出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル84(2015年4月1日〜4月30日)

出版状況クロニクル84(2015年4月1日〜4月30日)


15年3月の書籍雑誌の推定販売金額は1880億円、前年比3.3%減。その内訳は書籍は同0.4%増、雑誌は8.1%減。雑誌のうちの月刊誌は6.1%減、週刊誌は16.2%減で、雑誌のマイナスが大きく目立つ。
週刊少年サンデー』は15%減で、40万部を割ってしまった。『週刊少年ジャンプ』は11%減、242万部、『週刊少年マガジン』も10%減、115万部。
返品率も書籍は26.8%だが、雑誌は40.3%である。1月から3月にかけての雑誌返品率は40.8%、書籍は31.7%なので、雑誌のほうが上回る状況は3年目に入ったことになる。
書店実売も書籍が9%強、雑誌が10%を大きく上回るマイナスで、書籍のうちの学参・辞典は15%減、文庫は10%減、雑誌のうちの定期誌、ムックは10%減、コミックスは16%減と、いずれも二ケタを超えるマイナスとなっている。
これらのマイナスの数字は、月を追うごとに売れなくなってきている切実な書店市場を浮かび上がらせているといえよう。



1.『出版月報』(3月号)が「2014年文庫本マーケットレポート」を特集している。「文庫マーケットの推移」を示す。

■文庫マーケットの推移
新刊点数推定販売部数推定販売金額返品率
(増減率)万冊(増減率)億円(増減率)
19985,337 5.5%24,711▲1.8%1,369 0.7%41.2%
19995,461 2.3%23,649▲4.3%1,355▲1.0%43.4%
20006,095 11.6%23,165▲2.0%1,327▲2.1%43.4%
20016,241 2.4%22,045▲4.8%1,270▲4.3%41.8%
20026,155▲1.4%21,991▲0.2%1,293 1.8%40.4%
20036,373 3.5%21,711▲1.3%1,281▲0.9%40.3%
20046,741 5.8%22,1352.0%1,313 2.5%39.3%
20056,776 0.5%22,2000.3%1,339 2.0%40.3%
20067,025 3.7%23,7987.2%1,416 5.8%39.1%
20077,320 4.2%22,727▲4.5%1,371▲3.2%40.5%
20087,809 6.7%22,341▲1.7%1,359▲0.9%41.9%
20098,143 4.3%21,559▲3.5%1,322▲2.7%42.3%
20107,869▲3.4%21,210▲1.6%1,309▲1.0%40.0%
20118,010 1.8%21,2290.1%1,319 0.8%37.5%
20128,452 5.5%21,2310.0%1,326 0.5%38.1%
20138,487 0.4%20,459▲3.6%1,293▲ 2.5%38.5%
20148,574 1.0%18,901▲7.6%1,213▲ 6.2%39.0%

[表に見られるように、14年の文庫マーケットは最大の落ちこみで、販売部数は1億8901万冊、7.6%減、販売金額も1213億円、6.2%減となっている。

新刊点数はこの3年ほぼ横ばいの8500点前後、同じく新刊定価も650円前後だが、13年から販売部数と販売金額は落ち始め、それに消費税も影響し、このようなかつてない落ちこみになったと見なせよう。

しかし1980年代後半から90年前半にかけての販売金額は、現在の新刊点数の半分でピーク時には1435億円、販売部数にしても3億冊だったことからすれば、この20年間におけるマイナスの大きさがさらにわかるだろう。新刊点数が倍になったにもかかわらず、販売部数は1億冊以上減っているのだ。

これは様々な要因を挙げられるが、最大の原因は書店の減少で、8千店以上が消えている。それは実売に至らないにしても、書店に滞留在庫となっていた文庫マーケットがなくなったことを意味し、失われた文庫インフラの重要性を浮かび上がらせる。しかしそれをもとに戻すことがもはや不可能であることも、否応なく認識しなければならない]

2.2014年『日本の図書館 統計と名簿』が出された。

■公共図書館の推移
    年    図書館数
専任
職員数
(人)
蔵書冊数
(千冊)
年間受入
図書冊数
(千冊)
個人貸出
登録者数
(千人)
個人貸出
総数
(千点)
資料費
当年度
予算
(万円)
1971 8855,69831,3652,5052,00724,190225,338
1980 1,3209,21472,3188,4667,633128,8981,050,825
1990 1,92813,381162,89714,56816,858263,0422,483,690
1997 2,45015,474249,64919,32030,608432,8743,494,209
1998 2,52415,535263,12119,31833,091453,3733,507,383
1999 2,58515,454276,57319,75735,755495,4603,479,268
2000 2,63915,276286,95019,34737,002523,5713,461,925
2001 2,68115,347299,13320,63339,670532,7033,423,836
2002 2,71115,284310,16519,61741,445546,2873,369,791
2003 2,75914,928321,81119,86742,705571,0643,248,000
2004 2,82514,664333,96220,46046,763609,6873,187,244
2005 2,95314,302344,85620,92547,022616,9573,073,408
2006 3,08214,070356,71018,97048,549618,2643,047,030
2007 3,11113,573365,71318,10448,089640,8602,996,510
2008 3,12613,103374,72918,58850,428656,5633,027,561
2009 3,16412,699386,00018,66151,377691,6842,893,203
2010 3,18812,114393,29218,09552,706711,7152,841,626
2011 3,21011,759400,11917,94953,444716,1812,786,075
2012 3,23411,652410,22418,95654,126714,9712,798,192
2013 3,24811,172417,54717,57754,792711,4942,793,171
20143,24610,933423,82817,28255,290695,2772,851,733
[本クロニクルでも繰り返し言及してきたように、1970年以後その数を増加させてきたのは公共図書館で、それは71年に比べ、数は4倍に及び、その面積に至っては蔵書冊数から考えれば、10倍以上に拡大している。そして10年から図書館貸出総数が書店販売部数を上回っていることも指摘しておいた。

しかし14年に至って、図書館数は初めてマイナスに転じ、それは貸出総数も同じである。前者に関しては
本クロニクル82 で、19年における習志野市立藤崎図書館の閉館と集約施設への移行例を挙げ、人口減少と自治体の財政難に伴い、公共図書館の維持も困難になっていくかもしれないと述べておいた。

実際にこの一年間でも開館19館に対し、21館が閉館と集約施設への移行があったようで、図書館数のマイナスはそれによっている。

ただ個人貸出総数の減少は、その影響を受けているのか判然としないし、これから数年間の追跡を必要としよう。だがいずれにしても、公共図書館においてもこれまでと異なる状況が招来されつつある。

なお『出版ニュース』(4/下)に日本図書館協会の松岡要「公共図書館数はじめての前年割れで厳しい状況に」が掲載されているが、推移表の数字が異なっている。上の表も日本図書館協会の
「経年変化」表であるが、注として「私立図書館を含む公共図書館」とあるので異なっているようだ]

3.リブロ青山店が5月15日、リブロ春日井店が5月20日、リブロあべちか店が5月31日で閉店。

[リブロの閉店は松戸、熊本に続くもので、ペリエ千葉店、ららぽーと富士見店の出店はあるものの、池袋本店の閉店も近づいている。

前回の本クロニクルで、リブロ池袋本店の閉店発信について、リブロ関係者全員がまだ知らされていないし、リストラ問題へ波及していくこと、数ヵ月後に出版社に大返品が押し寄せてくることを伝えるためだと記しておいた。

それに対して、「星長」なる人物より、次のようなツイッターが発せられている。


年寄りでもtwitter のエゴサーチくらいはするようなので名指しで批難しておくが、小田光雄の出版状況クロニクルが相変わらずひどい。先月の記事でリブロ池袋本店の閉店を嬉々として吹聴したことにもっともらしい言い訳を書き連ねているが、まったく同意できない。(つづく

つづき)いちはやく閉店を知らせて警鐘を鳴らした理由として、〈おそらく10億円ほどの返品が生じることになり、//通常月の2倍以上の返品があることを覚悟するべきなのだ〉とあるが、どういう計算をしたら2倍になるのか。10億で2倍? 日本の出版業界の返品総額はいつから劇的に改善したの?

せっかく「名指しで批難」される光栄に浴したのだから、「年寄り」からも「批判」しておこう。

この「嬉々とし」たツイッター発言から伝わってくるのは、「星長」の幼稚な思い上がりと尊大さ、差別感丸出しのレイシスト性、読解力と想像力の欠如であり、これはヘイトスピーチに他ならない。要するにこの「星長」はルビッチを敬愛するといいながら、そのセンスとウィットのかけらもなく、裏で彼をナチスに密告しかねない男だとわかる。

本クロニクルは現実に起きた出来事の記述をコアとし、作者(著者)・出版社・取次・書店・読者の歴史と構造と関係をたどって追跡される専門的ブログとして書かれている。それはリブロも返品問題も同様である。それゆえに本クロニクルはかなりの専門的知識、歴史的想像力、さらには読解力を必要とする。だからこのツイッターは、何も読めていないことをさらしているに等しく、ただ本クロニクルに対する反発、及び自分も知っていたリブロ池袋本店閉店を書かれたことが面白くないことに起因している。それが何の根拠もない「相変わらずひどい」の理由である。しかし同時にこのような発言は、現実に起きている出来事すらも認めたくない歴史修正主義者にも接近している。

この「星長」のヘイトスピーチ的ツイッターに、本クロニクルに対するネガティブキャンペーンを形成するように、
『本屋図鑑』(夏葉社)の空犬太郎と『つながる図書館』(ちくま新書)の猪谷千香らが、それこそ「嬉々として吹聴し」てリツイートしている。この二人も「星長」と同類であり、しかも揃って、千代田図書館の「出版業界にとって公共図書館が良くなったと感じるところと、これから改善して欲しいところ」に参加し、「もっともらしい」ことを言っている。これも「星長」と同じだ。

この三人は自分たちの本屋、図書館イベントやシンポジウムを推進するにあたって、自らの「感情」と対立する本クロニクルの「事実」が面白くないのだ。それゆえにまともに読む努力もしないで、このようなヘイトスピーチとネガティブキャンペーンを繰り返している。

「星長」が誰なのかはわかっている。「名指し」しなかったのは本クロニクルで実名を挙げると影響が大きいことを弁えているからだ。だがそれでも続けてこのようなツイッターを飛ばしてくるのであれば、そのポジションを明らかにした上で、さらにふみこんで「批判」しよう。それは空犬も猪谷も同様である]


〈追記〉
「星長」から「ご丁寧に全文引用している、と思わせておいて、微妙に改竄されているのね。そして、わたくしの疑問にはお答えいただけていない」とのツイートが発せられたので、懇切丁寧に答えておく。

また「つづく」「つづき」という言葉まで、全文を掲載しておいた。

リブロ池袋本店は1000坪で、書籍比率の高さから考えれば、坪当たり100万円の在庫があると見なせるので、10億円の返品となる。

本クロニクル81−2 で、2014年の書店閉店状況を示しておいた。閉店が最も少ない11月を例にとると、41店で2045坪の閉店がある。
しかし店の平均坪数の55坪からすると、在庫は雑誌、コミックが多いと考えられるので、リブロの半分の坪当たり50万円と見なせば、こちらもほぼ10億円の返品となる。

したがって書店閉店が最少の月と、リブロ池袋本店の閉店がダブると想定すれば、その月は通常月の2倍の返品が生じることは確実である。

ただこれは14年の例だから、15年にそのまま当てはめられないが、これを参照し、2倍としている。

4.リブロ池袋本店の閉店に関して、店長の菊池壮一が「池袋本店のこと」(『出版ニュース』4/上)、永江朗が「出版業界事情」(『週刊エコノミスト』4/7)でふれている。

[いずれも閉店についてはプレスリリースや新聞報道の繰り返しであり、その後に起きている青山店、春日井店、あべちか店の閉店への言及もまったくなされていない。
だが数ヵ月のうちに池袋本店も含め、6店が立て続けに閉店するのは、本クロニクルで記しておいたように、日販とリブロ自体がリストラへと向かっていると判断するしかない。これは07年の拙著
『出版業界の危機と社会構造』(論創社)で既述してあるが、03年にリブロは日販にわずか7億円で買収されている。

それは店舗数59、売上高239億円だったけれど、有利子負債53億円を抱えていたからで、当時日販は重要な取引先なので引き受けるしかなかったと語っている。おそらくみずほ銀行の要請によると思われる。

しかし日販に買収されたリブロの行方をたどれば、12年度は店舗数89、売上高213億円で、店は増えているにもかかわらず、売上高は03年を下回っている。こうした書店状況は大手書店に共通しているが、リブロの場合、取次による書店経営は可能なのかという問題を浮かび上がらせている。その問題は同じく日販に買収された精文館や積文館へともつながっていくからでもある。

これらのことはともかく、永江の「出版業界事情」は新聞の受け売りにすぎず、書き流しているという感が伝わってくるだけだ。私は永江がオンリーワンの高収入を得て、大学の教授にもなり、フリーライターとして成功したことを寿いでいるし、関係者の多くが永江のようになりたいと思っていることも知っている。つまり永江は出版業界の著名人として、空犬たちが論拠とするほどの権威となっているのだろう。だからこそ、啓蒙的記事であることはわかっているが、少しはそれなりのフリーライターの芸を見せてほしい]
出版業界の危機と社会構造

5.松岡享子の『子どもと本』(岩波新書)の中に、次のような一節がある。少し長くなってしまうが、引用してみる。

出版人物事典


 図書館の蔵書は、書店の品揃えとは違います。読者の要求に応える本を備えて提供するという点では同じですが、書店が対象にするのは、現時点の読者の要求です。今出版されている本、今読者が読みたがっている本が中心になります。図書館が対象にするのは、もっと長い時間を見通した、潜在する要求をも含めた幅広い読者の要求です。

 図書館には、過去の読者が大きな恩恵を受けてきた本、わたしたちの知識が今日の水準にまで発展してくるのに大きな役割を果たした本が保存されているべきですし、これから先、三十年、五十年経って現れるかもしれない読者のために、その時点でも価値を失わないであろう本を備えるべきだからです。

すなわち、図書館には、書店と違って、時代、時代が生み出したもっともすぐれた本が失われてしまわないように保存して、次の世代へと伝えていく役割があり、現在だけでなく、将来を見据えた本の選択をする責任があるのです。
[この松岡の言葉は、彼女が戦後一貫して子どものための私立図書館に携わってきたことに基づいている。もちろん松岡のこの一節に様々な語弊があることも承知しているが、あえて引用したのは、最近これほど明瞭に図書館とその蔵書に関する理念を語っている文章にほとんど出会うことがないからだ。

たまたま『出版ニュース』(4/中)に三本の公立図書館論が掲載されているけれど、そこには松岡が述べている理念をベースとする蔵書見解はまったく述べられていない。

以前に『情報基盤としての図書館』(勁草書房)を上梓したばかりの根本彰と「転換期にある図書館をめぐって」(『図書館の学校』No.33)という鼎談をした際に、図書館の蔵書問題にふれたことがあった。しかし著書のタイトルにあるような図書館のイメージの追求に重心を置いていた根本から、松岡のような明確な返事が戻ってこなかったことを記憶している。

しかしこれから公共図書館も貸出総冊数の低下が続いていくとすれば、あらためてその蔵書の内実が問われ始めることになるだろう]
情報基盤としての図書館

6.丸善ジュンク堂書店は3月以降、8店舗を開店する出店ラッシュとなる。

 すでに3月は秋田のブックスモア大舘店(500坪)、4月は東京練馬区のジュンク堂書店大泉学園店(250坪)、同月大阪難波の丸善書店高島屋大阪店(200坪)、同月丸善書店名古屋本店(1000坪)、7月に同じく中部地区で大型出店、8月は丸善書店京都本店(1000坪)、10月は埼玉・桶川市に丸善書店桶川店(430坪)、同月四国・松山に超大型店を出店予定。

 この他にもまだ公表できない出店があり、それらを含めると4月1日現在の91店舗から100店舗体制になるのは確実とされる。

[これらの丸善ジュンク堂の出店は、その地域のかろうじてサバイバルしてきた書店の息の根を止めてしまうことになるだろう。そうしてさらに書店市場が疲弊していくのは火を見るよりも明らかだ。

といって出店した側の勝利も保証されるものではない。大型店自体がバブルであり、また出版物販売金額の下げ止まりは見られないのだから、遠からず清算される宿命が待ち受けているはずで、そして誰もいなくなったではないけれど、書店のない地域も増えていくだろうし、そのような地域はアマゾンが占領していくことになろう]

7.石橋毅史による岩波ブックセンターの「柴田信、最終授業」である『口笛を吹きながら本を売る』(晶文社)が出された。

口笛を吹きながら本を売る
[本クロニクルでも柴田に「出版人に聞く」シリーズへの登場を乞うていたが、彼の言によれば、石橋のオファーのほうが早かったので、こちらのほうは受けられなかったということだった。

それはともかく、同書にはかつての柴田のイメージを突き崩すように、東京の中小書店が追いやられている困難さが、てらいなく語られている。そしてそれは資金繰りとその調整のための返品がテーマとなってせり上がり、率直に言及されるに至る。このようにフランクに返品が語られることはなかったようにも思われる。つまりここでは一貫して「書店」ではなく、「書店業」のことが語られ、それがこの本のオリジナリティとなっている。

例えば、石橋の「もっとも資金繰りに苦しんだ時期は、いつですか」という問いに対して、柴田は次のように答えている。「それは、いまじゃないかな。支払いを遅らせたり、決算の月にドカンと返品しながら、しのいでいる現状だから。(中略)あなたが本屋に対して抱くような、ロマンチックな話ばかりではないんだよね」。

そして現在の書店状況の中で、出版社との直取引を考えているという。月の仕入額は岩波書店と人文会21社で6割5分を占めるので、それを直取引、しかも精算払い構想が述べられている。

ここにあるのは現行の流通システムの破綻に他ならず、柴田のこの一冊は、書店現場に今もいる85歳の長老が、そのことを真摯な発言によって伝えようとしている]

8.京都の三月書房の宍戸立夫から「『吉本隆明の本』とネット販売」を恵送された。これは『吉本隆明〈未集録〉講演集』第5巻の「月報」に掲載されたものである。

 そこで宍戸は10坪の書店の、大型店の「スキマ狙い」とそれによるインターネット通販を通じてのサバイバルを語っている。

 90年代は現代短歌、人智学、『ガロ』系漫画やペヨトル工房などのサブカル系、吉本隆明関係本がメインで、とりわけここでは吉本関連の自主流通本などの通販事情が述べられている。

 しかし最近はアマゾンが、三月書房の「スキマを次々と塞ぎつつある」ことが報告されている。ネット通販も低調になり、宍戸はこの一文を次のように結んでいる。

『吉本隆明〈未集録〉講演集』第5巻 吉本隆明全集


 出版業界はここ二十年近く売上の減少が続いていて、まったく回復の気配がないばかりか、いつ全面崩壊してもおかしくない状況です。それに私自身も常連客の平均年齢と同じ六十五歳であり、〈吉本〉本の売れ行きもうちの店も、この先あまり明るい見通しはありません。

それでもせめて晶文社の『吉本隆明全集』の完結までは、出版業界も、うちの店も、そして〈吉本〉本読者の皆様のご健康と年金も無事であることを願っています。
[三月書房は1950年の開業で、50年代から60年代にかけては大書店といっても100坪程度だったが、70年代から大型化し、90年代には千坪級になった推移もふれられている。そのような状況の中で、三月書房がサバイバルしてきたことは、ひとえに宍戸の並々ならぬ努力によっているのだろう。

ちょうど「出版人に聞く」シリーズ〈19〉となる宮下和夫『弓立社という出版思想』の編集を終えたばかりだ。この一冊が三月書房の売上にいくらかでも貢献しますように]

9.あすなろ書房から、ヴォーンダ・ミショー・ネルソン『ハーレムの闘う本屋―ルイス・ミショーの生涯』(原田勝訳)が出された。

 1939年ニューヨーク7番街のハーレムに、「ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストア」という黒人が書いた、黒人についての本だけを売る書店が誕生した。

 それは市による街の再開発によって75年に閉店するまで存続し、FBI監視下に置かれる中で、マイノリティを体現するトポスとしての書店であり続けたという。

『ハーレムの闘う本屋―ルイス・ミショーの生涯』 『燃える図書館』

[確かエドマント・ホワイトの『燃える図書館』(柿沼瑛子訳、河出書房新社)の中に、やはり60年代のニューヨークにゲイやレズビアンに関する本だけを揃えた書店があり、ゲイバーと並んで、そこがゲイ解放運動の始まりだったという記述があったように記憶している。

「ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストア」だけでなく、ニューヨークには様々なマイノリティのためのトポスとでもいうべき書店が多く存在していたのであろう。しかしそのような時代はまさに終ろうとしている]

10.本クロニクル81 で既述のKADOKAWAの希望退職で、正社員232名が応募し、4月末で退職。それによって15年3月期は50億円の特別損失を計上。

 KADOKAWAは雑誌、書籍に関して、大手出版社としては初めて取次を通さず、アマゾンと直接取引を始め、将来的には書店との直取引も視野に入れる。

[後者に関する最初のニュースソースは『日経MJ』(4/24)の「News Clip」だが、それによれば、すでに4月から直接取引が始まっているようだ。その後『日経新聞』(4/22)でも報じられていることを知った。

これは出版業界にとって、大きな事件のはずだが、業界紙はまだ報道、記事にするに至っていない。KADOKAWAに続いて、さらに大手出版社もアマゾンと直接取引をするようになれば、取次はさらに追いつめられていくことは必至であるし、これでKADOKAWAの唱えていた電子書籍も売るリアル書店構想も消えたことになろう]

11.徳間書店とネコ・パブリッシングは共同出資により、「(株)C‐パブリッシングサービス」を設立。

 これは両社の取次や書店への営業業務を受託し、代行することを目的とする。徳間書店の平野健一社長が代表取締役に就任し、徳間から30人、ネコから8人がそれぞれ新会社に出向。

 「C‐パブリッシングサービス」の「C」はコラボレートで、今後他の出版社の営業代行も手がけていくことを示しているとされる。

[本クロニクルでも徳間書店とCCCのジョイントは既述してきたが、これは営業部門におけるコラボレーションとなる。

また他の出版社の営業代行とは、CCCメディアハウス(旧阪急コミュニケーションズ)をも含んでいるのだろう。それにこのほど設立されたCCCの子会社で、洋書+文具の輸入、翻訳書の出版を主とするクロニクルブックス・ジャパンも、徳間書店が販売代行となっているので、C‐パブリッシングサービスが営業業務を担当するはずだ。

これも流通販売の再編のひとつの動向と見なすことができよう]

12.栗田出版販売は子会社の書籍通販のブックサービスを楽天へ譲渡。

 ブックサービスは1986年にヤマト運輸と栗田の合弁で設立され、宅急便による集品、配送による迅速なサービスは高く評価された。そして99年には書店客注のための「本屋さん直行便」を開始し、07年に栗田の完全子会社となっていた。

 [90年代までの栗田の注文はブックサービスからのものであることも多かった。しかしアマゾンの上陸とその成長によって、ブックサービスも苦境に追いやられ、栗田の子会社化されたはずだ。
楽天の子会社になることによって、ブックサービスは「本屋さん直行便」を続けていくのだろうか。楽天の子会社としてのブックサービスのイメージが描けないでいる]

13.書店直取引を実践し、創業15年目を迎えたトランスビューの工藤秀之が『新文化』(4/9)で、「『直取引』『共同DM』の狙い」を語っている。それを要約してみる。

* 直取引は返品の減少(=出版社のコスト減)と書店への利益還元がセットになっている。

* 取引条件は➀「納品都度請求」(買切返品不可)=卸正味70%、納品無料。➁「委託販売」=卸正味68〜70%、返品可。納品無料、返品料金書店負担。➂「取引ルート」=太洋社経由で、取次へ納品、返品不可。  
* 取引書店は2000店弱で、コアな仕入れ先書店は200店ほどである。

* 新刊案内はファックスと委託配本を行なわない出版社25社の「共同DM」により、訪問営業はほとんどしていない。

* 受注は午後6時締切とし、当日出荷。

* 年間刊行点数は10〜12点で、この数年の売上高はトランスビュー単体で6000万〜7000万円。返品率は創業からの累計で10%、この一年は13%。

* トランスビューは取引代行も引き受け、ほとんど人文系一人出版社といえる16社もトランスビューをいわば取次として、書店へと流通させている。

で柴田信が語っていた直取引の実践が、出版社側から語られていることになる。

直取引による出版社兼取次を担うトランスビューの行方を見守りたいと思う。それはこれからの出版業界と書籍流通の動向を占う試金石であるからだ]

14.『選択』(4月号)に「岩波書店の呆れた『新就業規則』社員の自由な言論を弾圧」という記事が掲載されている。

 それによれば、岩波書店が現在計画している就業規則改定が波紋を広げていて、特に問題をなっているのは「解雇規定」である。その条文案は「会社および会社の職員または著者および関係取引先を誹謗もしくは中傷し、または虚偽の風説を流布もしくは宣伝し、会社業務に重大な支障を与えたとき」となっている。

 これは社員の言論の抑制が目的ではないかとも指摘され、よりによって岩波書店がこのような規定をつくろうとしていることが問題だとされている。

[現在の出版危機の中にあって、マス雑誌やコミックを持たない書籍出版社はまさに苦境にあえいでいる。

それが岩波書店の場合、このような問題として表出し、出版だけでなく、現在のメディア状況をも象徴的に物語っていることにもなる]

15.取次から受注して、コンビニに出版物を配達していた東京の武井運送が破産。1957年創業で負債は1億6800万円。

[前回のクロニクルで、出版物配送がいつストップするかわからない状況にふれ、コンビニ出版物流通が困難になり始めているのではないかと指摘しておいたが、この武井運送の破産はそれを露呈してしまったといえよう。

出版業界の周辺にも危機が押し寄せているのであり、千代田区飯田橋の同和製本が破産している。負債は1億7000万円。これも出版危機の反映と考えるしかない]

16.船戸与一が亡くなった。

[私は20年ほど前になるが、『船戸与一と叛史のクロニクル』(青弓社)を上梓しているので、唯一の船戸論の著者として、彼の死を見送ったことになる。
それに加えて、ゾラの普仏戦争とパリコミューンを背景とする畢生の大作『壊滅』(論創社)を翻訳した際に、戦闘場面は船戸の文体を擬して訳している。それゆえにそこにもささやかではあるが、船戸の息吹を感じることができると思う。読者が『壊滅』にふれる機会があれば、そのことを確かめてほしい。
このことを記し、船戸を送る言葉に代える]
船戸与一と叛史のクロニクル 壊滅

17.「出版人に聞く」シリーズは〈18〉としての野上暁『小学館の学年誌と児童書』は5月下旬に刊行予定。

《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》

「今泉棚」とリブロの時代 盛岡さわや書店奮戦記 再販制/グーグル問題と流対協 リブロが本屋であったころ 本の世界に生きて50年 震災に負けない古書ふみくら 営業と経営から見た筑摩書房 貸本屋、古本屋、高野書店
書評紙と共に歩んだ五〇年 薔薇十字社とその軌跡 名古屋とちくさ正文館 『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』 倶楽部雑誌探究 戦後の講談社と東都書房 鈴木書店の成長と衰退 三一新書の時代

〈新刊〉
『「週刊読書人」と戦後知識人』

以下次号に続く。