出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル61(2013年5月1日〜5月31日)

出版状況クロニクル61(2013年5月1日〜5月31日)


今月インタビューした『裏窓』の元編集長飯田豊一から、大衆演劇に関する教示を得た。そこで早速調べてみると、焼津の黒潮温泉で常に観劇できることがわかり、出かけることにした。

5月公演は劇団新で、昼の部は時代劇だった。舞台のある広間は満員御礼で、200人余りの客であふれていた。大半が男女を問わず高齢者であり、若い人はほとんどいなかった。芝居は「若き日の唐犬権兵衛」で勧善懲悪ストーリー、役者の演技も単純明快で、そうした物語ゆえに、このような観客動員が可能となるのだろう。

その大衆演劇に加え、ここは温泉、大衆食堂、居酒屋、カラオケルーム、ゲーム場も兼ね、それでいて入場料は観劇も含め、一日1500円でゆっくり遊ぶことができるのである。このような光景は若年層を中心とする郊外ショッピングセンターとまったく異なるもので、65歳以上が人口の23%を占める、世界でも突出した高齢化社会に他ならない日本の状況について、様々に考えさせられた。

翻って現在の出版業界を見れば、書店の主流はこれもまた郊外に位置する複合型書店であり、商品構成に関しても、とても高齢化社会に対応するものではない。それは出版物も同様で、最も厚い客層である高齢者ではなく、常に若年層に向けた企画を推進してきたといえる。それも出版業界の凋落の一因ではないだろうか。


1.アルメディアによる13年5月1日時点での書店数調査が発表された。前年比455店減。99年からの推移を示す。

■書店数の推移
書店数減少数
199922,296
200021,495▲801
200120,939▲556
200219,946▲993
200319,179▲767
200418,156▲1,023
200517,839▲317
200617,582▲257
200717,098▲484
200816,342▲756
200915,765▲577
201015,314▲451
201115,061▲253
201214,696▲365
201314,241▲455

[2000年は21495店、13年は14241店なので、この13年で8055店の減少を見たことになる。しかしそれだけでなく、その間に閉店したのは1万5千店に及ぶので、00年の書店の70%が消えてしまったことを示している。さらにそれを90年にまで巻き戻せば、おそらく90%がなくなってしまったと考えられる。ちなみに日書連加盟店は90年12556店に対して、13年は4458店である。すさまじい変化というしかない。
それに伴い、郊外化とともに大型化、複合化が進んでいったのだが、売場面積の増加も09年の143万坪をピークに減り始め、13年は140万坪になっている。

このようなデータを前にして思うのは、郊外化、大型化、複合化することで、従来の商店街の小さな書店を閉店に追いやったにもかかわらず、これらの90年代以後の書店が、まさに新刊と変わらないほどの寿命しか持たなかったという事実である。しかもそれは今年になってさらに加速していると考えられる]

2.アルメディアは取次別書店数と売場面積調査も発表しているので、それも引いておく。

■取次別書店数と売場面積(面積:坪)
取次会社カウント数前年前年比売場面積前年前年比売場面積占有率
トーハン4,6264,698▲72485,168483,4301,73834.6
日本出版販売4,5604,732▲172632,707639,244▲6,53745.2
大阪屋1,1091,142▲33116,897120,205▲3,3088.3
栗田出版販売697748▲5169,51872,935▲3,4175.0
中央社417422▲520,73020,037▲6931.5
太洋社456501▲4545,635 49,847▲42123.3
その他1,2081,254▲4630,16730,844▲6772.2
不明・なし21101▲10.0
合計13,07513,498▲4231,400,8221,416,543▲15,721100.0

で示した書店数、売場面積の減少がほぼ等しく、大中取次にも反映されているとわかる。

この表があらためて教えてくれるのは、日販の売場面積占有率が45%と突出しているにもかかわらず、減少数も172店とこちらもトーハンの倍以上であることだ。しかも日販の4560店のうちの3分の1がCCC=TSUTAYAの複合店だとみなしていいので、この複合店の行方が日販の業績を左右するメルクマールとなるだろう。

それからどうしても気になってしまうのは、大阪屋、栗田、太洋社のことで、売場面積シェア比で、書店の売場面積の減少が目立つ。これを見ていると、トーハンや日販によって帖合変更が仕掛けられ、売上が落ちていくのは明らかで、中取次の行方が浮かび上がってくるようにも思われる]

3.2012年版『日本の図書館―統計と名簿』が刊行されたので、公共図書館の推移も示しておく。

■公共図書館の推移
    年    図書館数
専任
職員数
(人)
蔵書冊数
(千冊)
年間受入
図書冊数
(千冊)
個人貸出
登録者数
(千人)
個人貸出
総数
(千点)
資料費
当年度
予算
(万円)
1971 8855,69831,3652,5052,00724,190225,338
1980 1,3209,21472,3188,4667,633128,8981,050,825
1990 1,92813,381162,89714,56816,858263,0422,483,690
1997 2,45015,474249,64919,32030,608432,8743,494,209
1998 2,52415,535263,12119,31833,091453,3733,507,383
1999 2,58515,454276,57319,75735,755495,4603,479,268
2000 2,63915,276286,95019,34737,002523,5713,461,925
2001 2,68115,347299,13320,63339,670532,7033,423,836
2002 2,71115,284310,16519,61741,445546,2873,369,791
2003 2,75914,928321,81119,86742,705571,0643,248,000
2004 2,82514,664333,96220,46046,763609,6873,187,244
2005 2,95314,302344,85620,92547,022616,9573,073,408
2006 3,08214,070356,71018,97048,549618,2643047030
2007 3,11113,573365,71318,10448,089640,8602,996,510
2008 3,12613,103374,72918,58850,428656,5633,027,561
2009 3,16412,699386,00018,66151,377691,6842,893,203
2010 3,18812,114386,00018,09552,706711,7152,841,626
2011 3,21011,759400,11917,94953,444716,1812,786,075
2012 3,23411,652410,22418,95654,126714,9712,798,192

[1980年代以後の公共図書館の成長についても、本クロニクルで様々に言及してきているが、この3年ほどで、かつてなかった変化が貸出冊数に表われている。これは本クロニクル55でもすでにふれているが、10年以後の7億冊に及ぶ貸出冊数は、書籍販売冊数を超え始めている。この逆転の差はさらに広がっていくばかりだろう。

出版科学研究所による書籍推定販売部数は、2010年7億233万冊、11年7億13万冊、12年6億8790万冊となっている。ピークは1988年の9億4379万冊で、それ以後はほぼ落ち続け、その間に何と2億5589万冊のマイナスである。それは図書館の90年の貸出冊数に匹敵し、この22年間の公共図書館の急成長を知らしめている。これもまた日本だけで起きている出版業界と図書館をめぐる特殊な出来事といっていいのかもしれない。

その成長の背後で、で示したように、商店街の書店を始めとする無数の書店が、多くの痛みを伴って消えていったのであり、図書館関係者はそれを忘れてはならない]

4.元神田村の専門取次の明文図書が自主廃業。1918年創業で、95年の歴史を持ち、法律、経済、経営、ビジネス書を扱う老舗取次。

[明文図書の動向に関しては、本クロニクル55などで伝えてきたが、その後 半年余りで廃業という事態を迎えてしまったことになる。

5月11日付で出された「今後の業務の進め方等 説明会のご案内」によれば、通常業務は6月末日まで、書店からの最後の返品は7月15日、出版社への最終返品は7月末日までとし、清算するとしている。

しかし実際に説明会に出席した出版社からの話を聞くと、取引出版社は380社、書店は300店に及び、スムーズに自主廃業に至るのか、まだまだ未解決、未処理の問題が残されているという印象を受ける]

5.三洋堂HDの決算が発表された。売上高は262億円で、前年比5.2%減。最終利益は1億4000万円の減収増益。ブックバラエティ分野は好調だが、書店部門は同6.1%減、レンタル部門は12%減。

6.ブックオフは増収減益決算。売上高766億円で、前年比1.3%増、当期純利益は10億円で、同43.3%減。主力のブックオフ事業既存店の客数減に加え、青山ブックセンターやTSUTAYAのFC店などのパッケージメディア事業が112億円で、同7.2%減。

7.ゲオは積極的出店によって、3期連続増収で、売上高2592億円で、前年比0.4%増、純利益83億円で、同22.5%増。

レンタル部門は804億円で、同0.8%増だが、昨夏のオリンピック以後、客足が戻らず、微増に止まっている。

5から7にかけては、日販とMPDとTSUTAYAの要であるDVDレンタルの行方を注視する意味においても、挙げておいた。

本クロニクルでもずっと「100円戦争」レンタル状況を追いかけてきたが、これらの3社のレンタル状況から考えても、さらなる落ちこみは避けられないだろう。

なおブックオフ本体は大型店出店によって、売上高は微増となっているが、FC店の凋落が激しいと囁かれている]

8.栗田とワンダーコーポレーション合併1号店ワンダーグー川越店1076坪でオープン。

9.紀伊國屋書店が大阪梅田にグランフロント大阪店1060坪を出店。

10.谷島屋が静岡市の大型ショッピングセンターにマークイズ静岡店250坪を出店。

11.京都のパルナ書店が閉店。時代小説を柱にしていたことでよく知られていた。

12.札幌のアテネ書店が閉店。札幌駅前通りに最後まで残り、地元本や思想書もよく売っていたと伝えられる。70年代には なにわ書房本店など8店の書店が並んでいたという。

[これらは5月だけの出来事ではなく、4月と6月のことも含まれているが、大型店出店の背後で、何とか踏みとどまっていた街場の書店が次々と閉店していく状況を告げている。そうした意味で、旧来の書店退場の最後のシーンを迎えているのであろう。そのような書店の閉店が例年になく急ピッチで進んでいると伝えられている。

それはセブン-イレブン1万5千店突破に象徴される、全国各地でのコンビニの激しい出店攻勢とも無縁ではないはずだ]

13.このような日本の危機的出版状況に対して、欧米の出版業界はどうなっているのか
『出版ニュース』(5/上)が「世界の出版統計」を掲載しているので、それらの売上高などを抽出してみる。

アメリカ/2011年の出版社総売上高は272億ドルで、前年比2.5%減.ちなみに10年は297億ドルで、同3.1%増。09年は271億ドルで同2.5%増だった。

電子書籍シェアは10年8億ドル、11年20億ドルで、総売上高の15%を占めるに至った。

総売上高の販路別金額とシェアを示せば、書店86億ドル、31.5%、図書館、会社、公共団体54億ドル、20%、オンライン業者50億ドル、18.5%、取次、卸店50億ドル、18%、読者直販11億ドル、4%。

イギリス/2011年書籍売上高は30億ポンドで、前年比5%減。10年は31億ポンド、9年は30億ポンド。

この数字にはデジタル書籍は含まれておらず、こちらは2.5億ポンドで、そのシェアは8%。

ドイツ/2011年書籍販売業者総売上高は96億ユーロで、前年比1.4%減。10年は97億ユーロで、04年以来着実に伸びてきたが、初めてマイナス成長。

フランス/2010年出版社総売上高は28億ユーロで、前年比0.3%増。電子書籍売上高は5290万ユーロで、総売上高の2%。

[これらの欧米出版業界の数字を確認すれば、日本の出版業界だけが特異な危機の中にあり、この16年間で売上高が3分の1失われてしまったことがいかに異常な事態なのか、わかるだろう。日本だけが出版敗戦の只中にあるのだ。そして日本における電子書籍にまつわる言説と報道が、いかに出鱈目かも理解できるだろう。

この出版敗戦の責任はどこにあるのか。それは一方に出版業界全体と再販制に基づく委託システム、それを利用して30年以上続いた書店の出店バブルと出版社の新刊発行バブルに求められることはいうまでもないが、その中でも書協の責任が最も大だと考えられる。出版業界を代表する団体として、書籍出版社からなる書協、雑誌出版社からなる雑協、取次の取協、書店の日書連が挙げられる。1970年代の流通革命時代に、日書連は出版社に対し、正味問題で不買運動も含めたブック戦争を挑んだこともあったが、この時がピークで、それ以後の衰退は本クロニクルで見てきたとおりだ。

そこで業界の中枢の位置を変わることなく占めているのは書協で、消費税や官庁との折衝も含め、ここが様々な窓口となり、また歴史から考えても、主導権を握っていると見なすしかない。

それなのにどうして危機に対し、何の対策も手段も出せずに終わっているのか。それは日本の出版業界の歴史と構造、それに基づく現状分析と直視に至っていないからだと思うしかない。

今年もすでに4月段階で、前年に対し、3.1%の売上が失われている]

14.13のアメリカに関連し、朝日新聞社デジタル事業本部の林智彦が「いま米電子市場で起きていること」を『新文化』(5/16)に寄稿している。これは主として『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記事によっているが、それを要約してみる。

*現在のアメリカでは電子書籍の成長は踊り場にさしかかり、もしかしたら天井なのかもしれない。

*電子書籍は紙の書籍にとってかわるのではなく、書籍の新しい形態のひとつだという認識が広まりつつある。

*印刷本の死という報道は誇張されたもので、電子書籍の成長は急速に低下し、今後の成長は非常に難しい。

*ある調査では59%が電子書籍に興味はなく、電子書籍読者の90%が紙の本も買い続けると回答。

*タブレットの普及で、電子書籍編集の出荷台数は前年比36%減。

*電子書籍ベストセラーはスリラー、ロマンスなどのライトフィクションばかりで、新種のペーパーバックに位置づけされるのではないか。

[この数年の出版業界、マスコミ、業界紙をあげての電子書籍騒ぎと報道に対し、大政翼賛会的狂騒曲と批判してきたが、この記事は業界紙に掲載された初めての冷静でまともな報道であろう。

JPOとべったりの『文化通信』と異なり、それでも一線を画している『新文化』ならではの掲載と思われる。

武井一巳
『Kindle 新・読書術』(翔泳社)は「私はKindleに出会って2万冊の蔵書を捨てました」と銘打たれているが、真に受けないほうがいいだろう。

その一方で、出版デジタル機構による、凸版印刷の子会社で電子書籍取次最大手のビットウェイの買収が発表されている]

Kindle 新・読書術

15.『週刊ダイヤモンド』(5/25)が特集「経済ニュースを疑え!」を組み、自己批判もふくめ、「経済ニュースは本当に真実を伝えているといえるか」を問うている。それはテレビの信頼失墜、新聞の劣化報道、大手経済新聞の既得権益化、再販問題を含んでいる。

この特集に「メディアに嫌われた男の告白」として、小沢一郎が登場し、「再販制度と電波の独占は、官僚が認めているからそうなっているだけ」で、「彼らの既得権にメスを入れろと主張しているから、彼らは私を抹殺しようとしている」と語っている。

週刊ダイヤモンド(5/25)
[精一杯の特集で好感を持ったが、あらためて驚かされたのは、資料として引かれていた2010年度の新聞購読率である。それには50代49%、40代41%、30代23%、20代13%、10代7%となっていた。

なぜこれにふれたかというと、書店は価格競争がないために小売業としてはチラシを打てない、打つ必要がないし、その代わりに新聞が毎日雑誌や書籍の宣伝をしてくれるからだとずっといわれてきた。これは書店の前提のみならず、広告を打つ出版社にとってもそうだし、出版業界の通説だったと考えられる。

しかしこの新聞購読率を見ると、それがすでに通用しなくなっていることが実感される。しかもこれは10年のデータだから、11年、12年のデータはさらなる低下を突きつけることになろう]

16.宝島社から溝口敦+荒井香織編著『ノンフィクションの「巨人」佐野眞一が殺したジャーナリズム』が出された。

「はじめに」は次のように記されている。

「本書では、出版界内部からの自浄作用を促すことを黙駅に、佐野作品に発覚した140件以上の盗用・剽窃箇所およびその疑惑すべて公開するとともに、佐野氏の釈明がいかに欺瞞に満ちたものなのか、徹頭徹尾、糾弾するものである。」

ノンフィクションの「巨人」佐野眞一が殺したジャーナリズム
[これは本クロニクル54でふれた、あの『週刊朝日』問題に端を発しているのだろうが、読んでいるうちに、「なんじら人を審くな、審かれざらんためなり。己がさばく審判にて己もさばかれ、己がはかる量にて己も量らるべし」という「マタイ伝」の一節が浮かんできた。
ただ私は佐野を擁護するつもりもないし、佐野のこのような行為が映研でのシナリオ書き、つまり原作を脚色する体験に基づき、それが習性になっているのではないかと思った。だがそれ以上に、このような佐野弾劾の情熱と一冊の本を刊行するに至る、その根底にあるエトスが気にかかる。私は溝口のファンでもあるからだ。

私自身も多くの盗用・剽窃をされてきたし、また佐野だけでなく同業者、同世代の書き手たちの同様の例を多く知っている。そのことに関しては、本ブログの「柴野京子の『書棚と平台』を批評する」で一度書いたことがある。

それから佐野の
『カリスマ』においても、これは出典を明記してだが、数ページにわたってリライト引用されてもいる。この部分は重要なところだし、拙著『〈郊外〉の誕生と死』も新刊に近かったので、出典を明記するしかなかったと判断できる。おそらく旧本であれば、そうした処理が施されなかったかもしれない。

それらについて、私は日本の出版史が盗用と剽窃で成り立っていること、貸本マンガの世界はそれが当り前で、誰もそんなことは気にしなかったという つげ義春の証言を知っていたことなどから、商売のお役に立てばと放置してきたという事情もある。

しかし佐野に関しては、彼の『だれが「本」を殺すのか』が出版危機の本質を隠蔽し、ミスリードする役割を果たしたこと、それについて私以外は誰も批判してこなかったことが大きな問題だと思われる。

出版業界は諸手を挙げて『だれが「本」を殺すのか』をもてはやし、ベストセラーならしめたことを忘れてしまったのだろうか。そこにこそ、すでに現在問題になっている佐野の資質が表われていたのであり、それに対して出版業界の側からまともな批判と批評が出されていれば、現在の事態も少しは変わっていたかもしれないのだ。それなのにこの期に及んでの集中的弾劾は様々な意図も含まれているのではないだろうか]

カリスマ だれが「本」を殺すのか 〈郊外〉の誕生と死

17.「『武雄市図書館』という挑戦」なるサブタイトルが付された『図書館が街を創る』(ネコ・パブリッシング)が出された。

図書館が街を創る

[もちろん買ったわけではなく、図書館に入っていたので、出されたことを知ったのである。その後TSUTAYAで平積みされているのも見た。そのような図書館入荷や販売状況、及び定価設定、造本はこの一冊がプロパガンダ本以外の何物でもないことを示している。そこには本や読者に関する思索は何も含まれていない。それでも佐野の『だれが「本」を殺すのか』ではないが、もてはやす人も出てくるかもしれない。

これは図書館本というよりも、図書館という「ハコモノ」と「イメージ」をめぐる武雄市とその市長、TSUTAYAのパフォーマンス本と見なすべきだろう。私は『理想の図書館』を刊行し、『図書館逍遥』も著わしているが、このような一冊を前にして、いうべき言葉がない。

CCCとスタバとTカードとコンシェルジュによって、表紙に謳われた「公共図書館の在り方にイノベーションを!」実践していくようなので、「イノベーション」のお手並みを拝見することにしようとでも書いておくしかない]
 図書館逍遥

18.宮田昇の、『図書館に通う』(みすず書房)が出された。

図書館に通う

[後期高齢者から見た「公立無料貸本屋」の実情が、借りて読んだ本を通じて語られている。このような視点と語り口こそは、『図書館が街を創る』にまったく欠けていたものであり、口直しの図書館本として最適な一冊。こちらは別のところで書評予定]

19.「がんが消えた」などと未承認の薬の効能を本でうたったとして薬事法違反の罪に問われていた現代書林の許社長と編集者に無罪の判決。

[これは『出版状況クロニクル3』で書いておいたが、11年2月の事件である。事実上絶版になっている10年前の本がその対象となったもので、釈然としない逮捕にも至っているものだった。今回の無罪判決はそれを証明していよう]
出版状況クロニクル3

20.リードにもその名前を記したが、『裏窓』の元編集長飯田豊一へのインタビュー『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』(仮題)を終えた。『マンハント』と『裏窓』が並んで編集されていた時代もあったのだ。貴重な話を多く聞くことができたので、シリーズとしては最も厚くなると思う。

なお『震災に負けない古書ふみくら』の佐藤周一は先日亡くなった。追悼文は本ブログ[古本夜話]298 佐藤周一、牧書店、アリス館牧新社にしたためた。ご冥福を祈る。

また古田一晴『名古屋とちくさ正文館』は6月末刊行予定。

《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》

「今泉棚」とリブロの時代 盛岡さわや書店奮戦記 再販制/グーグル問題と流対協 リブロが本屋であったころ 本の世界に生きて50年 震災に負けない古書ふみくら 営業と経営から見た筑摩書房 貸本屋、古本屋、高野書店 書評紙と共に歩んだ五〇年

薔薇十字社とその軌跡