17年5月の書籍雑誌の推定販売金額は926億円で、前年比3.8%減。書籍は475億円で、同3.0%増、雑誌は451億円で、同10.0%減。
書籍は送品稼働日が1日多かったこと、及び前月がやはり10.0%減だった反動でプラスとなっている。
しかし雑誌は返品率の上昇で、2ヵ月連続の2ケタマイナスである。雑誌の内訳は月刊誌が356億円で、同11.3%減、週刊誌は95億円で、同4.6%減。
返品率は書籍が41.2%、雑誌は48.9%で、月刊誌のほうは51.0%と、ついに50%を超えてしまった。この返品率は雑誌史上初めてのことで、月刊誌だけでなく、コミック、ムックの17年に入ってからの急速な失墜を伝えている。
書籍のほうの返品率だが、『選択』(6月号)が「社会文化情報カプセル」欄で、村上春樹『騎士団長殺し』は50万部以上の返品があるのではないかと記している。しかし複数の書店筋によれば、それ以上の返品が予測されているようだ。
書籍も雑誌も返品率は最悪というしかない。
1.『出版ニュース』(6/下)に、『出版年鑑』による16年の出版物総売上高が掲載されているので、それを示す。
■書籍・雑誌発行売上推移 年 新刊点数
(万冊)書籍
実売総金額
(万円)書籍
返品率
(%)雑誌
実売総金額
(万円)雑誌
返品率
(%)書籍+雑誌
実売総金額
(万円)前年度比
(%)1996 60,462 109,960,105 35.5% 159,840,697 27.0% 269,800,802 3.6% 1997 62,336 110,624,583 38.6% 157,255,770 29.0% 267,880,353 ▲0.7% 1998 63,023 106,102,706 40.0% 155,620,363 29.0% 261,723,069 ▲2.3% 1999 62,621 104,207,760 39.9% 151,274,576 29.9% 255,482,336 ▲2.4% 2000 65,065 101,521,126 39.2% 149,723,665 29.1% 251,244,791 ▲1.7% 2001 71,073 100,317,446 39.2% 144,126,867 30.3% 244,444,313 ▲2.7% 2002 74,259 101,230,388 37.9% 142,461,848 30.0% 243,692,236 ▲0.3% 2003 75,530 96,648,566 38.9% 135,151,179 32.7% 231,799,715 ▲4.9% 2004 77,031 102,365,866 37.3% 132,453,337 32.6% 234,819,203 1.3% 2005 80,580 98,792,561 39.5% 130,416,503 33.9% 229,209,064 ▲2.4% 2006 80,618 100,945,011 38.5% 125,333,526 34.5% 226,278,537 ▲1.3% 2007 80,595 97,466,435 40.3% 122,368,245 35.3% 219,834,680 ▲2.8% 2008 79,917 95,415,605 40.9% 117,313,584 36.3% 212,729,189 ▲3.2% 2009 80,776 91,379,209 41.1% 112,715,603 36.1% 204,094,812 ▲4.1% 2010 78,354 88,308,170 39.6% 109,193,140 35.4% 197,501,310 ▲3.2% 2011 78,902 88,011,190 38.1% 102,174,950 36.0% 190,186,140 ▲3.7% 2012 82,204 86,143,811 38.2% 97,179,893 37.5% 183,323,704 ▲3.6% 2013 82,589 84,301,459 37.7% 92,808,747 38.7% 177,110,206 ▲3.4% 2014 80,954 80,886,555 38.1% 88,029,751 39.9% 168,916,306 ▲4.6% 2015 80,048 79,357,217 37.7% 80,752,714 41.6% 160,100,931 ▲5.2% 2016 78,113 78,697,430 37.4% 75,870,393 41.2% 154,567,823 ▲3.5% [本クロニクル105 で既述しているように、取次ルート出荷金額に基づく出版科学研究所データは、書籍7370億円、雑誌7339億円、合計1兆4709億年、前年比3.4%減である。
『出版年鑑』データは実売総金額によっているが、マイナス幅は3年連続でほぼ同様となっている。それに両者ともピーク時の1996年に比べれば、前者が1兆2000億円、後者は1兆1500億円の減少である。取次ルート送品額にしても、実売総金額にしても、1兆円以上が失われ、この20年間において、出版業界がその売上金額を失ったばかりでなく、多くの書店、取次、出版社を失ったことがオーバーラップしてくる。
『出版年鑑』データにおいても、16年は書籍が雑誌を上回ってしまったことで、書籍が雑誌を支える構造へと推移しているが、現在の再販委託制と正味体系では不可能なことは自明であろう。
しかも数年のうちに、ピーク時の半分となる1兆3000億円に近づいていくのは確実であり、もはや出版業界は行き着くところまで行くしかないといえよう]
2.アルメディアの調査によれば、5月1日時点での書店数は1万2526店で、前年比962店減少。売場面積は134万1977坪で、やはり4万4751坪のマイナス。
1999年からの書店数の推移を示す。
[1999年には2万2296店だったことからすれば、2016年にはほぼ1万店のマイナスで、17年にはこれも半分になってしまうであろう。大手出版社の雑誌を中心とする出版市場が、その販売の主体である中小書店を失い、それが雑誌の凋落にリンクしていることを、書店数の推移は如実に示している。
■書店数の推移 年 書店数 減少数 1999 22,296 − 2000 21,495 ▲801 2001 20,939 ▲556 2002 19,946 ▲993 2003 19,179 ▲767 2004 18,156 ▲1,023 2005 17,839 ▲317 2006 17,582 ▲257 2007 17,098 ▲484 2008 16,342 ▲756 2009 15,765 ▲577 2010 15,314 ▲451 2011 15,061 ▲253 2012 14,696 ▲365 2013 14,241 ▲455 2014 13,943 ▲298 2015 13,488 ▲455 2016 12,526 ▲962
書店数の減少の多い都府県も挙げておけば、東京都136、大阪府76、神奈川県64、愛知県59、埼玉県58で、地方のみならず、大都市圏でも書店の姿が消えていっている。ただこの書店数には売場面積ゼロの本部、営業所1324も含まれているので、実際に店舗を有する書店は1万1202店であり、このペースでさらに減少すれば、2年ほどで1万店を割ってしまうだろう]
3.同じくアルメディアによる「取次別書店数と売り場面積」も挙げておこう。
(*大阪屋栗田の2015年データは 旧大阪屋と旧栗田出版販売を合算)
■取次別書店数と売場面積 (2017年5月1日現在、面積:坪、占有率:%) 取次会社 書店数 2015年比増減 売場面積 2015年比増減 平均面積 売場面積占有率 2015年比増減 トーハン 4,924 ▲227 503,208 ▲26,955 109 37.5 ▲0.7 日本出版販売 4,735 159 677,524 44,650 151 50.5 4.9 大阪屋栗田 1,218 ▲197 126,379 ▲18,127 112 9.4 ▲1.0 中央社 482 10 21,593 791 52 1.6 0.1 その他 1,153 ▲177 13,273 ▲13,842 14 1.0 ▲1.0 不明・なし 14 0 0 0 0 0 0.0 合計 12,526 ▲432 1,341,977 ▲13,483 116 100.0 ―
[15年の同データは『出版状況クロニクル4』に掲載しているが、そこにはまだ大阪屋、栗田、太洋社もあり、この2年間の取次の激変も自ずから伝わってくる。
日販がトーハンや大阪屋栗田に比べて、書店数と売場面積を増やしているのは、本クロニクル106 でふれた「2016年新規売場面積上位店」のうちの8店を占めていること、及び同102 の文教堂のトーハンからの帳合変更などに起因している。
だがそれらはゼロサムゲームでしかないことは、後にふれる決算が物語っていよう]
4.『出版ニュース』(6/中)に「日本の出版統計」がまとめられ、「出版社数推移」も掲載されている。
[書店ほどではないにしても、1998年に比べれば、2016年は1020社のマイナスであり、この間における創業社も考えれば、年を追うごとに減少している。
■出版社数の推移 年 出版社数 1998 4,454 1999 4,406 2000 4,391 2001 4,424 2002 4,361 2003 4,311 2004 4,260 2005 4,229 2006 4,107 2007 4,055 2008 3,979 2009 3,902 2010 3,817 2011 3,734 2012 3,676 2013 3,588 2014 3,534 2015 3,489 2016 3,434
『新文化』に出される「日販・トーハン新規取引出版社」は5月該当社なしとの告示に見えるように、なくなりつつあるのかもしれない。それに明らかになっている、もしくは水面下での出版社のM&Aを考えれば、実質的にさらに多くの出版社が消えていったことにもなろう]
5.『週刊東洋経済』(6/24)が特集「アマゾン膨張」を組んでいる。
ヤマト運輸との問題、地域限定配達業者の「デリバリープロバイダ」、生鮮産品、米国アマゾン最前線などと充実した特集である。
そのコアを抽出すれば、2016年のアマゾン売上は1.2兆円に達し、毎年2割ペースで増収していて、全国8都道府県の18ヵ所の物流センターに、大阪府藤井寺市、東京都八王子市の2ヵ所が加わる予定。
出版物に関しては突出していて、年間売上高は1500億円で、日本最大の書店となっている。
[アマゾンの現在を知るための必読の特集といえるだろう。
それは出版業界で一強となったアマゾンの現在を浮かび上がらせている。アマゾンの出版物売上高が1500億円に達していることも、ここで初めて知らされた。またそれが日本で800万人に及ぶアマゾン・プライム会員によっていることも。私は書店の味方のような言説をふりまいている人物がプライム会員で、雑誌や書籍のすべてをアマゾンで購入しているのを知っているが、そのような連中が多いことも推測される。
しかしこの世界で最も安いプラム会員費の3900円は、ヤマトの最低運賃とアマゾンの消費税を納めていないシステムで支えられているのである。
私見によれば、1980年代に形成された郊外消費社会は、安さと便利さをキーワードとして成長していった。その後を受けて、アマゾンは登場し、ヴァーチャルな郊外ともいうべきネット空間に於ける安さと便利さをコアとして、ネット市場を制覇したと判断できよう。それはまたグローバリゼーション化とも言い換えられる。
それは高度資本主義消費社会にあっては、安さと便利さがエトスと化しているし、その最先端を走るアマゾンには抗し難い。そうして出版業界において、アマゾン一強が生じてしまったのであり、私たちはその事実を突きつけられている。だがその果てに何がもたらされるのであろうか]
6.アマゾンの日販へのバックオーダー発注停止は5の『週刊東洋経済』でも言及されているが、『文化通信』(5/29)で、代わりとなる「e託販売」に関してアマゾンが取材に応じている。
それを要約してみる。
* アマゾンと出版社の直接取引「e託販売」は出版社が年間9000円の登録料を払い、契約すると、アマゾンが一定の在庫を持って販売し、売れた金額の60%を翌月支払う。6月までに全点登録した場合、正味は65%。
* 納品コストも安く利用できる特別の宅配サービスを検討中であり、また所沢の納品センターからの出版社の倉庫への集荷便を出すことを準備している。
* 大手出版社は物量も多いので、買い取りで仕入れ、一定のサイトで支払い、返品枠を設けてもらう直接取引を提案している。
* 直接取引において、「e託」、もしくはそれ以外でも、再販契約の要請にはすべて応じる。
* 日販への発注引当率は60%程度だが、中規模以下の出版社になると、バックオーダー経由が4割を超える。
* 正味は半永久的に続くとは約束できないが、出版業界で簡単に正味が変わることがないことは承知している。
* 今回の停止決定はバックオーダーの比率が増え、顧客に届く日数が長くなってしまうことによっている。日販にはスタンダード発注引当率を上げてほしいし、それでも調達できないものは出版社との直接取引により、二段構えのメカニズムとしたい。
7.6 のアマゾンの発言に対し、『新文化』(6/22)にも、日販の安西浩和専務と大河内充常務へのインタビューが掲載されているので、こちらも抽出してみる。
* 今回の件についてはとても困惑している。出版社へのバックオーダー発注取寄せが他の商材に比べ、入荷状況が不明確とのアマゾンの指摘を受け、大手出版社を中心とし、納期を確約し、スピードを上げていくように改善を進め、アマゾンも一定の評価をしてくれていた。
* 今後、出版社に裾野を広げていこうとした時に、在庫確約、短時間納品できる出版社も含めて、一切のバックオーダー発注終了通告があった。一切を終了することに対する違和感があり、困惑しているとはそういう意味である。
* アマゾンは売上の4割がバックオーダー発注によるとしているが、アマゾンに限らず、ネット全体のバックオーダー割合は15%程度で、アマゾンの指摘する実態とはかけ離れている。
* 日販としては「業界三社の在庫の見える化」と「出荷確約」を今期の重要施策として位置づけ、すべての出版社にその計画を発表し、個別出版社と話し合っていく予定である。
* web−bookセンターの55万点、250万冊、王子流通センターの10万点、500万冊の統合計画の中で、重複しているものも相当数ある。それをなくし、点数を増やし、適切な在庫を持つことを見極めていきたい。
* アマゾンと直接取引したところで、アマゾンはツールの提供にすぎないし、出版社の売上が飛躍的に伸びるとは思えない。アマゾンと現在のネット環境からいってもいずれにしても重要なのは、在庫管理と情報である。
* アマゾンと対立しているわけではなく、これまでの業界で一番儲からないといわれていた「書籍の注文流通」を成功させているのであれば、そこに学ぶことは多くあるし、今回の件をきっかけにして改善を進め、出版社やリアル書店にとっても一冊を丁寧に売ることで、市場をもっと掘り起こしたい。
[幸いにしてというべきか、アマゾンの直接取引に応じている出版社は少ないようで、それを背景として、このようなインタビューがなされたと考えられる。
しかし懸念されるのは、日販ばかりでなく、トーハンにしても、現在の倉庫システムを担う3PL(サード・パーティ・ロジステックス)への転換が可能なのかという問題である。上場している倉庫会社の幹部にそうした転換についての意見を聞いたところ、新たに建てたほうがコストが安いという答えが返ってきた。
日販の二つの在庫センターの統合と改革もまた、取次の倉庫の汎用性と関連して、当然のことながら、設備投資の問題も焦点となろう。
そうした意味においても、取次も岐路に立たされている]
8.日販の決算が出された。単体で5023億円、前年比2.2%減、連結で6244億円、同2.4%減。
連結売上高は4期連続マイナスで、経常利益は24億円、同26.8%減。当期純利益は6億7900万円、同23.3%減。
9.MPDの売上高は1880億円、前年比0.7%減。
経常利益は8億4500万円、同15.8%増と5年ぶりの増益。
[日販にしてもMPDにしても、かろうじて黒字を出している印象を否めない。3で日販の突出した書店とその売場面積の増加を上げておいたが、それが決算に反映されておらず、それでもマイナスになっているからだ。
連結決算の場合、前年は25社、今年は30社となっていることも同様で、日販図書館サービスの精算、グループ書店の不採算店の整理などがマイナスの原因とされているが、もはや実質的に赤字と見なすしかない。グループ内書店は新規書店10店、廃業店は25店で、売上高は671億円となり、前年比3億円減である。雑誌売上が凋落していく中で、売上を保つためには出店しかないが、それも限界にきていると思われる。
これも自社の保養所をリノベーションしたブックホテル「箱根本箱」の子会社と自遊人のコラボレーションによる開業も発表されているけれど、ここに取次のなりふりかまわない苦境が映し出されている。
MPDも同様の構造で、これも3で見たばかりだが、この売上高のうち、出版物が占めているのは985億円である。これは921店からなるもので、1店当たり年商1億円を何とか上回る売上高になり、月商にして900万円という数字である。つまりMPDは出版物取次というよりも、AVセル、レンタル、ゲーム、文具や雑貨などの戦略事業のためのTSUTAYA流通取次と化している。
だが出版物もAVセル、レンタルもマイナスとなり、文具、雑貨の戦略事業部門がそれをカバーしている。その市場が拡大していくうちは数字を作れるであろうが、これも遠からず飽和状態となるだろう。それは来期の決算に表出していくはずだ]
10.トーハンの単体決算は売上高4613億円、前年比2.6%減。経常利益42億円、同8.3%増、純利益は30億円、同31.3%増。
子会社15社を含む連結売上高は4759億円、同2.6%減、純利益は42億円、同18.2%増、純利益は28億円、同75.9%増。
[文教堂の日販への帳合変更があったにもかかわらず、トーハンも日販も売上高マイナスはほとんど同じで、ダイレクトな影響は数字に反映されていない。来期ということになるのだろうか。
同じといえば、2年続けて書籍売上が雑誌を上回ったことで、取次においても書高雑低は続くと思われる。
そのためにこそ、梓会が京都のふたば書房、丸善、大垣書店の3店で開催している「読者謝恩ブックフェア」のような企画を推進すべきだろう。これは第1回の出版社30社が1000点を出品する時限再販フェアである。すでに6月25日で終了しているが、詳細は出版梓会のホームページを参照されたい]
11.地方・小出版流通センターの決算が出されたので、「同通信」No.490 のレポートを引いておく。
決算の報告をします。昨年は2年連続の赤字から443万円とささやかながら黒字決算でした。取次出荷が予想以上に伸びたことによります。今期(16年度)の決算は、その反動もあり前年比10.03%の売上減少で2014年度より少なくなりました。
太洋社と栗田出版がなくなったこと、扱い高の多かった出版社の倒産やそれに伴う返品、また大型常設店の閉店に伴う返品増も売上を下げました。直接取引き書店であった、紀伊國屋新宿南店の閉店及びそれに伴う返品は書店売上の減少の要因です。
経費削減に努めましたが、一般管理費は前年比−4.08%に止まり、経常損失720万円、最終損失は383万円という苦しい決算となりました。来年も苦しいことが予測されますが、なんとか経費削減に努め、役割りを果たしていきたく存じます。[売上高を補足すれば、2015年が12億9462万円、16年が11億6471万円である。
ここに小取次ながら、現場の肉声が聞こえてくる。雑誌中心ではなく、書籍を主体とする流通を考えるべき時期に入っているとも述べられている。それは出版社の声でもあり、10 の「読者謝恩フェア」もそうした動向の一環として捉えるべきだろう]
12.図書カードを発行する日本図書普及も決算と事業実績を発表。
図書カード発行高は461億6100万円、前年比4.8%減、当期純損失2億7900万円。
[この純損失は「図書カードNEXT」発行と読取機の入れ替えに伴う諸経費の増加によるとされる。
しかしその背景には読取機設置店の減少があり、この10年で3000店に及び、現在は9000店を割ってしまっている。つまり図書カードの赤字も、書店の減少に大きな影響を受けていることになるのだ。
なおこの20年間の「図書券、図書カード発行高、回収高」は>本クロニクル98 に掲載している]
13.小学館の決算は973億円、前年比1.8%増で、12年ぶりの増収決算だが、不動産収入の減少により、当期損失8億円の2期連続赤字。
[売上高の半分近くを占める雑誌とコミック状況が深刻である。
雑誌は273億円、前年比7.3%減、コミックは191億円、同6.2%減となっていて、それを好調な書籍、パッケージソフト、デジタル収入が補っている。「やせるおかず」シリーズや佐藤愛子の『九十歳。何がめでたい』のベストセラー化によるもので、今期も続くという保証はない。
小学館こそは雑誌中心の出版社だったわけだから、書籍中心へとシフトするのは容易ではないと見なすしかない]
14.三洋堂HDの連続決算は売上高221億円、前年比4.6%減。経常利益2億7400万円、同42.9%減。
閉店による減損損失で、1億3400万円を計上したために、当期純利益は6800万円、同58.4%減。
レンタル部門は28億円、同11.6%減という大幅な減であり、レンタルに依存しない業態転換が試金石であるとし、来期は本を核とする「ブックバラエティストア」をめざすとしている。
[三洋堂HDの決算はレンタルを兼ねたナショナル複合店チェーンの現在を象徴していると考えられる。複合店もポストレンタル時代に入ってきているのだ]
15.『キネマ旬報』(5/下)が「映画本大賞2016」を発表している。
[この24人の選者には3人の書店員が参加していて、その一人である ちくさ正文館の古田一晴から、第1位に岡田秀則『映画という《物体X》―フィルム・アーカイブの眼で見た映画』(立東舎)が選ばれたのは画期的だと教えられた。
残念ながら、私はベスト・テンを一冊も読んでおらず、第12位の木下千花『溝口健二論』(法政大学出版局)に目を通していただけなので、これを手引きにして、読んでいきたいと思う]
16.長きにわたって送られてきた東海地方の共同古書目録『伍魅倶楽部』が50号で終刊となり、最後の号が届き、そこには6月付で「終刊のご挨拶」が記されていた。
『伍魅倶楽部』は、本号をもちまして終刊とさせていただきます。
平成2年に伊東古本店、懐古堂書店、神無月書店、三松堂書店、鯨書房の5店でスタートいたしました。41号で三松堂書店が退会。その後、古本屋ぽらんと穂ノ国書店が加入し、27年間に本誌50号、増刊2号を発行いたしました。
数年前から紙の古書目録の寿命が尽きているとは感じておりました。たとえば、目録で売れ残った本を『日本の古本屋』に出品いたしますと、すぐに注文が入ることもあります。そのお客様が『伍魅倶楽部』をお届けしているお客様であることが多々ありました。『伍魅倶楽部』をお届けしても、見ていただけないのです。古本屋は店頭や目録ではなく、インターネットで買う時代になりました。永年のご愛顧に感謝いたします。
ありがとうございました。[平成2年創刊といえば、四半世紀前で、当時はまだ多くの古書目録が送られてきたことを思い出す。確かに近年は目に見えて少なくなっていたことも実感する。
私は『伍魅倶楽部』の上等顧客といえないにしても、トータルにすれば、かなりの冊数を買っているであろう。
最後の注文として、懐古堂書店出品の桑原俊郎『精神論』(精神霊道第二編)を頼んだ。これは明治38年に開発社からの刊行で、桑原は人文書院創業者の渡辺久吉の師匠筋に当たる人物である。私以外に注文した者はいなかったようで、送られてきた。いずれこの本のこともどこかで書くつもりでいる]
17.宮田昇『出版の境界に生きる』(太田出版)を読み終えた。
[サブタイトルに「私の歩んだ戦後と出版の七〇年史」とあるように、宮田ならではの戦後出版史で、戦後の出版の実態や著作、翻訳権エージェンシーの内情、小学館の豐田きいちという人物に関してのことなど、ここでしか知ることができない事柄が語られ、あらためて戦後の出版の始まりを彷彿させてくれる。
これは太田出版の「出版人・知的所有権叢書」第1弾で、第2弾の宮澤薄明『著作権の誕生』も続けて読まなければならない]
18.ついに「出版人に聞く」シリーズ番外編の鈴木宏著『風から水へ―ある小出版社の三十五年』が刊行となった。ここまで翻訳書出版社の明細が、台所事情を含めて語られたことはなかった。
これはたまたま偶然だが、私は『スペクテイター』39の「パンクマガジン『jam』の神話」に「出版史における自販機雑誌と『jam』」を寄稿していて、その自販機編集者人脈に、他ならぬ鈴木宏を出版業界に誘った人物がいたのである。
私たちの世代に共通していることだが、出版業界の人脈は必ずどこかでつながっていたことを思い起させるのである。双方をお読み頂ければ有難い。
なお今月の論創社HP連載「本を読む」17 は〈『都市』と吉本隆明「都市はなぜ都市であるか」〉です
また「日本の古本屋メールマガジン」 に、『郊外の果てへの旅/混住社会論』の自著紹介も書いているので、よろしければ参照されたい。
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