出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル24(2010年3月26日〜4月30日)

出版状況クロニクル24 (2010年3月26日〜4月30日)


今回から本クロニクルが本ブログ【出版・読書メモランダム】に移行するにあたって、月末締め、1日更新とあらため、タイムラグが生じないようにした。
本クロニクルの移行によって、8ヵ月続けてきた【出版・読書メモランダム】は新たなメニューが加わり、リニューアルとなる。現在連載中の[古本夜話]「ゾラからハードボイルドへ」に加え、主として三本立てということになり、プログラムピクチャーならぬ、プロブラムブログのような体裁を帯びるに至った。予期せぬ展開ではあるが、[新刊メモ][旧刊メモ]も合わせ、プログラムブログと称し、今しばらく続けてみたいと思う。なおプログラムピクチャーについては、[旧刊メモ]「志水辰夫『うしろ姿』」を参照されたい。
三本立てリニューアルを記する意味で、またこれからの出版業界のドラスチックな転換を含む意味において、芭蕉の一句を掲げておく。「雛の家」という比喩はふさわしくないかもしれないけれど。
  草の戸も住み替る代ぞ雛の家



1.日本図書館協会『日本の図書館 統計と名簿〈2009〉』 が出された。1971年から2009年にかけての公共図書館の経年変化を示す。なお「年間受入図書館冊数」「個人貸出」は当該前年度の数字である。

    年    図書冊数
(千冊)
専任
職員数
(人)
蔵書冊数
(千冊)
年間受入
図書冊数
(千冊)
個人貸出
登録者数
(千人)
個人貸出
総数
(千点)
資料費
当年度
予算
(億円)
1971 8855,69831,3652,5052,00724,19022
1980 1,3209,21472,3188,4667,633128,898105
1990 1,92813,381162,89714,56816,858263,042248
1997 2,45015,474249,64919,32030,608432,874349
1998 2,52415,535263,12119,31833,091453,373350
1999 2,58515,454276,57319,75735,755495,460347
2000 2,63915,276286,95019,34737,002523,571346
2001 2,68115,347299,13320,63339,670532,703342
2002 2,71115,284310,16519,61741,445546,287336
2003 2,75914,928321,81119,86742,705571,064324
2004 2,82514,664333,96220,46046,763609,687318
2005 2,95314,302344,85620,92547,022616,957307
2006 3,08214,070356,71018,97048,549618,264304
2007 3,11113,573365,71318,10448,089640,860299
2008 3,12613,103374,72918,58850,428656,563302
2009 3,16412,699386,00018,66151,377691,684289

 [『出版状況クロニクル2』で、出版物に関する第一次市場を書店、第三次市場を公共図書館と位置づけ、それらの変化を明確に記しておいた。それと重なることになるが、公共図書館は表に見られるように、71年の885館に対して、09年には3164館と大幅に増加し、3.6倍になっている。
 しかもそのスペースの拡大規模はそれを上回っているはずで、貸出冊数だけを見ても、2400万冊から7億冊に及んでいて、30倍近い数字を示している。この数字はこの30年間の公共図書館の驚くべき成長であり、それが書店の減少とパラレルであったという事実を証明している。
 再販委託制による書店の衰退と無料の公共図書館の成長こそは、出版業界の光と影のコントラストを示してあまりある。しかし数字が告げているように、公共図書館の成長も終わったと見るべきで、その内実が問われる時代へと入っている。だがそれは実現可能なのであろうか]

2.1とほぼ同時に日書連の加盟組合員数が公表され、24年間連続減少し、4月現在5187店となった。

[1986年のピーク時には1万2935店あったわけだから、まさに半減してしまったのである。今年は確実に5000店を割るだろう。
 すでに50店を割っている県が10県もあり、公共図書館、ナショナルチェーンの複合店、ブックオフやゲオによって地場書店の衰退が歴然である。これ以上の地場書店の過疎化が進めば、小中高の教科書の供給システムにも支障が生じてくるかもしれないし、おそらく一部の県ではすでに現実化していると思われる]

3.2010年は電子書籍元年と喧伝されている中で、大手出版社による日本電子書籍出版社協会の設立、総務省文部科学省経済産業省の「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」の初会合、アメリカでのiPad の発売などがあり、今月は新聞や雑誌に電子出版に関する特集や記事が多く掲載されている。業界紙などを除いて、それらの主だった特集をリストアップしておく。
*「iPadで出版はどう変わるか」(『週刊東洋経済』3/27)
*「ネットを変えるiPad革命」(『ニューズウィーク日本版』4/7)
*「本と本屋がなくなる日」(『週刊現代』5/1)

 [今月の出版業界に関する記事や報道はほぼ電子書籍問題に終始し、それが現在の出版の最大の問題だという印象すらも与える。
 しかしいつもながらの日本のマスコミと出版業界のこのような横並びの騒ぎを見るにつけ、「内憂外患」という言葉が思い出される。すでに言葉が分断されてしまっているにしても。グーグル問題もそうだったが、外国からの問題に対しては大騒ぎするくせに、国内で異起きている深刻な危機を直視しようとしない。再販委託制に基づく近代出版流通システムの破綻という「内憂」こそが出版業界の最大の問題であり、「外患」によってミスリードされようとしていることはいびつな構造だと判断するしかない。
 電子書籍問題に関していえば、『出版状況クロニクル2』でも書いておいたし、『週刊現代』の特集が触れている事実をまず確認しておくべきだろう。インプレスの調査によれば、08年の日本の電子書籍市場は464億円である。内訳は携帯向けが402億円、その主力はコミックで、全電子書籍の86%を占めている。
 それに対して、アメリカ出版社協会によれば、09年のアメリカ電子書籍売上高は前年比2.8倍とはいっても290億円であり、全書籍売上高の1%強にすぎない。電子リーダーの出現によって、大きな影響をこうむっているのは新聞や雑誌であり、書籍に対してはまだそれほどのシェアを占めるに至っていない。
 売上高から見れば、電子書籍市場としては日本が先行していたことになり、これがiPadなどの電子リーダーの出現によって、どのように変化していくのかを冷静に見極めるべきだろう。おそらくコミックのシェアはそのまま継承され、低定価の文庫、新書が飽和状態になっていて、公共図書館ブックオフの現在の配置を考えれば、ただちに電子書籍市場が拡大し、飛躍的に売上が伸びるとは思われない。欧米と異なる日本の出版業界の特殊性が電子書籍にもつきまとっていることだけは確実である]

4.欧米と日本の出版業界の比較といえば、『出版ニュース』(3/下)の「海外レポート/フランス」(渡邉和彦)に示された出版状況を伝えておこう。
それによれば、フランスの書籍年間売上高は前年比1.5%増であり、出版物以外の全商品売上高が前年比2.3%減の不況の中で、よく健闘しているという。07年3.0%増、08年1.0%増と前年比を3年連続上回り、不況期にも強い出版が実証され、読者層が固定して存在し、本離れが起きていない事実を裏づけている。ロシアも3年連続で伸びているようだ。

 [これも『出版状況クロニクル2』で指摘しておいたことだが、欧米も出版不況にあるとされている。しかしそれは書店とネットの競合、雑誌に顕著に現われている現象であって、書籍売上高は微増、横ばい、微減で、それほど落ちこんでいない。アメリカにしても2年連続前年割れだが、2%減の238億5500万ドルにとどまっている。
 それに反して、日本の書籍売上高は97年以降の数年を除き、ずっと減少をたどる一方だった。具体的に数字を示せば、97年1兆730億円に対し、09年は8492億円であるから、20%強の落ちこみである。欧米と比較して、日本だけが未曾有の出版危機の渦中にあることは明白であろう。これはすでに機能しなくなっている再販委託制という日本の出版業界の特殊な構造に起因していると考えるしかない]

5.ライブドアのオピニオンサイト「アゴラ」編集長にして、電子書籍出版社「アゴラブックス」を設立した池田信夫がブログで「週刊ダイヤモンドの消えた特集」を掲載している。
それによれば『週刊ダイヤモンド』(4/6号)の特集は「電子書籍と出版業界」という60ページ企画で、出版不況の現在、出版社や取次などの対応に言及するものだった。ところが2週間後に迫った締切を前に、この特集はすべて没になった。池田も1ヵ月前から企画の内容の相談を受けていたのである。没になった理由は、電子書籍出版社協会や講談社の関係からの経営判断によるとされる。
「タブーを破って電波利権などのテーマに挑んできた週刊ダイヤモンドも、自分の業界のタブーからは自由ではなかった」と記している。
この池田のブログの発信を受け、元社員で株主の和田昌樹がこれも自己のブログ「書店・取次の顔を立てて業界のモラール・ハザードを生んだ週刊ダイヤモンドの自主規制」なる長文を発表し、ダイヤモンド社の奥谷社長の「自主規制」責任を問うている。すると1日500人のビジターだったのが、いきなり1万人に及んだという。

[これはブログやツイッターなどでは言及されているが、一般誌や業界紙ではまったく報道されておらず、『週刊ダイヤモンド』だけでない横並び「自主規制」を知らしめている。結局のところ、本クロニクルだけが「自主規制」せずに、真実のトータルな出版状況をレポートしていることになる。『週刊ダイヤモンド』の特集はドラッカーに差し換えられてしまった。この際だから、担当編集者はあてつけに『もし出版社の社長がドラッカーの「マネジメント」を読んだら』という本でも企画したらどうだろうか]

6.続いてこれも出版社の内部情報ということになるが、ブログの「たぬきちの『リストラなう』日記」が始まり、大手総合出版社のリストラ状況がリアルに伝わってくる。

 [この出版社は明らかに先月50人の早期退職者を募集した光文社である。その発表以来、社内の雰囲気は日1日と悪くなっているようだ。「たぬきち」は20年間勤務し、編集、宣伝、営業を経験してきた。しかし先のあてはないけれど、辞めることにしたという。「たぬきち」は『週刊ダイヤモンド』の特集が没になったり、自分の会社のようななりふり構わぬリストラが起きているのは、「全部、出版という古い業界が巨大な荒波にあえいでいることの現れです。僕は荒波に翻弄される木の葉の一枚です」と述べている。
 小出版社はいつも荒波にさらされ続けてきたが、ついに安泰なはずの大手総合出版社の社員も「荒波に翻弄される木の葉の一枚」の存在へと追いやられてしまったのだ。とすれば、現在の出版業界にいる人々全員が同様の境遇の中で働いていることになる。本当に末期症状を呈しているといっても過言ではないだろう]

7.電子書籍問題と相まって、『週刊エコノミスト』(4/20)がワイドインタビュー「問答有用」(聞き手:大迫麻記子)で、国立国会図書館長の長尾真の発言を掲載している。長尾は情報工学の世界的権威で、膨大な蔵書の電子化と電子図書館システムの構築にあたっている。著書の『電子図書館』 はこのほど再刊された。
長尾が語る世界の電子化状況を抽出する。

グーグル700万点
米議会図書館1500万点
フランス98万点
EU・オンライン図書館600万点
中国72万点
韓国38万点
日本・国会図書館15万6000点

日本の立ち遅れが目立つが、それまで年間1〜2億円だった予算を、昨年5月に一気に127億円の補正予算を獲得したことで、1968年までに受け入れた90万点の電子化の目途がたったという。

 [近年のうちに現在の15万6000点に加え、90万点の電子書籍がネットとつながったパソコンを通じ、無料で閲覧できるようになるだろう。もちろん著作権や出版社の問題をクリアした上でのことになるが。
 出版業界、古本業界にとって最も問題なのは電子リーダーが進化し、これらの電子図書館とつながってしまうことだろう。そうなれば、誰でも、どこにいても電子図書館を携えていることが可能になる。そのような日が近づいているということなのだろうか]

8.電子図書館の進化に対して、角川GHD角川歴彦は出版社の側からの新たなコンテンツ時代の到来を、『クラウド時代と〈クール革命〉』 で語っているのだろう。
クラウド」とは専門用語定義を参照すると、インターネットにおけるコンシューマー・サービスの影響を受けた、ITサービスの消費と提供に関する新コンピューテイング・モデルと定義づけられている。
角川の予測によれば、2014年までに技術革新が加速化し、B to C のクラウド・サービスが本格化し、映画も本もコミックも音楽もデジタルコンテンツ化され、これが21世紀の新しい産業革命に結びつくという。
しかしこのクラウド・コンピューテイングは、グーグル、アマゾン、アップル、マイクロソフトIBMが覇者であり、日本の姿はないので、角川は日本による国家プロジェクトとしての「東雲」プロジェクトを提案している。

[20世紀においては電子図書館もSFの領域にあったが、21世紀にはそれが本格的にリアル化される時代に入っていることは確実だ。もはや書店で本を買い、映画館で映画を見るという時代も終わりを迎えているのかもしれない。
 だがひとつ気になることがある。角川は「東雲」からわかるように、cloud を「雲」としているが、これには「大群」の意味も含まれている。ここで私はもうひとつの「クラウド」crowd を思い出す。リースマンは1950年にThe Lonely Crowd 、すなわち『孤独な群衆』 を著し、アメリカの他人指向型へと向かう社会を分析している。リースマンは邦訳序文で、「読者にこの本を別世界の物語として読んでほしい」と書いていたが、それは「孤独な群衆」社会がアメリカ固有の物語であると当時認識していたからだろう。
 しかし1970年以後、消費社会化に伴い、日本もヨーロッパも「孤独な群衆」的様相を呈し、近年のグロバリゼーションの波にさらされ、さらにアジアを始めとして同様の状況を見つつあると思われる。
 そしてクラウドの時代を迎え、21世紀は新たな群衆の時代へと入っていく。もうひとつつけ加えれば、cloud には「暗い影」といった意味もある。おそらくクラウド時代は上空に位置する雲、群衆、暗い影などのいくつもの意味を含んで進行していくのだろう]

9.村上春樹『1Q84』 第3巻は初版刊行2週間で5刷となり、累計90万部に達する。なお3冊累計で346万部に及んでいる。

[4月の出版業界に関する記事は、電子書籍問題と『1Q84』第3巻発売とその売れ行きのふたつに埋め尽くされた感があった。
 ただ『1Q84』の売れ行き騒ぎを見ると、そこにいるのはもはや読者でも消費者でもなく、群衆というイメージを浮かべてしまう。「ハリー・ポッター」発売時のイベント的事態がさらにエスカレートしてしまったように映る。
 本を読むことは個の営みであるという事実、多品種少量販売という本の基本的特性すらも消滅し、群衆による瞬間的消費のイメージに覆われてしまっている。寺山修司の「ベストセラーの読者になるよりも、一通の手紙の読者になることの方が、ずっとしあわせなのだ」という言葉はもはや死語と化してしまった光景があるだけだ。
 『出版状況クロニクル2』で、かつてのベストセラーの最終的返品部数を記し、新潮社にとって、『1Q84』は絶好の機会だから、低正味買切制を導入すべきだと書いておいたが、返品は大丈夫なのだろうか]

10.『新文化』(3月25日)が「大日本印刷グループが目指す“出版改革”とは?」と題し、DNP の森野鉄治常務、CHI グループ西村達也副会長にインタビューしている。二人の発言を要約してみる。

*TRC、丸善ジュンク堂文教堂ブックオフ、それにDNP子会社の電子書籍取次MBJを加えると、出版流通のプラットフォームが形成され、読者に対するあらゆる選択肢を提供できる体制になった。
*生活者の視点に立って、新刊、古本、図書館本、オンデマンド本、電子書籍といったコンテンツのすべての供給のかたちを実例として作り、出版業界全体に提案したい。ただ黒船であるアメリカのネット企業への対応は十分にできていない。だがデジタル書籍時代がくれば、書店売上は減ってもトータル的に有料コンテンツとしての出版物のパイは減らず、情報消費量は増加する。
*出版物制作プロセスはすでにデジタル化されているから、それをダウンロードのかたちで発信していく。「ないコンテンツはない」というDNPグループにとってはチャンスの時でもある。
*これだけの投資と買収のベースにあるのは、制作段階からのデジタルファーストを実現するプラットフォームの構築である。すなわちプリンティングテクノロジーとインフォメーションテクノロジーを組み合わせたソリューションを提供することにある。出版社が生のコンテンツを編集し、それをプリンティングとデジタルテクノロジーで手伝うというのがDNP の考えで、出版社に広く活用してもらいたい。
*これ以上出版社に投資する可能性はゼロ。それは出版社のコンテンツの多様性をはぎとってしまうからである。それよりも小資本でも出版社を興すことができるプラットフォームとインフラを作り、アナログでもデジタルでも刊行できるようにして、それをプロフィットゾーンにしたい。
DNPグループのめざす出版はリアル、ネット、ダウンロードを含んだ「ハイブリッド的出版」で、そのためのプラットフォーム構築拠点としてCHI がある。だからそこに400億から500億円の投資をしたいし、仲間として大手書店グループの参加を募りたい。DNP、CHI グループの持つマーケティング情報をそのプラットフォームで活用できるようにするからだ。
*これまでの出版業界への投資は累計して400億円以上になる。だが取次を傘下に収める計画はないし、トーハンと日販に対してはイーブンな付き合いをしていく。
文教堂についてはジュンク堂の工藤恭孝がいたからで、彼なら改革できると判断した。
丸善の改革は返品率の改善、ハイブリッド出版流通への移行への対応、「ないコンテンツはない」という意味でのチャンスロスの削減、それにグループシナジーとして、丸善店舗のメディア化、販売広告店舗展開、TRC のノウハウを丸善大学図書館事業への応用、大学業務へのIC カード導入などを考えたい。
*グーグルやアマゾンの囲いこみは典型的なアメリカ覇権主義である。それに対して出版業界は日本の文化を背負っている分野だから、しっかりしたグローバル化も含めた日本製プラットフォームが必要で、その構築が緊急の課題である。

電子図書館クラウド時代と並ぶ、DNP による大きな見取図が語られているわけだが、ここでもまた現在の深刻な出版危機状況については語られていない。別の大きな物語を提示することで、再販委託制に基づく近代出版流通システムの破綻と、それによって起きている出版危機が解消されることにならないのは自明であろう。DNPの提案する大きな見取図と現在の出版危機状況の認識の間には、まだまだ埋め切れていないあまたの問題が横たわっているのではないだろうか。
 例えば、ジュンク堂文教堂の関係だが、『出版状況クロニクル2』で、都市型専門料理店による郊外型ファミリーレストランの買収のような、ちぐはぐな印象があると記しておいた。両者は異なる業態と見なせるし、前者による後者の改革はとても難しいと思えるし、本当に改革できるのだろうか。また丸善の改革にしても、最初に返品率の改善が挙げられているが、現在の再販委託制下では限界があることに気づいていないのだろうか。
 DNP の設計図の提出を見て、実際に施工に携わるのは出版社、取次、書店であるから、いくつかの疑問を挙げてみた。なおこのインタビューで、岩崎書店DNP 入りしていたことを知った]

11.電子書籍問題が急速にクローズアップされる一方で、CDやDVDなどの第三商品の行方が問われ始めている。いくつかの動きにも言及しておこう。
日経ビジネス』(4/5)が「株価が語るカルチュア・コンビニエンス・クラブ」で、昨年1月に927円だった株価が昨秋から下げ始め、今年2月5日に402円の安値を記録し、戻りが遅いと指摘している。

[この株式下落の背景には、CD、DVDレンタル事業のTSUTAYA の既存店の業績悪化、それを受けて大株主の投資ファンド保有株を売却したことがある。
 直接の原因は何度か既述してきたが、ゲオが仕掛けた100円レンタルである。またゲオはCCC のT カードに対して、Ponta カードをぶつけ、レンタルのみならず、カード事業でもライバルとなり、こちらの行方もどうなるのだろうか]

12.またCCCはオンライン中古書店ネットオフと資本・業務提携し、その株式30%を取得。6月から都内の直営店TSUTAYA で中古本の買い取り、販売を開始し、来年からは50店ベースで展開予定。いずれもCD、DVD部門を縮小し、そこに中古本売場を開設。


13.その一方で、CCCはHMVジャパンをこの夏をめどに買収予定。HMVは関東を中心に57店舗を展開し、年間売上高450億円で、その4割がネット通販によっている。CCCの音楽・映像ソフト年商は870億円であるが、前年割れが続き、ネット通販は100億円で、HMVを買収することによって、それを拡大するとされる。


14.『出版状況クロニクル2』でもふれたばかりのすみやの上場廃止TSUTAYA への営業譲渡に続いて、こちらもCCCと日販が株主である新星堂もリストラを発表。それによれば、197店を展開しているが、CD・DVD販売不振を受け、全社員の4割にあたる185人の希望退職募集、残る社員も基本給3割カットとされる。

[この20年間は出版業界の雑誌、書籍に続く第三商品として、CD・DVD(ビデオ)が組みこまれ、そのレンタルが主として利益を挙げていたが、その時代が終わりつつあることを11.12.13.14.は告げている。この分野も別の方向での複合化、再編、リストラが進められていくだろう。
 すでにアメリカのDVDレンタル市場は宅配サービスや自動レンタル機による新しいビジネスのDVDレンタルチェーンが躍進し、2月にはレンタル大手のムービー・ギャラリーが連邦破産法を申請し、全米760店を閉店。同じくブロックバスターも経営破綻の危機にあると伝えられている]

15.スイングジャーナル社フュージョンAOR を中心とする月刊雑誌『アドリブ』が休刊。1973年創刊で、最盛期の80年代前半は20万部発行していたが、CD業界の不振による広告収入の減少により休刊となった。


16.講談社の隔週情報誌『TOKYO 一週間』と『KANSAI 一週間』が休刊。創刊はそれぞれ97年と99年で、33万部、35万部を発行。若者向けのグルメ、ショッピング、映画、音楽情報を掲載し、『東京ウォーカー』(角川マーケティング)のライバル誌でもあったが、最近はネット情報収集に押され、各8万部まで落ちこんでいた。

 [それこそ電子書籍と『1Q84』騒ぎに隠れて目立たないが、雑誌の休刊も続いているし、まだずっと続いていくだろう。また雑誌を支えていた編集プロダクションの倒産も聞こえてくる。このまま進めば、年末の雑誌状況はどうなっているだろうか]

17.『出版ニュース』(4/下)で、高橋将人が「消えゆく小さな地方出版社閉鎖を前に思わぬ注文の嵐」を寄せている。高橋はずっと郷土出版社の経営者だったが、病に倒れ、療養生活の後、平成16年に信州に関係する本だけを刊行する一草舎を長野に設立し、6年間で102点を出版した。しかし入院生活を繰り返し、一草舎の経営が悪化し、任意整理で解散することになった。
ところが『朝日新聞』(3月19日)の「声」欄に「なくなる小出版社に良い本」という投書が掲載され、そこで一草舎の『宮口しずえ童話名作集』が紹介されたことで、注文が殺到し、19日から21日の3日間で333冊、月末に至って656冊が売れ、残りの160部も完売できそうだと報告している。

[実は3月初旬に元リブロの今泉正光にインタビューするために長野に出かけ、一草舎の閉鎖に伴う平安堂での全店20%引きフェアを見てきている。そのすぐ後に投書を目にし、反響を確認してから書くつもりでいた。すると高橋からの報告がなされたので、それを紹介し、言及に代える。
 しかし一言だけ付け加えれば、注文は『宮口しずえ童話名作集』だけに集中し、一草舎の他の本にはほとんど問い合わせがなされなかったようだ。このような場合にも、一点だけに集中してしまう現在の本の売れ行き現象が投影されているようにも思える]


18.『出版状況クロニクル2』(論創社)は4月末発売が遅れ、5月半ばに刊行となる。

以下次号に続く。

◆バックナンバー
出版状況クロニクル23(2010年2月26日〜3月25日)