出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル128(2018年12月1日~12月31日)

 18年11月の書籍雑誌推定販売金額は1004億円で、前年比6.1%減。
 書籍は507億円で、同1.5%減。雑誌は496億円で、同10.4%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が411億円で、同9.9%減、週刊誌は85億円で、同12.6%減。
 返品率は書籍が40.3%、雑誌が42.3%。しかも月刊誌は41.9%、週刊誌は43.9%で、いうなれば、トリプルで40%を超える返品率となってしまった。
 雑誌のほうは取次が送品抑制をしているし、書籍にしても同様だと推測されるので、この年末に及んでの高返品率は、さらに加速して出版物が売れなくなっていること、また書店の閉店が続いていることを告げていよう。
 このような出版状況の中で、2019年を迎えることになる。
 


1.出版科学研究所による18年1月から11月までの出版物推定販売金額を示す。

■2018年1月~11月 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2018年
1〜11月計
1,175,763▲6.4640,410▲2.9535,353▲10.2
1月92,974▲3.551,7511.941,223▲9.5
2月125,162▲10.577,362▲6.647,800▲16.3
3月162,585▲8.0101,713▲3.260,872▲15.0
4月101,854▲9.253,828▲2.348,026▲15.8
5月84,623▲8.743,305▲8.841,318▲8.5
6月102,952▲6.753,032▲2.149,920▲11.2
6月102,952▲6.753,032▲2.149,920▲11.2
7月91,980▲3.443,900▲6.048,079▲0.8
8月92,617▲9.248,0243.344,593▲12.8
9月121,482▲5.468,186▲5.353,295▲5.6
10月99,129▲0.348,5802.550,550▲2.8
11月100,406▲6.150,729▲1.549,677▲10.4

 18年11月までの書籍雑誌推定販売金額は1兆1757億円、前年比6.4%減である。17年12月の販売金額は1143億円だったので、同様に6.4%減と見なせば、73億円マイナスの1070億円となる。本クロニクル126で予測しておいたように、ついに18年は1兆2830億円前後にまで落ちこんでしまうだろう。
 これはピーク時の1996年の2兆6980億円の半減をさらに下回り、それに加えて19年もまたマイナスと高返品率が続いていくことを予測させるものである。
 10月の消費税増税も待ちかまえているし、19年こそはかつてない出版業界の地獄を見ることになるだろう。
 ダンテの『神曲』は「地獄篇」が終われば、「煉獄篇」「天国篇」へと進んでいくのだが、出版業界の場合、いつまで経っても「地獄篇」が終わらないという状況へと追いやられている。しかも導き手のウェルギリウスや救い手のベアトリーチェの姿はどこにもない。
 それは大手出版社、取次、書店のすべてにまで及んでいて、かつてない深刻な危機状況にあると考えざるをえない。
 かくして年が明けていく。
「地獄篇」(『神曲』地獄篇)



2.文教堂GHDは嶋崎富士雄社長と山口竜男常務が退任し、佐藤協治常務が新社長に選任。

 前回の本クロニクルで文教堂が債務超過に陥っていることを既述しておいたが、結局のところ、創業家も含む経営陣の辞任という次の段階へと進んだことになろう。それは2007年の552億円の売上高が、18年には274億円と半減していることにも起因している。
 その一方で、これも前回の本クロニクルで挙げておいたように、11月21日に239円だった文教堂HDの株価は12月28日には152円となり、株式市場が経営陣の交代に対して、むしろ失望を示すかの安値で、まだ下げ止まっていない感がする。
 それに加え、知らなかったのはブックオフコーポレーションの元社長、現在は日販グループ会社ダルトンの佐藤弘志社長が、文教堂GHDの副社長であったことだ。彼はそのまま再選されたという。これも前回「文喫」をめぐって記しておいたように、日販とブックオフの関係も複雑に絡み合い、清算されていないことを伝えているのだろう。



3.『日経新聞』(12/18)が「苦境のTポイント」と題し、その内実をレポートしている。それを要約してみる。

* 全国に1万7000店を有するコンビニのファミリーマートとTポイントの10年超の独占契約が終わり、ファミマは楽天やドコモ利用客にも買い物でたまるポイントを付与する。
* 2003年に始まったTポイントの躍進と成長を支えていたのはファミマとの提携だったが、蜜月の終わりが突然やってきた。
* 親会社の伊藤忠商事の不満は、自社系列のコンビニの購買データをCCCにもっていかれることと、手数料が高いことだった。また離脱の最大の理由として、Tポイントのネットでの強みの先細り懸念、スマホ決済の急速な普及が挙げられる。
* 楽天の「楽天ペイ」、ドコモの「d払い」により、楽天やドコモはポイントカードの競争力を左右するデータ解析力を高め、消費者の購買行動を正確に予測できるが、Tポイントにはこのピースが欠けていた。
* Tポイントカードはレンタルビデオ店「TSUTAYA」の会員証から進化してきたが、このように楽天やNTTドコモの猛追にさらされ、旗艦店「恵比寿ガーデンプレイス店」を始めとして、「TSUTAYA」も相次いで閉店している。
* レンタルはアマゾンやネットフリックスの動画配信に押され、CCCはTSUTAYAとTポイントという両輪を失いつつある。
* CCCは次世代型書店「代官山蔦屋書店」をモデルとし、FCを含めて16店を全国出店し、「コト(体験)消費」に活路を見出そうとしている。それにはリゾート地における「コト消費」関連の大規模施設も計画されているという。


 これはCCCの危機であると同時に、日販やMPDをも直撃していくことになろう。
 だがそのような危機の中にあっても、相変わらずバブル出店が続いている。
 11月には株式会社北海道TSUTAYAとパッシブホーム株式会社の合弁会社のアイビーデザイン株式会社が、北海道江別市に「江別蔦屋書店」を開店している。そのコンセプトは「田園都市のスローライフ」で、「食・知・暮らし」の3棟からなる大型複合書店とされている。店舗面積は1350坪、北海道TSUTAYAとスターバックスが600坪を占める。
 こうした開発にまつわる様々な資金調達、入り組んだ不動産賃貸借システム、それらに様々なリース、FCが絡み合い、日販もMPDもそのコアを占めざるをえないと思われる

 このような蔦屋出店状況は、『出版状況クロニクルⅤ』における栃木県のTSUTAYAのFCビッグワングループのTSUTAYA佐野店、及び本クロニクル118などで確認してほしい。
 しかしこのようなFCによる大規模開発プロジェクトが、かつてのFC展開のように長きにわたって反復されていくはずもない。その金融と流通を支えた日販の体力ももはや失われているからだ。それにTSUTAYAとTポイントという両輪を失いつつありながら、依然として進められているわけだから、その果てには何が待ち受けているのだろうか。
出版状況クロニクルⅤ
odamitsuo.hatenablog.com



4.トップカルチャーの連結決算は売上高322億円、前年比3.2%増だったが、当期純損失は13億8400万円で、2期連続の赤字決算。
 期中は蔦屋書店のアクロスプラザ富沢西店、蔦屋書店竜ケ崎店の2店を出店し、TSUTAYAから東日本地区の7店舗を譲り受け、期末店舗数は81店。
 それらの店舗増により、「蔦屋書店事業」は314億円、同3.6%増となったが、既存店売上、その他の事業の中古買取販売、スポーツ関連事業などがマイナスで、営業損失11億3200万円、経常損失11億9900万円。

 CCC=TSUTAYAの最大のFCであり、東証一部上場のトップカルチャーがトリプル赤字となり、文教堂と同じく株価へと反映されている。これも11月21日は382円だったが、12月21日は280円で、まだ下げ止まっていない。
 トップカルチャーに象徴されているように、CCC=TSUTAYAのFCの行方はどうなるのか。それは日販とMPDの行方を問うことでもある。



5.広島の広文館の事業を継承するために新会社「廣文館」が新設され、トーハン、大垣書店、広島銀行の3社が出資し、社長にはトーハンの石川二三久経営戦略部長が就任。
 広文館は1915年に創業しているので、100年以上の歴史を有する老舗書店であり、18店舗を運営し、その株式は経営者の丸岡家が100%保有していた。
 トーハン、大垣書店は第三者割当増資を引き受け、トーハンは3300株を引き受けることで、議決権比率は100%だとされる。ただ廣文館の資本金、広島銀行を含めた3社の出資額、その比率などは非公表。
 廣文館は18店舗と外商事業を引き継ぎ、社員38人やパート・アルバイト126人は1人ずつ面接し、再雇用するかを決めていくという。

 前回の本クロニクルで、山口県の老舗書店鳳鳴館の破産を伝え、15店舗を経営し、その負債が6億5000万円であることを記しておいた。
 おそらく広文館の場合、それどころの負債ではないことが、広島銀行の廣文館への出資からもうかがえる。ただそれは債権確保の一環と見なすべきで、再建の一助ではないことはいうまでもないだろう。
 経営陣の派遣と議決権から考えても、廣文館はトーハン主導による清算会社の色彩が強く、店舗と社員リストラ、その受け皿としての大垣書店、資産の売却とリースバック的不動産プロジェクトなどの様相を呈していくと思われる。
 これからさらに露出してくるのは、取次による書店経営は可能かという問題であろう。講談社や小学館による取次経営が成立しなかったことは、大阪屋栗田に見てきたばかりだが、取次による書店経営の破綻も続出していくことは確実だ。



6.福家書店管財(旧福家書店)が特別清算開始。
 同社は1999年に設立され、大手芸能プロダクションの代表が社長に就任し、福家書店として新宿、銀座、横浜、福島など、ピーク時には20店舗を展開していた。
 その特色はアイドル写真集発売の際のサイン会や握手会を始めとする各種のイベント開催で、2009年には売上高46億円となっていた。
 しかし経営的には地方店舗などの赤字が積み重なり、不採算店舗の閉鎖により、11店舗まで減少し、2016年には売上高28億円、債務超過状態に追いやられていた。
 なお17年に現商号に変更するとともに、会社分割で(株)福家書店が設立され、事業は継承され、福家書店は存続している。

 銀座にあった福家書店はずっと芸能物に強い書店として知られていたが、経営的に行き詰まり、それを大手芸能プロダクションが引き受けたことで、当時はかなり話題になったものだった。 
 だが当然のことながら、芸能プロダクションに書店経営ができるはずもなく、今回の措置へと必然的に至りつくしかなかったのであろう。



7.一般財団法人「全国書店再生支援財団」が発足。
 同財団はさらに書店のない地域を増やさないように、その都度、審査した上で、既存書店や業界団体の支援などに一定の金額を支出し、援助していくことを目的としている。
 TRCの石井昭社長が南天堂の奥村弘志社長に提案し、1年間の調整期間を経て設立に至り、来年2月から本格的に始動予定で、奥村が代表理事となる。
 財団の目的は書店の支援の他に、読書推進運動、書店人の育成、業界の各種団体の支援などが挙げられている。

 しかしTRCからの毎年の拠出資金は非公表で、書店会館に事務所を置くこと、及び評議員や理事メンバーのことを考えると、またしてもパラサイトがぶら下がる出版業界の外郭団体の設立、それももはや時期を逸した印象を否めない。



8.紀伊國屋書店は海外法人17社などを含めた連結決算を初めて発表し、連結売上高は1222億円、単体売上に190億円が上乗せとなった。
 単体売上高は1031億円、前年比0.2%減、国内70店舗を運営する「店売総本部」売上は506億円、営業総本部は480億円。


9.有隣堂の決算は売上高517億円、前年比1.9%増。その内訳は書籍が176億円、同3.9%減、雑誌が40億円、同3.8%減だったが、雑貨、音楽教室、OA機器などが前年を上回り、増収となった。

 からにあるような現在の書店状況下における大手書店の決算をラフスケッチとして提出しておく。



10.日販の連結中間決算は2640億円、前年比6.6%減。
 「出版流通業」は2469億円、同7.0%減、その経常利益は5億円、同41.9%減。
 日販単体売上高は2119億円、同6.4%減で、145億円のマイナス、MPDも53億円減で、経常損失。
 「小売業」は265店舗で317億円だが、1100万円の経常損失。


11.トーハンの単体中間決算は1831億円、前年比9.2%減。経常利益はこの10年で初めて10億円を割るという9億7500万円、同38.7%減。
 連結売上高は1917億円、同8.3%減、中間純利益は8600万円で、グループ書店の閉店に伴う除却損を計上したために、単体よりも収益性が低下。

 これも8、9と同様にラフスケッチにとどめたが、大手取次の売上減少と実質的な赤字状況が急速に進んでいることがうかがわれる。
 それにで指摘しておいたように、これからは取次による書店経営が可能かという問題が浮かび上がり、店舗リストラに伴う損失はますます積み重なっていくだろう。まだバブル出店の後始末は端緒についたばかりであり、さらなる損失が待っている。
 それに加えて、取次の運賃協力金の要請に応じたのは、日販やトーハンとも150社から200社のようで、とても流通改善につながるとも思えない。
 またこれも前回の本クロニクルでも引いておいた、日販とトーハンがいうところの「プロダクトアウトからマーケットインをめざした根本的な流通改革」などのきざしは、取次や書店の現場からまったく感じられない。
 日販とトーハンの年間決算はどうなるのか。



12.日教販は売上高280億円、前年比2.6%増で、7年ぶりの増収決算となる。
 当期純利益は2億円、同0.7%減の微減。
 売上高内訳は、書籍が196億円、同100%、「教科書」が75億円、同9.6%増。

 日教販の「書籍」は学参、辞書、事典がメインで、「教科書」と合わせた総合返品率も12%であることが増収の要因といえよう。
 TRCもそうであるが、専門取次の場合、低返品率によって利益を確保できる。
 それに反し、総合取次における40%前後に及ぶ返品率と、取引書店の閉店がどのようなダメージをもたらしているか、そのことはあらためていうまでもないだろう。



13.『日本古書通信』(12月号)において、岡崎武志が「昨日も今日も古本さんぽ」98で、飯能の文録堂書店、池袋の夏目書房の閉店を伝え、後者の「閉店セール」をレポートしている。
 また同じく福田博が「和書蒐集夢現幻譚」83で、岩波書店の『国書総目録』全9巻の古書価が「何と!2千円」になったことを取り上げ、「哀愁の『国書総目録』」追悼文を書いている。

f:id:OdaMitsuo:20181223235047j:plain

 実は私も18年にわたって『日本古書通信』に「古本屋散策」を連載していて、それが200回を超えたので、一本にまとめるために、現在校正に取り組んでいるところなのである。
 その2004年に、40年も通っていた「浜松の泰光堂書店の閉店」のことを書き、「閉店祝」として、『国書総目録』を5割引の2万5千円で買ったことにふれておいた。それから15年後には「何と!2千円」となってしまったことになる。時は流れた。
 この事実に象徴される古書価の暴落を考えると、泰光堂はまだよき時代に閉店したと思うしかない。それに私が「浜松の泰光堂書店の閉店」を『日本古書通信』で書いたことにより、東海道沿線の老舗だったことも相乗し、客が殺到するように押し寄せ、在庫がほとんど売れてしまったという。店主もとても喜び、私も書いてよかったと思った次第だ。だがそれも15年前のことで、古本屋状況もドラスチックに悪化していったことを、『国書総目録』の古書価は伝えている。



14.これも通販専門古書目録『股旅堂』20が届いた。

f:id:OdaMitsuo:20181223235612j:plain:h120

 この古書目録の特色は未知のアンダーグラウンド文献を紹介していて、とても教えられる。確か店主は八重洲ブックセンター出身だと記憶しているが、古書業界においても、惜しくも亡くなってしまったリブロ出身の上の文庫の中川道弘のことを彷彿とさせる。
 今回の目玉は大島渚の映画L' Empire des sens のモデル事件の現場写真で、高価格であることはいうまでもないが、売れたであろうか。



15.創元社からディヴィッド・トリッグの『書物のある風景』(赤尾秀子訳)が出された。

書物のある風景

 これはサブタイトルに「美術で辿る本と人との物語」が付されているように世界各地の美術館コレクションの古今東西の作品から、まさに「書物のある風景」を描いたものを300点ほど選び、編まれた一冊である。
 ほとんどが初見で、「書物のある風景」がこのように多く描かれていたのかとあらためて教えられた。もはや現在では電車の中で本を読んでいる姿はほとんど見られず、そのような300点ならぬ300人を見るには、何本もの電車が必要とされるであろう。
 それを「書物のある風景」は一冊だけで実現させている。もっとも印象的なのは、右にジャン=アントワーヌ・ロランの「グーテンベルグ、活版印刷所の発明者」が置かれ、左にはマルクーハンの「グーテンベルクによって、人はみな読者になれた」との一節が掲げられた70、71ページの見開きである。
 年始の読書にふさわしい一冊としてお勧めしよう。



16.中柳豪文『日本昭和トンデモ児童書大全』(「日本懐かし大全」シリーズ、辰巳出版)を読んだ。

日本昭和トンデモ児童書大全

 「著者のことば」として、「昭和時代、ぼくたちが子どもだった頃には、今では信じられないような内容の児童書がたくさん溢れていた」とある。
 確かに岩波書店や福音館の児童書が良書とされる一方で、大手出版社、実用書出版社の児童書は俗悪だとされ、出版業界においても、売れてはいても評価はとても低いものだった。
 しかしあらためてこの一冊を読むと、縁日のお化け屋敷にも似て、いかがわしい「トンデモ児童書」の世界にまさに「懐かしさ」を覚えてしまう。これも著者がいうように、「子ども相手に、作り手である大人たちが真っ向から勝負を挑んだ『本気の出来』であったからだろう」。
 現在ではそれどころか、子どもだましの本ばかりが売られているように思える。



17.沖縄の比嘉加津夫が編集発行する『脈』(99号)が友人から送られてきた。

f:id:OdaMitsuo:20181221105008j:plain:h120

 『脈』は本クロニクル124などでも取り上げてきたが、99号は『沖縄大百科事典』を編集した「上間常道さん追悼」、及び吉本隆明の少年時代の師であった「今氏乙治作品アンソロジー」のふたつの特集となっている。
 いずれも貴重な特集といえるし、『脈』は売り切れると入手は難しくなると思うので、ぜひ早めに購入してほしい。書店注文は地方・小出版流通センター扱いであることも記しておく。
odamitsuo.hatenablog.com



18.論創社HP「本を読む」㉟は「『幻想と怪奇』創刊号と紀田順一郎『幻想と怪奇の時代』」です。