出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル25(2010年5月1日〜5月31日)

出版状況クロニクル25(2010年5月1日〜5月31日)


今月の出版業界に関する報道はあきれるほどiPad電子書籍問題一色に染められ、それはまだ続いていくのだろう。
だが本クロニクル24でも書いておいたように、これらの報道は現在の出版業界の危機の本質を隠蔽、ミスリードしかねない狂騒曲と見なすべきだろう。
1989年の消費税導入に際し、ほとんどの商品が外税となった。出版業界は同じような狂騒の果てに、内税方式を採用するという失策を犯したことを忘れるべきではない。
この5月は経済不況、大型連休、天候不順も重なり、スーパーやコンビニは売上不振だった。書店も例外ではないはずだ。電子リーダー狂騒曲の背後で、出版危機はさらに深刻化し、今年上半期の終わりを迎えようとしている。それでも今月はいくつかの電子書籍をめぐる話から始めるしかないだろう。
                                                                      

1.『中央公論』6月号が特集「活字メディアが消える日」を組み、「書籍の電子化は作家という職業をどう変えるか」という平野啓一郎のロングインタビューを掲載している。
彼の主張を簡単に要約すれば、次のようになろう。
これからは電子書籍が主流になり、日本の場合、大日本印刷による出版業界の再編がカギとなる。電子書籍化によって、流通コストは下がるので、日本の出版社も作家も海外市場をめざすべきで、編集者はそれに携わるプロデューサー、エージェントへと変わっていくことが求められる。

電子書籍の行方は市場も含めてまだ立ち上がったばかりで、どうなっていくかは誰も確定できない。だから作家であっても編集者であっても、自由な発言は許されるし、どのような未来予測を述べてもかまわない。
 しかし現在の出版業界についての間違った前提から始めるべきではないと思う。平野は言っている。
「出版業界にとって最大の問題は流通と小売りです。具体的には出版社がこれまでの関係から、取次会社を潰せないとか、既存の大型書店との関係が切れないという問題です。」
 誰がレクチャーしたのか知らないが、まったく意味をなしておらず、出版業界の危機が何であるのかをわかっていない。出版社が取次を潰せないとか、既存の大型書店との関係が切れないのが最大の問題であるとの認識は間違っている。出版業界の常識と構図からすれば、取次が出版社を潰すことはできても、逆はありえず、大型書店との関係も同様である。
 平野の言い方だと、現在の出版業界の問題は「流通と小売り」だけに集約され、出版社は悪くないということになる。取次や書店と言わず、「流通と小売り」との言も思い上がった感じがする。取次や書店もあって、平野の本を売ってくれたので、若手作家を代表するようなかたちで、『中央公論』のインタビューに登場する立場になったのではないだろうか。
 要するに平野は自らを育ててくれた出版社だけが大切で、取次や書店はどうでもよく、電子書籍化の流れにうまく乗り、自らが国際的な作家になりたいと告白しているように見える。
 このような間違った出版業界の現在についての見取図を公然と掲載する『中央公論』もどうかしている。おそらく『中央公論』編集部自体も何もわかっていないのだ。この期に及んでも、平野と同様に、出版危機のすべては取次と書店にあると思っていると考えるしかない。
 これからも電子書籍と出版業界の問題に関して、多くの作家たちが発言していくと思われる。しかし出版業界の現在の危機についての正しい認識の上になされるべきだ。生半可な知識をふり回すことは止めたほうがいい。むしろそれよりも世界に通用する作品を提出することに全力をそそぐべきだろう]

2.『週刊エコノミスト』(6/1)も特集「電子書籍革命」を組んでいる。他誌や新聞でもいくつもの特集や多くの記事が掲載されているが、今月出た中では最も目配りがよく、「iPadキンドル」「アマゾンとアップル」「米国の『過去と現在』」「どうなる日本の出版界」などといった多面的な特集で、啓蒙と情報に富んでいる。

[しかしこの特集にも気になる部分があった。それは永江朗の日本の出版業界に関する「『三位一体の出版社・取次・書店』電子書籍の軟着陸目指す」である。永江はそこで電子書籍は10年後に一般化すると予想し、紙の本に取って代わるのではなく、新しく加わるものとして軟着陸するとし、それがブックオフの出現と同様だと捉え、次のように書いている。
「たしかにブックオフの出現によって売り上げを減らした書店もあるし、出版社や取次への影響も皆無ではないだろうが、本がなくなったわけではない。消費者にとっては、選択の幅が広がり、書物の文化を享受する人が増えた。」
 これも平野の言と同様に完全に間違っている。ブックオフの出現によって多くの書店が売上を減らし、出版社や取次にも大きな影響を与えたことは紛れもない近年の出版業界の事実ではないか。
 私は永江に、出版史と現在の構造分析をふまえて発言してほしいと何度も直接伝えてきた。それなのに挙げ句の果てにブックオフ電子書籍の出現が同じだとの発言には言葉を失ってしまうばかりだ。
 福田和也の「『ブックオフ』に物申す」(『週刊新潮』2/4)もその本質をつかんでいないにしても、物書きとしてのブックオフへの疑念をぶつけている。ブックオフに関して、永江はその福田よりもはるかに後退した位置にいる。そこには永江なりの事情でも潜んでいるのだろうか]

3.講談社京極夏彦の新刊『死ねばいいのに』を電子書籍化。iPadiPhone、携帯、パソコンで読める。紙の本の定価は1700円だが、携帯以外の電子版は販売2週間分がキャンペーン価格で700円、それ以後は900円。
iPadiPhone はアップル社の配信サイト「アップストア」で売られ、販売価格の30%がアップル社に入る。著者印税は不明。


4.電通とヤッパの電子雑誌有料配信サービス「MAGASTORE(マガストア)」はiPad 向けの販売を開始。参加出版社は30社、55誌に及び、週刊誌も含まれる。
                                                                                           

5.NTTグループと角川グループがクラウド型コンテンツ配信サービス「FAN+(ファンプラス)」を設立。9月から配信開始。   
              

6.ソニー凸版印刷KDDI朝日新聞社電子書籍ネット配信の新会社を7月に設立と発表。
 年内事業開始予定で、大手出版社も加わり、国内最大級の配信サービスをめざす。なおソニーはそれに合わせ、電子書籍端末のリーダーの新機種の国内での発売を表明。


7.毎日新聞社iPad 向けのデジタル雑誌『PhotoJ.(フォトジェイ ドット)』を創刊。

[3の講談社電子書籍市場規模を5年後に2000億円と見なし、年内に2万タイトルを刊行予定とされている。これに連動して、4の販売、5や6の設立、7のような雑誌の創刊が始まっている。
 しかし09年の書籍販売金額は8492億円であり、電子書籍化が進んだとしても、1000億円に到達することは難しいだろう。なぜならば、08年の電子書籍市場規模は464億円だが、その内訳はケータイコミックが330億円を占めている。電子書籍リーダーの普及がどれだけ広がっても、携帯電話には及ばないし、最大規模のコミックですら、コミュニケーションツールでない電子書籍リーダーでのシェアの獲得は困難だと推測される。
 それゆえにこの市場は新聞と雑誌の読者を紙からどれだけ移行させるかにかかっている。そのプラットフォーム構築のために、電子取次の一環として電通やNTT、ソニー凸版印刷KDDI も登場するに及んでいる。このような動きも電子書籍市場をめぐる出版業界の再編と考えられよう]

8.角川GHD、売上高1359億円で、前年比4.0%減。3年連続減少だが、黒字転換。

[『クラウド時代と〈クール革命〉』の上梓によって、電子書籍市場のリーダー的位置についた角川歴彦が率いる角川GHD も、出版危機の中にあって、3年連続の減収を余儀なくされている。
 しかしクラウド時代に向けて、様々な手は打たれているだろうし、5もそのような動きと見なせる。それらが角川GHD の来期の売上高へどのように反映されていくのだろうか]

9.出版物販売金額が97年から減少していく一方で、出版業界は書店の出店バブル、出版社の新刊バブルなどによって稼働してきたが、それらのバブルもひとつずつ終わろうとしている。文庫バブルもそのひとつである。
 『出版月報』4月号が「文庫本市場レポート2010」特集を組み、「文庫マーケットの推移」を掲載しているので、まずはそれを示しておこう。

文庫マーケットの推移
新刊点数推定販売金額返品率
(増減率)億円(増減率)
19954,739 2.6%1,396▲4.0%36.5%
19964,718▲0.4%1,355▲2.9%34.7%
19975,057 7.2%1,359 0.3%39.2%
19985,337 5.5%1,369 0.8%41.2%
19995,461 2.3%1,355▲1.0%43.4%
20006,095 11.6%1,327▲2.0%43.4%
20016,241 2.4%1,270▲4.3%41.8%
20026,155▲1.4%1,293 1.8%40.4%
20036,373 3.5%1,281▲0.9%40.3%
20046,741 5.8%1,313 2.5%39.3%
20056,776 0.5%1,339 2.0%40.3%
20067,025 3.7%1,416 5.8%39.1%
20077,320 4.2%1,371▲3.2%40.5%
20087,809 6.7%1,359▲0.9%41.9%
20098,143 4.3%1,322▲2.7%42.3%

『出版状況クロニクル2』で、教養新書バブルの終焉を記しておいた。その凋落ぶりは06年200億円から08年142億円と推移し、09年もさらに減少していると推測される。
 文庫はそこまで激しく落ちこんでいないが、3年連続の減少で、出店バブルも終わりつつある書店市場の縮小を考えれば、回復はのぞめず、新刊点数もピークに達している。この文庫市場の収縮は出版社の金融システムに大きな影響をもたらすであろう。
 少しばかり専門的になってしまうが、この文庫市場は定期刊行物という性格、及び取次の支払い条件からすると、第2の雑誌と見なせるだろう。
 とりわけ大手出版社の場合、新刊も取次からの100%支払いを保証され、出版社の資金繰りの要になっている。このシステムを詳細に論じると長くなってしまうので、ひとつの比較例を挙げれば、小出版社への新刊は半年後の70%支払いとなっている。つまり大手の出版社の文庫はそれだけ支払いが優遇されていて、新刊を出し続ければ、自転車操業的ではあっても、金が回っていくことになる。もちろん大手出版社は単行本の新刊も同様だが、文庫本は圧倒的に部数が多く、それゆえに第2の雑誌市場とよんだのである。
 最近オープンした評判の書店をのぞいてみると、雑誌、コミック、文庫、新書は万遍なく揃っているのに反し、書籍のヴォリュームに欠いている印象を受けた。おそらく文庫も含めた書店の雑誌市場化の反映だろうし、郊外ショッピングセンター内の書店も似たような構成となっている。
 ちなみにそれは出版社も同様で、筑摩書房の売上の7割は文庫、新書が占めているというから、筑摩自体はマス雑誌を有していないにもかかわらず、出版物の性格と金融の役割からすれば、第2の雑誌出版社と考えることも可能である。
 だからこの第2の雑誌市場ともいうべき文庫の売上の減少は出版社にボディブローのようにきいてくるだろう。光文社のリストラもその反映だと思われる]

10.大学生協の「第45回学生の消費生活」に関する実態調査が発表された。そのうちの読書と本に関する部分を紹介してみよう。
まったく本を読まない層が37.8%、そして以下の分野の本を一ヵ月に1冊も購入しない割合が、「勉学・研究」は50.1%、「勉学・研究以外」は42.3%である。また「雑誌」は50.8%がこれも1冊も買わない。次に書籍費の80年からの推移を示す。



大学生の一ヵ月の書籍費(円)
自宅生下宿生
19804,2405,350
19853,7004,460
19903,5603,990
19952,9503,640
19992,5903,040
20002,3802,910
20012,3402,890
20022,2002,800
20032,1702,570
20042,3202,650
20052,3002,490
20062,3202,570
20072,1402,520
20082,2202,410
20092,0002,370

[大学進学率が5割を超える高学歴社会の、本に関する実態の一面が露出していると考えるべきだろう。
まったく本を読まないが4割、専門書から小説、雑誌も含めて1冊も購入しないのが4割から5割、つまり現在の大学生の半分近くが本や雑誌や読書と無縁の生活を送っているのである。30年前に比べ、書籍費も半減している
 以前に紀田順一郎と座談会で同席した時、彼が電車内で目撃した大学生らしき男女のやりとりのエピソードを話してくれた。それは男が本を買ったことに対して、女は本を買うなんて馬鹿だと男を罵っていたのだという。
 高学歴社会となり、馬鹿が減って、本を買わなくなったという現在をフォローするエピソードと思われるので、こちらも紹介してみた。
 ちなみに私などは大馬鹿の一生であろう]

11.大日本印刷文教堂の第三者割当増資を引き受け、子会社化。この増資により、DNPジュンク堂に代わり、筆頭株主となる。株主構成を示す。
   DNP      35.77%
   ジュンク堂   16.08%
   フジディア   3.96%
   トーハン    3.59%

[増資による調達資金12億円はほとんどが今月の短期借入金返済にあてられるという事実からすれば、資本ショートのためにDNPに増資を依頼したとも考えられる。
 電子書籍市場が喧伝される一方で、リアル書店の困難さを伝えていると思われる]

12.ブックオフの決算が出された。売上高710億円で、前年比17.4%増。経常利益31億円で、同17.4%増。内訳を示せば、ブックオフ事業は481億円で、同7.7%増。
 名古屋などのブックオフスーパーバザーの成功が大きく寄与したとされる。今期もスーパーバザー3館、都市型大型店3店と700坪の増床を予定し、売上高760億円をめざす。また9月にT カードを離脱するため、新たなポイント制度を設ける。

[同じDNP グループ傘下にあっても、ブックオフ文教堂は対照的に明暗をわけている。それは新刊販売と古本リサイクルの現在の状況を如実に物語っている。しかしこのようなブックオフの成長もDNP グループによる株式買収が追い風となったにちがいなく、もしそれがなかったなら、異なった展開を見せていた可能性も大である。だからDNP グループと出版社3社によるブックオフ買収の責任は限りなく重い]

13.CCC は中古本事業を立ち上げるために「イーブックオフ」を営むネットオフと資本・事業提携。

[CCC=TSUTAYAブックオフの大株主で、盟友として歩んできた。だがDNP グループと出版社3社が株主に加わったことで、両者の関係は変わったのだろうか。
 ブックオフの T カード離脱、CCC の中古本事業への参入は両者がそれぞれ提携と協力を断念し、別々の道を歩み始めたことの前兆なのであろうか。
 TSUTAYA所有のブックオフ株式の行方と同様に、これからの動向にも注視すべきだろう]

14.CCC の売上高は1893億円で、前年比14.2%減、経常利益133億円で、16.9%減。
 その一方で来春の代官山に国内最大店舗を出店し、店舗数も50増の1440店をめざすとしている。

[本クロニクル24でも記しておいたが、CCC の株価は相変わらず低迷し、400円台にとどまったままだ。レンタル不振とT カード事業の頭打ち状態を反映しているのだろう。そのために様々なアナウンスメントを発しているが、株式市場は応答していないというのが現在の状況であろう。このようなCCC の状況はMPD にも影響を及ぼしていくのは確実で、それは同時に日販に対してもである。
 なおそれらに反して、ブックオフの株価は800円台、ゲオは1000円台と以前よりも高価で推移している]

15.ゲオの売上高は2426億円で、前年比3.8%減だが、経常利益は138億円の30.4%増で、CCCを初めて抜く。
 ゲオはM&A による再編も進み、レンタルやゲーム場のウェアハウス、コンテンツ配信のエイシス、セカンドストリートを子会社化し、中古衣料のセカンドストリートをレンタル店に併設する。店舗数は1100店を想定。

[ゲオのDVD 100円レンタルは7月末で一応終了となっている。ゲオとバッティングしている地域では、TSUTAYA も100円で対応しているので、8月からは両社とも正常のレンタル価格に戻るかもしれない。だが価格を上げれば、回転率は確実に落ち、再び100円に戻さざるをえない状況に陥る可能性も高い。そうなると、レンタル価格はデフレ化して定着し、既存のレンタル事業はリストラの方向をたどるかもしれない。
 いずれにせよ、レンタルと書店を兼ねる複合店は見直しを迫られる時期に入っている。そして日販とTSUTAYAの関係と同様に、トーハンとゲオの提携もどうなっていくのだろうか]

16. 本クロニクル24で、スイングジャーナル社の『アドリブ』の休刊を伝えたが、同社のジャズ専門誌『スイングジャーナル』も休刊。


17. 超左翼マガジンと銘打ち、08年に創刊された『ロスジェネ』(かもがわ出版)が第4号で休刊。

津野海太郎の本のタイトルに「小さなメディアの必要」があった。しかし現在において、リトルマガジンは次々と休刊に追いこまれ、また休刊の危機にさらされている。すべてがマス・システム化されてしまった高度資本主義消費社会の中で、「小さなメディアの必要」は明らかなのに、居場所を求められなくなっている状況を、これらの休刊は象徴的に物語っている。
 『ロスジェネ』の「ロスジェネ宣言」に、「娯楽はあふれている。マンガ・ゲーム・ギャンブル・インターネット。しかし、気づけばそこから一歩も脱出できない、密閉された奴隷船」という現実認識が記されていた。そこに今度は「電子書籍」も加わるわけで、リトルマガジンの姿は最初からない。
 だが考えてみれば、1980年代のニューアカデミズムの時代は同時にリトルマガジンの全盛でもあり、ニューアカデミズムとリトルマガジンは連動していた。とすれば、リトルマガジンを背景としない現在のアカデミズムは「密閉された奴隷船」状態にあるのかもしれない]

18. アメリカ大手新聞社ワシントン・ポスト傘下にある週刊誌『ニューズウィーク』の売却を検討と発表。『ニューズウィーク』は1933年創刊で、61年にワシントン・ポストが買収し、全世界で毎週400万部売れているが、インターネットに押され、広告収入、販売部数が落ちこみ、近年は記録的赤字となっていたという。

リトルマガジンばかりか、マスマガジンにも危機が迫っていることを如実に告げている。買い手が現われなければ、休刊することもありえるだろう。もしそうなれば、世界的に著名な週刊誌であるだけに、その影響はとてつもなく大きいと思われる。「日本版」もそのひとつであるから、同じ道筋をたどることになるだろう]


19. すかいらーくの創業者 茅野亮が亡くなった。

すかいらーくも茅野亮も出版業界にまったく関係がないと思われるかもしれないが、茅野は郊外消費社会を造型したキーパーソンの一人で、すかいらーくはその最初の業態だった。すなわちロードサイドビジネスとしてのファミリーレストランは両者によってはじまり、そこに郊外消費社会の原型が誕生したのである。それは1970年府中市の国道沿いの第1号店を幕開けとしている。このすかいらーくの成功を見て、様々な業種が郊外へと向かったのだ。それは書店の郊外店も、その後の複合店も同様である。
 それだけでなく、すかいらーくと茅野の視点は「ファミリー」に向けられていた。この「ファミリー」をそれまでの「近代家族」ではなく、郊外に住む核家族を中心とする「現代家族」と見立て、それを客層として捉えられたゆえに、外食産業として躍進したのだろう。
 だが考えてみれば、出版業界もまたその雑誌読者のコアを、「主婦」「児童」「小中高生」「少年少女」といった「ファミリー」の一員に求めることで、成長してきたのである。そしてその時代が終わってしまったことが、出版危機へと結びついている。
 同じように近年のすかいらーくと外食産業の低迷も「ファミリー」が終わってしまい、「ポスト現代家族」へと社会が移行していることを象徴している。その意味において、外食産業も出版業界も低迷の原因は共通しているように見える。
 「ポスト現代家族」を象徴するのは出版業界における群衆的消費によるベストセラー化、外食産業にあっては「孤食」の風景だと思われる]


20. 『週刊SPA!』(6/1)が「『出版崩壊!?』現場(秘)リポート」を掲載し、電子書籍と電子リーダー狂騒曲の渦中にあって、出版業界で起きている「残酷物語」の数々をレポートしている。

[週刊誌が「出版崩壊」の特集を組んだのは初めてだろう。穿った分析や深い情報はないにしても、週刊マンガ誌、ファッション誌、ライフ・スタイル誌、新刊書籍、老舗出版社の現場で何が起きているのかの報告は、出版社の危機の現実を物語って生々しい。とりわけ中堅出版社の「ウ●コ事件の真相」は末期的症状を伝えてあまりある。これらの「残酷物語」を取次や書店まで言及すれば、たちどころに一冊の本となるほどの量になるだろう]

21. 『出版状況クロニクル2』は刊行が遅れてしまい、6月末発売となる。

以下次号に続く。

◆バックナンバー
出版状況クロニクル24(2010年3月26日〜4月30日)
出版状況クロニクル23(2010年2月26日〜3月25日)