出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル140(2019年12月1日~12月31日)

 19年11月の書籍雑誌推定販売金額は1006億円で、前年比0.3%増。
 書籍は537億円で、同6.0%増。
 雑誌は468億円で、同5.7%減。
 その内訳は月刊誌が394億円で、同4.3%減、週刊誌は74億円で、同12.4%減。
 返品率は書籍が37.3%、雑誌は41.9%で、月刊誌は41.1%、週刊誌は45.8%。
 ただ書籍のプラスは、前年の返品率40.3%から3%改善されたことが大きく作用しているのだが、書店売上は5%減であることに留意されたい。
 雑誌のほうは定期誌の値上げが支えとなっているけれど、相変わらずの高返品率で、19年は一度も40%を下回ることなく、11月までの返品率は43.3%となっている。


1.出版科学研究所による19年1月から11月までの出版物推定販売金額を示す。

■2019年 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2019年
1〜11月計
1,130,017▲3.9621,358▲3.0508,659▲5.0
1月87,120▲6.349,269▲4.837,850▲8.2
2月121,133▲3.273,772▲4.647,360▲0.9
3月152,170▲6.495,583▲6.056,587▲7.0
4月110,7948.860,32012.150,4745.1
5月75,576▲10.738,843▲10.336,733▲11.1
6月90,290▲12.344,795▲15.545,495▲8.9
7月95,6194.048,1059.647,514▲1.2
8月85,004▲8.241,478▲13.643,525▲2.4
9月117,778▲3.068,3560.249,422▲7.3
10月93,874▲5.347,040▲3.246,834▲7.4
11月100,6590.353,7966.046,863▲5.7

 19年11月までの書籍雑誌推定販売金額は1兆1300億円、前年比3.9%減である。
 この3.9%減を18年の販売金額1兆2920億円に当てはめてみると、503億円のマイナスで、1兆2417億円となる。つまり19年の販売金額は1兆2400億円前後と推測される。
 現在の出版状況と雑誌の高返品率を考えれば、出版物販売金額と書店市場の回復は困難で、20年には1兆2000億円を割りこみ、数年後には1兆円を下回ってしまうであろう。
 そこに至るまでに、書店だけでなく、出版社や取次はどのような状況に置かれることになるのか。出版業界はどこに向っているのか。
 20年にはそれらのことがこれまで以上に現実的となり、問われていくであろう。



2.愛知県岩倉市の大和書店が破産。
 同書店は「ザ・リブレット」の屋号で、名古屋市内を中心として、岐阜、静岡、神奈川、大阪、岡山にも進出し、20店を超えるチェーン展開をしていた。
 2018年は年商30億円を計上していたが、売上が落ちこみ、資金繰りが悪化し、今回の処置に至ったとされる。
 破産申請時の負債は30億円だが、流動的であるという。

 11月30日に「ザ・リブレット」全23店が閉店し、12月に入ってそのリストもネット上に掲載されている。
 それを見ると、「ザ・リブレット」は主としてイオン・タウン、イオン・モール、アピタ、ららぽーとなどのショッピングセンターやスーパーなどに出店していたとわかる。
 しかも驚きなのは、沼津店が10月4日に開業したららぽーと沼津に出店していたことで、何と2ヵ月足らずで閉店に追いやられている。どのようなテナント出店のからくり、資金調達、取次との交渉が展開されていたのだろうか。坪数は200坪である。
 取次は楽天ブックスネットワークで、1990年代にはトーハンであったことからすれば、今世紀に入った時点で、大阪屋か栗田へと帖合変更がなされ、それから大阪屋栗田を経て、現在へと至ったことになろう。そしてそれはバブル出店を重ね、負債を年商まで増大させ、延命してきたことを意味していよう。

 だが本クロニクル138でふれたように、大阪屋栗田の楽天ブックスネットワークへの社名変更に伴うようなかたちで破産となったのである。楽天ブックスネットワーク帖合の書店破産はまだ続くのではないだろうか。
 この背景には、出版物の売上減少下にあって、書店がテナント料を払うことが困難になってきていることを告げている。かつて郊外消費社会と出店の中枢を占めていた紳士服の青山商事やAOKIも赤字が伝えられているし、その事実から類推すれば、書店は大型店や複合店にしても、もはや成立しないテナントビジネスモデルとなっているかもしれない。
 また全23店同時閉店の書店在庫の行方に注視する必要があるだろう。このような一斉閉店においては、取次による回収もできないと思われるからだ。本当に2020年の書店市場は何が起きようとしているのか。

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3.日販グループホールディングスの中間決算は連結売上高2508億円、前年比5.0%減の減収減益。取次事業は2303億円、同5.2%減。

4.トーハンの中間決算は連結売上高1896億円、前年比1.2%減、中間純損失2億500万円の赤字。トーハン単体売上高は1779億円、同2.9%減の減収減益。

5.日教販の決算は売上高266億円、前年比4.9%減、当期純利益は2億1100万円、同2.0%減。

 日販は減収減益、トーハンは赤字の中間決算で、取次事業は両社とも実質的に赤字と見なしていい。
 物流コストは上昇しているし、書店売上の凋落、台風の影響、消費税増税などを考えれば、通年決算がさらに厳しくなるのは必至であろう。
 日教販の決算は専門取次ゆえに、書籍が学参、辞書、事典で占められていることから、返品率は13.9%となっている。だから減収減益にしても利益が出ている。
 それに比べて、日販は書籍が33.4%、雑誌が47.5%、トーハンは書籍が43.5%、雑誌が49.0%で、この高返品率が改善されない限り、両社の「本業の回復」は不可能だろう。しかも雑誌は返品量の調整が毎月行なわれているにもかかわらず、高止まりしたままで、20年には50%を超える月も生じるのではないかと推測される。

 ちなみに、コミックにしても、返品率は日販が28.2%、トーハンが29.3%で、日教販の書籍返品率の倍以上であり、こちらも30%を上回ってしまうかもしれない。
 そのようにして、取次の20年も始まっていくしかない状況に置かれている。



6.紀伊國屋書店の連結売上高は1212億5500万円、前年比0.8%減、当期純利益は9億8000万円、同11.0%増。
 単体売上高は1022億6600万円、同0.9%減。
 「店売総本部」売上は500億円、同1.3%減、外商の「営業総本部」は477億円、同0.5%減、当期純利益は8億4500万円、同5.0%増。


7.有隣堂の決算は売上高536億5500万円、前年比3.7%増。当期純利益は1億5100万円、同25.8%増。
 分野別では「書籍類」が175億5500万円、同0.5%減、「雑誌」が40億3500万円、同0.6%増とほぼ横ばいだが、その他の「雑貨」「教材類」「OA機器」などが好調だったとされる。

 紀伊國屋書店は国内68店、海外37店で、計105店で、12年連続黒字決算だが、国内店舗の売上の落ちこみは同書店も例外ではないはずだし、来年の決算ではどうなるだろうか。
 有隣堂のほうも増収増益だが、すでに出版物売上シェアは40%まで下がっていて、その他部門の売上が決算の要であるところまできている。そうした意味においても、本クロニクル132で取り上げておいた「誠品生活日本橋店」の売上が気にかかる。その後の動向は伝わってこない。どうなっているのか。
odamitsuo.hatenablog.com



8.『日経MJ』(11/1)が「王道アパレルへ ゲオ衣替え中」という大見出しで、古着店「セカンドストリート」の一面特集を掲載している。
 それによれば、店舗数は630店に達し、しまむら、ユニクロ、洋服の青山に続く店舗数となり、売上も500億円、ゲオ全体売上高の18%を占めている。

 かつては「DVDレンタルが看板」と小見出しにあるように、ゲオの既存店舗などにも出店を加速させているようで、1Fがゲオ、2Fがセカンドストリートという店舗を見ている。
 やはりゲオもユーチューブ、ネットフリックスなどにより、DVDレンタルなどは苦戦し、難しい状況にあるとの遠藤結蔵社長の言も引かれている。
 それもあって、セカンドストリートは現在、年40店ペースで出店し、23年に800店、長期的には1000店をめざすという。
 トーハンとゲオは提携しているし、トーハンとゲオの連携店舗がセカンドストリートになることも考えられるので、ここで紹介しておく。



9.東邦出版が民事再生法を申請。
 11月19日付で、委託期間外商品の返品不可を3000店以上の書店にFAX通知し、取次にも伝えられた。負債は7億円。

 前回の本クロニクルで、シーロック出版社の自己破産にふれ、親会社に当たる出版社も苦境にあると記したが、これはこの東邦出版をさしている。
 委託期間外商品の返品不可の問題は、東邦出版が長きにわたって書店への営業促進をしてきたことから、高橋こうじ『日本の大和言葉を美しく話す』や山口花『犬から聞いた素敵な話』などがベストセラーになっていたことに求められる。
 それらの書店在庫がどのくらいあるのか、当然のことながら、正確にはつかめない。結局のところ、書店は返品不能品処理をするしかないと思われる。
 以前にリベルタ出版の廃業を伝えたが、幸いにして返品は少なく、数十万円で終わったようだ。

日本の大和言葉を美しく話す 犬から聞いた素敵な話



10.宝島社は来年2月に子会社の洋泉社を吸収合併し、その権利義務を継承し、従業員も継続雇用する.。
 ただ月刊雑誌『映画秘宝』は休刊となる。

 洋泉社は元未来社の藤森建二によって1985年に創業され、98年に宝島社の子会社になっていた。
 35年間の出版物は単行本、新書、ムックなど幅広いジャンルにわたる。私も単行本や新書だけでなく、町山智浩が手がけたムック『映画秘宝EX』や実話時報編集部などの編集による極道ジャーナリズムムックをそれなりに愛読してきたので、洋泉社の名前が消えてしまうことに淋しさを感じる。

 だが幸いにして、『出版状況クロニクルⅢ』で既述しておいたように、2011年に藤森の『洋泉社私記―27年の軌跡』(大槌の風)が出され、そこには「刊行図書総目録―1985~2010」も収録されている。また編集者の小川哲生の私家版『私はこんな本を作ってきた』(後に『編集者=小川哲生の本』として言視舎から刊行)、『生涯一編集者』(言視舎)も出されているので、洋泉社の記録としても読まれていくであろう。
映画秘宝  f:id:OdaMitsuo:20191224203458j:plain:h110 編集者=小川哲生の本  生涯一編集者

【付記】
 読者のtwitterによれば、藤森は現在でもブログ「大槌の風」を更新しているので、失明は誤報ではないかとの指摘があった。 確実な情報筋より伝えられたこともあり、藤森に確認せずに記したが、誤報であれば、お詫びしたい。
それゆえにその部分を削除する。


11.緑風出版の高須次郎が朝日新聞社の言論サイト「論座RONZA」(12/5)で、「本屋をのみこむアマゾンとの闘い」という臺宏士のインタビューを受けている。

 これは高須の『出版の崩壊とアマゾン』 (論創社)をベースとするその後の補論と見なせよう。
 しかしそれから年も迫った頃に、アマゾンが日本に法人税を納付していたことが明らかになったので、高須に代わって、補足しておく。
 中日新聞(12/23)などによれば、アマゾンは日本国内の販売額を日本法人売上高に計上する方針に転換し、17、18年の2年間で300億円の法人税を納付したとされる。
 これは国際的な議論となっているデジタル課税の先取り、独禁法にふれる優越的地位の乱用、国内の宅配危機への非難に対する回避処置とも見られる。
 19年は過去最高の売上高になると推測され、その法人税納付に注視すべきだろう。
出版の崩壊とアマゾン



12.みすず書房の編集長だった『小尾俊人日誌1965―1985』 (中央公論新社)が刊行された。

 この小尾、丸山眞男、藤田省三を主人公とし、加藤敬事の「まえおき」にある「みすず書房を舞台に展開された丸山と藤田の間のヒリヒリするような感情のドラマ」が、どのような経緯と事情で中央公論新社から出されることになったのかは詳らかでない。
 それでも、この日誌、加藤と市村弘正の解説対談「『小尾俊人日誌』の時代」を読むと、出版業界に入った1970年代のことが思い出される。人文社会書はまさに小尾や未来社の西谷能雄の時代でもあったけれど、出版業界は小さな共同体であり、彼らは私などに対しても謙虚に接してくれた。
 しかし時は流れ、出版業界も編集という仕事も時代も変わってしまったことを、この一冊は痛感させてくれる。
 『小尾俊人日誌1965―1985』 に関しては、いずれ稿をあらためたいと思う。
小尾俊人日誌1965―1985



13.『出版月報』(11月号)が特集「図書館と出版の今を考える」を組んでいる。

 本クロニクルでも、毎年1回、公共図書館に関してレポートしてきているが、この特集も「公共図書館の現状」「書籍販売部数と公共図書館貸出数」「公立図書館職員数の推移」をフォローしている。
 しかしこの特集の特色は「出版社にとって図書館は大事な存在 求められるのは両社の協働」とあるように、『出版月報』ならではの「出版者と図書館の関わりについて」で、人文書、専門書、実用書、児童書、文芸書の出版社に取材し、それを報告していることにある。
 その筆頭には12のみすず書房が挙げられ、「初版1800部の書籍では、200部程度が図書館分」「10%程度の占有」だとされる。そしてレポートは「公共図書館全国の3千館のうち、千部の発注があれば、初版一千部以上は確定できる。図書館の購入で、少部数でも専門的な多様な出版企画を成立させることが可能になっている」と続いていく。
 だが現実的に公共図書館から少部数の人文書、専門書の「千部の発注」はあり得ない。この問題も含め、公共図書館の現在についての一冊を書くつもりでいる。
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14.『前衛』 (1月号)を送られ、そこに高文研編集者の真鍋かおる「『嫌韓中本』の氾濫と出版の危機」が掲載されていた。

 これは「極私的な出版メディア論」との断わりがあるように、人文書編集者から観た「歴史修正主義本、嫌韓反中本の氾濫」の考察である。
 そのことに関して、真鍋は取次の「見計い」配本も後押ししているのではないかと指摘し、「なぜ書店にヘイト本があふれるのか。理不尽な仕組みに声をあげた一人の書店主」というブログを引いている。
 また真鍋は自らの編集者としてのポジションも表明し、そのようなヘイト本の氾濫状況に抗するために、自分が手がけた本をも挙げているので、興味のある読者は実際に読んでほしい。
前衛



15.沖縄のリトルマガジン『脈』103号の特集「葉室麟、その作家魂の魅力と源」が届き、それとともに編集発行人の比嘉加津夫の急死が伝えられてきた。

 『脈』は友人から恵送されているので、本クロニクルでもしばしば取り上げてきた。2月発売の104号特集「『ふたりの村上』と小川哲生」と予告されている。困難は承知だが、刊行を祈って止まない。
 折しも協同出版が子会社の協同書籍を設立し、沖縄の出版社の書籍の取次事業に参入することを表明したばかりでもあるからだ。
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16.『股旅堂古書目録』22 が出た。

 今回の「巻頭特集」は「或る愛書家秘蔵の地下室一挙大放出 ‼ 」で、書影も4ページ、64点に及び、昭和の時代の「地下本」の面影を伝えてくれる。
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17.拙著『近代出版史探索』は鹿島茂による『毎日新聞』(12/22)書評が出され、12月7日の東京古書組合での講演「知るという病」は『図書新聞』に掲載予定。
近代出版史探索
 また論創社HP「本を読む」㊼は「『アーサー・マッケン作品集成』と『夢の丘』」です。