出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル118(2018年2月1日~2月28日)

18年1月の書籍雑誌の推定販売金額は929億円で、前年比3.5%減。
書籍は517億円で、同1.9%増。
雑誌は412億円で、同9.5%減。
書籍は4ヵ月ぶりのプラス、雑誌は5ヵ月連続の2ケタマイナスを免れたことになる。
その内訳は月刊誌が321億円で、同9.1%減、週刊誌は90億円で、同10.8%減。
しかし書籍は『漫画 君たちはどう生きるか』の100万部突破と『広辞苑』の発売でプラスになっているが、
書店売上は2%減。
雑誌も定期誌9%減、ムック10%減、コミック17%減である。
また返品率は書籍が34.2%、雑誌が47.0%で、雑誌のマイナスと返品率は、まったく17年の状況と変わっていない。
前年同月比の金額マイナスは34億円だったが、今後その反動がもたらされるのは確実であろう。
なお17年コミック販売金額に関しては紙が1666億円で、前年比14.4%減、電子が1711億円で、同17.2%増となり、
電子が初めて上回ったことになる。
君たちはどう生きるか 広辞苑


 
1.出版科学研究所による1996年から2017年にかけての出版物推定販売金額と前年比の金額を示す。

■出版物推定販売金額(億円)
書籍雑誌合計金額(億円)前年比(%)前年比(億円)
199626,5642.6668
199726,374▲0.7▲190
199825,415▲3.6▲959
1999 24,607▲3.2▲808
2000 23,966▲2.6▲641
200123,250▲3.0▲716
2002 23,105▲0.6▲145
2003 22,278▲3.6▲827
2004 22,4280.7150
2005 21,964▲2.1▲464
2006 21,525▲2.0▲439
2007 20,853▲3.1▲672
2008 20,177▲3.2▲676
200919,356▲4.1▲821
2010 18,748▲3.1▲608
201118,042▲3.8▲706
201217,398▲3.6▲644
201316,823▲3.3▲575
201416,065▲4.5▲758
201515,220▲5.3▲845
201614,709▲3.4▲511
201713,701▲6.9▲1008

これまでは前年比%で示してきたが、ここでは具体的な金額で作成してみた。無残ともいえるマイナス金額の連続だが、これが出版業界の22年に及ぶ現実だったのだ。
この表からわかるように、2017年はこの22年間で最大の落ちこみで、ついに1000億円を超えるマイナスとなってしまった。
それは書店の半減、雑誌の凋落、アマゾンの絶えざるイノベーション、電子書籍の成長などが相乗した結果となって現れた大幅なマイナス、つまり最大の危機といえるだろう。
しかしこの出版科学研究所データは取次ルートを経由した出版物の推定出回り金額であり、18年はアマゾン直販ルート金額が本格的に増加するだろう。それを考慮すれば、前年マイナスは17年以上に加速することが必至だと思われる。
とすれば、リードでも記しておいたように、18年は毎月100億円ほどのマイナスが続き、1兆2500億円という規模にまで追いやられてしまう。そのような出版販売状況下において、再販委託制に基づく従来の出版社・取次・書店からなる出版業界は、必然的に解体の回路をたどっていくことになろう。



2.アマゾンは出版社向け事業戦略説明会を開き、年間1億円以上出荷している出版社55社が新たに直接取引を開始し、累計141社、年間100冊以上出荷していて1億円未満の出版社は605社が開始し、累計2188社、双方で直取引出版社は2329社と発表。

本クロニクル110で、2016年の出版社数が3434社であることを既述しているが、単純計算しても、7割近くが直取引に移行したことを告げている。
残りの3割の1000社はほとんどが小出版社だとすれば、日本の大手、中堅出版社のすべてがアマゾンとの直取引に応じたとみなしていい。まさに雪崩を打ってアマゾンへと押し寄せたかのようだ。それは現在の取次と書店による出版流通システムの行き詰まりに対する、出版社の意志表明でもあることに注視すべきだろう。そうせざるを得ない状況となっているのだ。

アマゾンの説明会では本クロニクルの返品率を始めとする様々なデータが使われ、それに対してアマゾンの返品率も対比され、その直取引メリットが強調されているという。
それらはともかく、このようなアマゾンによる出版社の「囲い込み」を見て想起されるのは、大東亜戦争下の1941年の、四大取次に代わる「出版配給新体制」としての国策会社日配の設立で、それは敗戦後まで続いていくのである。そしてアメリカ占領下で日配は解体され、現在のトーハンや日販などの取次がスタートしていく。
この日配に関しては、清水文吉『本は流れる』(日本エディタースクール出版部)、もしくは拙著『書店の近代』(平凡社新書)を参照して頂ければ幸いである。
そうしてまたしてもアメリカのアマゾンによって、「出版配給新体制」が始まろうとしている。本クロニクルは一貫して出版危機を出版敗戦として語ってきたが、それもまさに目に見えるかたちで現実化してきていることになろう。 書店の近代

odamitsuo.hatenablog.com



3.アルメディアによる2017年の書店出店・閉店数が出された。

■2017年 年間出店・閉店状況(面積:坪)
◆新規店◆閉店
店数総面積平均面積店数総面積平均面積
1月3456152666,575104
2月71,562223907,56493
3月193,3761791006,69371
4月438,195191423,77594
5月61,456243465,391125
6月101,450145445,455130
7月193,885204454,073104
8月543587556,606127
9月184,460248526,148123
10月122,656221594,47781
11月154,586306343,299110
12月82,175272251,73779
合計16534,69221065861,793101
前年実績13327,05320363252,96490
増減率(%)24.128.23.44.116.712.1

出店165店に対して、閉店は658店である。
出店による増床面積は3万4692坪、閉店による減床面積は6万1793坪で、トータルとして2万7101坪の縮小。
2013年から閉店は600店台が続き、15年から出店は100店台なので、書店数と売場面積もパラレルに減少しつつある。しかし出店にしても閉店にしても、1で見たように、18年はこのようなフラットな数字が反復されていくのかどうか、疑わしいところまできている。



4.3と同じく、アルメディアによる取次別新規書店数と新規書店売場面積上位店を示す。

■2017年 取次別新規書店数 (面積:坪、占有率:%)
取次会社カウント増減(%)出店面積増減(%)平均面積増減(%)占有率増減
(ポイント)
日販8236.721,48140.92623.161.95.6
トーハン7523.011,91410.9159▲9.734.3▲5.4
大阪屋栗田5▲44.41,21139.8242152.13.50.3
中央社1▲66.753▲73.553▲20.90.2▲0.5
その他233170.10.1
合計16524.134,69228.22103.4
                           (カウント:売場面積を公表した書店数)


■2017年 新規店売場面積上位店(面積:坪)
順位 店名売場面積所在地
1蔦屋書店アクロスプラザ富沢西店1,080仙台市
2三省堂書店名古屋本店1,000名古屋市
3TSUTAYA小山ロブレ店1,000小山市
4草叢BOOKS新守山店850名古屋市
5蔦屋高田西店850上越市
6TSUTAYA高松サンシャイン通り店789高松市
7TSUTAYA BOOK STOREパークタウン776加古川市
8ブックファースト中野店750中野区
9TSUTAYAリノアス八尾店717八尾市
10草叢BOOKS各務原店714各務原市

取次別出店は日販とトーハンの寡占状態だといってよく、16年は前者が60店、後者が61店だったことに対し、17年はそれぞれ82店、75店と増加している。これを見る限り、大阪屋栗田と中央社の場合は出店体力がなくなりつつあるのだろう。
それを反映するように、新規書店売場面積上位店は、TSUTAYAとそのFCが8店舗を占めている。しかも2位の三省堂書店名古屋本店と8位のブックファースト中野店は既存店のリニューアルなどだから、上位店のすべてがTSUTAYAとそのFCによる独占ということになる。
本クロニクル116で、16年の300坪以上の出店30店を挙げておいたが、10位以内はTSUTAYAとそのFC7店の他に、ジュンク堂2店、ゲオ1店が含まれていた。それにTSUTAYAのFC2店は取次がトーハンであることも判明している。
17年の日販とトーハンの出店状況は、こうしたTSUTAYAとそのFCをめぐる帖合争いも影響し、その数を増加させたと推測される。
だが日販だけでなく、トーハンもTSUTAYAとそのFCに取次として参入するのは異常だといっていいし、これではTSUTAYAとそのFCのためだけに両者があるという様相を呈してしまっている。
日書連にしても、日販やトーハンの株主出版社にしても、どうして抗議しないのだろうか。

その一方で、TSUTAYAは、女性や仕事をしたい人向けの「本並ぶ憩いの場」としての「ツタヤブックアパートメント」の新宿における出店、名鉄不動産のマンション「メイツ深川住吉」の隣接共有棟の本に囲まれた空間プロデュース事業を打ち上げている。

また相変わらず、ツタヤ図書館では問題続出で、新設の周南市立徳山駅前図書館はガラス樹脂による本の背表紙を並べる「アート書架」に1000万円をかけたとして、税金の無駄遣いが指摘されている。

これらのすべてに取次も関係していることは明白である。その功をめでてか、MPDの奥村景二社長が日販の常務へと昇進している。ここまできた一蓮托生の日販とCCC=TSUTAYAの行方はどうなるのか。
odamitsuo.hatenablog.com



5.ジュンク堂書店梅田ヒルトンプラザ店閉店。
 それに当たって、各出版社に「返品特別入帖のお願い」が出され、そこには「あわせて弊社店舗の度重なる閉店により、御社に多大なご迷惑をお掛けしますことを深くお詫び申し上げます」とも記されていた。
 梅田ヒルトンプラザ店は2005年に開店している。

本クロニクル116で、丸善ジュンク堂の店舗リストラが始まるであろうことを既述しておいたが、早くも始まってしまったことになる。
それは中小出版社よりも大手出版社に対する大きな打撃となるだろう。
大手ナショナルチェーンが同じように迫られている問題に他ならず、出版社と取次にとっては返品ラッシュの年になるかもしれないことを覚悟すべき時期に入っている。







7.『文化通信』(1/29)が伝えるところによれば、トーハン大阪支店での新春の会で、近藤敏貴副社長が、コミックを始めとして年末年始の売れ行きが悪く、「書店の人員も限界、日本もセルフレジの時代が来る。ICタグ導入で物流のイノベーションを起こさなければ間に合わない」と強調したという。

セルフレジやICタグを導入するコストを担う体力が書店に残されておらず、現在の取次にも物流イノベーションを起こすことが不可能なのは百も承知での発言であろう。
『出版状況クロニクル4』で、ICタグ導入が経産省の意向で、その実験もそれに基づくものだと既述しておいた。そのことを考えれば、この発言も、取次の再編をにらんだ経産省の意向と見なすこともできよう。
CCC=TSUTAYAのTカード事業やツタヤ図書館も、経産省との関係を抜きにしては成立しないと思われる。それゆえにこれからの出版業界の行方の一端として、そうした経産省絡みの公的資金の導入も選択肢の中に含まれ始めているということになるのだろうか。
出版状況クロニクル4



8.日販は東武鉄道の連結子会社東武ブックスの株式を83.3%取得し、傘下書店とする。
 東武ブックスは1974年設立、店舗数は25店、2017年売上高は32億円。

日販グループ書店は東武ブックスを含め、9法人、271店舗になったとされる。
しかし6の大阪屋栗田が出版社主導で再建され、現在の事態を迎えているように、今こそ取次が書店を経営することの真価が問われようとしている状況にあろう。
で見たように、1000億円を超える出版物販売金額の最大の落ちこみ、におけるアマゾンの直取引の拡大を背景にして、書店を経営することは容易ではなく、それにグループ書店の不良債権は棚上げになったままだと推測されるからだ。
それは等しくグループ書店を抱えるトーハンも同様だと考えられるし、書店の「囲い込み」も限界にきていると思われる。



9.小田急電鉄のグループ会社UDSが、岩波アネックスの1階から3階に「神保町ブックセンターwith Iwanami Books」を4月に開業。
 70坪の1階は書店、喫茶店、ワークラウンジで、岩波書店の新刊を発売し、それらのイベント、著者トークイベント、ワークショップや講座、読書会を定期開催。
 選書やイベント企画はブックコーディネーターの内沼晋太郎が担当し、2階は会議室、3階はサービス・オフィスとパーソナルデスクを設ける。

いうまでもなく、岩波アネックスは柴田信の岩波ブックセンターの跡地であり、そこにどうして小田急電鉄系の会社が、このような「神保町ブックセンター」を開業するのか、そのコンセプトが不明である。
ブックコーディネーターの内沼は博報堂をバックにして、町の活性化のための本をめぐるコンサルタントの地位をつかんだのかもしれないが、神保町はB&Bの下北沢でも、八戸ブックセンターの八戸でもない。コミックにたとえていえば、「アカギ」の町で、「カイジ」のようなパフォーマンスが通用すると本気で思っているのだろうか。



10.東京・渋谷の町の書店として知られていた20坪の幸福書房が閉店。
 1977年創業で、最盛期は2店で年商2億円、2011年には1店で1億円だったが、近年はその半分近くに減少していた。そして閉店に至る理由が『文化通信』(2/19)で語られている。
 「閉店の最大の理由は売り上げ不振です。これが底かなと思っていたら、さらに売れ行きを落として歯止めがきかなくなった。明るい希望があるのならもっと続けたかった。でも先が見えない。潮時と考えました。」

その閉店直前に経営者の岩楯幸雄による『幸福書房の四十年 ピカピカの本屋でなくちゃ!』(左右社)が出されたことも付記しておこう。
ちょうど同じ頃、池袋の古本屋の八勝堂書店の閉店の知らせも届いた。
1970年代までは町の書店や古本屋が街頭の大学といえたし、そのような街の環境の中で、私たちは本を買い、読んできたのである。だがそうした時代は確実に終わってしまったことをあらためて実感してしまう。
f:id:OdaMitsuo:20180225115429j:plain



11.グループがCD、DVDショップなどを運営するワンダーコーポレーションの議決権58%の株式を取得し、最大70億円で買収。
 ワンダーコーポレーションの17年連結売上高は741億円で、関東地方を中心に300店を展開。
 ライザップはワンダーコーポレーションの20店舗にフィットネスクラブなどを出店する計画。

本クロニクル108で、ワンダーコーポレーションが2年連続赤字であることを伝えておいた。しかも売上高741億円のうちのTSUTAYA事業が151億円を占めることも。
この事実と売上高からすれば、CCC=TSUTAYA、もしくは日販が「囲い込む」ことも検討されたはずだが、有利子負債や不良債権の問題から断念したと考えられる。

そこで『FACTA』(3月号)の「ライザップが不振企業『爆買い』の皮算用」が参考になる。ライザップグループは年末年始にかけて、スポーツ用品専門店ビーアンドディ、スポーツサポーターD&M、ヘアケア商品・化粧品販売のジャパンゲートウェイなどの赤字会社を買収し、「安物買いの銭失い」になるのではないかと危惧されている。それに続く買収がワンダーコーポレーションだったのである。
そういえば、本クロニクル95の、やはりライザップに買収された日本文芸社はどうなっているのだろうか。
f:id:OdaMitsuo:20180225182248j:plain
odamitsuo.hatenablog.com
odamitsuo.hatenablog.com



12.KKベストセラーズは、塚原浩和公認会計士が、前経営者の栗原家が所有する株式を取得したことにより、新社長に就任。
 前経営陣は退任し、経営権は移行したが、従業員は継続雇用が確認され、これまで通り営業していくとされる。

11に続いて、またしても『FACTA』(3月号)だが、「『KKベスト』が謎の公認会計士に身売り」と題するレポートを掲載している。
それによれば、KKベストセラーズは最盛期に年商100億円を超えていたが、直近では50億円にも届かず、15年は18人の従業員を自主退職させたことで、従業員は労働組合を立ち上げ、雇用維持と職場環境改善を求め、経営側と交渉を重ねてきた。
だがそのかたわらで、オーナー家は秘かに身売り話を進め、これからリストラが始まるのではないか、本社ビルも売り払われるのではないかと社員や関係者は警戒しているとされる。
前回の本クロニクルで、出版社のM&Aによって起きる経営環境の変化に言及したが、その典型というべきだろう。
KKベストセラーズは1967年に青春出版社出身の岩瀬順三によって創業されている。岩瀬は野坂昭如の側近であったし、KKベストセラーズに関しては稿をあらためたい。



13.講談社の決算が出された。
 売上高1179億円、前年比0.6%増、当期純利益は17億円、同35.6%減の増収減益。
 その内訳は雑誌が558億円、同10.9%減、書籍が176億円、同1.8%増、広告収入46億円、同1.2%減、事業収入357億円、同26.0%増。
 事業収入は電子・版権サービスで、電子版249億円、国内版権63億円、海外版権43億円と前年を上回り、総収入の30%を超える。

紙の分野の減収を電子版などの事業収入が支え、かろうじて増収となったが、増益には至っていない。
このような中で、世界で最も高額な電子書籍「夢箱」が877万円で発売される。これは講談社のコミック1万8345点のほぼすべてを電子書籍化したもので、多くの特典を付し、先着1名に限定販売。
この例からわかるように、講談社は自社のコミックの電子書籍化が完了し、それをベースにして、事業収入分野の成長を促していくのであろう。事業収入はすでに書籍の倍の売上となっていることからすれば、講談社は出版社・取次・書店という近代出版流通システムからのテイクオフをめざしていると見なすしかない。



14.日本ABC協会の新聞発行社レポートによれば、2017年下半期(7-12月)の平均販売部数は、毎日新聞が300万部を割り、292万部となった。朝日新聞は611万部、読売新聞は873万部。
 この10年間で見ると、毎日は98万部、朝日は194万部、読売は128万部の減少である。
 電通の2017年広告レポートは、インターネット広告が1兆5094億円、前年比15.2%増に対し、新聞5147億円、同5.2%減、雑誌は2023億円、同9.0%減であることを伝えている。

日本の書店を支えてきたのは新聞による雑誌や書籍の広告で、これがチラシを打てない書店のための販促広告の代わりを務めてきたのである。
それもこの3紙だけで。10年間に420万部も減少したのだから、書店売上のマイナスとパラレルだったことになる。
また新聞の一面下の書籍の「サンヤツ」広告も埋まらなくなってきているようだ。



15.『朝日新聞』(2/19)が上海の象徴と呼ばれた季風書店(チーフォンシューユワン)の閉店を伝えている。
 1997年に中国近代思想史などの研究者厳搏非(イエンポーフェイ)が創設し、「文化の独立、自由な思想の表現」を理念とし、哲学、民主主義、貧困、労働問題に関する本の在庫も充実し、学者、作家のサロンともなっていた。
2007年には上海市内に8店舗を構えたが、賃料の高騰、インターネット通販、電子書籍の浸透により、店の売上は激減し、閉店が続き、最後の残った上海図書館地下店も賃貸契約の延長を断わられ、閉店を余儀なくされた。
 背景にあるのは、2012年からの習近平指導部による言論の引き締めで、閉店の「理由は賃料でも本離れでもない。社会の圧力だ」とされる。

『出版状況クロニクル4』でも北京の万聖書園や香港の出版社兼書店の巨流発行公司にふれてきているが、おそらく中国のインディーズ系書店の多くが、季風書店と同様の圧力を受けているのだろう。
思想の自由と書店の存在に関して、あらためて考えさせられる。



16.教育学者の板倉聖宣が87歳で亡くなった。

板倉は科学史専攻だが、仮説実験法という独自の理論を編み出し、これに基づく『仮説実験授業』などのテキストを刊行する仮説社を発足させた。
そして1980年代までは斎藤喜博と国土社、遠山啓と太郎次郎社と並んで、仮説社も教育出版社として、その特異な一角を占めていたのである。
その後の仮説社の行方を確認していないけれど、仮説実験授業とともにどうなっているのだろうか。
仮説実験授業



17.山上たつひこ『大阪弁の犬』(フリースタイル)読了。

1970年代前半に、双葉社の『マンガストーリー』に連載されていた『喜劇新思想大系』を読み、新しい「喜劇」漫画の出現を見たように思った。それからすでに半世紀が過ぎたのである。
同書は山上の大阪の貸本漫画の日の丸文庫編集者時代から『がきデカ』までの軌跡がたどられ、ひとつの戦後コミック史となっている。これを読んで、双葉社の首脳からは『喜劇・新思想大系』が嫌われ、言及されていなけれど、青林堂から単行本化された事情が推測できた。
また前回の本クロニクルの鉄道弘済会からも同様で、創刊誌に山上の連載が始まっていたことからクレームがつき、廃刊に追いやられたことも知った。それらは『マンガストーリー』編集部の実態とともに、70年代の出版史の秘められた側面といえるだろう。
これは私見だが、1979年に『漫画サンデー』で連載が始まった畑中純の『まんだら屋の良太』も、『喜劇新思想大系』を範としているように思える。
大阪弁の犬 喜劇新思想大系がきデカ まんだら屋の良太



18.『出版状況クロニクル5』は遅れてしまい、4月上旬刊行となる。
 論創社HP「本を読む」㉕は「追悼としての井家上隆幸『三一新書の時代』補遺」です。

三一新書の時代