出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル72(2014年4月1日〜4月30日)

出版状況クロニクル72(2014年4月1日〜4月30日)


前回、3月は学参期で、書店売上は最も伸びる月であるけれど、マイナスが続いているために、出版物推定販売金額の2000億円割れは必至ではないかと記しておいた。それは適中し、13年の2059億円に対し、前年比5.6%減の1945億円と100億円を超すマイナスになってしまった。
内訳は書籍が同4.5%減、雑誌が同6.8%減である。とりわけ雑誌のうちの月刊誌は同5.7%減、週刊誌は11.2%減で、歯止めがかからないマイナスが続いている。

それでも出版科学研究所は書店販売状況に関して、消費税増税前の3月下旬は好調だったと述べているが、実売金額もかなりマイナスだったことは周知の事実であろう。

様々な指標を見ても、例えば百貨店の3月売上高は2、3割の大幅増で、大手5社そろっての増収が5ヵ月続いているとされるし、その他の小売業も駆け込み効果で増収だったと伝えられている。それなのに大幅なマイナスであったのは出版業界だけかもしれない。



1.2013年版 『日本の図書館・統計と名簿』 が出されたので、公共図書館の推移を示す。


公共図書館の推移
    年    図書館数
専任
職員数
(人)
蔵書冊数
(千冊)
年間受入
図書冊数
(千冊)
個人貸出
登録者数
(千人)
個人貸出
総数
(千点)
資料費
当年度
予算
(万円)
1971 8855,69831,3652,5052,00724,190225,338
1980 1,3209,21472,3188,4667,633128,8981,050,825
1990 1,92813,381162,89714,56816,858263,0422,483,690
1997 2,45015,474249,64919,32030,608432,8743,494,209
1998 2,52415,535263,12119,31833,091453,3733,507,383
1999 2,58515,454276,57319,75735,755495,4603,479,268
2000 2,63915,276286,95019,34737,002523,5713,461,925
2001 2,68115,347299,13320,63339,670532,7033,423,836
2002 2,71115,284310,16519,61741,445546,2873,369,791
2003 2,75914,928321,81119,86742,705571,0643,248,000
2004 2,82514,664333,96220,46046,763609,6873,187,244
2005 2,95314,302344,85620,92547,022616,9573,073,408
2006 3,08214,070356,71018,97048,549618,2643,047,030
2007 3,11113,573365,71318,10448,089640,8602,996,510
2008 3,12613,103374,72918,58850,428656,5633,027,561
2009 3,16412,699386,00018,66151,377691,6842,893,203
2010 3,18812,114393,29218,09552,706711,7152,841,626
2011 3,21011,759400,11917,94953,444716,1812,786,075
2012 3,23411,652410,22418,95654,126714,9712,798,192
2013 3,24811,172417,54717,57754,792711,4942,793,171
[13年において、公共図書館は3248館、これに大学図書館は1425館、短大図書館は204館であるから、合計すると4877館となる。

同年7月時点で、日書連の組合員数が4459であるから、これらの図書館数のほうが書店を上回っている。ちなみに1990年にはピークを過ぎたとはいえ、日書連加盟店は1万2556店を数えていたのである。

本クロニクル62で、図書館貸出冊数が10年から7億冊を超え、書籍販売部数を上回っていることを指摘しておいたが、これに大学、短大図書館の貸出冊数を加えれば、その逆転はもっと早く起きていたとわかる。

いずれ公共図書館だけでも日書連加盟店数を上回ってしまうであろう。ここに図書館と書店のあからさまな明暗が表われているといえよう]

2.1でふれた書籍販売冊数だが、そのもっとも高いシェアを占める文庫マーケットの推移を見てみる。

■文庫マーケットの推移
新刊点数推定販売部数推定販売金額返品率
(増減率)万冊(増減率)億円(増減率)
19985,337 5.5%24,711▲1.8%1,369 0.7%41.2%
19995,461 2.3%23,649▲4.3%1,355▲1.0%43.4%
20006,095 11.6%23,165▲2.0%1,327▲2.1%43.4%
20016,241 2.4%22,045▲4.8%1,270▲4.3%41.8%
20026,155▲1.4%21,991▲0.2%1,293 1.8%40.4%
20036,373 3.5%21,711▲1.3%1,281▲0.9%40.3%
20046,741 5.8%22,1352.0%1,313 2.5%39.3%
20056,776 0.5%22,2000.3%1,339 2.0%40.3%
20067,025 3.7%23,7987.2%1,416 5.8%39.1%
20077,320 4.2%22,727▲4.5%1,371▲3.2%40.5%
20087,809 6.7%22,341▲1.7%1,359▲0.9%41.9%
20098,143 4.3%21,559▲3.5%1,322▲2.7%42.3%
20107,869▲3.4%21,210▲1.6%1,309▲1.0%40.0%
20118,010 1.8%21,2290.1%1,319 0.8%37.5%
20128,452 5.5%21,2310.0%1,326 0.5%38.1%
20138,487 0.4%20,459▲3.6%1,293▲ 2.5%38.5%

[販売金額は2年続けて前年を上回っていたが、13年は1293億円で前年比2.5%減。販売部数も同様で、2億459万冊と同3.6%減。

『永遠の0』『オレたちバブル入行組』などの映像化に伴う8点のミリオンセラーはあったものの、売れるものと売れないものの二極化が進み、棚差しが売れなくなっているとされる。

13年の書籍販売部数は6億7738万冊であるから、文庫シェアは30%を占めている。シェアのことはともかく、売上や販売部数のマイナスは14年も続くことは確実であろう。

それはずっと成長してきたライトノベル市場が、13年には250億円、同12%減と初めてマイナスになったこともパラレルであるように思われる。この原因がアニメ化作品のヒットがなかったことによるのか、スマホなどに読者を奪われたのかはまだ判断できないけれど、文庫の行方を考える上で重要だろう。

ただ新刊点数からみれば、98年に比べ、13年は3150点も増えていて、それによって文庫売上が保たれてきたことは一目瞭然である。しかしこの新刊点数にしても、これから廃刊となる文庫も出てくるはずで、ピークアウトしたと見なすこともできよう]

永遠の0 オレたちバブル入行組

3.『FACTA』5月号がカバーストーリー[代官山イリュージョン]として、「TSUTAYAの『正体』」を掲載している。リードは「増田社長の『懐刀』と日本最大手アダルト業者の深いかかわりをひた隠し。『濁』と『浄』の不思議な昇華装置だが。」

 そこで指摘されている「裏の顔」を要約してみる。


* CCCが100%出資する子会社トップ・パートナーズは増田の懐刀で、直近までCCCの副社長だった中西一雄が兼任しているが、アダルトビデオ大手のKMプロデュースに「出資または取引」を行っている。

* CCCは傘下にあるデジタルハリウッド大学(現在は株式会社立の大学)を助成金目当てに学校法人化する計画があり、その過程で、文部科学省がCCCのTPとKMPへの関与を知り、問題視されたことがある。

* 3年前にCCCはMBO(経営陣による会社買収)により東証一部上場を廃止したが、KMPなどのAV部門が収益の柱となっていることを隠せないと判断し、非公開にしたのではないか。

* CCCのTポイント事業の共通ポイント戦略がセキュリティ上の懸念材料となっていて、政府が進める個人情報保護法改正案によって、大幅な戦略転換を迫られることになろう。

* 武雄市の桶渡啓祐市長は小中学校で、デジタルハリウッド大学の社長を務めた古賀鉄也と同級生だったことから、CCCが図書館事業に進出した。

[この他にもデジタルハリウッド大学をめぐる角川書店をはさんでの権力争い、身売り話なども書かれているが、焦点がしぼられておらず、初めてまとまったTSUTAYA批判ゆえの掲載であるにしても、トップ記事にすえるような内容とも思われない。AV業界と関係があることはすでに周知の事実だし、とりたてて非難すべきことでもないし、それが「正体」とされても何の驚きもない。

それでも知らなかったのは武雄市の市長との関係で、それが事実だとすれば、市長が語っていた図書館へのCCC誘致のエピソードを含めた話はまったくのフィクションということになる。そのような情報操作によって、CCCの武雄市図書館プロジェクトが成立したのであれば、CCCと市長には説明責任が生じるのではないだろうか。

出版業界におけるCCC=TSUTAYAの問題は、前回の本クロニクルでも記しておいたが、単店では驚くほど雑誌、書籍を売っていないにもかかわらず、超大型店を出店し、既存の書店を退場させていくことにある。これはフランチャイズシステムとレンタル事業が縮小に向かえば、ただちに危機に陥る市場だと考えられる。FCとレンタルとTポイント事業のための出店で、出版物販売への寄与は少ないと見ていい。
『FACTA』の記事はそのような視点がまったく欠けている。

ただそうはいっても
『FACTA』は直販雑誌ゆえにトップ記事にすえられたのであり、これが取次ルートの雑誌だったとすれば、日販はクレームをつけずに配本し、TSUTAYAは販売しただろうかという疑念が浮かび上がってくる。その意味において、この記事は一定の評価を与えておくべきかもしれない]

4.『河北新報』(3/31)デジタル版で、「復興予算で成人本電子化 被災地の情報発信促進事業」を配信している。また「復興支援事業・電子書籍化 東北関連3.5%」(4/5)「コンテンツ事業 被災地への発注把握せず 経産省とJPO」(4/19)も続報している。

JPOの「緊デジ」の中にエロ本やヌード写真集が100冊以上入っていたことに対し、これが復興予算の使われ方としてふさわしくないし、経産省とJPOが電子化事業に復興予算を利用しただけだという批判を発している。

 それを受けて「緊デジ」書目選定審査委員長を務めていた永江朗が
『週刊文春』(4/24) の連載「充電完了。」で、「納税者の皆さんにお詫びします」と題する一文を書いている。『河北新報』の記事を補足するものなので、引用してみる。

事業が終わってみると、中身はひどいものだ。著者名も出版社名もない書名だけのリストが公開され、どうみても東北とも震災とも関係なさそうな本が少なからずある。

なぜこうなったのか。じつは当初、電子化に応募する出版社が少なかった。経産省が取ってきた予算10億円を使い切るために、電子化できる本をかき集めたのだ。締め切り間際に慌てて集めたので、復興に関係ないものも紛れ込んだとしか思えない。(中略)

考えてみれば、経産省はこれまで原発を推進してきた、いわば震災の原因官庁である。その彼らが復興予算を使うこと自体、盗っ人猛々しい話なのだ。

ぼくはこれまでたくさんの過ちを犯してきたけれど、この緊デジに関わったこと(中略)は、最悪の間違いだ。悔やんでも悔やみきれない。納税者の皆さんにお詫びします。

[永江の正直な告白は「緊デジ」の内幕を伝えているが、今さらながらという気もするし、それは最初から自明のことだったように思える。

本クロニクルだけが一貫してJPOと「緊デジ」を批判してきたし、永江も当然それらも読んでいたはずだ。未読の読者は本クロニクル46、47、48、49、51、53、55、57、62 などを参照されたい。しかも
 53 で「JPO、出版デジタル機構、経産省は誰が責任をとるのだろうか」と記しておいたが、書目選定審査委員長永江の謝罪だけで終わってしまうのだろうか。

『河北新報』によれば、審査員は6人で、永江の他にもう一人は仲俣暁生である。永江もここまでいっているのだし、また仲俣がいうように「審査委は事業対象をチェックしているというアリバイづくりに利用されたにすぎない」。あとの4人の名前はここに挙げないが、彼らは永江だけの謝罪の背後に隠れて終わらせるつもりだろうか]

5.大手出版社の9社が雑誌の「超刊号」を同時発売し、新聞に「雑誌は面白いんだ」に始まる一面広告をうち、全国3000書店で全誌を並べるフェアを実施している。出版社と雑誌名を挙げておく。

 学研
『メルプラス』、講談社『リリア』、光文社『スプラウト』、集英社『オニヴァ』、主婦と生活社『ギフトレオン フォー キッズ』、小学館『おもタメ』、世界文化社『ララビギン』、ダイヤモンド社『子どもと一緒に海外旅行!』、文藝春秋『おいしいものは日本中から取り寄せる』

[これは雑協が主催する雑誌の復興を目ざす「マガフェス‘14」だが、このラインナップを見て、どれだけ宣伝文句にある「日本中の人」に「雑誌がなければ人生つまらない」という言葉を言わせることができるのか疑問に思う。

9社が同時に新しい雑誌を発売するのは雑誌史上初めての試みだといっても、分野のちがう雑誌を、判型を同じにして同時発売し、書店フェアを開いたところで、それらが飛ぶように売れるはずもなく、単なるにぎやかしに終わるだけだろう。雑誌本来の性格、雑誌を買うことの読者の嗜好、雑誌の歴史と現在を考えても、ひとつの雑誌とそのコンテンツと読者の志向や趣味がクロスした時に、買われていくのであり、それはこのような「マガフェス」によって促進されることはない。だから試みられてこなかっただけなのだ。

それから例を挙げれば、『おいしいものは日本中から取り寄せる』は『週刊文春』連載の再録だし、類書も多々ある。他の雑誌にしても内容を見ていけば、「雑誌がなければ人生つまらない」というレベルに達していないことはすぐにわかることだ。それゆえに当然のことながら、売れ行きもよくないと伝えられている。すでにフェアをやめた書店も出てきているし、読者をバカにするのかという声も上がってきている。

前回の本クロニクルで、書協の出版状況認識を批判しておいたが、雑協もまた同様ということになる]
おいしいものは日本中から取り寄せる

6.雑誌『小悪魔ageha』を始めとする女性誌、『samuraiマガジン』などの男性誌、書籍、ムックを刊行するインフォレストが事業停止。09年には売上高75億円だったが、『小悪魔ageha』などの既存雑誌の売上が落ちこみ、12年には売上高45億円に及んでいた。負債は30億円。

小悪魔ageha samuraiマガジン 出版状況クロニクル


『フライデー』(5/2)が「『小悪魔ageha』出版社が悲鳴『もうカネがない!』」という記事を掲載している。これを読むと、『小悪魔ageha』の成功によって、インフォレストに複数の投資ファンドや実業家が集まり、投資対象となり、次々とスポンサーが変わり、破産成立に至ったプロセスをたどることができる。

『出版状況クロニクル』『小悪魔ageha』と編集長の中條寿子を取り上げたのは09年だったので、5年前のことになる。彼女は11年に退社しているようだが、現在も雑誌に携わっているのだろうか]

7.ブックオフとヤフーが資本・業務提携を発表。ブックオフはヤフーから最大100億円の出資を受け、ヤフーが筆頭株主となる。これによって現在の「ヤフオフ!」の中古本200万冊を1000万冊に増やし、その他のブックオフ扱いのDVDやゲームソフトなども販売する。ヤフーのプレスリリースは こちら を参照されたい。

[ヤフーの出資は普通株式、転換社債も含めると、議決権ベースで最大43%となるとされるので、実質的にブックオフはヤフーの傘下に入ることになる。

『出版状況クロニクル2』で既述しておいたように、09年に講談社、集英社、小学館、DNP、TRC、丸善の6社はブックオフの28.9%に及ぶ株式を取得していた。

そして「ブックオフとともに、二次流通も含めた出版業界全体の協力・共存関係を構築し、業界の持続的な成長を実現させていく」と謳っていたが、5年間に何ひとつ実現させることなく、筆頭株主の座もヤフーに奪われてしまったのである。一体何のための出資であり、声明だったのか。ここにも「緊デジ」問題と共通する、出版業界のヴィジョンの不在と虚しさがよく表われている。

ブックオフにしてみれば、フランチャイズシステムの限界と市場の衰退を前にして、ヤフーの傘下にとりあえず避難したということになろうか]
出版状況クロニクル2

8.「海外事業者に公平な課税を求める緊急フォーラム」が開かれた。同フォーラムは文字・活字文化推進機構、海外事業者に公平な課税適用を求める協議会、インターネットサービスにおける連絡会の共催による。

同協議会の副会長である紀伊國屋書店の高井昌史社長は次のように述べている。

アマゾンなどの海外事業者の消費税免税によって、大学などの入札の「割引サービス合戦」では勝ち目がなく、かつて100社あった洋書や洋雑誌国内輸入業者は10社に減ってしまった。電子書籍販売においても、DNPの「honto」や凸版印刷の「BookLive」などは大資本企業であるので、競争力を有しているが、紀伊國屋にとっては酷で、政府が来年10%に引き上げ、消費税法が改正されない場合、紀伊國屋が電子書籍事業から撤退する可能性もあると。

[これも前回の本クロニクルで、アマゾンが税金も消費税も納付していない事実にふれておいた。

確かに高井がいうように、電子書籍販売に関しては再販制は適用されないわけだから、さらなる「割引サービス合戦」に向かうことは必至で、日本の電子書籍化が進めば進むほど、深刻なものとなろう。

おそらくこのような事態を召喚するアマゾンや電子書籍メカニズムの研究を直視もせずに、電子書籍推進論者たちが能天気に躍り、今になって逃げだそうとしている事実を告げている]

9.そのアマゾンの電子書籍に関連してだが、国会図書館の電子化データを印刷し、プリント・オン・デマンドの紙の本として販売する。

第一弾は夏目漱石のパロディ本
『吾輩ハ鼠デアル』(2324円)、『クロス・ワード・パヅル』(1115円)、新渡戸稲造『武士道』(2760円)、笹の屋主人『女哲学』(1643円)など20点で、製作はインプレスR&D。

吾輩ハ鼠デアル
[国会図書館のデジタル化出版物はすべてが著作権が切れているので、このようなプリント・オン・デマンド事業の対象とすることは違法ではない。

アマゾンのその事業は11年に始まり、洋書が170万点に比べ、日本の出版物は1万点しかないので、国会図書館の蔵書を積極的に加えていくことになったのであろう。

これがビジネスとして成功するかどうかはまだ判断できないにしても、古本屋に与える影響は少なくないと考えられる。内容だけなら、それらで済ませられるからだ。それに先に挙げた四冊の値段からすれば、古書よりも安く、こちらも価格競争には勝てないからだ]

10.小出版社からなる日本出版者協議会に属する緑風出版、水声社、晩成書房などが、アマゾンに対し、出荷停止を決定。

 これはアマゾンの大学生などへの10%ポイントサービスを、事実上の大幅値引きで再販契約違反だとしての処置であり、5月から半年間にわたって実施するという。

[この問題は 本クロニクル60 でも取り上げてきたが、ついにアマゾンへの出荷停止という事態になってしまった。

これに関しての贅言ははさまないが、売上に対する影響は大丈夫だろうかと、心配の一言だけを付け加えておく]

11.『新文化』(4/3)にフランス著作権事務所のカンタン・コリーヌ代表が、アマゾンなどあらゆるオンライン書店による「送料無料サービスを禁止」する改正ラング法(反アマゾン法)成立に関して寄稿している。それを要約してみる。

* アマゾンのひとり勝ちを阻止するために、議会でスムーズにコンセンサスが得られ、「書籍の送料無料禁止」の法律が成立した。この改正ラング法はアマゾンの「送料無料」に加え、ラング法で認めている5%割引を合わせたビジネスを防ぐもので、この法律の成立により、アマゾンなどのオンライン書店のほうがリアル書店よりもわずかに高くなる。

* 同法の成立は現政権がリアル書店を強力にサポートした証明であるし、書籍が他の商品と異なる文化的生産物だという表明になる。それは作家や出版社を守ることでもあり、そのために消費税も一般商品と同じ20%ではなく、5.5%が適用されている。

* これらの背景にあるのは販売ルートの多様性こそが、書籍の多様性を確保するという「文化的特例」の基本的な考え方である。

* フランス税務当局はアマゾンに未払い消費税と罰金2億ユーロを請求し、支払手続きは進んでいるようだ。

* 現在の書籍市場の20%がネット販売で占められ、そのうちの7割がアマゾンのシェアとなっていて、アマゾンは改正ラング法成立に対し、ネット利用の消費者を無視し、リアル書店と出版社の利益のみを優先していると批判し、わずかのかたちだけの送料を設定し始めている。
* 読者の意見として、街の書店は在庫やサービスに関して不満だし、政府やフランス書店組合は書店ビジネス形態を変革し、売り手と買い手を結びつけるプラットフォームづくりに協力したほうが建設的ではないか。街の書店を救済すべきという意見には同意するが、改正ラング法で片づくというのは文化省の間違いだ。

[街の書店、アマゾン、政府と文化省、読者のそれぞれのスタンスと意見を紹介してみた。これも前回の本クロニクルで既述しておいたが、フランスも13年に2つのチェーン店が破綻していることもあって、今年に入り、改正ラング法の成立に至ったと考えられる。

しかしアマゾンに関する問題は同じでも、フランスと日本の事情は、前者は書籍を売る書店であるが、後者は書籍の他に雑誌とコミック、レンタルや雑貨販売も兼ねる複合書店であるから、同列に論じることはできない。

カンタン・コリーヌは「書籍事情はフランスも日本も似ており、いま〈知恵〉が試されている時期である」と述べているが、日仏の書店事情は内実に関してはまったく異なっていることに留意しなければならない]

12.『朝日新聞』の夕刊(4/17)が一面で「大学図書館リストラ」を演じている。

 大学図書館から海外の「紙」の雑誌が消え始めていて、それは欧米の学術系出版社の寡占化が進み、「電子版」も「紙」も値上がりしていることによっている。問題なのは「電子版」で、その購入費は慶大が13年度7億円、東大も14年度はほぼ同じ金額で、そのために「紙」の購入を切り詰めることになっているという。

[これは『出版状況クロニクル2』で言及したが、書物史家でハーバード大学図書館長のロバート・ダントンの「グーグルと書物の未来」という、啓蒙的にして専門的な論文が『思想』(09年6月号)に掲載されていた。

そのテーマのひとつが「専門化を通じて起きた高額学術ジャーナルの図書館定期問題」で、その問題を解決し、広範なアクセスを可能にする民主的デジタル化によって、公共の条件において、「学問デジタル共和国」の創造を願うと書いていた。ところがデジタル化は進んだものの、ダントンの提示した問題は解決されるどころか、さらに困難な状況へと向かってしまった事実を明らかにしている」

13.新文化通信社の丸島基和が自ら発行人を務める『新文化』(4/10)の「社長室」で、「正念場を迎えた太洋社」という一文を書いている。

 それによれば、太洋社は新規出店ラッシュで、6月末までに今期121店となる。だがその一方で、資金繰りは予断を許さない状況にあり、昨年末には出版社15社に対して支払猶予を依頼したが、承諾したのは数社しかない。さらに取引書店入金率は60%ほどで、売掛金が不良債権化している。本社を売却したものの、3期連続赤字でもあり、書店や出版社の不安はまだ払拭されていない。正念場を迎えていて、この数か月うちに大転換期を迎えそうだ。

[「社長室」は発行人が記す社説とでもいうべきもので、そこでここまで太洋社に言及するのは異例のことだと思われる。

しかし現在の出版状況からすれば、所謂「飛ばし社説」と見なせないので、今期の太洋社決算状況のリークなどを受けて書かれたと推測される。

大阪屋に関しても大がかりなリストラの話が伝わってきている。漂流する取次というイメージが浮かんでくる]

14.長野の平安堂チェーン19店が日販からトーハンへと帖合変更。

[これを記したのは、平野一族時代の平安堂がトーハンから日販へと帖合変更し、それが『平安堂八十年の歩み』の一章に生々しく記録されていたからだ。

しかし2012年に至って、平安堂は高沢産業傘下に入り、取引条件をめぐって、日販からトーハンへと戻ったということになろう。

太洋社の新規店も多くが帖合変更によっているようだが、各取次も売上高を維持するための帖合変更に必死なのであろう。だが平安堂ではないが、その行き着く先はどうなるのだろうか]

15.ひくまの出版が破産。負債は3億円。

 1978年設立の児童書出版社で、地方出版社だが、80年代には『さと子の日記』がミリオンセラーとなっていた。近年の児童書全体の低迷と売上減少、過度の借入金もあり、今回の措置に及んだとされる。

[ひくまの出版は児童書ばかりでなく、民俗学、郷土史関連の復刻も出していて、『集古』に連なる『土のいろ』全12巻の刊行は貴重なもので、今になって考えれば、よくぞ復刻してくれたと思う。おそらくこれがデジタル化されることはないであろうから]
さと子の日記 

16.宮崎県串間市のつまがり書店が破産。

 1918年創業の教科書も手がける老舗書店で、負債は1億円。06年には売上高1億8000万円だった、13年には競合などで1億円を下回り、赤字が続いていた。

[教科書、学参シーズン半ばの破産であることからすれば、ここまで持ちこたえるのがやっとだったと推測される。創業から100年近く経っているわけだから、この地方における様々な本や雑誌や読者をめぐる物語が展開されていたにちがいない。しかしそのような書店は次々に退場し、もはや少なくなっていることは自明の事実だろう]

17.『現代思想』4月号の特集は「ブラック化する教育」。

[出版危機の内側で進行しているのは、「緊デジ」に象徴されるような出版の「ブラック化」であり、それとパラレルに様々な分野において「ブラック化」が起きている。「教育」も例外ではなく、新自由主義下の「教育」の現在が浮かび上がってくる。

この特集と『WEDGE』4月号の「『就活』が日本をダメにする―不満続出するリクルートビジネスモデル」をリンクさせて読むと、「ブラック化」の起源を想起させる。なお消費税が上がったことで、『現代思想』も1400円を超えてしまった]
『現代思想』4月号 『WEDGE』4月号

18.コミックの紹介をしておきたい。『モーニング』に連載されていた竜田一人の『いちえふ』第1巻が出された。

『いちえふ』第1巻 
[「いちえふ」とは福島第一原子力発電所の略称で、そこで作業員として働いた著者によるコミックルポルタージュと称すべき作品である。

私たちは大震災後の「いちえふ」の多くの写真を見てきたが、その中で起きている「福島の現実」について知らされていなかった。だがその「ブラックボックス」化していた現実がここにレポートされたのである。

第6話「はじめての1F」で使われている、湯原昌幸の♪「雨のバラード」がとても印象に残り、余韻となってまだ消えていかない]

19.「出版人に聞く」シリーズは井家上隆幸へのインタビュー『三一新書の時代』を終えた。5月は植田康夫『「週刊読書人」と書評の戦後史』を予定している。

《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》

「今泉棚」とリブロの時代 盛岡さわや書店奮戦記 再販制/グーグル問題と流対協 リブロが本屋であったころ 本の世界に生きて50年 震災に負けない古書ふみくら 営業と経営から見た筑摩書房 貸本屋、古本屋、高野書店 書評紙と共に歩んだ五〇年
薔薇十字社とその軌跡 名古屋とちくさ正文館 『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』 倶楽部雑誌探究