17年11月の書籍雑誌の推定販売金額は1069億円で、前年比7.8%減。
書籍は515億円で、同3.1%減。
雑誌は554億円で、同11.8%減と3ヵ月連続の2ケタマイナス。
その内訳は月刊誌が457億円で、同12.5%減、週刊誌は97億円で、同8.2%減。
しかも雑誌の推定販売部数を見てみると、4月から8ヵ月連続の2ケタマイナスである。
販売金額よりも販売部数のほうのマイナスが続いているのは、コミックスの売上が落ちこんでいることを告げているのだろう。
返品率は書籍が40.5%、雑誌が41.7%で、雑誌のほうは何と1月から11月まで40%を超えていて、販売金額、部数に加え、最悪の雑誌状況の中で、新たな年を迎えようとしている。
前回のクロニクルでも指摘しておいたように、17年の雑誌販売金額は初めて2ケタマイナスとなろう。
1.1月から11月までの出版物推定販売金額の推移を示す。
月 | 推定総販売金額 | 書籍 | 雑誌 | (百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) |
2017年 1〜11月計 | 1,255,731 | ▲6.5 | 659,533 | ▲2.9 | 596,198 | ▲10.1 |
1月 | 96,345 | ▲7.3 | 50,804 | ▲6.0 | 45,541 | ▲8.7 |
2月 | 139,880 | ▲5.2 | 82,789 | ▲1.9 | 57,092 | ▲9.6 |
3月 | 176,679 | ▲2.8 | 105,044 | ▲1.2 | 71,635 | ▲5.0 |
4月 | 112,146 | ▲10.9 | 55,090 | ▲10.0 | 57,056 | ▲11.9 |
5月 | 92,654 | ▲3.8 | 47,478 | 3.0 | 45,176 | ▲10.0 |
6月 | 110,394 | ▲3.8 | 54,185 | ▲0.2 | 56,209 | ▲7.0 |
7月 | 95,208 | ▲10.9 | 46,725 | ▲6.2 | 48,483 | ▲15.0 |
8月 | 97,646 | ▲6.3 | 46,499 | ▲3.7 | 51,147 | ▲8.6 |
9月 | 128,468 | ▲6.5 | 72,040 | 0.5 | 56,428 | ▲14.2 |
10月 | 99,380 | ▲7.9 | 47,377 | ▲5.2 | 52,003 | ▲10.3 |
11月 | 106,931 | ▲7.8 | 51,503 | ▲3.1 | 55,428 | ▲11.8 |
11月までの推定販売金額は1兆2557億円で、前年比6.5%減。書籍は6595億円で、同2.9%減、雑誌は5961億円で、同10.1%減である。
16年12月の推定販売金額は1283億円だったので、これに17年11月までの通年マイナス6.5%を当てはめれば、12月は1200億円ほどとなる。したがって17年度は1兆3757億円前後と予測される。
本クロニクル114で、1兆4000億円を確実に割りこみ、1兆3800億円前後と予測されると既述しておいたとおりとなる。そして18年は1兆3000億円を下回ってしまうとも考えられる。
雑誌をベースとして構築された再販委託制による出版流通システムは、崩壊どころか、解体の渦中へと向かっていきつつある。出版社、取次、書店のいずれもが体力の限界まできていることからすれば、もはや全体としてのソフトランディングはありえず、18年はハードランディング状況が現実化していくと見なすしかない。
とうとうこんなところまできてしまったのだ。
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2.「新文化」編集部編『出版流通データブック2017』が出され、そこに「出店ファイル2016年100坪以上店」の75店が掲載されている。
そのうちの300坪以上店の30店を挙げてみる。
店名 | 所在地 | 売場総面積(坪) | 帳合 |
TSUTAYA OUTLET神栖店 | 茨城県 | 1500 | 日販 |
明文堂書店TSUTAYA戸田 | 埼玉県 | 1070 | トーハン |
ジュンク堂書店立川高島屋店 | 東京都 | 1032 | 日販 |
ジュンク堂書店南船橋店 | 千葉県 | 909 | 日販 |
TSUTAYA BOOK GARAGE 福岡志免 | 福岡県 | 842 | 日販 |
蔦屋書店長岡花園店 | 新潟県 | 800 | 日販 |
HIRASEI遊TSUTAYA三条大崎店 | 新潟県 | 800 | トーハン |
美しが丘TSUTAYA 〈日光堂升井商店〉 | 北海道 | 735 | 日販 |
岡書帯広イーストモール店〈TSUTAYA〉 | 北海道 | 700 | 日販 |
ジュンク堂書店名古屋栄店 | 愛知県 | 610 | 日販 |
ゲオ志摩店 | 三重県 | 600 | トーハン |
ジュンク堂書店柏モディ店 | 千葉県 | 500 | トーハン |
TSUTAYA BOOK STORE 重信 〈フジ・TSUTAYA・エンターテイメント〉 | 愛媛県 | 491 | 日販 |
TSUTAYA 仙台荒井店〈ホットマン〉 | 宮城県 | 477 | 日販 |
くまざわ書店ポーズなんばパークス店 | 大阪府 | 470 | トーハン |
ゲオ日立金沢店 | 茨城県 | 454 | トーハン |
TSUTAYA サンリブきふね店〈リブホール〉 | 福岡県 | 442 | 日販 |
紀伊國屋書店セブンパークアリオ柏店 | 千葉県 | 432 | トーハン |
三洋堂書店芥見店 | 岐阜県 | 430 | トーハン |
喜久屋書店小倉南店 | 福岡県 | 410 | トーハン |
ゲオ新岩見沢店 | 北海道 | 380 | トーハン |
ゲオ北本店 | 埼玉県 | 370 | トーハン |
未来堂書店イオンタウンユーカリが丘店 | 千葉県 | 336 | 日販 |
未来堂書店長久手店 | 愛知県 | 336 | 日販 |
有隣堂ららぽーと湘南平塚店 | 神奈川県 | 325 | 日販 |
今井書店AREA | 島根県 | 320 | トーハン |
天牛堺書店イオンモール堺鉄砲町店 | 大阪府 | 314 | トーハン |
宮脇書店松山店 | 愛媛県 | 300 | 日販 |
三洋堂書店碧南店 | 愛知県 | 300 | トーハン |
ジュンク堂書店奈良店 | 奈良県 | 300 | トーハン |
本クロニクル106などでも「新規店売場面積上位店」の10店は示してきているが、このように30店まで挙げると、TSUTAYAとジュンク堂以外の出店もよくわかる。
16年の動向として、ゲオがトーハンとコラボし、TSUTAYAほどではないにしても、同様の4店の大型複合店を出店している。またトーハンもTSUTAYA出店に連鎖し始めている。
それから未来屋は上位30店では2店しかないが、75店内では合わせて7店、同じく宮脇書店やくまざわ書店も1店だが、合わせれば前者が9店、後者は4店となる。
75店のすべてを挙げれば、それらをめぐる日販とトーハンの寡占出店状況も明らかになるけれど、煩雑なので、明細が必要ならダイレクトに当たってほしい。
しかし留意すべきはこれが16年の出店状況で、このようなバブル出店を背景として、前回と前々回でふれた丸善ジュンク堂の工藤社長たちの辞任、TSUTAYAの50店に及ぶ閉店が起きていることである。
この16年出店の大型店にしても、新規であっても売上は伸びず、売上目標にはほど遠く、すでにリストラや閉店を迫られている店も多々あるはずで、それは18年にはさらに顕在化していくだろう。
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3.日書連加盟書店数はこの半年で109店減少し、3395店となる。
ピーク時は1986年で、1万3000店を数えたわけだから、ちょうど1万店が消滅してしまったことになる。20店台の件も6県を数え、大半の県で減少が続いているので、来年は20店を割る県も出てくるはずだ。
それが2で見たようなナショナルチェーンによるバブル的な大型店出店を受けてのことであることは、いうまでもないだろう。
それにしてもあらためて認識させられるのは、雑誌を中心とする日本の出版流通システムを支えていたのは、これらの消滅してしまった街の中小書店に他ならなかったという事実だ。またそのためには2万を超える絶対的書店数が必要で、さらにそれらが担う外商力も不可欠だったのだと思い知らされる。
現在は大型複合店とかつてのスタンド業者に当たる5万店のコンビニが流通販売のメインを占めてしまった。雑誌の凋落も、これらのことを抜きにしては語れないことは自明のように思われる。
これを書いた後、加盟店58の栃木県の組合が来年3月で脱退することを知った。財政的な理由などからとされ、12年の山口県に続く脱退である。前回のクロニクルでふれた佐野市におけるビッグワンのTSUTAYA大型店の出店も影響しているのだろう。
おそらく来年はさらに脱退が増えていくと判断するしかない。
4.日販の連結中間決算は売上高2825億円、前年比4.9%減。
5.トーハンの連結中間決算は売上高2090億円、前年比6.2%減。
6.日教販の決算は売上高273億円、前年比0.1%減、営業利益は3億9800万円、同13.1%増、当期純理系は2億1700万円、同93.8%の微減収増益。
日販とトーハンは中間決算なので、簡略にふれるだけにとどめた。
日教販の微減収増益決算は減資と各種準備金減少を反映し、繰越利益剰余金がマイナス9億円から3200万円のプラスとなっている。書籍と教科書の売上は263億円とほぼ横ばいで、返品率は総合で12.0%でありながらも、かろうじて黒字化したことがうかがわれる
日教販の低返品率は日販やトーハンの書籍雑誌の高返品率に比べ、TRCに並ぶものだが、それでも「最低レベルの利益」しか出せないとの言が決算説明でなされている
日販とトーハンの今期の最終的決算はどうなるのだろうか。
7.紀伊國屋の決算は売上高1033億円、前年比2.4%。営業利益は13億円、当期純利益は8億5000万円。
国内店舗数は69店で、出店はエブリイ津高店、天神イズム店、イトーヨーカドー木場店、閉店は高松店、大津店。
8.有隣堂の決算は売上高505億円、前年比2.4%増。書籍雑誌売上は224億円で、同3.4%減だが、雑貨や教材販売は好調で、販管費の圧縮もあり、営業利益は3億5000万円、当期純利益は2億3100万円の増収増益決算。
出店はららぽーと湘南平塚店、同立川立飛店、閉店は本厚木ミロード店。
有隣堂の場合、書籍雑誌の占める割合は44.3%で、書店部門シェアは半分以下になっている。近年有隣堂が進めてきた業態転換が功を奏したといえる決算であるのか、これは来期に確認するしかない。
紀伊國屋は新宿南店の撤退、出店と閉店のバランスから考えても、今後は大型店のリストラに向かわざるをえないだろう。それは丸善ジュンク堂にしても、DNPのバックアップが不可欠であったことからわかるように、単独でのこれ以上の出店は難しいと思われるし、経営をめぐるメインバンクとの確執も伝わってくる。いずれにしてもそれが来期は現実となって現れるであろう。
9.CCCがDNPから主婦の友社の99.9%(議決権ベース)を買収。
これは『日経新聞』(12/13)が報じ、それに対し、CCCは同日「当社が発表したもの」ではないとプレスリリースしていた。
だがこれまでの美術出版社や徳間書店の例から考えれば、CCCが直接ではなくても間接的にリリースしたように判断できよう。
その後の『日経MJ』(12/18)で、CCCは主婦の友社のコンテンツを囲い込み、オリジナル商品を開発するなどSPA(製造小売り)モデルを構築し、「書店のユニクロ」を目指すとしている。これは明らかにCCCのリリースによっているのだろう。
買収金額は数億円とされているが、主婦の友社の16年売上高は86億円で、11年に比べ20億円減少し、この間の5期は赤字と見られるが、数億円で買いたたかれるとはよほどの苦境にあったと思われる。
それにこの主婦の友社の買収は出版業界の末路を象徴している。同社の創業者の石川武美は1921年に『主婦之友』を創刊して以来、出版業界のひとつのストリームとしての婦人家庭雑誌の分野を創造し、確立させた人物である。
しかもそればかりでなく、戦後は東販の社長も務め、取次の中枢をも担っていた。その主婦の友社がCCCに買収されるのは何とも皮肉なことで、疑似的にトーハンも日販と同様の立場に置かれた感もする。
だがCCCにしても、前回の本クロニクルで言及しておいたように、レンタル事業と雑誌凋落がダブルで傘下のFC企業を襲い、深刻な状況になっているのだろう。そのためのスローガンが書籍を売る蔦屋化や出版社買収による「書店のユニクロ」化であるが、それらはFCとレンタルを本質とするCCCには不可能だと断言していい。
その一方で、眼鏡店のジンズの導入も聞こえてくる。そのような例はこれからさらに増えていくはずだ。
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10.玩具ゲームの卸大手のハピネットが、音楽、映像ソフト大手の星光堂のCD、DVD部門を吸収分割。買収費は30億円。
星光堂に関しては本クロニクル112の「書籍・CD・ビデオの卸売業調査」で取り上げてきている。16年度売上高は589億円で、大阪屋栗田に続く第4位になっているが、前年比5.6%マイナスであり、定額配信サービスの普及によるCD、DVD販売の落ちこみを伝えてきた。実際に4年連続の営業赤字だったとされる。
CCC=TSUTAYAも同様の影響を受けていることは確実で、しかもそれは日販が囲い込んでいる書店も含めて、大型複合店900店に及ぶし、それらの全盛の時代も終わりつつあることを告げているのだろう。
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11.ティーエス流通協同組合(TS)は次期繰越損失が745万円となり、組合出資金額を上回る債務超過に陥ることから、ブックスページワンの片岡隆理事長は解散も選択肢に入れていくと発言。
77書店からなるTSも、トータルとしての売上がマイナスとなっていく中で、客注や単品注文が増えるほど赤字になっていく構造が露呈し、債務超過に陥ったことになろう。
といって、大きなロット取引への移行や出版社との直取引によるマージン確保は難しく、やはり解散の方向へと進んでいくしかないように思われる。
折しもネットニュースで、明石駅前の木村書店の閉店が伝えられている。歌人の木村栄次が開業し、83年間にわたって営業してきたが、ここ数年は雑誌販売も急減し、閉店を決めたという。
雑誌の凋落はTSのような協同組合、大書店から小書店、複合店からコンビニまでのすべてに及んでおり、それが来年はさらに加速していくことになろう。
12.青春出版社の月刊誌『BIG tomorrow』が休刊。
1980年創刊で、37年にわたるビジネスマン雑誌だったが、2010年の6万部から16年には3万部と半減していた。
塩澤実信の『戦後出版史』の中でも、戦後の創刊雑誌のひとつとして取り上げられているように、『BIG tomorrow』は「人間情報誌」として一世を風靡した雑誌だった。創刊号は32万部を発行し、一時は100万部を突破したことがあったようにも記憶している。
その読者となったのは団塊の世代を中心とするサラリーマンで、出世や投資や副業へとテーマが変わっていったのである。しかし読者のコアだった戦後生まれのサラリーマンのリタイアも影響し、部数も急落したと考えられる。
あらためて『戦後出版史』の45に及ぶ「創刊雑誌と編集者たち」を読んでしまったが、雑誌の存続の難しさを再認識することになった。しかも現在はその正念場にあるということを実感してしまった。
今月は2010年創刊の高校生向け雑誌『HR』(グラフィティ)の休刊も報じられている。
その一方で、雑協と取協などは、昨年の12月31日の「特別発売日」の失敗にもかかわらず、またしても12月29日と1月4日を「特別発売日」として、雑誌、増刊、別冊、ムック、コミックスを296点1000万冊を供給する。今年は「本屋さんへ行こう!」キャンペーンと銘打たれているが、3で見たような雑誌販売を担っていた中小書店の消滅後に、「本屋さんへ行こう!」とは白々しい限りだというしかない。
本クロニクル109で、販売実績フェイクニュースも含め、「取協や雑協は同じことを今年も繰り返すのだろうか」と指摘しておいたが、まさにそうなってしまったのである。
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13.『選択』(12月号)の「経済・情報カプセル」欄に、「訴訟乱発の『イオン』に鉄槌/裁判長に苦言を呈される異様」が掲載されている。
それは『週刊文春』によるイオンの産地偽装米をめぐる記事に対する控訴審判決に関してである。裁判長は「訴訟を起こして言論や表現を委縮させるのではなく、良質の言論で対抗することで論争を深めることが望まれる」と異例の言及をしたという。
これも他では報道されていないのだが、それに続くレポートも同様なので、そのまま引いてみる。
今回の文春報道をめぐっては自社傘下の書店から週刊文春を撤去するなど、言論の自由を軽視する姿勢は徹底している。最近では千葉市の要望を受ける形で、流通業者の中で唯一、傘下書店からの成人雑誌撤去を決めた。他社は成人向けとはいえ、表現の自由を侵しかねないため断っている。
前回の本クロニクルで、イオングループのコンビのミニストップ、未来屋書店などの7000店すべての成人向け雑誌の販売中止にふれ、東京オリンピックに向けてのイオンのパフォーマンスではないかと既述しておいた。
しかしこの『選択』のレポートによって、千葉市からの要望を受けてだと判明したことになる。
これも前回の東京オリンピックと連動してだが、1963年に甲府市の書店から所謂「悪書追放運動」が始まり、それは出版業界全体を巻き込み、全国的にも拡がっていったのである。
今回の千葉市とイオンの例を自治体や流通業者は見ならうべきではない。
「悪書追放運動」に関しては、飯田豊一『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』(「出版人に聞く」12)を参照されたい。
14.『フリースタイル』37が恒例の特集「THE BEST MANGA 2018、このマンガを読め!」を組んでいる。
1位は本連載113で言及した宮谷一彦の『ライク ア ローリング ストーン』だが、それ以外のBest10は一冊も読んでいなかった。
年を追うごとに、ここにランキング入りしているマンガを読んでいないばかりか、出版されていたことも知らないものが増えてきている。これも近年の恒例になってしまったけれど、少しずつ探して読んでいくことにしよう。
巻末にはこちらも恒例の呉智英、いしかわじゅん、中野晴行の「マンガ時事放談」が掲載され、そこには「かつて『町の本屋』というものがあった」との小見出しが付された「放談」も見えている。もう忘れられてしまったのかもしれないが、マンガも雑誌とともに「町の本屋」で売られていたのであり、都市の大型店では置かれてもいなかった。その「町の本屋」の消滅もまた、コミックの失墜とパラレルなのである。
15.『神奈川大学評論』88 が特集「多様性のなかの社会と文化―ジェンダー・セクシュアリティ、グローバリゼーション」を組んでいる。
巻頭対談は藤本由香里(ジェンダー論・漫画文化論)とジェームス・ウェルカー(日本文化史)によるもので、グローバリゼーション化とともに、アジアにおけるBL(ボーイズラブ)=男性同士を描いた女性向けのマンガや小説の受容の変化が論じられている。
ウェルカーはそれをある物事がある文化から多文化へ移るときに、その物事が自然に変わっていくというトランスフィギュレーション(変容、変種、変化)として捉え、藤本も日本の21世紀のLGBT文化との重なりを確認している。いうまでもないかもしれないが、藤本は筑摩書房の元編集者である。
この対談は石田美紀が『密やかな教育』(洛北出版)で示した「〈やおい・ボーイズラブ〉前史」からの21世紀的展開までをたどっていて、14の2位が萩尾望都『ポーの一族 春の夢』だったことも想起させる。
ただ私の場合、たまたま『神奈川大学評論』を恵送されていることから、読む機会に恵まれただけで、多くの読者はこの特集を見ていないと思う。それでささやかな紹介を試みた。
16.陳浩基『13・67』(天野健太郎訳、文藝春秋)を読了した。今年のベスト1のミステリーとしてお勧めしたい。
まったくの新しいアジアミステリーの登場である。香港の英国支配から1997年の中国への返還をはさむ、1967年の反英暴動から2013年の雨傘革命の前年までを背景とする6編の連作で構成されている。
「我々はたしかに不条理の時代を生きているということだろう」との認識のもとに、中国の歴史と犯罪が「本格派」と「社会派」の手法をリンクさせて提出され、国家権力としての警察の視点からその謎が明らかにされていく。それは右であれ、左であれ、ミステリーは国家権力構造の鏡像だというテーゼの展開のようにも思える。そしてミステリーを書くこととその出版の自由こそは、社会のバロメーターであることも。中国本土でのミステリーの刊行は聞いていないし、それはプーチン以後のロシア、独裁的なアジア国家においても同様で、『13・67』のような「本格派」と「社会派」が結びついたミステリーの出現を望んで止まない。
17.今月の論創社HP「本を読む」23は「明石賢生と群雄社出版」です。