出版状況クロニクル88(2015年8月1日〜8月31日)
15年7月の書籍雑誌の推定販売金額は1133億円で、前年比4.2%減。
その内訳は書籍が514億円で、2.6%増、雑誌は619億円で9.3%減、そのうちの月刊誌は8.3%減、週刊誌は13.2%減。
書籍が前年を上回ったのは又吉直樹の『火花』のミリオンセラー化によるものだが、雑誌のほうは月刊誌のマイナスが大きくなるばかりで、ムックやコミックも売れなくなっている出版状況を浮かび上がらせている。
返品率は書籍が41.1%、雑誌は42.6%で、5月から双方が40%を超える高返品率となり、まったく下げ止まりの気配はない。
1で示した上半期売上高の数字に、この7月の販売金額と返品率が重なり、これからの残りの5カ月へと接続していく。
この半年で栗田の売上に相当する販売金額が失われている。その果てに待ち受けているものは何なのか、それが露呈してくるのも遠い先のことではないだろう。
1.2015年上半期の出版物推定販売金額を示す。
[上半期の売上高は7912億円、前年比4.3%減、その内訳は書籍が3999億円、同2.3%減、雑誌が3912億円、同6.2%減である。
■2015年上半期 推定総販売金額 推定総販売金額 書籍 雑誌 月 (百万円) 前年比(%) (百万円) 前年比(%) (百万円) 前年比(%) 2015年
1〜6月計791,278 ▲4.3 399,980 ▲2.3 391,299 ▲6.2 1月 108,816 0.6 53,970 1.3 54,847 ▲0.1 2月 147,763 ▲3.5 76,919 ▲5.1 70,844 ▲1.6 3月 188,090 ▲3.3 108,994 0.4 79,096 ▲8.1 4月 127,368 ▲4.9 57,454 ▲5.2 69,914 ▲4.6 5月 100,421 ▲10.7 47,652 ▲7.3 52,769 ▲13.6 6月 118,820 ▲4.6 54,991 0.8 63,829 ▲8.8
14年度の書籍売上高は7544億円、雑誌は8520億円であり、1970年代前半から所謂「雑高書低」時代に入り、ほぼ40年にわたって、雑誌が書籍を上回っていたのだが、15年はそれが逆転してしまう可能性が高い。
それは返品率も同様で、書籍35.3%、雑誌42.5%と、こちらも13年度から逆転してしまっている。
これらの事実は、雑誌に基づく日本の出版流通システムと取次と書店の限界を告げていることになる]
2.『日経MJ』(8/5)の14年版「日本の卸売業調査」が出されたので、「書籍・CD・ビデオ」部門を示す。なお「楽器」部門 は省略。
■書籍・CD・ビデオ卸売業調査 順位 社名 売上高
(百万円)増減率
(%)営業利益
(百万円)増減率
(%)経常利益
(百万円)増減率
(%)税引後利益
(百万円)粗利益率
(%)主商品 1 日本出版販売 661,096 ▲3.1% 2,588 ▲45.5% 3,626 ▲31.1% 1,052 11.8% 書籍 2 トーハン 495,132 ▲2.6% 6,257 3.6% 3,912 1.1% 1,594 12.6% 書籍 3 大阪屋 68,134 ▲11.1% ▲689 − ▲738 − 2,240 7.8% 書籍 4 星光堂 63,940 ▲14.9% − − − − − − CD 5 図書館流通センター 41,498 2.3% 1,711 5.9% 1,881 9.0% 1,060 18.1% 書籍 6 栗田出版販売 32,931 ▲11.5% − − − − − − 書籍 7 太洋社 24,506 ▲2.9% − − − − − − 書籍 8 日教販 23,244 ▲25.2% 438 41.7% 328 − 244 8.8% 書籍 9 シーエスロジネット 10,735 ▲22.1% 148 − 202 − ▲315 13.6% CD 11 ユサコ 5,268 24.0% 167 271.1% 166 181.4% 92 16.7% 書籍 14 春うららかな書房 3,291 9.4% 152 76.7% 102 191.4% 10 21.2% 書籍
  MPD 192,574 ▲3.4% 974 ▲5.8% 1,015 ▲7.2% − 4.9% CD [全体の売上高は13年度に比べ、4.4%減。このような取次状況の中で、大阪屋の増資、太洋社の危機、栗田の民事再生法の適用申請と大阪屋への統合、協和のトーハンへの吸収が起きているのである。
ここでは挙がっていないが、中央社の売上高は233億円、前年比4.6%減で、取次はTRCを除いて、同様の危機状況に置かれていることは明らかだ。
TRCだけが伸び率、利益額も前年を上回っているが、それは書店ではなく、公共図書館の取次で、買切に近く、返品率も低いことによっている。雑誌をほとんど扱っていないにしても、書籍の買切と低返品率であれば、TRCのような取次はまだビジネスモデルとして成り立つということを実証していよう]
3.栗田出版販売は7月31日付で、「7月13日付ご提案にご同意いただけなかったお取引出版社様への大切なお知らせ」を出している。
それは7月13日付提案のスキームへの同意を促し、相殺通知書を含むものである。
[これも前回の本クロニクルで既述しておいたように、取次と大手出版社による説明責任を欠如させた一方的なスキームで、何としてでも通してしまおうとする出版業界の姑息な上意下達の構造の反映でしかない。
これを受け取ったであろう、やはり取次の地方・小出版流通センターも「同通信」No.468で、次のように書いている。栗田の7月31日提案を受け入れた出版社の心情を代弁していると思われるので、引いておく]
経営破綻した、国内4位の総合出版取次、栗田出版販売(株)の民事再生は、あまりにもひどい初期の再生スキームを見直した、再提案がなされました。
栗田の返品を大阪屋が買取り、出版社の大阪屋口座から控除(買い取る)というスキームは撤回され、本来、ある期間は債権から相殺されるべき返品に関して、一ケ月分の返品相殺が提案されました。
栗田取引の書店が営業を続け、読者がその店を利用し、注文が出ている状況で、苦々しく、十二分納得出来る内容ではありませんが、取引き継続をすることとします。
そして、再生を受入れるか否かは、11月に開かれる再生計画案の賛否を問う債権者集会まで、その過程を見て判断したいと考えています。
このような状況で書店の発注も少なく、7月期の栗田への出荷金額は、破綻した6月期と比べ約半分という状況です。
4.日書連は「栗田出版販売民事再生について」という声明文を発表。
「今回の件は、戦後初となる総合取次の経営破綻であり、出版業界はいまだかつてない大きな危機を迎えた」との見解を示し、栗田に対し、帳合書店と出版社の意見や批判に謙虚に耳を傾けること、出版社の出荷停止の解除の要請などが織りこまれている。
[書協、雑協、取協と並ぶ出版業界の要である日書連がようやく声明を発したことになる。
これは8月1日付で出されているので、3 の栗田の「お知らせ」と連動していると判断していいだろう。日書連は今回のスキームを承認し、栗田帳合書店への出版社の出荷停止の解除を要請していることになる。
だが実際に栗田帳合書店で何が起きているのかは、まったく伝わってこない。
なお出荷停止出版社は大手も含め、8月初旬段階で150社に及んでいるようだ]
5.出版協は「改めて、栗田出版販売民事再生スキームを撤回するように求める」という声明を発表。
これは債権者に債権額以上の加重負担を強いる再生案であって、商道徳に反し、民事再生法が禁じている債権者の利益を不当に害するものであり、絶対に許されるものではない。
またあらゆる資産を事前に整理して、出版社の犠牲の下に栗田出版販売を身軽にして帳合書店ごと大阪屋に統合させる計画はあまりに身勝手といわざるを得ない。「きわめて正当な声明であり、出版協会長の高須次郎は「FAX新刊選」(15/9、35号)でも、「栗田出版販売の民事再生が意味するもの」を掲載し、小出版社側から見た再生スキームの「悪くいえば詐欺まがい」のメカニズムについて言及している。そしてこのスキームについて、「誰が考えたか知らないがすごい錬金術だ」と書いている。
また出版協は楽天のポイントサービス「楽天ヤング」も再販契約違反として除外を要請している。
なお、4、5 の声明はともに『出版ニュース』(8/下)に収録されている]
6.書協の中枢を占める出版梓会の今村正樹理事長は栗田の民事再生について、取次のビジネスモデルの崩壊であり、個人的見解として、大幅な再販の弾力的運用、取次正味の多様化、非再販の拡大と柔軟な取引の必要性を提言。
また栗田問題に関して、「なんで書協が動かなかったのか、今でも疑問に思っている。未曽有の事態に対して、迷っている出版社が多ければ、考える場を提供するのは、本来ならば書協なのではないか、不満に思っている」とも表明。
[このような今村のスタンスから、梓会を中心として、偕成社などを始めとする「栗田出版販売民事再生債権者有志出版社一同」による「呼びかけ文」が出されたとわかる。
こちらは出版協が再販にこだわるのとは逆に、再販弾力運用、非再販の方向に進もうとしている。そのために今村は出版社、取次、書店を交えての研究チームを通じての新しい売り方の提案を唱えているが、そうしているうちにも出版危機は深刻化していくばかりだろう。
今村は書協の沈黙について不満を述べているが、それ以上に不自然なのは公取委である。取次の動向に対して、再販制も含め、こと細かに監視しているのは公取委で、取次の様々な改革も、公取委の許認可なくしてはできないと、取次の幹部から聞いたことがある。
今回の栗田民事再生スキームに関して、管見の限り、公取委の発言と声明を目にしていない。ひょっとすると、このスキームは公取委に事前に相談した上で提案されたことになるのだろうか。もしそうだとすれば、返品を巡る問題は再販制の弾力運用とでもいえるものであり、自家撞着状況を招来してしまうのではないだろうか]
7.三洋堂HDの加藤和裕社長が『新文化』(8/10)に書店が消滅しないための提言として、「書店マージン30%に」を寄稿している。要約してみる。
* アメリカのバーンズ&ノーブルも売上が落ちこみ、4期連続赤字で、11年には705店あったが、減り続け、14年には661店になっている。
11年に競合するボーダーズが破綻し、400店が閉店したにもかかわらず、バーンズ&ノーブルの売上が伸びていないことは衝撃で、組織的に拡大してきた書店チェーンの壊滅状態は、日本に起きつつあることの前兆となっている。
* 日本の主要チェーン店の経営も厳しく、ゲーム、セル、レンタルの複合化商材の急落が減益を加速させ、赤字経営が急増し、取次の傘下に入らざるを得なくなっている状況を出来させている。
* 出版社にとっても、今後書店の廃業が進むにつれ、返品が負担となるし、それは5年間で1000億円に達するのではないかと推測され、これを出版社が抑制することは困難である。
* アメリカと同じ轍をふまないために、本の粗利を30%にしたい。そのために本の定価が1割上がってもやむを得ないし、その値上げ分を書店の粗利に還元すると、書店は5年間にわたり、営業利益がでるようになるとシミュレーションできる。ただこれも7年目からは赤字になるので、延命策にしかすぎないが、黒字化の5年のうちに、業態変更を軌道に乗せる時間稼ぎにはなる。
* 現在の書店の選択肢は「破綻」か「身売り」しかなくなっている状況にあるし、粗利30%を消費税の増税前に実施してほしい。[本クロニクル75 でもバーンズ&ノーブルにふれているが、その後さらに売上が落ちこみ、店舗網も縮小に向かっていることになる。しかもそれがこれから日本でも起きようとしていることを告げている。
しかし加藤の「提言」は現実的には不可能に近いというべきだろう。出版社が定価を1割上げることはできても、それをそのままどのようにして書店に還元できるのか。スリップ報奨金として出版社から書店へと戻すことぐらいしか考えられないが、現行の再販委託制ではとても無理であろう。
やはり30%マージンを確保するためには、時限再販、非再販を多くの書店に導入し、最初からその粗利、もしくはそれ以上の設定で買切仕入れを実行し、それぞれの店のマーチャンダイジングに基づき、責任販売することしかないと思われる。
なおこのことに関しては、三輪社の中岡祐介が版元ドットコムに「本屋にきびしい国で、本屋が増えるはずがない。」を書いているので、参照されたい]
8.紀伊國屋書店は、スイッチ・パブリッシングが9月10日に発売する村上春樹の『職業としての小説家』の初版10万部のうちの9万部を買切にして、自社の店舗で販売する。その目的は初版の大半を国内書店で販売することによる、ネット書店への対抗と説明されている。
出版流通イノベーションジャパン(PMIJ)を通じてのDNPグループ書店、紀伊國屋の高井昌史社長が会長の「悠々会」(書店25法人)の加盟店を合わせた450店は紀伊國屋から直接仕入れるか、取次経由を選択できる。前者の場合、製本会社から発売日に合わせ、書店へと直送。他の書店は事前注文に応じて取次より配本。
初版の残りの1万部はスイッチ・パブリッシングが5000部をネット書店向け、5000部を関係の薄い書店に直接販売。重版以降の条件については未定。
取引条件、正味などは明らかになっていないが、取次経由の場合、通常の書店マージンと同程度か若干少ないとされている。
[直接取引と買切が強調されているが、基本的には発行所スイッチ・パブリッシング、発売所紀伊國屋書店という、発行と発売を別にするパターンを踏襲したもので、それに村上春樹の新刊と買切仕入れが相乗することによって、大きなニュースになっていると見なせよう。
取次経由の場合、紀伊國屋書店出版部の口座を利用し、流通させるのではないだろうか。高正味であろうし、利用しない手はないからだ。それが、マージンが若干少ないのではないかという理由になる。スイッチ・パブリッシングの出し正味が60%と推定すれば、直接仕入れの場合、書店の30%マージンは確保されていると考えられる。
私は『出版状況クロニクル2』で、09年の村上の『1Q84』の刊行に低正味買切制の導入を提言し、さらに本クロニクル24 (『出版状況クロニクル3』所収)で言及したが、小説ではなく、エッセイ集でそれがようやく実現したことになる。ただ村上の名前に加えて、直取引、買切、書店マージン30%と三拍子揃った新刊はわずかしか見つからないのが常道である。だがこれを範とし、PMIJが直取引、買切の実証実験を始めるために、10社の対象銘柄の選定を進めているという。
その真価が問われるのはこちらのほうだろう]
9.トーハンが総合小売業のイズミヤより子会社のアバンティブックセンターの全株式を取得し、6月の住吉書房に続いて子会社化。
アバンティブックセンターは1988年設立で、大阪や京都などに56店舗を展開し、売上高は74億円。
[1990年代後半に営業にいった頃は、まだイズミヤ京都店内に400坪の一店があるだけだったが、その後 多店舗展開し、現在に至っていることがわかる。
その一店だけだった当時の来栖順店長はとてもよく本に通じていて、話していて感銘を受けたものだった。しかし一年も経たないうちに亡くなってしまい、再会することもかなわなかった。それがアバンティブックセンター絡みの残念な記憶として残っている]
10.TACは桐原書店のすべての事業を譲り受けることを決定し、子会社TAC桐原書店を設立。
TACは全国36校にある学校や通信教育で、会計、法律、公務員などの資格取得支援事業を営む。出版事業はTAC出版と早稲田経営出版を合わせて、資格、検定試験対策書、実務書、ビジネス書などを刊行している。
桐原書店はベストセラー『積木くずし』を出したことでも知られているが、英語や国語の教科書や学参などを主とする出版社。
[もうかなり前のことになるが、桐原書店も危機に見舞われていて、社員にその出版危機について説明してくれないかと頼まれ、出かけていったことがあった。その時、ベストセラーの恩恵は残っていないことを聞かされた。
あれから桐原書店も様々な紆余曲折をたどり、今回の処置に至ったのであろう]
11.宝島社は『月刊宝島』と『CUTiE』を休刊すると発表。
『月刊宝島』は1974年創刊のサブカルチャー誌から始まり、『CUTiE』は89年創刊のストリートファッション誌で、それぞれ一時代を築いた雑誌だが、定期誌としての役割を終えたと判断し、休刊に至ったとされる。
(「別冊宝島」2385)
[宝島がJICC出版局を名乗っていた頃の『月刊宝島』は懐かしいし、友人も書いていた時代があった。だが宝島社の現在のベースを築いた1990年代からの「別冊宝島」シリーズの旺盛で玉石混淆の刊行は、バブル出版とバブルライターの巣窟で、今考えれば、良しにつけ悪しきにつけ、あれほど出版エネルギーが発揮されていた時代もなかったように思える。
同じく数年で廃刊になってしまった『別冊宝島BIZ』や『宝島30』も同様の思いに駆られる。このようにして雑誌の時代も遠のいていく]
12.インプレスによる2014年電子出版市場調査が出された。
それによれば、1411億円で前年比39.3%増であり、特集「電子雑誌ビジネス最前線」を組んでいる『出版月報』(8月号)が、これまでと異なる「ジャンル別電子出版市場の推移」も掲載しているので、まずはそれを引いてみる。
[14年の電子出版市場は1411億円で、前年比39.3%増である。その伸びを支えているのはコミックと雑誌で、前者は1024億円、同40.1%増、後者は145億円、同88.3%増。
■ジャンル別電子出版市場の推移 年 2010 2011 2012 2013 2014 (億円) 前年比 (億円) 前年比 (億円) 前年比 (億円) 前年比 (億円) 前年比 シェア(%) 電子書籍 126 111.0 115 91.3 155 134.8 205 137.2 242 118.0 17.2 電子コミック 524 115.9 514 99.2 574 116.7 731 127.4 1,024 140.1 72.6 電子雑誌 6 − 22 366.7 39 177.3 77 197.4 145 188.3 10.2 電子合計 656 114.2 651 99.2 768 118.0 1,013 131.9 1,411 139.3 100.0
初めて1000億円を超えたコミックは、14年の紙のコミック売上が2256億円だから、その半分近くのシェアを占める。これはスマホやタブレットの普及と様々なサービスに加え、電子コミックの「まとめ買い」「大人買い」がその主たる要因とされる。
電子雑誌の前年比88.3%増は、NTTドコモの雑誌読み放題サービス「dマガジン」のヒットによる。これは月額400円で約150誌の雑誌が読み放題というもので、15年6月で200万を突破しているという。
インプレスは電子出版市場が15年には1600億円、16年には1980億円、19年には2890億円に達すると予測している。
本クロニクル65 、75 などでも電子書籍に言及しているし、特に65 では今回の表と異なる「電子書籍市場規模の内訳」を示している。そして16年に2000億円市場が出現すれば、それは紙のコミック売上高に当たるのであり、書店市場に壊滅的な影響を与えるだろうと指摘しておいた。その時点において、電子雑誌はまだ登場しておらず、電子コミックにしてもケータイ向けを含んで572億円であった。
電子書籍と電子コミックだけで2000億円市場は出現しないと思われるが、電子雑誌が14年のように急増すれば、それも現実のものとなってしまうかもしれない。これもまた日本だけで起きている電子出版市場の形成ということになるが、これは出版社のみならず、何よりも雑誌とコミックとベースとする取次と書店に、日を追うごとにドラスチックな影響を及ぼすことになろう]
13.12の電子雑誌に関してだが、『Journalism』(7月号、朝日新聞出版)が特集「メディアはネットで稼げるか?」を組んでいる。
[この特集は藤村厚夫の「『情報の接触経路』の破壊的変化に対して 新時代のデジタル戦略は即応すべきだ」を始めとして、教えられることが多い。
その中でも出版社の電子雑誌については、瀬尾傑の「ジャーナリズムの将来をウェブにかける講談社『現代ビジネス』の挑戦」が、講談社の大規模な組織改革、デジタルメディア、新たなメディアとサービスの開発をめぐるもので、ネット状況と出版社とジャーナリズムの現在を語り、興味深い]
14.元佐賀県武雄市長の桶渡啓祐が、CCCの子会社CCCモバイルの100%出資の新会社ふるさとスマホの社長に就任したことは業界紙などで報道されている。この会社はスマートフォンを利用した高齢者サポート健康促進を図り、地域活性化をめざすという。
その一方で、ネットにおいて、CCCに委託した武雄図書館問題をめぐり、様々な疑惑が飛び交っていた。だがマスコミの記事にはなっておらず、なぜか『女性セブン』(9/10、小学館)がようやく3ページにわたって「佐賀県・武雄市民は怒ってます!『リアル図書館戦争』」を掲載している。
[これはCCC委託リニューアル時に購入された資料の一覧がネット上に出回り、古い本、不要な本が多く、TSUTAYAの在庫を買い取ったのではないか、その際に貴重な郷土資料などが廃棄されてしまったのではないか、図書館委託を通じて元市長はCCCと癒着し、天下ったのではないかという問題である。
「地方創生」と鳴り物入りのCCC委託による図書館運営だったが、それらをめぐる疑惑が浮かび上がってきたことになる。図書館関係者のさらなる追跡が望まれる]
15.セブン‐イレブンが「街の本屋」を唱え、ローソンが全国1000店に本棚を入れ、75タイトル売ると発表している中で、『新文化』(8/27)が「雑誌低迷・・・CVSの施策とは」と題し、ファミリーマートの商品本部新業態・サービス部の佐藤邦央マネージャーにインタビューしている。
それを要約してみる。
* 既存店の雑誌売上はこの数年2ケタ減が続き、毎年の1000店を超える新規出店分を加えても前年比90%台で、この10年間、前年を上回ったことがない。
* 雑誌点数は地域や立地で異なるが、関東地区の場合、1000点強で、かつてと異なるのは定期誌の休刊もあり、ムックや増刊が増えていることだ。
* 街の書店が大きく減ったことで、ファミリーマート店頭で本を求める声が多くなってきている。書店の廃業が増えている中で、それに応える役割もあるのではないかと思う。
* 客層が上の世代にシフトし、雑誌動向で少年コミック誌が厳しくなっていて、青年コミック誌は落ち幅が小さい。今期は『サライ』『一個人』などの大人向け趣味誌を増やすつもりだ。
* 売上構成比のジャンルベスト5は、1位が男性向けコミック誌、2位が一般(ビジネス・情報)誌、以下成人誌、女性ファッション誌、生活・イベント情報誌です。
* 雑誌売上のダウントレンドは続くと思わざるを得ない。若い新たな客層を掘り起こせていないし、雑誌はその傾向が顕著だ。だがメディアミックスなどでヒットしたコミックスや話題の書籍はまだ増売できるチャンスがあるし、話題の『火花』は数百冊仕入れたが、あっという間に売り切れてしまった。
* 以前は雑誌もコミック誌も単品での大量販売ができていたが、今ではそうはいかないので、商品の幅をもたせた棚作りをしようと思っている。
[ほとんど聞くことのできないコンビニの雑誌担当者の証言で、とても参考になる。これは書店の雑誌売場における近年の動向とも重なっていると判断できよう。そして雑誌のダウントレンドがまだ続くということも。
とりあえず、コンビニはコンビニで模索を続けていくしかないのである]
16.取次を通さない直販誌の『選択』(8月号)が「楽天が『破壊』する出版業界」、『FACTA』(9月号)が「又吉『火花』も救えぬ出版危機」という記事を相次いで発信している。
[両誌の出版業界に関する記事は間違いも散見し、現在のジャーナリズムにおける出版業界に通じた記者の不在を示していた。
それは今回も見受けられる。『選択』の記事は栗田のスポンサーが大阪屋となることで、大阪屋の筆頭株主の楽天が出版社に対する影響力を強め、電子書籍事業を推進し、さらに出版社と書店は淘汰されていくというものだ。
『FACTA』のほうはアマゾン直取引と栗田問題を背景にして、出版危機の根幹にある出版者の高正味問題に言及し、次のように書いている。内容はともかく、双方ともはっきり出版危機といっていることで、これまでマスコミや業界紙が唱えてきた出版不況なる言葉は消えてしまっている。日書連すらも危機だと認めている。その危機はまさにこれからの「三社三様の修羅場」として現実化していくだろう]
取次各社はそれこそ何十年も大手出版社に対し、正味引き下げを打診しているが、実現したためしがない。
高正味は大手・老舗出版社の既得権と化しており、それが回り回って出版流通システムを支える書店経営を苦しめている。
出版社にしてみれば、自分で自分の首を絞めている構図だが、それでも正味引き下げは呑めない。(中略)
取次、書店、出版社。三社三様の修羅場がいよいよ迫る。
17.出口裕弘が亡くなった。
[私は彼の小説のファンでもあり、若い頃にそれに関する評論を書いたことがあった。
それはさておき、出口の死は澁澤瀧彦エコールの最後の一人も失われてしまったという感慨を覚える。先立って松山俊太郎の一周忌が関係者たちで営まれたが、松山、出口と続いて亡くなり、そのエコールの名残りも消滅してしまったことになる。
今になって考えてみると、澁澤の評論、翻訳を始めとして、彼の周辺には多くの文学者や研究者がいて、それらは間口が広く、様々な方向へと歩んでいけるリベラルな回路でもあったことは、私たちの世代にとって僥倖だったように思える。時代とメディア環境と文化的位相から考えても、そうした澁澤エコールのようなグループは、もはや二度と出現してこないであろう]
18.「出版人に聞く」シリーズ〈19〉の宮下和夫『弓立社という出版思想』は10月刊行予定。