出版状況クロニクル70(2014年2月1日〜2月28日)
1月の出版物推定販売金額は1082億円で、前年比5.5%減、その内訳は書籍が533億円で同3.6%減、雑誌が549億円で7.2%減となっている。雑誌のうちの月刊誌は418億円で、同5.7%減、週刊誌は131億円で同11.9%減.
14年の出版業界を象徴するかのような最初からの落ち込みであり、返品率に至っては書籍38.0%、雑誌は何と44.7%まで上がっていて、書店売上の深刻な状況が浮かび上がってくる。雑誌返品率はまさに異常事態だというしかない。
さらに2月は二度にわたる記録的な大雪もあって、書店やコンビニへの配達の休配、遅配が起きたことで、出版物売上は1月以上にマイナスだと推測される。
学参期を迎えているけれども、4月の消費税増税も迫り、出版危機はさらに加速していくと見なすしかない。
これまでは毎月の売上高推移は示してこなかったが、緊急事態を迎えているゆえに、リアルタイムの売上状況の提出も不可欠だと考え、出版科学研究所による書籍雑誌推定販売金額を、ほぼタイムラグなく記しておくことにする。
1.アルメディアによる13年の書店出店・閉店状況が出された。
[出店数は220店、閉店数は619店である。特筆すべきは出店による増床面積で、前年の2万6038坪に対し、5万2678坪となっていて、倍増している。それもあって、総売場面積は4694坪と純増。
■2013年 年間出店・閉店状況(単位:店、坪) 月 ◆新規店 ◆閉店 店数 総面積 平均面積 店数 総面積 平均面積 1月 0 0 0 97 9,359 103 2月 9 1,439 160 36 2,876 85 3月 32 8,943 279 103 4,151 49 4月 29 5,587 193 47 3,700 93 5月 7 1,863 266 41 5,342 141 6月 14 3,218 230 56 3,787 71 7月 21 4,509 215 34 3,077 96 8月 15 2,815 188 41 2,801 78 9月 23 4,302 187 53 4,634 95 10月 20 3,875 194 30 3,073 102 11月 32 7,531 235 46 3,371 73 12月 18 8,596 478 35 1,813 63 合計 220 52,678 239 619 47,984 85 前年実績 171 26,038 152 729 44,828 69
12年は出店数171店、閉店数729店で、新規書店、増床面積は過去10年間で最大の落ちこみとなっていたことからすれば、いずれもプラスに転じたといえる。だが出版物売上高はマイナスとなっているわけだから、出店や面積の上昇は何の貢献ももたらしておらず、まったく逆行しているといっても過言ではない。
この際だから取次別出店数も記しておけば、日販79店、トーハン71店、大阪屋33店、太洋社23店、中央社5店、栗田4店、その他5店となっている]
2.1 における出店による増床面積の倍増は、ひとえに大型店の出店が多かったことによっている。そのベスト10を示す。
これらに続くのはジュンク堂近鉄あべのハルカス店650坪、同松戸伊勢丹店560坪、くまざわ書店アリオ札幌店530坪、丸善四日市店500坪である。
■2013年 年間 出店大型店ベスト10 (単位:坪)   店名 売場面積 所在地 1 蔦屋書店仙台泉店 3,000 宮城県 2 函館蔦屋書店 2,480 北海道 3 MORIOKA TSUTAYA 1,920 岩手県 4 Wonder GOO TSUTAYA川越店 1,076 埼玉県 5 精文館書店尾張一宮店 1,060 愛知県 6 明文堂書店TSUTAYA KOMATSU 1,000 石川県 7 紀伊國屋書店グランフロント大阪店 940 大阪府 8 蔦屋書店本庄早稲田店 900 埼玉県 9 蔦屋書店イオンモール幕張新都心 890 千葉県 10 ドラマ箱根ヶ崎店 800 東京都 [表からも明らかなように、大型店のうちの8店がTSUTAYAの直営店、FC店であり、13年の出店と増床が、TSUTAYAの代官山蔦屋店をモデルとする超大型書店100店体制戦略のダイレクトな反映だとわかる。
しかし本クロニクルで繰り返し既述してきたように、このような大型店化とその増床は異常だというしかなく、それは大型店が出店すればするほど出版物売上が減少していく事実に表われている。
それから危惧するのは大型店出店に対する日販への影響である。このような出店を支えているのは、日販=MPDがCCC=TSUTAYAに示している開店口座などの特販優遇条件で、ここまで露骨に日販とTSUTAYAによる全国大型店出店が実行されていくとすれば、それは一種の談合システムによるものと見なすこともできるのではないだろうか]
3.CCCは13年のTSUTAYAと蔦屋書店の書籍・雑誌販売金額が1130億円だったと発表。前年比3.0%増で、過去最高。対象は「TSUTAYA BOOKS」FCの742店。
[かつての長かった、書店業界における丸善と紀伊國屋の両雄時代は過ぎ去ってしまい、今や書籍・雑誌販売の2強はアマゾンとCCC=TSUTAYAに取って代わられたのである。
それが21世紀に進行した出版業界の紛れもない現実だが、その過程で、取次において何が起きていたかを検証する時期へと入っている。アマゾンとCCCの成長も、取次とのタイアップなくしては不可能だったからだ。
大阪屋はアマゾンの取次を引き受けることで、売上を倍増するに至ったが、ジュンク堂との取引も含め、書籍比率が高くなり、取次としての利益率は低下して赤字となる事態に追いこまれてしまった。
CCCとタイアップし、トーハンを追い抜いた日販にしても、同様の軌跡をたどるのではないだろうか。CCCとの過度の関係、TSUTAYA大型店出店への協力と推進は、書店市場におけるTSUTAYAの寡占、独占化に向かうばかりで、日販の未来を保証しているとは思われない。近代出版流通システムは中小書店をコアとして成長してきたからだ。
それに複合店はあくまでレンタルの利益によって支えられてきたのだが、ゲオとの廉価競争によって、そのビジネスモデルが成立しなくなりつつある現在、バブルとしかいいようのない大型店を維持することは可能かという問題が露出してくるのを避けられないだろう。
トータルの書籍・雑誌販売金額は公表できても、近年の代官山蔦屋書店を始めとして、個々の大型店の売上高は明らかではないし、初日売上すらも公表されていない。超大型店の漂流化は必然のようにも考えられる]
4.大阪屋は南雲隆男社長、中田知己常務が退任し、新常勤取締役として、講談社から大竹深夫取締役、小学館から早川三雄顧問、非常勤社外取締役として、小学館から山岸博常務、集英社から東田英樹常務、非常勤社外監査役として、講談社から森武文専務が就任する。新社長は講談社の大竹が有力視されている。
[新たな役員体制に加え、会計監査法人も新たになり、「新生大阪屋」、第三極の取次モデルの構築をめざすとされているが、それはきわめて困難だと断言していい。大阪屋生え抜きの南雲と中田の辞任はそれを物語っているし、大手出版社に取次の経営なぞできるはずもない。そのことは講談社、小学館、集英社にしても、今回選ばれた5人にしても、よく自覚しているはずだ。取次の根幹は金融とロジステクスであり、大手出版社の営業経験は役に立たないからでもある。
本格的に大阪屋の再建をめざすのであれば、3社は売掛債権の全額放棄、新生取次にふさわしい広範囲な時限再販に基づく正味構造の改革スキームの提案に加え、向こう1年間の資金繰りを支える増資をもってのぞむべきなのに、それらは秋までもちこされるという。増資先を予定していた楽天もDNPも候補から外れてしまったことは明らかである。
人文書取次の鈴木書店の場合も、経営困難となり、岩波書店とみすず書房が再建を試みたが、功を奏せず、破綻へと追いこまれた記憶はいまだもって生々しい。
大手出版社が経営に参画したからといって、大阪屋もすぐに3月決算が待ちかまえている。予断を許さない段階へと入っていると考えられる]
5.展望社から元岩波書店の坂口顯の『装丁雑記』全2冊が出された。
[これは編集者でもあった坂口が手がけた装丁を、エッセイと書影入りでまとめたものである。
唐突ながら、ここで坂口の著作を挙げたのは、彼が他ならぬ鈴木書店の再建に携わった人物だからだ。その奥付略歴にもそれは記され、「1998年人文、社会科学専門取次鈴木書店に出向し、元みすず書房社長小熊勇次氏と経営再建にあたるが失敗、2001年12月倒産」とある。
それこそ大阪屋に出向する大手出版社の5人は、坂口から鈴木書店の再建失敗と倒産に至る事情とプロセスを詳細にヒアリングすべきであろう。取次の歴史構造的問題はここに凝縮して表われていたし、それゆえに倒産に至るしかなかったのだ。
いずれ坂口にも「出版人に聞く」シリーズへの登場を乞い、それらのことをインタビューしたいと考えていたが、私よりも先に大手出版社の5人が坂口の話を聞くべきだと思われる]
6.徳間書店が新たに発行した優先株の引受先をCCCとして増資し、資本、業務提携。CCCの出資金額や持ち株比率は非公表だが、CCCの中西一雄副社長が徳間書店取締役に就任し、ネット事業におけるコンテンツ活用ビジネスを中心に協力関係を深めていくとされる。
[徳間書店の平野健一社長の見解によれば、今後委託制配本と雑誌の広告収入による出版ビジネスはそれだけでは立ちいかなくなるので、ネット配信やイベントも視野に収め、コンテンツやブランドを全方向で活用するためのCCCとの提携だという。
すでに徳間書店は紙の雑誌・書籍を立体的に露出するメディアプロデュース局を新設し、昨年創刊の『LARME』『VOLT』『Trickster Age』もそのための敷石であるようだ。
CCCは超大型店、図書館、カフェ事業などに加え、ネット事業を展開していくのであろうが、まだそれらの見取図は明らかになっておらず、徳間書店との資本業務提携によってその一端が伝えられたことになろう」
7.ブックオフの13年の買取り・販売実績が発表された。それによれば、「本」の買取りは4億2813万冊(前年比7.0%増)、販売は2億7525万冊(同0.1%減)。なお全商材の買取客数は1665万人(同4.9%減)、販売客数は9433万人(同1.4%減)。
[本クロニクル61で、公共図書館貸出冊数が近年、書籍推定販売部数を超える7億冊になっていることをレポートしておいた。ちなみに12年の書籍推定販売部数は6億8790万冊。
13年度のブックオフの買取り・販売をトータルすると、ちょうど7億冊を超え、ブックオフのリサイクル流通だけでも書籍推定販売部数を上回るものとなっている。
もちろんブックオフの数字はコミックシェアが高いことは承知しているが、これに販売不可能本や他の新古本産業なども加えれば、書籍だけでも推定販売部数に近づくことになるかもしれない。
とすれば皮肉なことに、新古本産業のリサイクル流通と図書館貸出冊数のほうが、書店での書籍販売冊数を上回っていることになる。これもまた日本だけで起きている出版危機の背後にある真実ということになろう]
8.講談社の決算が出された。売上高1202億円、前期比2.0%増、営業利益24億円(前年は6億円の営業損失)、純利益32億円(前年比107.3%)で、19期ぶりの増収増益)。
[しかし売上高は2年前の水準にも戻っておらず、今期は『海賊とよばれた男』のミリオンセラー化や、コミック『進撃の巨人』の2800万部に及ぶ大ヒットによっていることは明らかである。
したがって真価を問われるのは来期であり、ヒットが出なければ、たちまち減収減益構造へと逆戻りしてしまうだろう]
9.『文化通信』(2/24)が、グループ会社を統合し、最大手出版社となったKADOKAWAの角川歴彦会長にインタビューしている。それを要約してみる。
* 電子書籍ストア「ブックウォーカー」は3年目を迎え、当初はKADOKAWAグループのコンテンツだけだったが、現在は講談社、小学館、集英社も参加し、180社電子書籍8万6000点を配信している。それに3月にはJPOの「緊デジ」電子書籍も加わり、320社10万点となる。
* 今年度のKADOKAWAの電子書籍関連売上高は45億円を見こんでいるが、初期投資が30億円かかっていて、まだ利益を上げるに至っていない。
* だが電子書籍に課せられた大きなミッションは、1997年から17年間続いている出版業界のマイナスを食い止めることなので、やりぬかなければならないと決意している。
* 電子書籍のオールフェアなどの実施でそれだけの成果も見えてきているし、「ブックウォーカー」でも、1000冊から3000冊購入する人が1000人はいる。
* 国民の70%が電子書籍を買うようになれば、電子書籍は出版業界を救う有力な手立てのひとつになる。
* そこに至る課題は3つで、デバイスの普及、電子書籍ストアの活力、出版社の対応である。また最も大きな問題は、電子書籍ストアへの出版社の電子書籍提供が少ないことで、市場が立ち枯れてしまう恐れもある。
* それを乗り越えるためには、再販委託制に守られた紙と異なり、電子書籍は非再販商品であることを確認すべきだし、柔軟な価格も含めた販売策を積極的に進めなければならない。電子書籍によって非再販の販売方法を身につけ、紙の本も再販制度の弾力運用によって新しい需要を開拓することができる。
* もうひとつ重要なテーマは、リアル書店との連携による海外の大手プラットフォーマー(アマゾンのことだろう―注)との対抗軸を作ることで、書店店頭こそが出版業界のプラットフォームだからだ。
* いま中小取次の経営問題が深刻になり、大手出版社が救済する方向で動いているし、当社もやるべきことは必ずやるが、取次を救済するのはその先にある書店を守るためで、もし書店や取次が亡くなれば、出版業界は壊滅してしまう。
* だから書店でも電子書籍を売ってもらい、店頭を活性化させる試みとして事業化し、紙の本の増売にも挑戦したい。そのためにも書店と「ブックウォーカー」は大胆な販売を重ね、JPOの書店での電子書籍販売実験をも連携していきたい。
[本クロニクルでも角川の電子書籍に関する発言を追跡しているが、ここに至ってかなりトーンダウンしているように見受けられる。電子書籍元年の2010年には『クラウド時代と〈クール革命〉』の中で、デジタルコンテンツ時代の到来と、クールジャパンと国家プロジェクトたる「東雲」計画を語っていた。だが本クロニクル50で示しておいたように、クールジャパンコンセプトは失墜したと見ていい。
またJPOによる16年の電子書籍市場規模2000億円に対し、角川は数年後に3500億円となるという見解を表明していた。しかしそれもまったくの錯誤でしかなかったことは、今期のKADOKAWA電子書籍関連売上高45億円という発言に露出している。それに加え、大学生協調査によれば、電子書籍も含めてまったく本を読まない大学生が40.5%を占めている現在からみても、国民の70%が電子書籍を買うようになることはありえない。
つまり電子書籍は出版業界のマイナスを食い止めることも、書店や取次を救うことも不可能なのだ。すでに電子書籍書店自体が、ローソンを始めとして撤退する流れに入っていて、世界的にも電子書籍の成長は止まりつつあると考えられる。ということは2014年は電子書籍狂騒曲の終焉の年となるかもしれない]
10.鈴木みその『ナナのリテラシー』1が出された。帯文は「Amazonで電子書籍を個人出版し、空前の超ヒット!!」とあり、そのコミック化。
[本クロニクル33でも、鈴木みそのコミック、『限界集落(ギリギリ)温泉』を取り上げてきたし、同67でもその電子出版についてもふれている。
これは「あとがき」に示されているように、『限界集落温泉』を2012年暮れに電子書籍化し、「出版社を通さないセルフ出版で、千部売れれば、御の字、と思っていた本が、トータルで5万部売り、印税は11月現在で900万円に達するほど」になったことをコミック化してもので、フィクションであるにしても、カッコ内の引用したところは事実と見なしていいだろう。
実は統合前であれば、この発行所はエンターブレインであったはずが、KADOKAWAとなっていて、もし事前に角川歴彦が知っていたら、刊行を許さなかったのではないかとも思われる。
ただ現在の出版業界と電子書籍問題に関する簡略なチャートを形成していることもあり、本クロニクルの読者には必読の一冊としてお勧めする]
11.『FACTA』(3月号)が「電子書籍を本屋で売る『アホ実験』」なる記事を掲載している。リードは「ネットに対抗する出版流通界の浅知恵。経産省の委託事業だが、失敗必至の愚の骨頂」。
[これは9で角川歴彦が提携すると語っていたJPOの「フューチャー・ブックストア・フォーラム」における、書店での電子書籍販売実験をさしている。この実験は経産省の委託事業として、JPOが立ち上げた出版業界の有識者で構成された「同フォーラム」がまとめたもので、それに対し、同記事は「トンデモ実証実験」と呼んでいる。
「同フォーラム」資料では消費者調査によれば、電子書籍利用者ほど書店で電子書籍を購入したいと回答する傾向が強いとされる。だがその根拠となる調査報告書には、「もし書店で実際の本を見た上で、電子書籍を購入(店頭でダウンロード)できるとしたら、どのように感じますか」という設問がある。
その集計結果は「わざわざ書店までいって電子書籍を全く利用しようと思わない」が34.1%、「電子書籍を全く利用しようと思わない」が28.4%で、回答者の62.5%が「書店で電子書籍を購入したい」と考えていないのである。それが「電子書籍を本屋で売る『アホ実験』」というタイトルの理由となる。この記事の他の部分まで賛同するわけではないが、直販誌ゆえに掲載できるものと見なせよう]
12.『新文化』(2/6)が「金融機関から見た出版業界の今」との見出しで、「銀行マンの匿名インタビュー」を掲載している。それを要約してみる。
* 出版社と書店は業種としての取り扱いは異なり、一括して斜陽産業、不況業種と見ているわけではないが、出版業界全体としての先細り感は否めない。
* 世代交代した若い社長は先代、先々代と比べ、危機感が高く、勉強熱心で、経営面でのアドバイスを求められるが、それは編集や営業の経験はあっても、経理に従事してこなかったことによる不安からだ。
* 金融機関が見ているのは、その他の利益も含んだ経常利益ではなく、本業の出版販売における営業利益であり、赤字決算が続いても融資がすぐに止まるということはない。代表者の資産と一体で債務償還能力を考慮する。
* 出版社の社長の中にはカードローンやキャッシュで資金を調達している人たちもいる。それは恒常的になっている場合もあり、金利は8〜12%なので、リスクが高い。
* 出版社の売上は読めないので、身の丈にあった利益を出せる売上のために、原価、人件費、販管費を見直し、企業体質を改善する。
* 在庫評価として最も低いのは出版社で、売上の40%程度で算出することが多い。最も高いのは書店在庫で、売れなくても返品可能だからだ。
[このようなインタビュー記事が業界紙の一面に掲載されること自体が前代未聞といっていいし、現在の出版危機の深刻さをそのまま伝えるものである。
このインタビューからすると、いくつもの出版社がカードローンやキャッシングで決済資金の調達をしていることはすでに周知の事実となっているのだろう。
それに加えて、出版社の在庫評価だが、売上の40%だとすれば、中小零細の場合、取次正味の60%に対するものと考えられるので、定価1億円の在庫は2400万円ということになる。ただ特価本業界の仕入れ評価となると、10%であるから、銀行評価はまだそれよりも高く、少しばかり救われるような気になってしまうが、出版物デフレの行き着いたところをあからさまに伝えている。
しかし疑念を抱くのは書店在庫評価のことで、返品すれば換金できるとの判断である。もちろん在庫に対して、書店が取次にその仕入れ金額を支払っていれば、それは妥当かもしれないが、実際には大型書店は長期の開店口座として棚上げされているので、それは成立しないことになる。この事実をふまえれば、出版社在庫よりも書店在庫こそが最も低い評価となってしまうのではないだろうか]
13.毎日新聞社は今秋に出版局を分社化する方向で、毎日新聞出版企画を設立登記。同出版局は『週刊サンデー毎日』『週刊エコノミスト』など雑誌5点、年間書籍刊行点数は100点前後で、先行する日経新聞や朝日新聞などの出版事業分社化に続くことになる。
[最近になって、『サンデー毎日』の誌面が刷新され、面白くなり始めている。この分社化の影響を受けているのだろうか。
「出版人に聞く」シリーズ13の塩澤実信『倶楽部雑誌探究』でも、戦前の『サンデー毎日』に言及したばかりだ。頑張れ、『サンデー毎日』!]
14.元講談社の編集者で、歌人の小高賢としても知られていた鷲尾賢也が亡くなった。
[彼は現代新書編集長を務め、選書メチエなどの多くの企画を立ち上げ、それに歌人という立ち位置もあって、大手出版社の編集者としてはめずらしく、退職後も中小出版社とのパイプ役、神田古書街の世話人、ムダの会の『いける本いけない本』の代表も兼ね、まだ現役の編集者といってよかった。
そして何よりも大手新聞社への出版業界情報の第一の提供者であり、彼の死によって、たよりになるニュースソースが失われ、今後の出版業界記事はさらに貧しくなっていくであろう。
鷲尾にもいずれ「出版人に聞く」シリーズに登場してもらうつもりでいたが、彼の急逝によってそれも実現不可能となってしまった。ご冥福を祈る]
15.「出版人に聞く」シリーズ13として、塩澤実信『倶楽部雑誌探究』が3月上旬に刊行予定。初めて語られる倶楽部雑誌の世界とは何だったのか。出版史、文学史の空白を埋める一冊である。
《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》