局と主要店舗選書担当者が選書と発注を行う「書籍事業再構築方針」を発表。
 大学生協連には206大学生協が加盟し、431店舗を有し、年間の出版物販売金額は240億円。

 6月に九州大学生協文系書籍店と理農購買書籍店の閉店が伝えられ、大学生協書籍店にも否応なく、危機が露呈し始めていることをうかがわせた。
 とりわけ九州大学文系書籍店は鈴木書店時代に小社によく注文があったこと、また大学生協連の日販への帖合変更が鈴木書店の倒産のひとつのきっかけだったことを思い出させてくれた。
 あれから20年近くがたち、大学生協書籍店も想像以上の変化と異なる事態に直面していると推測される。



5.小中学校の図書館に書籍を卸していた武蔵野市の東京学道社が破産手続きを開始。
 同社は公立小中学校280校の図書館に書籍を卸していたが、資金繰りの悪化と代表者の死去もあり、今回の措置となった。負債は1億円。

 このような民間の図書館納入会社が破産する一方で、映画『ニューヨーク公共図書館』がロングラン化している。また超党派議員からなる活字文化議員連盟(議連)の「公共図書館の将来」という答申を提出している。それは10年の議連の「一国一書誌」政策に端を発し、国会図書館の書誌データ一元化推進を主とするもので、TRCは「民業圧迫」と反発しているようだ。
 それは当然のことで、「公共図書館の将来」答申は議連と日本インフラセンター(JPO)のパフォーマンスにすぎず、実現することはないと断言していい。それよりも、現在の書店と図書館の関係の希薄化、東京学道社のような民間の図書納入業者が消えていく、小中学校も含んだ図書館市場の動向が気にかかる。



6.経済誌『Forbes Japan』を発行するリンクタイズは男性誌『OCEANS(オーシャンズ)』の発行所ライトハウスメディアのゼ株式を取得。それに伴い、リンクタイズの角田勇太郎社長が代表取締役に就任。
 ライトハウスメディアの太刀川文枝社長は退任するが、『オーシャンズ』編集体制はそのまま継続される。
Forbes オーシャンズ

7、『うんこドリル』の文響社は(株)マキノの全株式を取得し、同社とその子会社わかさ出版を完全子会社化した。
 わかさ出版の石井弘行社長は留任し、文響社の山本周嗣社長が取締役に就任。
 わかさ出版は1989年創立で、健康雑誌『わかさ』『夢21』『脳活道場』及び健康・医療関係の単行本などを編集発行。

うんこドリル わかさ 夢21 脳活道場

 たまたま今回は続けて2誌の買収が明らかになったが、出版社と雑誌のM&Aも水面下で多くが検討されているにちがいない。
 本当に雑誌の運命もどうなっていくのか。



8.LINEは8月5日にスマホ向けアプリ「LINEノベル」の配信を開始。
 「LINEノベル」はオリジナル作品の宮部みゆきの『ほのぼのお徒歩日記』、中村航『♯失恋したて』などが読めるアプリと、小説投稿アプリをベースにして、講談社や集英社など12社、2000作が搭載され、投稿数はすでに8000を超えているという。
 専門アプリのダウンロードは無料で、アイテム課金制。全作品の1話から3話まで無料公開され、4話以降は1話につき20コイン(20円)。投稿作品はすべて無料で読める。

 『日経MJ』(8/14)に中村航への「なぜスマホアプリに書き下ろし?」という長いインタビュー、及び「参加する出版社とLINEノベルの仕組み」というチャートが掲載されているので、必要とあれば参照されたい。



9.『週刊ポスト』(8/30)で、横田増生の潜入ルポ「アマゾン絶望倉庫」の連載が始まった。
 かつて『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(朝日文庫)を刊行した横田は、二度目の潜入を「とてつもなく大きくなったなあ……」と始めている。
 この15年の間にアマゾンに何が起きていたのか、どのように変わっていったのかがレポートされていこうとしている。


週刊ポスト 潜入ルポ アマゾン・ドット・コム

 郊外消費社会は3C、すなわちcheap、convenience、comfortableをベースにして形成され、それがcheapであることは共通しているけれど、convenienceでもcomfortableでもない仕事によって支えられている。
 その典型を拙著『郊外の果てへの旅/混住社会論』の中で、桐野夏生『OUT』のコンビニ弁当工場に見たことがあったが、アマゾンの倉庫現場にもそうした労働によって成立しているはずだ。それらの詳細がこれから伝えられていくのだろうか。
 そのかたわらで、アマゾンのクラウドサービスの大規模障害が発生し、ペイペイやユニクロにも被害が及んでいる。こちらもどのようにレポートされていくのか、留意すべきであろう。
郊外の果てへの旅 OUT 上



10.
『東京人』(9月号)に北條一浩の「高原書店が遺したもの」というサブタイトルの「ダム湖のような古書店があった」が6ページにわたり、写真を含め、掲載されている。
 リードは次のようなものである。
 「2019年5月8日。
 町田の古書店・高原書店が閉店を発表した。書店閉店のニュースが多い昨今でも同店のクローズは最大級の衝撃をもって受け止められたと思う。
 高原書店はなぜあれほど大きく拡がり、人々を魅了したのだろうか。
 この稀有な存在を忘れないためにも、高原書店が遺したものについて考えてみたい。」

 

 高原書店に関しては本クロニクル133でふれている。だがこれは高原書店の創業から45年の歴史を丁寧にトレースし、創業者高原坦一の独自の半額販売と店舗展開、データベースに基づくネット古書店への進出、高原の死とその後までをたどっている。そのことによって、貴重な現代古本屋史でもあるので、一読をお勧めしよう。
 また『週刊エコノミスト』(8/6)にも「『古書店』と『新古書店』のあいだに―東京・町田高原書店が遺したもの」が掲載されていることを付け加えておく。

東京人 週刊エコノミスト 



11.漫画評論家の梶井純が78歳で亡くなった。
 

 梶井の本名は長津忠で、彼はかつて太平出版社の編集者、『漫画主義』の同人だった。
 拙稿「太平出版社と崔溶徳、梶井純」(『古本屋散策』所収)でふれているように、石子順造『現代マンガの思想』や石子、菊池浅次郎、権藤晋『劇画の思想』は梶井の企画編集によるものである。
 梶井も『戦後の貸本文化』(東考社)を上梓し、その後貸本マンガ史研究会を立ち上げ、『貸本マンガ史研究』(シノプス)を創刊している。
 梶井とは長らく会っていなかったけれど、『貸本マンガ史研究』や『貸本マンガRETURNS』(ポプラ社)が恵送されてきたのは彼の配慮によっていたのだろう。
 拙稿の最後で、「お達者であろうか」と書いたばかりだった。ご冥福を祈る。
f:id:OdaMitsuo:20190828150331j:plain:h112 劇画の思想 f:id:OdaMitsuo:20190828152146j:plain:h112 貸本マンガRETURNS



12.何気なく『本の雑誌』(9月号)を手にしたら、目次タイトルに「小田さん、その後の加賀山弘について少しお伝えします」とあった。 
本の雑誌 古本屋散策

 これは「坪内祐三の読書日記」の見出しで、彼が『古本屋散策』をジュンク堂で購入し、所収の一編「『アメリカ雑誌全カタログ』、加賀山弘、『par AVION』」に対し、加賀谷のその後についてのコメントを寄せていたのである。
 目次と見出しの呼びかけは途惑ったけれど、「坪内さん、こちらこそ高価な拙著を購入して頂き、本当に有難う」と返礼するしかない。



13.次著『近代出版史探索』のゲラが出てきた。
 こちらも『古本屋散策』と同様に、200編を収録した一冊である。
 今月の論創社HP「本を読む」㊸は「恒文社『全訳小泉八雲作品集」と『夢想』」です。

出版状況クロニクル135(2019年7月1日~7月31日)

 19年6月の書籍雑誌推定販売金額は902億円で、前年比12.3%減。
 書籍は447億円で、同15.5%減。
 雑誌は454億円で、同8.9%減。その内訳は月刊誌が374億円で、同8.0%減、週刊誌は80億円で、同12.9%減。
 返品率は書籍が43.4%、雑誌は44.7%で、月刊誌は44.8%、週刊誌は44.4%。
 5月に続いて、6月も大幅なマイナスで、2ヵ月連続の最悪の出版流通販売市場となっていることが歴然である。
 まさに7月からの出版状況はどうなっていくのだろうか。



1.出版科学研究所による19年上半期の出版物推定販売金額を示す。
 まず最初に出版科学研究所による1~5月期のデータに誤りがあり、書籍雑誌推定金額と雑誌推定販売金額が修正されていることを断わっておく。
 2019年上半期の書籍雑誌推定販売金額は6371億円で、前年比4.9%減。
 書籍は3626億円で、同4.8%減。
 雑誌は2745億円で、同5.1%減。その内訳は月刊誌が2241億円で、同4.3%減。週刊誌は504億円で、同8.4%減。
 返品率は書籍34.9%、雑誌が44.2%で、月刊誌は44.7%、週刊誌は41.9%。


■2019年上半期 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2019年
1〜6月計
637,083▲4.9362,583▲4.8274,500▲5.1
1月87,120▲6.349,269▲4.837,850▲8.2
2月121,133▲3.273,772▲4.647,360▲0.9
3月152,170▲6.495,583▲6.056,587▲7.0
4月110,7948.860,32012.150,4745.1
5月75,576▲10.738,843▲10.336,733▲11.1
6月90,290▲12.344,795▲15.545,495▲8.9

 上半期トータルで見ると、書籍雑誌のマイナス幅は少し改善されているように見える。だがこれはひとえに5月連休前の大幅な送品の増加に伴う、4月の8.8%増というデータによって支えられているからだ。
 これから問題なのは5、6月のような最悪の出版流通販売市場が続いていけば、書店市場そのものが恒常的な赤字に陥ってしまうであろう。
 一部ではそれが続けてふれる2、3、4のように現実化し、徐々に全体へと波及していく。それは19年下半期にさらに加速していくであろう。



2.文教堂GHDと子会社の文教堂は6月28日、事業再生実務家協会に「産業競争力強化法に基づく特定認証紛争解決手続」(事業再生ADR手続き)を申請し、受理された。
 それに伴い、2社と事業再生実務家協会は金融機関に、借入金元本の返済などの「一時停止の通知書」を送付した。
 7月12日に「事業再生ADR手続き」に基づく第1回債権者会議が開かれ、出席金融機関のすべてが2社の借入金元本返済の「一時停止」に同意した。
 この「一時停止」の期間は9月27日の事業再生計画案を決議する債権者会議終了時までで、今後はすべての金融機関と協議しながら、事業再生計画案を策定し、その成立をめざす。

 文教堂GHDの債務超過や大量閉店、上場廃止問題に関して、本クロニクル129や132などでずっとトレースしてきたが、ついにこのような事態となった。「事業再生ADR手続き」とは会社更生法や民事再生などの法的手続きによらず、債権者と債務者の合意に基づき、債務を猶予、または減免するための手続きとされる。
 結局のところ、8月までの債務超過解消は困難で、上場廃止も避けられないことから、「事業再生ADR手続き」がとられたと判断できよう。
 それに対して、金融機関は借入金元本返済の「一時停止」に同意し、日販も「これまで通りの取引を行い、営業面で支援していく」ということだが、書店市場が最悪の中で、本業の回復は不可能に近い。そのような状況において、上場書店、大手取次、金融機関のトライアングルはどのような展開を示していくのであろうか。
 なお6月の文教堂閉店は6店である。
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3.『FACTA』(8月号)が「粉飾歴40年『フタバ図書』に溜まった膿」という記事を発信している。それを要約してみる。

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* フタバ図書は1913年創業で、広島県を中心に60店舗移譲を展開する大型書店であり、年商は373億円。
* 発端は6月初旬のシステム障害で、商品の入荷が遅れ、予約や注文ができない異例の事態に陥り、混乱を招いた。それと同時に5月末の取引先への支払いも遅延していたことが判明し、「単なるシステム障害」ではないとの不安が広がった。
* 緊急招集したバンクミーティングで、「40年前から粉飾決算をおこなってきた」と告白し、取次の日販の支援と銀行団からの返済の一時棚上げは認められたが、経営再建できるのかは未知数。
* 昨年10月、世良與志雄社長が急死し、財務などの経営管理担当の実弟世良茂雄専務が後継したが、すぐに手をつけたのが資金調達で、既存借入金だけで100億円を超えているにもかかわらず、60億円という巨額だった。
* それによって、従来の決算内容に疑惑が生じ始めた。表面上は毎期10億円規模の営業利益を出していたが、在庫が100億円強と多すぎるので、利益率も不自然に高かった。
* そのことに対して、フタバ図書は飲食店、コンビニ、コインランドリー、VRゲームとカフェバーの複合店、24時間営業のジム「ハイパーフィット24」のFC店などの多角経営による高収益と説明してきた。だが今回のシステム障害で、長年の不足会計が露呈してしまった。
*今後、数ヵ月かけて、専門家によるデューデリジェンスが行われるが、20億から30億の簿外債務が指摘され、在庫などの資産評価の洗い直しが必至である。  


 本クロニクル128で、同じく広島の老舗書店広文館の破綻とトーハン主導の第二会社設立を伝えたが、フタバ図書と日販はどのような道筋をたどることになるのか。
 前回のクロニクルで、フタバ図書TERAワンダーシティ店1100坪の閉店を伝えているが、それは象徴的な始まりに他ならず、いずれにしてもリストラと大量閉店は避けられないだろう。
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4.札幌市のなにわ書房が破産申請。
 なにわ書房は1954年設立で、ピーク時の2000年には売上高13億円を計上していたが、それ以後は販売不振が続き、17年には大垣書店とFC契約を締結していた。
 しかし売上高は18年には4億8000万円となり、業績回復は困難で、今回の処置となった。負債は2億9000万円。

 なにわ書房といえば、かつてはリーブルなにわというよく知られた店を有していたけれど、今世紀に入ってからは出店と閉店の繰り返しの中で、後退を続けていたようだ。
 6月の閉店状況を見ると、なにわ書房が4店あり、いずれも東光ストアや西友のテナントとしてで、おそらくそのようなトーハンとのコラボによって延命していたと思われる。それに相次ぐ閉店は自己破産とリンクしている。
 トーハンの代理のようなかたちで、大垣書店はなにわ書房のFC化、2でふれた広島の広文館の受け皿的役割を果たしているが、双方とも清算を迫られているのかもしれない。



5.『日経MJ』(7/10)の「第47回日本の専門店調査」が出された。
 そのうちの「書籍・文具売上ランキング」を示す。


■ 書籍・文具売上高ランキング
順位会社名売上高
(百万円)
伸び率
(%)
経常利益
(百万円)
店舗数
1カルチュア・コンビニエンス・クラブ
(TSUTAYA、蔦谷書店)
360,65730.419,651
2紀伊國屋書店103,144▲0.21,35670
3ブックオフコーポレーション80,7962,120795
4丸善ジュンク堂書店74,390▲2.2
5未来屋書店52,531▲6.3▲118272
6有隣堂51,7382.030345
7くまざわ書店41,9851.2241
8フタバ図書38,9854.41,07270
9ヴィレッジヴァンガード33,466▲3.5392358
10トップカルチャー(蔦屋書店、TSUTAYA)31,4823.6▲1,20178
11三省堂書店25,400▲0.435
12文教堂24,337▲9.6▲593162
13三洋堂書店20,300▲4.4▲7781
14精文館書店19,6640.348350
15リラィアブル(コーチャンフォー、リラブ)13,8630.447310
16キクヤ図書販売11,200▲3.536
17大垣書店10,4060.99737
18オー・エンターテイメント(WAY)10,391▲6.014261
19ブックエース9,783▲4.53230
20京王書籍販売(啓文堂書店)6,447▲2.56826
21戸田書店6,010▲6.2▲6430
ゲオホールディングス
(ゲオ、ジャンブルストア、セカンドストリート)
292,560▲2.217,6321,878

 この出版危機下にあって、ほとんどが前年マイナス、もしくは微増であるのに、CCCの売上高は3606億円、前年比30.4%増、それに加え196億円という1ケタちがう経常利益率は尋常ではない。経常利益はブックオフの約10倍、紀伊國屋の15倍に及んでいるのだ。
 しかもこの「書籍・文具」全体の売上高は前回調査よりも8.8%増と大きく伸び、それはCCCによるもので、徳間書店や主婦の友社の買収効果に加え、大型店も好調ゆえだとの調査コメントも付されている。
 それだけでなく、この売上高と経常利益は連結数字によるものとされるが、どのようにして出されたものなのか、Tポイント事業はともかく、物販、図書館事業などでは多くが赤字と見られるし、釈然としない。本クロニクル132で、TSUTAYAの書籍雑誌販売額は1330億円であることを既述しておいたけれど、それに2000億円以上が上乗せされている。
 前回の本クロニクルで、CCC= TSUTAYAとコラボしてきた日販の赤字やMPDの後退も見てきたし、CCCの売上高の10%近くを占める上場会社で、10位のトップカルチャーも赤字になっている。それに今回ので、フタバ図書の長年の粉飾決算、及び文教堂の「事業再生ADR」申請にもふれたばかりだ。
 またこれも本クロニクル130などで、文教堂以上にTSUTAYAの大量閉店が18年から続いていることにも言及してきたし、CCCの2011年からの連結決算の推移についても、『出版状況クロニクルⅤ』などでトレースしてきている。

 それらの推移をたどると、CCCは出版危機が進行するほど売上高や経常利益を伸ばしていることになる。売上高における連結決算のメカニズムは不明だが、経常利益に関しては、CCCがFCに対して銀行機能を代行することで、信じられないような利益率と増益を可能にしているのではないだろうか。
 これを具体的に説明すると、CCCのフランチャイズ店は100%支払を原則とし、中取次としてのCCCはそれをベースとして日販とMPDにも100%支払を実行することによって、コラボしてきた。ところがFCの大量閉店に加え、売上の低迷もあり、100%支払が困難となり、そのショート分の金額をCCC本部が銀行金利よりも上乗せするかたちで、FCに貸付金とする。それゆえに、CCCのFCに対する貸付金の増加に伴い、利益も上昇していくことになる。FCの大量閉店はそれ自体で清算を意味していないし、未払い金が積み重ねられていくメカニズムを有しているからでもある。
 もちろんこれは日販やMPDにもダイレクトにリンクしていく取次と出版金融の危ういメカニズムに他ならないが、その資金調達が臨界点を迎えるまでは続いていくだろう。
出版状況クロニクル5
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6.『世界』(8月号)が特集「出版の未来構想」を組んでいる。そのリードは次のようなものだ。
 「第一に、このような破滅的な市場縮小は世界各国で同時進行していることなのか。もしそれでなければ、なぜ日本でこうなのだ。第二に、この傾向を反転させる道筋はありうるのか。」
 そしてこの特集は出版ニュース社の清田義昭「出版はどこから議論すればいいのか」から始まり、新文化通信社の星野渉「崩壊と再生の出版産業」で終わっている。


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 出版危機がまさに臨界点を迎えている現在において、これほど不毛な特集「出版の未来構想」が組まれたことに唖然とするしかない。
 そのリードにしても、これらは本クロニクルが10年以上にわたってレポートし、詳細に記録してきたもので、何を今さらというしかない。それに所謂「出版に詳しい」業界誌の二人の公式見解の表明を掲載すること自体が、『世界』の認識を疑わしめている。
 もし本気でこのような特集を組むとすれば、この10年間における『世界』の実売部数の推移、それから岩波新書+岩波文庫の動向も含め、岩波書店の出版物全体の現在をまず提示すべきであろう。そして自らの言葉で、「このような破滅的な市場縮小」を「反転させる道筋」を語り、岩波書店の高正味と買切制の行方も含め、「出版の未来構想」を具体的に提案しなければならない。
 しかしこの期に及んでも、岩波書店にそのような現在的認識すらもないことを、この『世界』の特集は図らずも明らかにしてしまったことになろう。



7.『自遊人』(8月号)がやはり「『本』の未来』」特集を組んでいる。

自遊人

 これもまたリードにあるように、駅前書店の消滅に象徴される出版不況の中にあって、「本の未来」を信じ、期待するという意図によって編まれた特集といっていいだろう。
 そのメインとなっているのは「箱根本箱」の開業物語であり、そのプロジェクトに携わった、他ならぬ『自遊人』編集長と日販の「担当者」が自らプロパガンダすることを目的としている印象を否めない。
 それに続く他の「本の未来」物語にしても、様々な本に関するコンサルタントたちが勢揃いしてのパフォーマンスと見なせよう。 
 このような特集を見ると、『出版状況クロニクルⅣ』で繰り返し批判しておいた丸善の小城武彦と松岡正剛の松丸本舗プロジェクトを想起せざるをえない。これは書店の実情に通じていない二人が「本の未来」に挑んだことになるけれど、失敗に終わったプロジェクトである。それなのに「奇蹟の本屋、3年間の挑戦」と銘打たれ、『松丸本舗主義』(青幻舎)として、あたかも成功したプロジェクトであるかのように喧伝されたことになる。
 その延長線上に、様々な「本の未来」にまつわるプロジェクトと言説が横行するようになったことはいうまでもあるまい。 
 それから取次が試みている不動産プロジェクトのひとつとして、「箱根本箱」は位置づけられよう。だが最も有効な不動産活用は、できるだけ高価で売却することに尽きる。実例は挙げないけれど、そのようにして多くの出版社がかろうじてサバイバルしてきた事実を認識すべきだろう。
出版状況クロニクル4 松丸本舗主義



8.久間十義『限界病院』(新潮社)を読んだ。

限界病院

 これはタイトルに示されているように、北海道の財政危機と人材難に見舞われ、民営化を迫られる市立病院を舞台とする小説にほかならない。
 それゆえに、本クロニクル133でふれたPFI(Private Finance Initiative)や指定管理業者制度が生み出した「行政市場」の中で翻弄される病院と医師の姿を描いて、出色の小説として読める。
 そのような『限界病院』を読みながら想起されたのは、公立図書館の現在の姿であり、やはりこの小説と重なるような「限界図書館」的状況が全国至るところで生じているにちがいない。
 残念ながら「限界図書館」的小説は書かれていないので、『限界病院』を読むことを通じて、それらを想像するしかない。
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9.安田理央『日本エロ本全史』(太田出版)が出された。
 1946年から2018年までの創刊号100冊をカラー図版で紹介し、その帯には「とうとうエロ本の歴史は終わってしまった」とある。


日本エロ本全史

 その面白さをどう伝えればいいのかと考えていたが、著者が中学生の頃からエロ本を買って衝撃を受け、「自分もいつかはエロ本の編集者になりたい」と思うようになり、実際になってしまったという事実に尽きるだろう。
 実は私も中学生の頃から「売れない物書きになりたい」と思い、本当にそうなってしまった。おかしいことは人後に落ちないけれど、まさかエロ本の編集者になりたいと思っていた中学生がいたとは!
 ただ残念なのは、私がインタビューした飯田豊一『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』(「出版人に聞く」シリーズ12)が参考文献として挙がっていないことだ。
 だがそれはともかく、資料的にも優れ、楽しい一冊なので、全国の公共図書館3300館にも必備本として推奨したいが、リクエストしても無理かもしれない。
『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』



10.レオナルド・パデゥーラ『犬を愛した男』(寺尾隆吉訳、水声社)を読了。

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 このキューバ人作家の小説を読むのは初めてだったが、19年上半期ベスト1に挙げたいと思う。670ページに及ぶ長編『犬を愛した男』は、1940年のトロツキー暗殺者が生涯の最後の数年を犬とともにキューバで過ごしたことに触発され、ロシア革命とスターリン体制、スペイン内戦を横断し、暗殺者と犠牲者の生涯が追跡され、小説的物語へと昇華していく。
 ロシア革命やスペイン内戦の翻訳編集に携わっていたこともあり、久し振りにフィクションへの堪能感を味わい、ラテンアメリカ文学の健在さを確認した次第だ。またやはりトロツキー暗殺をテーマとするジョセフ・ロージー監督、アラン・ドロン、リチャード・バートン主演の『暗殺者のメロディ』(1972年)を思い出したりもした。
 この『犬を愛した男』は水声社の「フィクションのエル・ドラード」の一冊でもあるので、この叢書のすべてを読むことにしよう。

 この読了に味をしめ、次のマーロン・ジェイムズの大長編『七つの殺人に関する簡潔な記録』(旦敬介訳、早川書房)にも挑んだのだが、『犬を愛した男』ほどには乗り切れなかった。それでもこの小説のテーマであるボブ・マーレイ殺人未遂事件から、1980年代に読んだコミックの一シーンが浮かび上がってきた。
 それは『出版状況クロニクルⅣ』などで二人の死を追悼してきた狩撫麻礼作、谷口ジロー画『LIVE ! オデッセイ』(双葉社)である。アメリカからかえってきたオデッセイは誰も聴いていないビアガーデンでバンド活動を再開しようとしていう。
「奴らをこっちに向けてみせる。フルボリュームで “ I SHOT THE SHERIFF ” だ。あの世のボブ・マーレイに捧げる」と。そして10ページにわたって描かれる演奏シーンはあたかもレゲエを描いているようで、二人の作品のコラボの秀逸さを見事に伝えるものだった。
 この調子でと、さらにウィリアム・ギャディスのこれも大長編『JR』(木原善彦訳、国書刊行会)も読み出したのだが、まだ読了していない。


暗殺者のメロディ 七つの殺人に関する簡潔な記録 LIVE! オデッセイ JR



11.拙著『古本屋散策』はまったく書評も紹介も出ないので、おそらく「忖度」により、『日本古書通信』(8月号)に樽見編集長との3ページ対談が掲載されます。
古本屋散策

 またこれは18年10月のシンポジウムの記録ですが、好評ということで、最近になって「CINRA.NET「郊外」から日本を考える 磯部涼×小田光雄が語る崩壊と転換の兆し」がネットにアップされました。若い人たちの試みなので、アクセスして頂ければ幸いです。

 なお今月の論創社HP「本を読む」㊷は「紀田順一郎、平井呈一、岡松和夫『断弦』」です。

出版状況クロニクル134(2019年6月1日~6月30日)

 19年5月の書籍雑誌推定販売金額は755億円で、前年比10.7%減。
 書籍は388億円で、同10.3%減。
 雑誌は367億円で、同11.1%減。その内訳は月刊誌が291億円で、同9.5%減、週刊誌は75億円で、同16.9%減。
 返品率は書籍が46.2%、雑誌は49.2%で、月刊誌は50.6%、週刊誌は42.9%。
 前月の反動で、全体の推定販売金額、書籍、雑誌の推定販売金額がトリプルで二ケタ減という、これまでにない最悪のデータになってしまった。
 とりわけ週刊誌の16.9%減は『週刊少年ジャンプ』や『週刊現代』などが1号少なかったことも要因とされるが、かつてなかったマイナスである。
 たまたま日本ABC協会の「ABC雑誌販売部数表2018年下期(2018年7~12月)」が出され、こちらも同11.9%減となっていることからすれば、2019年上期のデータもさらなるマイナスで推移していくと予測される。
 それは書籍、雑誌の返品率も同様で、双方が50%近くに及んでいる月例も初めてだと思われる。
 いずれにしても、推定販売金額と返品率が最悪の状況を迎えている中で、19年の後半に入っていくことになる。


1.アルメディア調査によれば、2019年5月1日時点での書店数は1万1446店で、前年比580店の減少。
 売場面積は126万872坪で、4万7355坪のマイナス。
 1999年からの書店数の推移を示す。

■書店数の推移
書店数減少数
199922,296
200021,495▲801
200120,939▲556
200219,946▲993
200319,179▲767
200418,156▲1,023
200517,839▲317
200617,582▲257
200717,098▲484
200816,342▲756
200915,765▲577
201015,314▲451
201115,061▲253
201214,696▲365
201314,241▲455
201413,943▲298
201513,488▲455
201612,526▲962
201712,026▲500
201811,446▲580

 島根県だけが前年同数で、その他の全都道府県で減少。その中でもマイナス幅が大きいのは東京都81店、大阪府67店、北海道39店、愛知県33店、神奈川県、福岡県32店である。
 東京都の場合、書店数は1222店だが、そのうち日書連会員店は324店で、後者は東京古書組合加盟の古本屋の半分という事態となっている。
 またアルメディの書店数は売場面積を有しない本部、営業所も含んでいるので、実際の書店数は1万174店であり、来年は1万店を下回ることは確実だ。それとパラレルに、東京都日書連会員数も300店を割りこみ、全国日書連会員数も現在の3112から2000台へと落ちこんでいくだろう。
 1999年の全国書店数は2万2296店だったわけだから、半減してしまったことになるけれど、下げ止まる気配はまったくない。



2.アルメディアによる「取次別書店数と売場面積」も挙げておこう。

■取次別書店数と売場面積 (2019年5月1日現在、面積:坪、占有率:%)
取次会社書店数前年比(店)売場面積前年比平均面積売場面積占有率前年比
(ポイント)
トーハン4,404▲84493,289▲98211239.11.3
日本出版販売3,900▲352615,859▲46,68115848.8▲1.8
大阪屋栗田979▲78116,964661199.30.4
中央社399▲921,190▲268531.70.1
その他943▲1913,570510141.10.1
不明・なし
合計10,625▲5421,260,872▲47,355119100.0

 前期のデータは本クロニクル122で既述しているが、日販は同130でふれたように、TSUTAYAの大量閉店もあって、マイナスは前年の222店に対し、352店に及び、取引書店は4000店を下回ってしまった。売場面積にしても、4万6681坪の減少で、1のトータルとしての売場面積の減少は4万7355坪であるから、今期のマイナスは、日販帳合書店の閉店によって大半が占められていると見なすこともできよう。 
 トーハンは前年の130店に対し、84店とマイナスは縮小しているが、大阪屋栗田は同72店が78店と増加し、こちらも取引書店はついに1000店を割りこんでいる。
 しかも19年に入って書店の閉店は加速していて、この5月までにすでに350店近くに及び、その一方で、出店は極めて少ない。来期の閉店は今期の542店を確実に超えてしまうであろう。

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3.「喜久屋書店BOOK JAM」を運営していた「BOOK JAM K&S」が破産。
 同社は2007年にコープさっぽろの100%子会社として設立され、ピーク時には16店を有し、11年には年商13億6600万円を計上していた。しかしその後、売上高の減少と閉店が続き、昨年は年商7億6100万円まで落ちこみ、赤字決算、債務超過に及んでいたとされる。負債は2億3000万円。

 この破産が物語るように、5月には本部のBOOK JAM K&S、及び喜久屋書店BOOK JAM 8店の閉店が伝えられている。取次はトーハンで、売場面積は合わせて700坪となる。その立地は6店がコープさっぽろ内であり、それなりに恵まれた立地とコープ会員に支えられていたにもかかわらず、破産へと追いやられてしまった。その事実は、コープにおいても出版物販売も難しくなっていることを示していよう。
 5月の閉店も76店を数え、TSUTAYAは 8店、売場面積は喜久屋書店BOOK JAMの倍以上の1680坪となっている。また文教堂も7店、1000坪を超え、フタバ図書TERAワンダーシティ店に至っては1店だけだが、1100坪という想像を絶する閉店である。
 これらの閉店状況は書店市場が最悪の事態を迎えていることを告げている。

 なおキクヤ図書販売の「喜久屋書店」と「喜久屋書店BOOK JAM」は、資本関係はなく、納品先で、「喜久屋書店小樽店」「同帯広店」は通常通り営業のリリースが「喜久屋書店」から出されている。



4.日本雑誌販売が債務整理。
 同社は1955年創業、雑誌、コミックス、アダルト誌を主とする取次で、ピーク時の1993年には売上高59億円、書店、ゲームショップ、インターネットカフェなど1000店を超える取引実績を有していた。
 しかし中小書店の廃業、閉店が相次ぎ、雑誌売上も低迷し、18年には売上高22億円、取引先も500店まで減少していた。
 負債は5億円で、7月には自己破産申請するようだ。

 日本雑誌販売は多くのアダルト誌を持っていた取次で、太洋社帳合の書店も引き継いでいたこともあり、小取次の破綻だが、その波紋は小さなものではないように思われる。
 折しも『出版月報』(6月号)が特集「変容するアダルト誌」を組んでいる。そこで戦後のカストリ雑誌から2010年のDVD付アダルト誌に至る歴史と変化、コンビニでの販売中止、読者の高齢化、アダルト誌の行方などが論じられている。
 これは『出版月報』としては出色の企画で、「雑誌市場の未来を予見する? アダルト誌」という見出しは、的を射ているかもしれない。それに私見を添えておけば、戦後のアダルト誌とコミック誌の出現は軌を一にしているし、アダルト誌の行方は「コミック誌の未来をも予見しているようである。



5.日販の連結子会社25社を含めた連結売上高は5457億6100万円で、前年比5.8%減。
 営業利益は10億2600万円、同56.6%減、経常利益は10億8400万円、同57.5%減、純利益は2億900万円の損失で、2000年以来の19年ぶりの赤字決算。
 そのうちの日販やMPDなどの「取次事業」売上高は5052億1700万円、同6.3%減、営業損失3億3700万円。
 日販単体売上高に関しては、下記に示す。

■日販単体 売上高 内訳(単位:百万円、%)
金額増減額増加率返品率
書籍216,858▲11,090▲4.931.9
雑誌137,603▲12,837▲8.545.8
コミックス65,1374310.729.2
開発商品26,915▲620▲2.341.5
446,515▲24,116▲5.137.1


 MPDについては同社の「2018年度決算報告」を見てほしい。
 「小売事業」売上高は639億1300万円、同0.5%増、営業損失2100万円。グループ書店は10社、266店。


6.トーハンの単体売上高は3971億6000万円で、前年比7.1%減。
 営業利益は42億7200万円、同15.2%減、経常利益は21億3900万円、同29.3%減、当期純利益は6億5200万円、同64.2 %減で、2年連続減収減益。
 日販同様に売上高内訳を示す。

 
■トーハン 売上高 内訳(単位:百万円、%)
金額増減額前年比返品率
書籍169,734▲4,324▲2.540.8
雑誌133,105▲10,608▲7.448.5
コミックス43,940▲36▲0.130.1
開発商品50,379▲15,335▲23.417.8
397,160▲30,304▲7.140.7

 連結子会社16社を含む連結決算の売上高は4166億4000万円、同6.2%減。
 営業利益は38億8700万円、同12.7%減、経常利益は18億1900万円、同24.7%減、当期純利益は5億3100万円、同30.0 %減。

 これはあらためていうまでもないけれど、日販にしてもトーハンにしても、連結決算で、「事業領域の拡大」や持株会社移行によって、ポスト取次をめざしているようなイメージを生じさせている。
 しかし今回の決算においても、取次事業シェアは日販が93%、トーハンは95%に及び、両社が紛れもない取次の他ならないことは明らかだ。それゆえに本クロニクルでもトーハンのいうところの「本業の回復」にふれてきたが、この「本業の回復」がなされないかぎり、必然的に赤字が累積していく段階へと入るであろうし、もはやそれが否応なく現実化していることを日販の赤字は浮かび上がらせている。

 『日経MJ』(6/3)の一面で、プロデュース事業を手がけるスマイルズが紹介されていたことで知ったが、日販の「文喫」も店名も含め、スマイルズの企画だという。日販やCCC=TSUTAYAの周辺にはこうしたコンサルタントが様々にパラサイトし、新たな複合型書店、パルコ型システム、ツタヤ図書館なども、そのようにして出現してきたのだろう。
 トーハンにしても、8月には旧京都支店跡地にホテルが開設され、本社の再開発においても、6月にトーハン別館の解体工事が始まり、12月に新本社建設が着工されるという。おそらくこのような不動産プロジェクトにも、多くのコンサルタントが関わっていると考えられる。
 コンサルタントにあやつられ、失敗に終わった地方の行政市場プロジェクトをいくつも見てきた。取次がその轍を踏まないように祈るばかりだ。



7.トーハンは文具製造のデルフォニックスを子会社化。
 デルフォニックスはリングノートの「ロルバーン」などの機能性やデザイン性が高い文具を特徴とする。それらの自社ブランドに加え、国内外の文具や雑貨を扱うセレクトショップを、首都圏を中心に30店舗展開。18年売上高は40億円。
 トーハンは既存の書店にデルフォニックス文具を合わせた複合店舗開発や、デルフォニックスの海外販売などを進める。

 本連載131でふれてきたように、デルフォニックスの子会社化も、フィットネスジムの運営、サービス付き高齢者住宅の開業などに続く、トーハンの「事業領域の拡大」ということになろう。そしてさらにで言及したホテル開設、本社をめぐる不動産プロジェクトが始まっていくのである。
 それは「本業の回復」と乖離するばかりのプロセスをたどっていくだろう。
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8.三洋堂HDの決算発表によれば、売上高は204億円で、前年比4.4%減。
 営業利益は3200万円、同86.9%減、経常利益は6300万円、同77.2%減、当期純利益は3億800万円の損失。

 続けて三洋堂HDの決算を挙げたのは、前回の本クロニクルでもふれておいたように、19年は純損失3億円が予想されていたこと、筆頭株主がトーハンで、フィットネスや古本などの「ブックバラエティストア」を推進している三洋堂こそは、「事業領域の拡大」を実践する書店に他ならないからだ。すでに「書店」売上は204億円のうちの129億円、63%のシェアに縮小している。
 しかし来期もフィットネス事業投資、出店、既存店改造の計画もあって、純損失1億3000万円が予想されている。取次と異なり、書店の場合、撤退とリニューアルコストが必然的に生じ、「事業領域の拡大」とのバランスが難しいことを伝えていよう。



9.アメリカの大手書店チェーンで627店舗を有するバーンズ&ノーブルは、ヘッジファンドのエリオット・マネジメントに6億8300万ドルで自社の売却に合意したと発表。
 18年にエリオット・マネジメントは英国の大手書店チェーンのウォーターズ・ストーンも買収していて、ウォーターズ・ストーンのCEOジェイムズ・ドーントがB&NのCEOも兼ねるとされる。

 これらの海外書店事情はつい最近まで、『出版ニュース』の「海外出版レポート」でその詳細を確認できたのだが、3月の休刊によって、それもかなわぬことになってしまった。本当に残念であるというしかない。海外とはいえ、このような大手書店チェーンのM&Aの行方はどうなるのだろうか。



10.地方・小出版流通センターの決算も出された。 売上高10億2181万円、前年比9.25%減。
 「同通信」No514は次のように記している。

 経常利益は182万円となりましたが、取次・栗田出版販売、太洋社、東邦書籍の倒産債権157万円を特別損失で処理し、純益68万円という苦しい決算です。
 昨年後半期の売上は前年比13.7%減となっており、3年連続の赤字決算は免れたものの、今後、この縮小傾向が上向く可能性はほぼないと思いますので、役割機能を継続維持しつづけるためには規模の縮小を検討せざるを得ないと考えています。


 最後に述べられた「この縮小傾向が上向く可能性はほぼないと思いますので、役割機能を継続維持しつづけるためには規模の縮小を検討せざるを得ないと考えています」は、とりわけ大手出版社、取次、書店にとっても深刻な問題として、すでに現実化している。



11.日教販とNECはデジタル教科書・教材、学習アプリなどの流通や普及活動について業務提携。
 日教販は教科書発行者社など教育系出版社1000社と取引があり、書店を通じて全国の学校への流通網を有する。一方で、NECは学校向けパソコン、タブレット端末、最適な学習コンテンツを見出すAI技術を持つ。両社の業務提携はシナジー効果が大きく、デジタル学習コンテンツやICサービスを提供していくとされる。

 この背景にあるのは4月から改正学校教育法が施行され、小中高校の授業で、デジタル教科書と紙版教科書を併用できるようになったことだ。
 それに加え、2020年度には小学校を始めとして、プログラミング学習の導入などのICT(情報通信技術)に関わる教育が強化されん、中高校でもデジタル教科書の活用が進むと予想されているからだ。
 とすれば、デジタル教科書の販売権はどこが握ることになるのだろうか。



12.小学館の決算が出された。
 売上高は970億5200万円、前年比2.6%増、2年連続の増収で、当期利益は35億1800万円、4年ぶりの黒字決算。

 しかし内訳を見てみると、「出版売上」は544億円、同4.1%減に対し、「デジタル収入」205億円、同16.0%増となっている。デジタル部門が200億円を超えたのは初めてで、その売上の90%以上がコミックスだとされる。
 「出版売上」のうちの「コミックス」は183億円だから、紙とデジタルはほぼ同じで、来期はデジタルが上回ることになるだろう。
 これは本クロニクル131で挙げておいた講談社の決算と共通している。



13.カドカワの連結決算は売上高2086億500万円、前年比0.9%増、営業利益は27億700万円、同13.9 %減、経常利益は42億500万円、同13.2%増、当期純損失は40億8500万円で、14年の発足以来、初の赤字となった。
 KADOKAWAなどの「出版事業」は 売上高1159億円、同2.9%増、営業利益72億円、同20.9%増と好調だったが、ドワンゴなどの「webサービス事業」が営業損失25億円となったことが影響している。

 カドカワは(株)KADOKAWAに商号変更し、その傘下には56の子会社、孫会社が配置されている。それらに加えて、本クロニクル132で取り上げた「ところざわサクラタウン」などの「事業領域の拡大」も繰りこまれていくのである。
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14.ブックオフGHDの連結決算は売上高807億9600万円、前年比0.9%増、営業利益は15億5000万円、同152.6%増、経常利益は21億2000万円、同94.0%増、当期純利益は21億2000万円、前年は8億8900万円の純損失だったので、4年ぶりの黒字転換。

 ハグオール事業における催事販売からの撤退、リユース店舗事業の既存店の増収増益が寄与したとされるが、グループ再編に伴う税負担の軽減などの一過性の要素も大きいと見られる。
 だが「本」に関しても、前年比2.3%増とされているものの、「ブックオフオンライン事業」は売上高が75億600万円、同22.2%増だが、2億8900万円の営業損失を計上していることからすれば、実質的にマイナスと考えられる。
 それに19年3月自演の店舗数は直営店379店、FC店413店となっているので、当初の「本」をメインとするフランチャイズビジネスとしてのブックオフ事業の成長は終わったのではないだろうか。



15.TSUTAYAは書籍、ムックを返品枠付き買切条件で仕入れる方針で、出版社向け説明会を開催し、194社が参加。

 取次のいうところの「プロダクトアウトからマーケットイン型し入り」に呼応しているのだろうが、詳細がはっきりしないので、アマゾンの買切仕入れ以上に釈然としない。
 TSUTAYAは本クロニクル130などでトレースしてきたように、昨年から大量閉店状況を迎え、それが今年も続いている。それらの大量閉店において、買切の書籍、ムックはどのように処理されるのか。
 また『週刊ダイヤモンド』(6/22)でも、レンタルと複合のTSUTAYAはビジネスモデルとして崩壊しているのではないかと言及されている。
 その一方で、CCCグループのTマガジンは、雑誌400誌が月額400円で読み放題となる「T-MAGAZINE」の提供を開始している。これが成功すれば、さらなる閉店へとリンクしていくだろう。
週刊ダイヤモンド
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16.図書カードNEXTを発行する日本図書普及の事業、及び決算概況の発表によれば、期中の発行高は397億8900万円、前年比5.1%減で400億円を割った。それに対して、回収高は403億6100万円、同5.4%減で、前年に続き、発行高を上回った。

 『出版状況クロニクルⅤ』において、1997年から2015年までの図書券、図書カードの発行高、回収高の推移を示しておいた。
 15年は発行高が500億円を割りこむ484億円だったが、今期はついに400億円を下回ってしまった。
 それは何よりも加盟店数の激減で、2000年は1万2500店だったのが、19年には5845店と半分以下になってしまったのである。前年比で255店減とされるので、発行高のマイナスはまだまだ続いていくだろう。
出版状況クロニクル5



17.『週刊ダイヤモンド』(6/1)が「コンビニ地獄 セブン帝国の危機」、『週刊東洋経済』(6/8)が「コンビニ漂流」という特集を組んでいる。

週刊ダイヤモンド 週刊東洋経済

  かつては出版業界において、コンビニ批判はタブーだった。
 『出版状況クロニクル』の2008年のところで、古川琢也+週刊金曜日取材班の『セブン-イレブンの正体』((株)金曜日)がトーハンから委託配本を拒否されたことを既述している。そうした時代があったことからすれば、このような特集が組まれるのは隔世の感がある。
 だがここではそれらの特集にふみこまないが、このようなコンビニ状況、及びスマホ時代を迎えてのコンビニの雑誌売場はこれからどうなっていくのかに注視していきたいと思う。

出版状況クロニクル セブン-イレブンの正体



18.凸版印刷が図書印刷を完全子会社とし、図書印刷は上場廃止となる。
 凸版印刷はこれにより、20年連結売上高1兆5200億円、連結営業利益570億円と予測。

 このような印刷業界の再編が出版業界にどのような影響や波紋をもたらしていくのか、それが今後の焦点であろう。
 すでにDNPによって、出版社や書店などの再編が進められていったのは周知の事実であるからだ。



19.今月の論創社HP「本を読む」㊶は「種村季弘『吸血鬼幻想』」です。
 同HPには拙著『古本屋散策』の最初の書評が「矢口英祐ナナメ読み」No12として掲載されています。
 よろしければ、拙文ともどもアクセスして下さい。

古本屋散策