出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル109(2017年5月1日〜5月31日)

17年4月の書籍雑誌の推定販売金額は1121億円で、前年比10.9%減。
送品稼働日が1日少なかったこと、返品の増加が主たる要因だが、2ケタマイナスは16年10月以来である。
書籍は550億円で、同10.0%減、雑誌は570億円で、同11.9%減。
雑誌の内訳は月刊誌が466億円で、同12.3%減、週刊誌は104億円で、同10.1%減。
返品率は書籍が35.1%、雑誌は45.4%で、雑誌のほうは今年に入って4ヵ月連続で40%を超えている。
販売金額のマイナスと返品率は、最悪のところまできているといっても過言ではない。
しかも5月連休(4/29〜5/7)の書店売上は、日販調査によれば、前年比7.4%減、トーハン調査は、同5.8%減で、5月の回復は期待できない。
そのようにして、17年上半期が過ぎていこうとしている。


1.『出版月報』(4月号)の「ムック市場2016」のデータを示す。

■ムック発行、販売データ
新刊点数平均価格販売金額返品率
(点)前年比(円)(億円)前年比(%)前年増減
19996,59911.5%9151,3201.9%43.5▲0.5%
20007,1758.7%9051,3240.3%41.22.3%
20017,6276.3%9311,320▲0.3%39.8▲1.4%
20027,537▲1.2%9321,260▲4.5%39.5▲0.3%
20037,9906.0%9191,232▲2.2%41.52.0%
20047,789▲2.5%9061,212▲1.6%42.30.8%
20057,8590.9%9311,164▲4.0%44.01.7%
20067,8840.3%9291,093▲6.1%45.01.0%
20078,0662.3%9201,046▲4.3%46.11.1%
20088,3373.4%9231,0621.5%46.0▲0.1%
20098,5112.1%9261,0912.7%45.8▲0.2%
20108,7622.9%9231,0980.6%45.4▲0.4%
20118,751▲0.1%9341,051▲4.3%46.00.6%
20129,0673.6%9131,045▲0.6%46.80.8%
20139,4724.5%8841,025▲1.9%48.01.2%
20149,336▲1.4%869972▲5.2%49.31.3%
20159,230▲1.1%864917▲5.7%52.63.3%
20168,832▲4.3%884903▲1.5%50.8▲1.8%

[週刊誌、月刊誌、コミックが凋落していく中で、雑誌売上を支えるべき分野としてムックがある。しかし16年のムック販売金額は903億円、前年比1.5%減で、こちらも6年連続マイナスとなった。

販売冊数も同様で、1億140万冊、同3.9%減で、おそらく17年は1億冊を割りこむだろう。しかも16年は12月31日の特別販売日にムックを中心として210点、840万部、金額にして50億円が投入されたことを考えれば、販売金額や冊数もマイナス幅はさらに大きかったと見なせよう。

新刊点数が減少し始めているのは、学研などの出版点数が半減していることも作用しているが、やはり返品率が2年続いて50%を超えていることが問題となっていると思われる。

前クロニクルで、「文庫マーケットの推移」を挙げ、16年の新刊8318点に対し、販売金額が1069億円、返品率が39.9%であることを既述しておいたが、ムックも新刊8832点、販売金額903億円、返品率50.8%で、新刊点数、販売金額は近い数字となるが、返品率はムックが突出している。

ムックの場合、週刊誌や月刊誌と異なり書籍と同様に再出荷され、長期にわたって販売するメリットがあったけれど、2年続きの50%を超える返品率からすれば、再出荷どころか、大半が週刊誌や月刊誌と同様に、断裁処分に追いやられているのではないだろうか。

その一方で、これだけの新刊点数が出ているわけだから、ムック市場もまた新刊しか売れないし、ロングセラーとして雑誌売場に常備される機会も少なくなっていると思われる。

書籍から派生した文庫、雑誌から派生したムックの両者が示す近年の新刊点数の多さ、販売金額のマイナス、高返品率は、漂流する出版業界の現在を象徴していることになろう]



2.取協と雑協は「12月31日特別販売、年末年始キャンペーン」の販売実績を発表。

 12月31日の雑誌売上は17.3%増、全体10.1%増で、一定の成果があったと総括。

[『新文化』(4/27)にこの「年末年始の売上 前年比 取協POS店調べ」が掲載されている。表は煩わしいので示さない。必要とあれば、そちらを見てほしい。

しかしそれは12月29日から1月4日にかけての「7日間計」である。雑誌101.5、書籍99.2、コミック88.5、開発品101.4、総計97.5、客数93.1、単位はいずれも%。

何のことはない。総計で見れば、雑誌も当日だけの増で、客数も増えていない。しかもキャンペーン当日の31日から1月6日までの「7日間計」とすれば、おそらく雑誌もマイナスだと推測される。

そうすると、一定の成果があったと総括できないので、キャンペーン前の2日間の数字を折りこみ、そのように発表しているのである。こういうレポートこそフェイクニュースに他ならない。取協や雑協は同じことを今年も繰り返すのだろうか]



3.アマゾンは、日販が常時在庫していない商品取り寄せ=日販バックオーダー発注を、6月30日で終了。

[これは前回ふれておいたことだが、ようやく業界紙などでも報道され始めている。それはアマゾンが出版社2000社に通知したことに基づいている。

またこの問題と関連して、アマゾンから出版社に「Amazon .co.jp 和書ストアの仕組み」という28ページの小冊子が送られ、直接取引である「e 託サービス」が説明されている。このような文書が多くの出版社に発送されることも異例だし、アマゾンの「e 託サービス」への力の入れ方がわかる。なお現在のアマゾンの仕入れ全体の3割は直接取引に及んでいるとされる。

これらに関してもここで贅言をはさむよりも、「アマゾンの『バックオーダー発注』廃止は、正味戦争の宣戦布告である」の一読をお勧めする。5月7日付で発信されたものだが、取次とアマゾンとバックオーダー発注、正味問題と直接取引と出版社の行方などをまさに正面から論じて出色であり、本クロニクルの読者であれば、必読といえるだろう。

この背景にはヤマト運輸の配送料問題も絡んでいるはずだ。宅配便市場はヤマト、佐川、日本郵便の3社でシェアの9割を占められ、2016年は37億1800万個で、前年比8%を上回り、2年連続で最高を記録している。そのしわ寄せがアマゾンを担うヤマト運輸に表われていることはいうまでもないだろうし、すでに宅急便の値上げも発表されている。

アマゾンに対してはどのような事情と状況にあるかは『週刊東洋経済』(5/20)の「アマゾン値上げ迫る 強気ヤマトが抱える不安」という記事を参照してほしい。アマゾンとしても、ガソリン価格の上昇も伝えられているし、それなりの譲歩をするしかないだろう。
その影響をめぐって、出版社に「e 託サービス」要請というかたちで押し寄せていると見ていい]
週刊東洋経済
〈付記〉
更新するために確認したところ、月末までアップされていた上記のサイトが閉じられていた。どのような事情が生じたのであろうか。

その後、再掲載された。



4.『文化通信』(5/1)に「出版輸送はどうなるか」というタイトルで、取協発売日・輸送対策委員会の川上浩明委員長(トーハン)と安西浩和副委員長(日販)にインタビューしている。それを抽出してみる。

取次各社合計の配送先は2011年5万9464店が16年には6万7542店に増加し、その間に書店が2000店減り、コンビニが1万店増。

2010年から、出版輸送からの撤退の申し出が相次ぎ、とりわけ雑誌の業量が落ちてきた12年から顕著になった。

主な原因は雑誌の業量が減っているのに配送件数が増えたこと、配送先の時間指定などの環境変化、労働条件の問題の3つである。

最近は大手輸送会社からの撤退の申し出もあり、それは全国の協力会社の中小輸送業者からもう限界だという声が上がったことによっている。

これまで出版業界は出版社、取次、書店を三位一体だといってきたが、輸送網がそれを支えている柱の一つだという視点が欠けていたのではないか。今や取次にとって、輸送網の維持が最大の課題になっている。

運賃と体系も以前と異なり、重量運賃制での不足する分の保障、最低運賃との保障に加え、そのプラスアルファの補填も生じつつある。出版社にはいくつかの運賃協力金を負担してもらっているが、それを改定したのは1993年で、それ以後改定されていない。書店に関しては返品運賃を負担してもらっている。ただ取次の払う運賃と協力金のギャップはこの5年くらいで急激に開いている。

今の仕組みでは書籍と雑誌を別に配送することはできないし、コスト的にコンビニ向け雑誌をコンビニ配送網にのせることは見合わない。

出版配送の宅配便と同じ運賃を出せるなら、問題の一部の解決の可能性はあるけれど、それは現在の出版業界の収益構造では不可能な水準なので、輸配送業者も含めた四者で、様々に取り組んでいくしかない。


[結局のところ、出版物販売金額がマイナスを重ねる中で、書店が減少し、コンビニが増加し、それによって出版物輸配送も危機へと陥ったことになろう。

16年を例にとれば、書店が1万3000店に対し、コンビニは5万4500店で、しかもコンビニは本クロニクル103などでも指摘しておいたように、近年の雑誌売上高は月商30万円台でしかない。その5万店を超える雑誌輸送を取次が担うこと自体が無理なのだし、その事実を直視すべきだ。また本来であれば、取次はコンビニ各社に運賃協力金を要請すべきだが、それができないのだろう。

歴史にもしもはないのだが、取次が1970年代にコンビニと取引を始めるにあたって、早くから雑誌のコンビニ配送網への移行戦略を実行していたらと思わずにはいられない。それは商店街の書店から郊外型書店への転換に対して、書籍の低正味買切制が実現していたら、現在のような危機は生じなかったのではないかということと共通していよう]



5.トーハンは楽天、NTTドコモ、ロイヤリティマッケッティングの3社と業務提携し、今秋から書店での「ponta」「楽天スーパーポイント」「dポイント」のポイントカードサービスを開始。

[日販の「Tポイント」に対するトーハンのポイント対抗戦略ということになるが、書店バックアップ施策としての効力は疑わしいし、アマゾンなどのネット書店のポイント付与に対抗するには遅きに失すると考えるしかない。

その発表のかたわらで、大日本印刷グループ書店とトゥ・ディ・ファクトは共同で、「家族丸ごと読書一年分プレゼント」を実施している。それは「honto」サービス開始記念5周年として、500万ポイントを進呈するもので、「honto」で500万円分に当たり、抽選で1人に当たる。2等は1000円クーポン券で、これも抽選で5000人に進呈するという。まさに大盤振る舞いで、Tポイントも含め、書店のポイントはとてもかなわない]



6.日本ABC協会の2016年下半期の「ABC雑誌販売部数表」(『文化通信』5/24掲載)が出された。

 報告誌は39社152誌、週刊誌34誌、月刊誌118誌である。合計販売部数は1405万部、前年比2.5%減。

 デジタル版は94誌で、14万6110部、16年上半期比9.6%減。

 読み放題UU は85誌、665万7953 U、同40.5%増。

本クロニクル103 で、「dマガジン」の成功に言及したし、同106でもジュピターテコムの「J:COMブックス」の開始を伝えたが、読み放題サービスはさらなる成長で、その内訳を見ると、週刊誌は52.6%増、月刊誌は35.4%増と突出している。
それに比べて、デジタル版の勢いは急速に失墜し、3万部を超える『日経ビジネス』は例外として、その次に5000部の『Mac Fan』が続いているにすぎない。単体の電子雑誌は成立せず、読み放題サービスに駆逐されてしまったことになるのだろうか]



7.『朝日新聞』(5/10)にインターネットの投稿サイト「Free Books」(フリーブックス)の記事が掲載されている。

 このサイトで、コミックや小説など少なくとも3万5千点が無断公開され、『騎士団長殺し』『進撃の巨人』などもアップされ、被害金額は10億円を超すと見られているが、今月初めに閉鎖されたという。

 サイトを運営するサーバーはウクライナなどに置かれ、運営会社は不明。

騎士団長殺し 進撃の巨人
[このようなサイトは中国にもあり、そこでは多くのコミックやアニメを見ることができ、特定の作品を上げるまでなく、ほとんどすべてがアップロードされているという。それにアニメは英語圏のファンによる字幕付き視聴サイトも多くあるようだ。

「フリーブックス」のウクライナということで思い出したが、大手出版社の元幹部から聞いたところによると、ロシアには無数のコミックなどのサイトがあり、トータルすればとんでもない被害額に及ぶのではないかという話だった。ただ少し調べていくと、ロシアマフィア絡みなので、アンタッチャブルのままにしておくしかないとのことも。

「フリーブックス」に関しては、出版社各社は著作権法違反の疑いで告訴することを検討しているようだが、どうなるのだろうか]



8.『出版ニュース』(5/上)に「世界の出版統計」が掲載されている。

 そのうちのアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスを示す。

アメリカ/15年出版総売上高は277億ドルで、前年比0.6%減。総販売部数は27億部で、同0.5%増。

       書店総売上高は111億ドルで、同2.6%増。16年は120億ドルで、2.5%増とされる。電子書籍売上高の低下と書店売上の増加が指摘されている。

イギリス/15年出版総売上高は33億ポンドで、前年比0.1%増。そのうちのフィジカル書籍(印刷本)売上高は27億6000万ポンド、同0.4%増、デジタル書籍は5億5000万ポンド、1.6%減。

ドイツ/15年ドイツ書籍販売業者総売上高は91億8820万ユーロで、前年比1.4%減。書店売上高は44億2700万ユーロで、同3.4%減。

フランス/15年出版総売上高は26億6700万ユーロで、前年比0.6%増。書籍市場そう売上高は39億7000万ユーロで、同1.8%増。


本クロニクル107 で、16年のイギリスとアメリカの書店と書籍売上の増加を伝えておいたが、15年からアメリカ、イギリスは回復基調にあったとわかる。それはフランスも同様で、電子書籍の減少とも関連しているのだろう。

電子書籍に関しては、海外生活の長い比較文学研究者から現在状況に関する話を聞く機会があった。それによれば、文学、人文科学分野においては、かなりの学術書が電子書籍で読める環境になっているという。それは7ではないけれど、版権があるものも誰かがどこかでアップロードしていて、フリーで読める。例えば、ミシェル・フーコーにしても、完全ではないが、フランス語も英訳もほとんどが読めるし、そのようなインフラが版権問題は別にして、すでに構築されてしまっているとのことだ。

それを聞き、電子書籍の欧米での減少がわかるようにも思われた。洋書の場合、電子書籍もほぼ同時発売されているが、その定価はハードカバーのものとほとんど変わらず、高価である。それに対して、このような電子書籍環境が整っているのであれば、買う必要はなくなるからだ。

これらの事情に関しては、さらなる専門家のご教示を得たいと思う]



9.日書連加盟書店数が前年比190減の3504店となる。

[その推移は『出版状況クロニクル3』などに記しているが、ピーク時の1986年には1万3000店近くの書店があったわけだから、この30年で1万店近くが消滅してしまったことになる。郊外消費社会の進行とともに、町の中小書店がほとんど壊滅状態になってしまった事実を告げている。そしてそれが何をもたらしたかも。

『日経MJ』(5/28)が「薦めたい店ランキング」を特集している。それは20代以下、30代、40代、50代、60代以上の男女別年代別に分かれ、総合ランキングとしては1位のセブンイレブンから15位のサーティワンアイスクリームまでが挙がっている。その中に書店はない。それは20代以下から50代までも共通で、かろうじて60代以上の男性の8位、女性の10位に紀伊國屋書店が見出せるだけである。

書店のイメージそのものが変化し、パラダイムチェンジしてしまったことを伝えているし、この50代が60代を迎える時期に至れば、「薦めたい店ランキング」から紀伊國屋も消えてしまうだろう」

■薦めたい店舗 総合ランキング
順位店舗名割合
(%)
1 セブンイレブン40.6
2ダイソー40.0
3 モスバーガー35.8
4ユニクロ35.5
5 無印良品35.1
6 ゴディバ34.4
7 スターバックスコーヒー33.8
8 ローソン32.8
9 イオン32.6
10東急ハンズ31.4
11ファミリーマート31.2
12ニトリ30.5
13 コメダ珈琲店30.4
13 セリア30.4
15 サーティワンアイスクリーム30.2
(全国の16歳以上の男女23万人の調査)



10.同じく『日経MJ』(5/19)が「銀座蔦屋書店」を開店したCCCの増田宗昭社長にインタニューしている。

 そのコアは「これから世の中で一番インパクトがある分野はアート、アートを大衆化したい」に尽きるだろう。

[これはインタビューというよりも、独演パフォーマンスであり、肝心の売上に関しては具体的な数字が上げられていない。それは代官山蔦屋書店から変わってない。

CCC=TSUTAYAに関しては、日販、MPDとコラボしたフランチャイズとレンタルをベースとするもので、書籍販売についてはマーチャンダイジングを確立しておらず、驚くほど売っていないことを、本クロニクルでも繰り返し指摘してきた。

その一方で、これもまた本クロニクル106 で示しておいたように、16年の大型店出店10店のうち8店をTSUTAYAが占め、それに銀座蔦屋書店の出店も続いていることになる。出版物販売金額がスパイラル的に減少していく中でのこれらの出店は、バブルの様相を呈している。

それとパラレルに美術出版社や徳間書店の買収、カメラのキタムラの筆頭株主、中国で書店や出版を手掛ける中信出版との合併会社の設立などが続いているし、毎週何らかの動きが報道されている。だがアートのフランチャイズは無理だし、仮に実現したとしても、そうなればアートではなくなるだろう。

CCC=TSUTAYAはどこに向かおうとしているのだろうか。それは日販とMPDも同様である]



11.ゲオの連結決算が出された。

 売上高は2680億円で、前年比0.1%増だが、レンタル部門は不振で、前年に比べ、72億円減少。営業利益は86億円、当期純利益は42億円で、いずれも半減。

[ゲオのレンタルもどうなっていくのだろうか。10の『日経MJ』の「薦めたい店ランキング」にTSUTAYA、ゲオがはいっていなかったことも気になる。両者こそはナショナルチェーンとして全国各地にあり、それなりに顧客層を有していたし、若い層にはそのイメージが定着していると思われるからだ。そこにはアダルト併設も絡んでいるのだろうか。

それに加えて、本クロニクル94 で見放題動画配信サービスのゲオチャンネルのスタートを記しておいたが、1年余りで終了となってしまった。こちらも競合が厳しいのだろう。ネットフリックスのほうはどうなっているのだろうか]



12.ブックオフの連結決算も出され、売上高813億円、当期純損失11億5900万円。

[前回ブックオフの2年連続赤字を既述しておいたが、赤字幅は予想より大きかったことになる。

その背景にあるのは直営388店、FC455店というバランスだと推測される。ブックオフの本質も基本的にはフランチャイズであり、直営店の3から4倍ほどのFC店を抱えるスキームによって成立しているし、現実的にもずっとそうだった。ところが現在はそれがほぼ均衡し、FC店をブックオフがそのまま直営店として存続させてきたことをうかがわせている。それは利益を上げることが難しくなり、FC店が脱落していったこと、新たなFC店の加盟がなくなったことを物語っていよう。

といって、直営店のリストラはFC本部としてのリアリティ、上場ナショナルチェーンの立場、撤退に伴う多額なコストが生じることもあり、連続3期赤字になってしまうブックオフの後退戦も難しい地点にさしかかっていると判断できる]



13.『新文化』(5/18)の「社長室」欄が、5月9日の日経BPマーケティング特約会での丸善ジュンク堂の工藤恭孝社長の「挨拶」に言及している。

 それによれば、専門書を一堂に揃える大型書店という自社モデルが、もはや立ち行かなくなっている現状を告白したものである。アマゾンの台頭により、ネット検索が広く浸透し、値引と無料配送で、大型書店は本を探すのに苦労する「ただ不便な店になった」。

 電子書籍と検索機能などの読者の利便性深化とは逆に、大型リアル書店は疲弊する一方で、「化石みたいな商売による、ギリギリの経営」を続けている。「その筆頭」が丸善ジュンク堂書店だと発言している。

 それに対し、「会場にいる約200人の関係者は息を呑んで静まり返った」という。

[これまで本クロニクルで取り上げてきた丸善ジュンク堂の出店もバブルに他ならず、もはやそれも立ち行かなくなっていることの告白と受け止めるしかない。

しかし12 のブックオフではないけれど、店舗のリストラは多大な撤退コストを必要とするので、それもできない。そうしているうちに、さらに赤字が積み重なっていく。大型書店状況も最終段階にまで来ていると見なすしかない]



14.2007年に出店した渋谷のブックファーストが閉店。 跡地にはヴレッジヴァンガードが入居予定。

15.新栄堂書店池袋サンシャイン店が閉店し、跡地にはくまざわ書店が出店予定。くまざわ書店は8月に千葉市、9月に調布市にも出店。

16.精文館書店は初めてのブックカフェ「TSUTAYAハレノテラス東大宮店」を900坪で出店。

17.昭和図書のブックハウス神保町の跡地に子どもの本専門店ブックハウスカフェが出店。

[主な出店と閉店だが、どのような行方をたどるのだろうか。12 の工藤発言を見たばかりなので、現場の苦労がしのばれる。

それにしても信山社の跡地はどうなるのだろうか。すでに破産から半年が過ぎている]



18.週刊住宅新聞社が自己破産。

 1955年創業で、不動産専門紙『週刊住宅』を発行し、「うかるぞ宅建士」「同社労士」シリーズ、不動産関連の資格書、実用書を手がけ、通信教育も行なっていた。2006年には年商10億円だったが、16年には6億円に減少していた。負債は3億6000万円。

[今年の3月に前経営者が亡くなり、M&Aを模索していたが、見つからず、今回の措置になったようで、経営者の死とともに終わりを迎える小出版社の典型的な破産ということになる。このパターンはこれからも増えていくだろう。

不動産関連書がよく売れ、それを刊行する出版社が注目されたのは、やはりバブルの時代の1980年後半から90年代にかけてであり、すでに4半世紀が過ぎている。その遺産も使い果されてしまったことを、週刊住宅新聞社の破産は伝えている]
うかるぞ宅建士



19.ほるぶ出版が、静山社の持株会社フェニックス・ホールディングスの子会社化。

 出版芸術社に続いて、グループ会社は3社となる。

20.株式会社図書新聞は書籍出版部門と図書新聞発行部門に別れ、後者はスタッフともども武久出版株式会社へ移り、再始動。

21.ぶんか社は日本産業推進機構と資本業務提携。

[出版社のほうも水面下で多くのM&M交渉が進められているようで、今月は3社が報告されている。しかし書籍中心の老舗出版社などは難航していることが伝わってくるだけだ]



22.ずっと遅れていた「出版人に聞く」シリーズ番外編として、鈴木宏『風から水へ』がようやく6月中旬に刊行。

 論創社HPの「本を読む」17は「天声出版と『血と薔薇』」です。



23.東京堂書店神保町店で、私の新刊
『郊外の果てへの旅/混住社会論』(論創社)をメインとするフェアが、オリジナルのブックリストを添え、開催中。

 これは本クロニクルのバックヤードであり、ベンヤミンの「歴史哲学テーゼ」に基づく一冊でもある。お出かけ頂ければ、とてもありがたい。

郊外の果てへの旅(『郊外の果てへの旅』) 〈郊外〉の誕生と死(『〈郊外〉の誕生と死』、復刻)

以下次号に続く。