出版状況クロニクル79(2014年11月1日〜11月30日)
10月の書籍雑誌推定販売金額は1330億円で、前年比4.2%減。その内訳は書籍が同2.2%減、雑誌が5.8%減で、雑誌のうちの月刊誌は4.6%減、週刊誌は10.4%減。
前月と同様に、送品日が一日多かったにもかかわらず、落ちこんだのは返品率の上昇で、書籍は41.4%、雑誌は40.2%と前年を上回り、またしても双方が40%を超えるという状況に追いやられている。
書店売上も落ちこみ、書籍6%減、そのうちの文芸書や文庫は2ケタ減、コミックを除く雑誌は7%減、コミックだけが6%増で、好調なコミックだけが売上を支えている販売状況にある。しかし本文でも言及しているように、楽天と大阪屋の関係から、コミックの電子書籍化が進めば、この売上自体もマイナスになり、書籍、雑誌、コミックの総崩れを招来しかねない状況を迎えつつあるようにも思われる。
1.日販の『2014年出版物販売の実態』が出され、そのうちの「販売ルート別 推定出版物販売額2013年度」が『出版ニュース』(11/中)に掲載されているので、それを示す。
[2003年からの販売ルート別販売額の推移に関しては、本クロニクル67 の表を参照してほしいが、2003年の書店ルートは1兆6192億円、CVSルートは4638億円、駅売店ルートは922億円である。この10年間で、書店は4000億円近くのマイナス、コンビニは半減、駅売店=キヨスクはほぼ3分の1になってしまったことになる。
■販売ルート別推定出版物販売額2013年度 販売ルート 推定販売額
(百万円)構成比
(%)前年比
(%)1.書店ルート 1,225,218 72.3% 94.9% 2.CVSルート 225,217 13.3% 91.9% 3.インターネットルート 160,700 9.5% 111.1% 4.生協ルート 34,900 2.1% 98.3% 5.駅売店ルート 34,201 2.0% 85.1% 6.スタンドルート 13,863 0.8% 86.4% 合計 1,694,099 100.00% 95.6%
コンビニとキヨスクの出版物売上はほとんどが雑誌であることからすれば、雑誌の凋落がダイレクトに反映されている。おそらく数年のうちにCVSルートとインターネットの販売額とシェアは逆転するであろう。
また生協ルートは大学生協の出版物販売額だが、こちらも10年間で3分の1の減少となっていて、下げ止まりを見せていない。
インターネットルートだけが、販売額とシェアを高め、他のルートはいずれもマイナスとなっていく状況がまだまだ続いていくだろう]
2.1のCVSの「出版物取扱い比率・売上高」2013年度版の上位 7社を示す。これも同号の『出版ニュース』に掲載されている。
■CVSの『出版物取扱い比率・売上高』 2013年度 順位 企業名 年間
総売上高
(億円)店舗数 12年
店舗数1店舗当
売上高
(百万円)出版物
取扱い比率
(%)出版物
売上高
(百万円)1店舗当
出版物
売上高
(百万円)1 セブンイレブン 37,813 16,319 15,072 231.7 2.1 78,257 4.8 2 ローソン 19,454 11,606 9,752 167.6 2.2 43,602 3.8 3 ファミリーマート 17,220 9,780 8,772 176.1 2.4 41,408 4.2 4 サークルK・サンクスジャパン 8,953 5,612 5,329 159.5 2.4 21,330 3.8 5 ミニストップ 3,499 2,186 2,168 160.1 2.7 9,377 4.3 6 デイリーヤマザキ 2,039 1,531 1,648 133.2 3.5 7,053 4.6 7 セイコーマート 1,817 1,164 1,157 156.1 1.7 3,025 2.6   7 社 計 90,794 48,198 43,898 188.4 2.2 204,052 4.2 [前年データも同じく、本クロニクル67 に掲載しておいたが、7 社合計で出版物売上高は2163億円だったので、2013年の2040億円は前年比123億円のマイナスということになる。しかし前年に比べ、店舗数は4300店増えていることからすれば、落ちこみはコンビニ全体の前年比91.9%よりも大きいことになる。
それをはっきり告げているのは「1店舗当出版物売上高」で、セブン‐イレブンが480万円で、前年比60万円減、セイコーマートは260万円で、同30万円減である。
つまり最も売っているセブン‐イレブンにしても月商40万円、24時間営業の日商は1万3000円でしかない。現実的にコンビニの雑誌売場の縮小も見られるし、これでは取次の流通コストすらも吸収できない販売状況に追いやられつつあるように思える。
3.日本ABC協会の上半期雑誌販売部数が発表されたので、上位10誌の「女性ファッション誌販売部数」、及び『出版月報』(10月号)が特集「いま、この雑誌に注目!」に掲載している「年代別女性ファッション誌推定発行部数」を示す。
(注)カッコ内は前年同期
■2014年1〜6月の女性誌販売部数 順位 雑誌名 出版社 販売部数 1(1) sweet 宝島社 237,469(302,436) 2(2) InRed 宝島社 224,771(288,803) 3(6) VERY 光文社 221,798(217,953) 4(4) non・no 集英社 205,162(262,706) 5(3) MORE 集英社 204,318(266,922) 6(8) ViVi 講談社 184,483(211,351) 7(5) Seventeen 集英社 175,600(225,736) 8(11) STORY 光文社 172,400(168,985) 9(7) リンネル 宝島社 168,780(216,663) 10(19) CLASSY 光文社 166,292(116,919) [光文社の30から40代主婦向け『VERY』、40代向け『STORY』、20〜30代働く女性向け『CLASSY』は部数を伸ばしているが、他の雑誌は急速に落ちこみ、13年上半期上位10誌の合計販売部数は235万部だったが、14年上半期は196万部、前年比17%減である。
■年代別女性誌推定発行部数 ジャンル 推定発行部数(万冊) 10年 11年 12年 13年 10代 1,822 1,598 1,393 1,296 20代前半〜中盤 8,450 7,476 6,422 5,818 アラサー 2,494 2,293 2,362 2,510 30代 1,825 1,717 1,710 1,852 40代 557 837 857 1,030 50代 342 353 385 465
年代別に見てみると、10代、20代前半から中盤にかけての発行部数減が顕著で、10代から20代向けのファッション誌離れが明らかに表われている。その代わりに40代は倍増、50代も数字で100万部強増えていることからすれば、そこには60代の読者も含まれているはずだから、ファッション雑誌の読者も高齢化しているとわかる。
このような女性ファッション誌に見られる高齢化現象は、雑誌全体に当てはまる動向となっているのではないだろうか]
4.やはり「出版月報」(10月号)に「戦後ベストセラー 最新ランキング」が発表されているので、これも引いておく。これは出版科学研究所調査によるもので、単行本と新書を対象とし、文庫、学参、辞典、宗教関連は含まれていない。
[上位30位のうち、2000年以降に刊行されたものが12点と、4割を占めている。戦後は70年近く経過しているわけだから、出版業界は21世紀に入って、かつてなかったベストセラー現象の中で営まれてきたことを示唆している。
■戦後ベストセラー 最新ランキング 順位 書名 著(編)者 出版社 刊行年 累計発行部数(万部) 1 窓ぎわのトットちゃん 黒柳徹子 講談社 1981 580.95 2 道をひらく 松下幸之助 PHP研究所 1968 511 3 ハリー・ポッターと賢者の石 J.K.ローリング 静山社 1999 509 4 五体不満足 乙武洋匡 講談社 1998 480.8 5 バカの壁 養老盂司 新潮社 2003 437.8 6 ハリー・ポッターと秘密の部屋 J.K.ローリング 静山社 2000 433 7 脳内革命 春山茂雄 サンマーク出版 1995 410 8 ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 J.K.ローリング 静山社 2001 383 9 チーズはどこへ消えた? スペンサー・ジョンソン 扶桑社 2000 373.7 10 日米会話手帖 小川菊松 誠文堂新光社 1945 360 11 ハリー・ポッターと炎のゴブレット(上・下) J.K.ローリング 静山社 2002 350 12 気くばりのすすめ 鈴木健二 講談社 1982 331.8 13 世界の中心で、愛をさけぶ 片山恭一 小学館 2001 321 14 女性の品格 坂東眞理子 PHP研究所 2006 315 15 冠婚葬祭入門 塩月弥栄子 光文社 1970 308.3 16 ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(上・下) J.K.ローリング 静山社 2004 290 17 積木くずし 穂積隆信 桐原書店 1982 280 18 誰のために愛するか 曾野綾子 青春出版社 1971 278 19 国家の品格 藤原正彦 新潮社 2005 270.6 20 頭の体操 第1集 多湖 輝 光文社 1966 265.9 21 頭がいい人、悪い人の話し方 樋口裕一 PHP研究所 2004 262 22 マディソン郡の橋 ロバート・ジェームズ・ウォラー 文藝春秋 1993 256.5 23 もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら 岩崎夏海 ダイヤモンド社 2010 255 24 新 HOW TO SEX 奈良林 祥 ベストセラーズ 1974 255 25 サラダ記念日 俵 万智 河出書房新社 1987 250 26 ノルウェイの森(上・下) 村上春樹 講談社 1987 (上)242.35
(下)214.427 大往生 永 六輔 岩波書店 1994 241 28 プロ野球を10倍楽しく見る方法 江本盂紀 ベストセラーズ 1982 235 29 遺書 松本人志 朝日新聞出版 1994 231.5 30 ホームレス中学生 田中 裕 ワニブックス 2007 225
日本の全国的な消費社会化、風景の均一化とパラレルに進行した郊外型、複合型書店の画一化にもよっていることは確実である。だがそれも2010年の『もし高校野球のマネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』で終わっていることは、もはや書店だけでなく、出版社や取次もそのようなベストセラーを生み出す力を失ってしまった事実を物語っているのかもしれない]
5.『週刊東洋経済』(11/8)が「核心リポート」として、大阪屋に対して、楽天が株式比率35.19%に当たる14億円を出資したことに言及している。
それによれば、楽天側の意向は「(取次とつながる)書店は出版のインフラ。ウチは物流の下支えなど裏方に徹して支えたい。書店に関心のないアマゾンとは違う」し、大手出版社首脳からも「対アマゾンで楽天と利害が一致した」との言葉が引かれている。
そして具体的には、大阪屋ロジスティクスと楽天RFC川西(兵庫)を提携させ、翌日西日本の書店は注文品を受け取ることができるようにするし、書店は本以外の楽天の商材を扱い、その商品受け取りの場としても機能させるという。
[かつて日販に在籍していた「空想書店 書肆紅屋」が小泉孝一の「『鈴木書店の成長と衰退』を読んで取次のことを考える」で、大阪屋のことを重ね合わせて考察している。
それをこちら側に引き寄せて解釈すれば、楽天や大手出版社の意向にしても、絵に描いた餅に近く、まだ経営再建スキームができただけで、これからの全体像やビジョンは明らかになっていないとの観測を提出している。それらはまだ続く大手取次との帳合争い、楽天商品を書店で受け取る場合のRポイントカード問題、ネット書店楽天ブックスとの関係などが大きく絡んでいて、どのような展開になるのか、まったく曖昧であるからだ。
また彼も指摘しているように、日販とトーハンの資本金はそれぞれ30億円と45億円なので、今日の大阪屋の増資37億円は売上高に対して、いかに資本金が膨らんでいるかがわかる。したがって資産売却と社員リストラ、それに資本金を積み上げることによる債務超過状態の処理が終わった段階にあると考えていい。上半期決算もまだ発表されておらず、新生というより再建の途についたと見なすべきであろう]
6.文教堂HDは売上高332億円、前年比3.8%減、営業、経常利益も赤字で、当期純損失は前年の2億8900万円を上回る8億3100万円。
今期新規店9店、改装店15店、閉店9店というスクラップ&ビルド展開を計っていたが、売上高は伸びず、連続赤字決算となった。
[出版物販売金額が毎年連続してマイナスとなっていく中での書店の出店は、採算ベースの売上確保も難しくなっているのではないだろうか。ひょっとすると、開店数年の売上が最もよく、後は下がっていくばかりの状況になっているかもしれない。
それに加えて問題なのは書店の大型化であり、その家賃コストと売上のアンバランスが閉店という事態を招いていると考えられる。
『日経MJ』(11/12)の第32回サービス業調査でも、AVレンタルはマイナス基調が顕著になってきているので、それは複合大型店にも及んでいくはずだ]
7.山形市のぶんぶん堂が自己破産。負債は1億1800万円。1935年創業で、天童駅前の書店としてスタートし、ピーク時には4億円を超える売上があったが、近年は5000万円まで減少していたとされる。
[これも『出版ニュース』(11/中)に掲載されているのだが、ニッテン調査による2006年からの「2013年都道府県別書店販売実績」を見ると、売上を伸ばしている書店は数少なく、大半が売上を減少させ、この7年間で半減している書店もめずらしくはない。書店の経営環境が最悪になっていることを伝えている。このデータを見る限り、6 で指摘した家賃問題もあり、書店の閉店、自己破産は終わりを迎えることはないだろう]
8.学研HDは出版事業が不調なために営業損失が増え、出版事業の1割に当たる40人をリストラし、出版点数を2年間で800点に削減する。
[学研は学参の他に雑誌とムックだけでも50種類近くを定期的に刊行し、その他にも不定期のムックを多く出しているはずで、雑誌の凋落を受け、それらの大量生産、大量販売システムが飽和状態になってきていることの表われだろう。
学研に象徴される、このような雑誌発行システムはやはり販売インフラとして2万店以上の書店を有することが前提であり、現在の1万4千店弱では支えきれなくなったことを告げていよう]
9.『選択』(11月号)が伝えているところによれば、中央公論新社が来年4月に会社機能を、現在の京橋から大手町の読売新聞本社ビル19階に移転するという。
移転の最大原因は、今期読売傘下に入ってから初の赤字を計上したことで、また『中央公論』編集長を始めとして、幹部の大半が読売からの出向者で押さえられているようだ。
そのような状況下での移転であるので、『選択』は名実ともに中央公論新社が読売新聞出版部となるのではないかという危惧とともに、「名門出版社の残滓もない」と記事を結んでいる。
[学研のような学参兼雑誌出版社だけでなく、中央公論新社のような書籍出版社にまたしても危機が忍び寄り、再販委託制に基づく近代出版流通システムの限界を露呈させていることになる。
なお、中央公論新社売上高は2013年31億円、前年比6.8減。14年上半期13億円、同17.9%減である]
10.日本出版者協議会加盟の水声社、緑風出版、晩声書房は、アマゾンのポイント問題に関して、半年が経過しても事態の改善がみられないので、さらに11月から来月2月にかけて、アマゾン出荷停止の延長を決定。
出荷停止は3社で、1600点だが、その影響算定は難しいけれど、日販の売上は落ちていないとされる。
[この出版協3社とアマゾンの問題に関連して、小学館の相賀昌宏社長が「Amazon Studentプログラム」の10ポイント付与は再販制度の許容範囲を逸脱しているので、小学館の商品を同サービスから除外してほしいとアマゾンに伝えたとされる。
書協と出版協がアマゾンに対し、共同戦線をはっていく兆しであろうか。書協のこれからの課題はロビー活動だとされているが、それに出版協も加わっていくのだろうか]
11.アマゾンのキンドルストアが開設2年で25万タイトルとなる。スタート時には5万タイトルだったので、5倍となり、コミックは1万5000から9万タイトルと6倍。
[その一方で、6 で見た文教堂の雑誌購入者にデジタル雑誌をサービスする「空飛ぶ本棚」事業は利益に結びついておらず、またT−MEDIAホールディングスの「TSUTAYA.com eBOOKs」の電子書籍販売も今年で終了となる。
電子書籍販売もアマゾンと楽天の2社へと集約されていく前兆のように思える]
12.11に続いて、アマゾンとTSUTAYA絡みの事柄をいくつか記しておく。
ローソンでアマゾンの商品の注文と受け取りができるサービスを開始する一方で、ファミリーマートはTSUTAYAのFCワンダーグーと提携し、共同出店する。
[これらは所謂「オムニチャンネル」の流れの中に位置づけられるだろう。書店の場合も雑貨を始めとする様々な商材とのジョイントが推進されていくであろうが、明確なビジネスモデルとして提出されているわけではない。
それに留意すべきは、このような流れに伴う取次のことで、ワンダーグーは栗田から日販へと帳合変更が起きている。ここでも大取次と中取次の帳合問題が絡んでいることになる]
13.『Pen』(12/1)がもうすぐ絶滅するという、紙の雑誌について」というタイトルで、雑誌に関する特集を組んでいる。
[「紙だからこそ伝えられる大切なものがあるということをこの特集で証明します」との趣旨で編まれているのだが、タイトルもよくないし、特集も総花的紹介で、雑誌の魅力が十分に伝わってこない。
タイトルはかつての『Pen』の発行所の阪急コミュニケーションズから出されたウンベルト・エーコなどの『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』からとられている。
だが『出版状況クロニクル3』で指摘しておいたように、原タイトルは“N’espére pas vous débarasser des livres” だから、『本に別れを告げることはできはしない』とでも訳すべきもので、邦訳タイトルは電子書籍に絡めたこじつけ誤訳だといっていい。それを雑誌特集にそのまま使うことも見識を疑われるし、発行所がCCCメディアハウスへと移ったことも影響しているのだろうか]
14.『本の雑誌』(12月号)が「特集:天才編集者・末井昭に急接近!」を組み、松田義人によるロングインタビュー、末井の語録、日記などに加え、「末井昭を語る」「末井昭さんに聞きたい!」「末井昭借金グラフにのけぞる!」といった多面的特集で、28ページの充実した企画といえよう。
[本クロニクル67で推薦しておいた末井の『自殺』が講談社エッセイ賞を受賞したこともあり、本当に時宜を得た好企画である。
インタビューで語られている青山デザイン専門学校と風土社の『デザイン批評』の影響、キャバレーの宣伝課からポルノ雑誌の清風書房に挿絵やコミックを描き、『ウィークエンドスーパー』『写真時代』創刊に至る話も、とても面白い。
だがそれにも増して印象に残ったのは彼の語録のひとつ、「自分についてしまった権力に気付いて、できる限り行使しない」という言葉であった。きっと末井は、白夜書房におけるイエスの方舟の千石のような存在であったにちがいない。
そして末井の語録は、どうして出版業界が危機へと追いやられてしまったのかのメカニズムを説明しているようにも思われる。
なお『ブルータス』(12/1)の「特集:進撃の巨人」も好企画であったことも付記しておく]
15.雑誌特集をもうひとつ続けてみる。
『現代思想』(11月号)が特集「戦争の正体―虐殺のポリティカルエコノミー」を組んでいる。
[近年の『現代思想』は「生活保証リアル」「就活のリアル」といった特集に示されるように、目の前で起きているアクチュアルな問題をテーマとし、いってみれば同様の経済版である『週刊東洋経済』や『週刊ダイヤモンド』の思想版としても読むことができる。
今回の特集も考えさせられ、教えられることが多い。ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』ではないが、近代国家や社会も新聞や雑誌や書籍といった紙のメディアとともに成長してきたし、世界大戦もそのパラダイムのうちにあった。
しかし西谷修、岡真理、土佐弘之の討議「非戦争化する戦争」に明らかにされているように、「戦争」のパラダイムチェンジが起きている。私もいずれ、討議で岡が述べ、小田切拓も書いている「ダーヒヤ・ドクトリン」(郊外戦略)に言及するつもりでいる]
16.こちらも特集だが、古書目録である。『月の輪書林 古書目録』十七が300ページに及ぶ「特集・ぼくの青山光二」を組んでいる。
『月の輪書林 古書目録』十七 『風船舎古書目録』第10号
[青山の作品で最も強い印象を残しているのは、大正十四年の鶴見騒擾事件を描いた『闘いの構図』だが、その関連資料や寄せられた多くの葉書なども出品され、その波紋を伝えている。
そのような例は青山の生涯と作品に及び、ここでしか見られない詳細な「青山光二著作年表」と相まって、青山のカレードスコープのような世界を提出している。
今月は月の輪書林の目録だけでなく、『風船舎古書目録』第10号「特集・青春狂詩曲―近代教育の諸相」も近代教育史のカレードスコープを形成し、ひとつの近代史ドラマを彷彿させた]
17.「出版人に聞く」シリーズ〈16〉の井家上隆幸『三一新書の時代』は12月中旬発売。野上暁『小学館の学年誌と児童書』の編集を終えた。
年内にシリーズ〈20〉までのインタビューを終えるつもりなので、来年は隔月刊を予定している。
《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》