出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル65(2013年9月1日〜9月30日)

出版状況クロニクル65(2013年9月1日〜9月30日)

消費税増税が決定となった。それによって、14年4月8%、15年10月10%と続いていくことになるだろう。

日書連などは出版物に対する軽減税率の適用を求めているが、新聞と同様に適用されるはずもない。その事情と理由は本クロニクル58 で既述しているので、必要とあれば参照されたい。

ただこの消費税増税は出版危機をさらに深刻化させるにちがいない。これも本クロニクル63 などで記しておいたように、13年の出版物売上高は、前年比600億円減の1兆6800億円前後と予測しておいたが、さらにマイナスになるかもしれない。

しかもそれは明らかに15年も続いていくだろう。そうなると出版物売上高1兆5000億円台が必至で、それからアマゾンの売上高2000億円を引けば、1兆3000億円、もしくはそれを割りこんでしまう。この数字は何とピーク時の1996年の半分に相当し、1970年代後半のものであり、これだけを見ると、30年以上前に逆戻りしていることになる。

アメリカのデトロイト市の例ではないけれど、20年近くにわたって出版業界そのものが破綻への道を歩んできたとしかいいようがない。この年月の間に何が起きていたのかは本クロニクルの読者であれば、もはや説明するまでもないだろう。


1.こうした出版危機状況の中で、電子書籍はその救世主と見なされ、またそのように報道されてきた。報道とパラレルにあった市場規模の推移を示す。

[なお12年のケータイ向け文芸・実用書等、写真集は合計で50億円、新プラットフォーム向けは同95億円。

2010年は電子書籍元年とされ、すでに4年目を迎えていることになる。しかしその実態はドッグイヤーどころか、11年にはマイナスとなり、12年の新プラットフォーム市場は3倍強に至ったが、これは11年の数字が低いこと、アマゾンのキンドルや楽天のコボの発売を含んでいることを考えれば、驚くべき成長とはいえないだろう。しかしケータイ市場のさらなる落ちこみを予測に入れると、電子書籍市場規模はゼロサムゲーム化するかもしれない。

13年の数字は見ていないにしても、JPOなどが唱える2016年に2000億円という市場は絶対に出現しないと断言していい。それどころか、出版ビジネスとして電子書籍もあるといった状況へと後退していくことも考えておくべきだろう。

大手マスコミの電子書籍報道は少しずつ鎮火しているように見えるが、出版業界紙は相変わらず電子書籍のお先棒をかつぐことを止めていない。

電子書籍問題に関し、一貫して冷静だったはずの『出版月報』(9月号)も特集「電子書籍ビジネス最新レポート」を組み、その成長を是認し始めているといっていい。それは大手出版社の動向に追随しなければならない事情もあるのだろう。しかしその一方で、電子書籍制作や取次のデジブックジャパンが特別清算したことも見ておくべきだ。

それをあおった経産省や出版デジタル機構の責任は重いし、JPOは「緊デジ」の復興予算流用疑惑に関し、第三者委員会によって事業検証すると『東京新聞』(6/28)で公表していたにもかかわらず、何の報道もなされていない。どうなっているのだ]

2.集英社の決算が出された。売上高1253億円で前年比0.6%減、経常利益は65億円で同5.6%減、純利益31億円で同15.2%減。

■集英社 業績の推移(単位:100万円・%)
総売上高前年比雑誌前年比書籍前年比広告収入前年比当期利益前年比
2004137,844▲2.898,129▲2.617,648▲5.018,636▲5.44,53075.6
2005137,8480.095,786▲2.418,7716.419,2273.22,174▲52.0
2006139,9821.595,9740.218,594▲0.919,8243.13,82375.9
2007143,43793,744▲2.319,1593.019,077▲3.84,1227.8
2008137,611▲4.187146▲7.018,633▲2.719,065▲0.1249▲94.0
2009133,298▲3.183,936▲3.718,445▲1.015,878▲16.7655163.1
2010130,470▲2.187,3394.117,922▲2.811,947▲4.8▲4,180
2011131,8651.188,9241.818,0550.711,023▲7.75,547
2012126,094▲4.482,1727.617,837▲1.211,1481.13,751▲32.4
2013125,349▲0.677,466▲5.717,122▲4.011,4532.73,182▲15.2

[この決算で注目すべきは、前年まではかろうじて維持されていた、コミックを含む雑誌と書籍の合計売上が1000億円を割ったことだろう。04年には雑誌、コミックだけで981億円の売上があったのに、13年は書籍と合わせても945億円と大きく落ちこんでしまったことになる。

11年の増収は2億冊を売った
『ワンピース』、すなわちコミックに支えられていたのだが、この『ワンピース』も失速し、既刊分の重版がまったくかからないままだと伝えられている。ちなみにコミック売上は11年452億円、12年400億円に対し、13年は378億円で、マイナス幅は74億円となり、それが雑誌売上の落ちこみと連動しているのがよくわかる。

スマホの影響が出てくるのはまだこれからであり、コミックの売れ行きへの波及が気にかかる]
ワンピース (『ワンピース』71巻)

3.光文社の決算も発表された。売上高は249億円で前年比1.3%増。純利益も21億円、96%増と3年連続の増収増益決算。その内訳は雑誌98億円、書籍47億円、広告82億円、その他23億円である。

[これは『出版状況クロニクル3』にも掲載しておいたが、光文社のそのさらに前の3年間の売上高を見ると、07年305億円、08年283億円、09年245億円で、今期の3年連続増収決算といっても、ようやく09年レベルに戻ったことになる。これも09年の内訳を示せば、雑誌95億円、書籍47億円、広告101億円、その他3億円である。したがって雑誌、書籍売上は09年とほぼ同じで、広告の落ちこみを不動産などの収入でカバーしていて、出版物売上が回復した上での増収増益ではない。その意味において、雑誌売上は戻ってきたにしても、集英社と同じ構造となっている。

ちょうど3年前に光文社のリストラをブログにつづった綿貫智人の『リストラなう!』(新潮社)が刊行されているが、そこに記された会社の体制はほとんど変わっていないのではないだろうか。ちょうど出版業界全体がそうであるように。またたぬきちは今どうしているだろうか]

出版状況クロニクル3 リストラなう!

4.太洋社の決算も出された。売上高252億円で、前年比100億円を超える28.6%減。こちらは3 の光文社とは逆の3年連続赤字決算。

[太洋社にとって、これほど減収を強いられた年もなかったであろう。こまつ書店、東武ブックス、喜久屋書店、メロンブックス、ブックスフジなどの帳合変更が起き、43億円の返品が生じ、書籍返品率は50%を超え、これによる売上高マイナスは85億円とされている。

それに伴うかたちで、早期希望退職者50人を含む77人が退社し、また本社を売却し、移転するとされていたが、これは流れてしまったという。

大阪屋の250億円の減収と同様に、中堅取次は苦境の只中にある。それはまたこのような帳合変更を仕掛けなければならない大取次にしても、そうしなければ売上を維持できず、サバイバルしていけない窮地へと追いやられていることの証明でもあろう。

栗田の郷田昭雄から下村賢一への社長交代が発表されてもいるが、これは大阪屋の中間決算、臨時株主総会に向けての人事だと伝えられている。それにしても大阪屋の、楽天などによる第三者割当増資はどうなるのだろうか]

5.地図の人文社が破産。1950年創業で、住宅、路線地図などを手がけ、87年には13億円の年商が、12年には2億8500万円にまで落ちこんでいた。負債は2億5800万円。

[1980年代までは人文社の県別地図はドライバーを対象として売れ行き良好のシリーズで、どの書店の地図コーナーでも常備されていたものだったが、最近は確かに見かけなくなっていた。

人文社はルート営業とよんでいいと思うが、歩合制による契約営業マンが全国の書店を月に一度は回るかたちで、在庫や品切を補充し、最も効率がよく、かなり高い歩合給が保証されていると聞いたことがある。

以前と比べ、地図ガイド売場は3倍ほどに広がっているが、そのような時代がとっくに終わってしまったことを人文社の破産は告げている。そういえば、専門取次の地図共販はどのような状況にあるのだろうか]

6.大ヒットしたテレビドラマ『半沢直樹』の原作、池井戸潤『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』(いずれも文春文庫)が飛ぶように売れ、累計200万部を超えた。それと重なるようにミリオンセラーが続出している。

百田尚樹『永遠の0』(講談社文庫)は300万部、河出書房新社の「大人の塗り絵」シリーズ110点で400万部、近藤誠『医者に殺されない47の心得』が100万部に達している。『あまちゃん』のノベライゼーションがあれば、これらにかわっていたであろう。

オレたちバブル入行組 オレたち花のバブル組 永遠の0 「大人の塗り絵」 医者に殺されない47の心得

[このようなかつてないミリオンセラー現象は、主としてメディアミックス化、及びTSUTAYAを始めとするナショナルチェーンのチェーンオペレーション的販売によって可能になったといえる。だが一方で、80年代における郊外消費社会の成立から一貫して進められてきたイメージ、シンボル、物語の均一化、画一化も連鎖しているように思える。そのような均一化、画一化の果ては何が待っているのだろうか。これらのミリオンセラーの続出があっても、8月の書籍売上は前年比6.7%減と、今年最大の減少となっている。

先頃私は本ブログで、リースマンの改訂版『孤独な群衆』(みすず書房)についての書評的一編を書いている。そこでリースマンはよく知られているように、アメリカ人の社会的性格の推移を、伝統指向型、内部指向型、他人指向型に分類し、1950年代のアメリカ人はかつての伝統、内部指向型から他者を模倣する他人指向型へと移行しつつあると指摘した。あらためてそれを読みながら、この指摘は他ならぬ80年代以後の日本人にも当てはまるのではないかと思われた。そうして逆説的にいえば、ミリオンセラーに象徴される「孤独な読者」もそのようにしてもたらされたのだと]

孤独な群衆 上 孤独な群衆 下

7.6のようなミリオンセラーが続出する背後で、歴史書状況はどうなっているのか。

『日本古書通信』(8、9月号)が特集「座談会・『歴史書の本棚』から史学科の読書を考える」を2回にわたって掲載している。出席者は研究者の木村茂光、小林一岳、則武雄一、児島晃の4人である。それらの発言を抽出要約してみる。

*今は古典、定番の本がなくなりつつあり、粗製乱造といっていいほど様々な本が大量に出ているので、教える側も若い世代も各分野や時代における決定版を見つけ難くなっている。

* 今の学生が読んでいるのは売れている本で、池上彰の解説本などだが、我々は解説出来ない世界を研究している。ところが彼らの知的欲求は早く知識が欲しい、解り易い納得できるものということなので、これが本が売れないことに深くリンクしている。

*ウィキペディアは日本史関係についてはそれなりに使えるし、学生にとってはそれが「知」で、それを誰かが説明してくれれば納得し、終了となる。

* もうひとつの問題は、出版社に単なる本の作り屋ではない編集者がいなくなったことで、地道な下調べ、新鮮な発想と企画力、丁寧な編集、著者と二人三脚で良い本を作ろうとする姿勢が見られなくなった。それが多くの名著や名シリーズを生み出してきたのだが。

* そのような結果として、研究者も書けず、編集者もいない。それでいて売れる著者には量産志向があり、出版社も点数を出すために丸投げ状態で、本が粗製乱造的に出されているので、もはや今後、以前のような名著リストは出すことができないのではないか。

* 本当に重要な名著を「歴史古典文庫」といったかたちで出すことを、研究者も出版社も考えなければならないのだが、本が売れないので、そういった企画ができる出版社は限られてしまっている。

* やはり作り手と書き手が一緒に苦労しないと新しい定番は生まれないのではないか。

* 学会や研究会での出版社の出張販売はまったく売れず、電車賃も出ないほどで、出版社も来なくなっている。

[これらが歴史書のみならず、人文書の世界を覆っている現実である。特に編集者の不在は失われた出版業界の17年間にあって、そのような編集者を育てられなかったことが大きく作用している。

もっともそれは出版社ばかりでなく、取次や書店にも当てはまるものであろう。出版社と著者は粗製乱造に走り、読者は早く知識が欲しいし、解り易い納得できるものを求め、ベストセラーは出ても、本は売れなくなっていく。

そしてそれが二人三脚のようなかたちで進行し、日本だけで起きている出版危機につながっているのである。ミリオンセラー現象はこのような流れと無縁でないことを肝に銘じておくべきだろう]

8.7 においては現在の大学生の本や読書との関係がラフスケッチされているが、専門書の著者、もしくは予備軍の大学教師たちの現在はどうなっているのか。

『週刊読書人』(9/13)が座談会「大学に押し寄せるネオリベの波」を3面にわたって掲載し、「早稲田大学非常勤講師雇い止め問題」と「日本映画大学誓約書問題」に言及している。出席者は大野英生、鴻英良、絓秀実、高橋順一である。

その要点を抽出、要約してみる。

* 早大では14年より非常勤講師は4コマを上限とし、5年上限勤務は雇い止めとする。

* 早大は専任教師2千人に対し、非常勤講師4千人で、前者は年収1500万円だが、後者は1コマ30万円で、5コマ以上受け持っている者232人、10コマ以上が10人もいる。4コマ上限となれば、研究どころか、生活も成り立たない。

* マンモス大学では6割が非常勤講師で占められ、全国では2、3万人に及ぶのではないか。それは90年以後の大学院重視と少子化による需要と供給のバランスの崩壊にもよっている。ポスドクの40%が非正規雇用の仕事についている。

* 日本映画大学では勤務するにあたって、「学内において、一切の政治的活動を行わず」という誓約書の提出を要求される。これは教授会一同で出されているが、明らかに理事会の意向を反映している。

* 大学において教授会が空洞化し、理事会に権力が集中し、上意下達構造になっている。

* 大学が学生消費者企業となり、95年の経団連による雇用流動化の推進を反映し、非常勤講師、すなわちパート、アルバイトによって成立する大学教育システムをめざしたことも原因である。


[ここで言及されている現在の大学の実態は、研究も生活もままならないパート、アルバイトの非常勤講師によって支えられている事実を突きつけている。

出版社からそれなりの編集者がいなくなってしまったように、大学からも古典とはいわれないにしても、労作や大作を生み出す研究者が消え、後継者も育っていないことになる。その代わりに話題作やベストセラーを出す教師たちは必ずいて、彼らは出版社と協力し、量産体制の中にある。

近代出版業界の成長は、「末は博士か大臣か」ではないが、学問を通じての立身出世が共同幻想だったからこそ可能であった。その象徴が本であったからだ。ところが現在では博士課程を出ても、半分近くがパート、アルバイトでしのぐしかないという現実が待ち受けているわけで、大臣はともかく、博士幻想はもはや崩壊してしまったと考えるべきだろう]

9.7 と8 の大学生と大学教師たちの現在を反映して、『現代思想』の特集が、以前にも本クロニクルでふれたが、かつての大きな物語や大文字の思想家たちの特集ではなく、身近な「リアル」を取り上げるようになってきている。

例えば「教育のリアル」(12・4月号)、「生活保護のリアル」(同9月号)「女性と貧困」(同11月号)「就活のリアル」(13・4月号)「看護のチカラ」(同8月号)
「婚活のリアル」(13・9月号)というふうに。

『現代思想』(9月号)

[その中の「婚活のリアル」特集を読んでみた。

どれか一本を紹介し、その特集のコアを抽出しようとも考えていたのだが、冒頭の「竹信三恵子+大内裕数の討議「『全身婚活』では乗り切れない」のあまりの「リアル」に立ち止まってしまった。

ここには出版業界の90年代後半から現在に至る状況も反映されているし、私が本ブログで書いている混住社会論=郊外消費社会論も同様だし、アマゾンのことも、大学のこともすべてが乱反射しているように思われる。
そしてこの一冊を読み、かつての80、90年代の特集よりも、さらに「リアル」な『現代思想』に立ち合っている気にもさせられた。そんなわけで、舌たらずながら、必読の一冊とお勧めする]

10.アマゾンの6万坪に及ぶ新物流センターが小田原で稼働開始。これはアマゾンの国内最大のもので、「当日お急ぎ便」配達サービス対象エリアが静岡県まで拡大される。

[これに絡んで、『週刊東洋経済』(9/28)が特集「物流最終戦争」を組み、『日経ビジネス』(9/16)が「物流大激変」を掲載し、進化し続けるアマゾンのロジステックスをレポートしている。

この特集と記事の眼目は、佐川急便がアマゾンとの取引を返上したことで、日本郵便との競合はあるにしても、これからはヤマト運輸に一極化し、さらなる「超速配達」をめざすというものである。

それらはともかく、あらためて日本におけるアマゾン主導によるネット販売の歴史と内実を確認させてくれる。当日配達、送料無料もアマゾンが始めたものであり、何とその配送料は1回につき100円を切っているのではないかという言及もみられる。いかに大量受注があったとしても、佐川でも利益を上げられず、取引返上に至ったことになる。

アマゾンの配達業者に対する相見積り「おいしいとこどり」戦略の一端を覗かせている。佐川さえも逃げ出したコスト条件にヤマトは耐えられるのだろうか。

アマゾン上陸により、カード決済の導入、読者への送料無料の近日配送は実現され、かつての書店と読者間の客注問題は解決に至った。しかしその背後にあるのは、このようなロジステックスをめぐる問題も起きていることに留意しておくべきだろう。

これをアマゾンの取次問題に引きつけて考えれば、アマゾンが大阪屋から日販へとメイン取次を変更させたことでも同様なことが起きていたはずだ。日販は大阪屋より条件のいい卸正味の提示によって、アマゾンのメイン取次の座を獲得したと見ていいだろう。

しかし大阪屋がアマゾンとの取引シェアを増していくにつれて、書籍比重が上昇し、それが原因で赤字になった事実があり、日販もさらなるアマゾンの要求は必至だし、同様のプロセスをたどるとすれば、「おいしいとこどり」のアマゾンとの取引に耐えられるのだろうか]
週刊東洋経済(9/28)

11.アマゾンに関して、もうひとつ続ける。

文字・活字文化推進機構、JPO、書協、雑協、取協、日書連など出版関連9団体で組織される「海外事業者に公平な課税適用を求める対策会議」は、アマゾンやアップルなどが電子書籍配信サーバーを海外に置き、消費税が非課税となっている問題で、政府や関連部署に要望書を提出。「海外事業者による電子書籍販売に対し、消費税が非課税なため、公平な競争が阻害されている」とし、「至急の是正」を訴えるという内容。全文は『出版ニュース』(9/下)に掲載。

これに関連する記事として、『週刊東洋経済』(9/7)にも「企業の税逃れを封じ込めろ」という多国籍企業問題への言及がある。

[本クロニクルで既述しているが、アマゾンは日本において、海外事業者であるとし、税金を納入していない。ここでもアマゾンの「おいしいとこどり」が浮かび上がる。税金を払っていないということは日本の出版インフラどころか、社会のインフラもただ同然で使い、それで成長し、圧倒的なネット通販企業に躍り出たことを物語っている。ということは消費税はどうなっているのだろか。

このことを調べるために、日米税制契約書を読んだり、税理士に確かめてみたりしたが、明確な答えは得られなかった。読者のご教示を乞う。

その上、もし消費税申告も日本でしていないとすれば、近日無料配達の原資にしても、そこから計上されたと考えることもできるかもしれない。来年から消費税は上がっていくわけだから、書店との「公平な競争」どころではない格差が生じることになるだろう。

「対策会議」の主要メンバーとして、高井昌史、角川歴彦、相賀昌宏、植村八潮といった面々が揃っているわけだから、電子書籍消費税だけでなく、このようなアマゾンの日本における重要な問題にも取り組むべきだと思われる。

私はアマゾンのヘビーユーザーではないけれど、このブログでの書影出しや、急ぎの時、また地元の書店で入手できない本はアマゾンを利用している。すべてが消えてしまい、TSUTAYAしかない。そして探書の際にもマーケットプレイスを見たりしている。しかしそのような行為の中で、アマゾンの税金問題や配送業者のことに想像を働かせるわけではないのだが、同じ一冊の本が届けられるにしても、それを支える目に見えないインフラが日々に変化していることをあらためて実感してしまう]
週刊東洋経済(9/7)

12.またしても、『週刊東洋経済』(9/7)だが、特集「楽天VS.Tポイント」を組んでいる。

それによれば、ポイントカードは13に及び、現金換算すると1兆円を超えるという。そのうちのTポイントは関連売上2.8兆円で、年間200億円となっている。

また別の最新データによれば、Tポイント会員数は4677万人で、20代の所有者は7割を超える933万人に達している。

しかし10月5日からTポイントの中枢TSUTAYAが、現在の100円1ポイントを200円1ポイントへとポイント率を半減させる。これはポンタカードによるゲオとの競合のためで、このことによって、提携先のヤフーを始めとする104社もポイントの半減を迫られるかもしれない。

[ビデオレンタルから始まり、日販とのコラボによるFC事業、複合店、そして上場、MBO、新たなビジネスモデルとしての代官山出店、Tポイントカード、図書館への進出と、CCCの軌跡はめまぐるしく、11、12月には盛岡、函館での超大型店の出店を控えている。その先には何が起きるのだろうか]

13.自費出版を手がける日本文学館に、消費者庁が電話勧誘販売に関する業務の一部停止の措置命令を出した。繰り返しの自費出版勧誘、費用を正しく伝えない不実告知などによるもので、3ヵ月間の措置となる。

[今世紀のゼロ年代後半に、新風舎、碧天舎、文芸社という自費出版御三家体制時代があった。そのうちの碧天舎、新風舎は破産し、文芸社だけが残されていたはずだが、知らないうちに日本文学館も立ち上がっていたことになる。おそらく御三家関係者によるものであろう。

確認してみると、文芸社は健在どころか、講談社に続く第2位の出版点数を出していて、10年1521点、11年1395点、12年1735点と自費出版の勢いが衰えていないことを知らしめている。日本文学館も同じく、336点、347点、331点とあり、出版点数はほぼ筑摩書房と変わらない。様々な出版の時代、商店街の書店の時代は終わってしまったけれど、まだ自費出版の時代だけは続いていくのだろう]

14.晶文社の中川六平が亡くなった。

[著書として、『ほびっと 戦争をとめた喫茶店』(講談社)や、『「歩く学問」の達人』(晶文社)が残されているが、彼は岩波ブックセンターの柴田信の本を手がけていたという。それはどうなるのであろうか]

ほびっと 戦争をとめた喫茶店 「歩く学問」の達人

15.5月にインタビューした『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』の飯田豊一=濡木痴夢男が亡くなった。彼の追悼のためにも、こちらを「出版人に聞く」シリーズ12として11月に刊行したい。彼の死で、『奇譚クラブ』と『裏窓』の関係者はほとんどいなくなってしまった。その意味でも、インタビューをしておいて本当によかったと思う。

8月に年月の確認のために電話したら、この夏はあまりに猛暑なので、もう死んでしまうかもしれないと冗談半分に話していたが、まさか本当にまもなく亡くなってしまうとは。ご冥福を祈る。

まだ何人もの高齢者のインタビューを控えているので、できるだけ早いうちに実現させなければならない。なおこのシリーズは30本まで刊行することに決まった。


《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》

「今泉棚」とリブロの時代 盛岡さわや書店奮戦記 再販制/グーグル問題と流対協 リブロが本屋であったころ 本の世界に生きて50年 震災に負けない古書ふみくら 営業と経営から見た筑摩書房 貸本屋、古本屋、高野書店 書評紙と共に歩んだ五〇年

薔薇十字社とその軌跡  名古屋とちくさ正文館 <新刊>『名古屋とちくさ正文館』