出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル95(2016年3月1日〜3月31日)

出版状況クロニクル95(2016年3月1日〜3月31日)

16年2月の書籍雑誌の推定販売金額は1475億円で、前年比0.1%減。近年なかったほぼ横ばいという数字だが、これは4年に1度の閏年で、前年より1日多かったことによっている。

そのために書籍が844億円で、同9.8%の大幅増だったが、雑誌は631億円で、同10.9%減となり、閏年効果はまったくないといっていい。

雑誌の内訳は月刊誌が508億円で、12.7%減、週刊誌が123億円で、2.7%減。

返品率は月刊誌が40.0%だが、週刊誌は好調な『週刊文春』効果もあり、35.2%と3ポイントほど改善している。なお書籍の返品率は31.4%で、週刊誌や月刊誌よりも低くなっている。

閏年であっても何の影響も見られない雑誌の凋落は、書店の客数と売上のマイナスに結びつき、その資金繰りに対して、この1年を通じて、ボディブローのような影響を与えていくだろう。

3月は学参期とあって、最大の推定販売金額となるのだが、それはどのような数字となって表われるのだろうか。学参期が終わり、5月連休後の出版状況が焦眉の問題となるように思われる。


1.太洋社が自己破産。負債は76億円(2015年12月期末)。

 太洋社から3月15日付で、出版社と書店に対し、「ご報告とお詫び」と題する文書が出されているので、それを要約してみる。

2月8日の説明会などで、出版社への買掛金支払原資の全容を把握するために、全資産の精査の実施を約束し、その換価処分、及び取引書店に対する売掛金の回収に着手していた。

書店の帳合変更に関しては規模が大きい書店は進んだが、中小書店は資金繰りや帳合変更条件から難航し、進捗が芳しくなかった。それでも事業廃止等を決定した書店を除くと、80%を超える書店の帳合変更が決まり、それらの売掛金回収はほぼ完了した。

しかし最大の取引先の芳林堂書店が2月26日に破産したことで、売掛金の全額回収に支障をきたす事態になった。それに伴い、いくつかの大口売掛金についても、多大の焦げ付きが予想される状況となった。

そのような状況下で、とりわけ芳林堂書店の売掛金12億円のうち、3億円の在庫回収額を除く8億円の売掛金焦げ付きが発生してしまった。またその後の帳合変更に伴う決済でも2億円が未回収となった。

こうした事態を迎え、もはや全資産の処分と回収により、出版社への買掛金を弁財するという当初想定のスキームの完遂は不可能となり、太洋社は万策が尽きたものとして、自主廃業を断念し、本日破産申立するに至った。

[前回、太洋社の自主廃業スキームは、これまでなかった取次からの書店の売掛金の精算というパンドラの箱を開けてしまったこと、続いてその売掛金回収が最も重要な問題で、芳林堂の破産によって大きな修正を迫られるのではないかと記しておいた。それが実際に太洋社の自己破産という結果となって表出したことになる。

これまでの総合取次の危機の処理として、大阪屋は大手出版社による増資、栗田出版販売はこれも大手出版社主導の中小出版社の実質的売掛金カットというスキームが実行されてきた。この両者のスキームは結局のところ、書店に対して未回収売掛金の精算に至っておらず、むしろそれを回避するためのものであったと見なすこともできよう。

しかし今回の太洋社のスキームは自主廃業を決断することで、書店の出店バブルの根幹にある未回収売掛金の問題まで踏みこんでしまったのである。それに対して、最大の取引先書店の芳林堂は自己破産というかたちで応じ、太洋社も同じ選択を強いられるしかなかったという構図が浮かび上がってくる。

そこに至る担保設定や保証人問題、在庫の回収の実際的処理、営業権譲渡などに関してのディテールは伝えられていないが、これらの真相は債権者集会で多少なりとも明かされることになるのだろうか。

だが芳林堂の自己破産がそのまま太洋社へとはね返り、同様の処置へと至るしかなかった両刃の剣的プロセスは、大手取次にとっても震撼ならしめるダメージを与えたことになろう。総合取次の書店との関係は、大手であっても中堅であっても変わることはないわけだから、日販もトーハンも同じ構造にある。

本クロニクルでずっと追跡してきたように、とりあえず、両社は書店の危機に対しM&Aなどによる「囲い込み」を行なってきた。これは現実的には売掛金回収の先送りといっていい。しかしそれにも限界があるし、もし大手ナショナルチェーンの売掛金回収問題が緊急とされる段階に入った場合、芳林堂のように自己破産してしまえば、太洋社と同様の立場へと追いやられてしまうかもしれない。今回の太洋社スキームと自己破産に至ったケースはその問題を露出させてしまったことになろう]

2.このような太洋社状況に対して、2月29日付の出版協「FAX新刊選」(3月、41号)が高須次郎会長の「太洋社は自主廃業できるのか」を発信している。

 それは小出版社の立場からの、ベルマーク汐留での説明会と2月下旬の太洋社状況、またこれまでの太洋社の「トーハン、日販による草刈り場」「帳合はぎ取り」のレポートともなっていて、太洋社の自主廃業スキームは最悪の事態を迎えるとの見解を表明している。
 なおこれは『出版ニュース』(3/下)に再録されている。

[今回の太洋社自主廃業から自己破産に至る過程で、公式見解を発表したのは出版協だけで、またしても書協、雑協、取協、日書連は何の声明も発していない。

その一方で、太洋社の債権者リストが出回り、そこに100万円以上の債権を有する450社近くの出版社が掲載されている。

同じものは先の栗田の場合も出回っていたが、太洋社はその出版社との関係が明らかに異なっているとわかり、中小の雑誌、コミック出版社、つまりエロ本業界との関係の深さを知らしめている]

3.2 の小出版社からの見解と同様に、小取次の立場から、「地方・小出版流通センター」(No475、3/15)が次のように発言している。

 当社にとって総合取次4位の太洋社は先週末(3月4日)で取次業務を停止しました。
その前に破綻した栗田出版販売の場合は民事再生を申請し、営業は継続されていましたので、戦後の出版流通で総合取次の業務停止ははじめてのことになります。
廃業に入ると公表されてほぼ一ケ月になりますが、太洋社の業務停止に伴う多くの取引書店の廃業の実態を見ると、日本の取次システムの重要さを実感するとともに、雑誌扱いの急激な減少と書籍市場の縮小に伴い、いままでの取次業の存立基盤が厳しくなっていることを痛感します。

 当社は40年前設立の時点から太洋社との取引きを開始しました。関東圏の取引書店が多かったのですが、他に四国や北陸に多く取引書店を持っていました。
当社の場合、設立のきっかけが三多摩地区の公共図書館による「地方や小規模出版の良書発掘運動」だったことがあり、その当時、図書館への販売業務に力を入れていた太洋社の図書館部にはいろいろ教えていただくとともに売っていただきました。
データ提供、見本配本等のシステムに組入れてもらいました。太洋社は関東地方の図書館に強く、大阪屋は関西地方の図書館へのルートを拡大していました。

[これを引いたのは、太洋社が取次の中で1970年代から先駆けて図書館販売に力を入れていたことが伝えられているからだ。そのような前史があって、太洋社がTRCの取次を担うことになったのである。TRCと公共図書館の側からの、太洋社に関するコメントは出されているのだろうか。

また地方・小出版流通センターからは、太洋社からの帳合変更書店一覧が3月14日付で出されている。それを見ると、99店で、日販が94店で、トーハン4店、中央社1店となっている。

太洋社の2月22日付発表によれば、300法人800店舗のうち、帳合変更は50法人、350店舗とされていたが、それが現実化したのは100店舗ほどだったことになるのか。とすれば太洋社の自己破産によって700店近くの小書店が消滅したことになる。

これらのことを考えていると、かつて読んだ金子のぶおという書評家の「街の書店、ささやかな悪徳。」(『フリースタイル』18所収)を想起してしまった。そこで金子は「いつもどこかに寄り道しながら、いろんな街の、いろんな書店を歩いてきた。しかし、これまでなじんできた、街の書店のかなりの店がすでに姿を消している」けれど、その中でも思い出されるのが、「暗い場所」とでもいう「街の本屋」だと書いている。そして具体的に目黒駅近くにあったその本屋の名前を挙げ、いつも「大人の本」を眺め、「ささやかな孤独の悪徳」を味わった体験を記している。さらに世界そのものが家と、学校、勤め先の他にもうひとつの「暗い書店」のようなものが必要なのに、そうした店に出会う可能性が少なくなったとも述べている。

そうなのだ。かつての「街の本屋」は小さくて暗かった。それは貸本屋も古本屋も図書館も同様で、そこから「読書という悪徳」をも学んできたのである。しかしそのような「暗い場所」はもはや追放されてしまった。

太洋社帳合書店の消滅はそのことを象徴しているのだろう]
フリースタイル

4.その一方で、相変わらず大型店の出店は続いていて、2月26日に丸善&ジュンク堂書店が立川高島屋にワンフロア1000坪で開店。

 100万冊の在庫で、月商6000万円から8000万円が目標とされる。取次は日販。

[高島屋からのオファーを受け、多摩地域における旗艦店をめざすというが、これほど様々な疑問を生じさせる出店はないといっていい。

在庫金額と回転率問題は、本クロニクル85 の丸善&ジュンク堂MARUZEN名古屋本店の開店に際してふれているので省略し、家賃コスト問題を考えてみる。

この売上目標では年商10億円といったところであろう。しかし坪当たり2万円の家賃とすれば、月2000万円、年間2億4000万円ということになり、それだけで出版物販売粗利を上回ってしまう。もちろん歩戻しも含めた利益率を30%、3億円としても、家賃が8割を占めることから、年商10億円ではとても採算ベースの売上とは見なせない。ましてこのような出版状況下での出店は、長期における売上伸び率は見こめないことからすれば、万年赤字を宿命づけられたようなものだ。

もちろん高島屋からのオファーとのことで、多少の優遇はあったとしても、家賃が半額などという条件は出されていないだろう。歩合制10%の場合、これは坪当たり1万円を割ってしまうので、それも考えられないからだ。

このような疑問はこの丸善&ジュンク堂の立川高島屋だけにつきまとっているものではなく、その他の大型店出店にも必ず感じられることだ。

ただそれにもまして、立川高島屋の場合、オリオン書房の拠点でもあり、同店は日販が買収し、子会社としたばかりだし、当然のことながら、立川高島屋店と競合してしまう。つまり日販にしてみれば、カニバリズム的展開となることは自明だからだ。それゆえに何のために取次は日販なのかという問いも、自ずから発せられることになる。

それからこれは複数の情報筋から入ってきているが、ここにきて、大型店からの大量万引が所在地の警察を通じ、古本屋も巻きこみ、問題になっているようだ。ある大型店では被害が数百万円に及んだというし、そこまでいかなくても、大量万引は広範に発生し、それが棚卸し在庫問題へともリンクしていくのも確実であろう]

5.日販やトーハンの機構改革や人事異動の発令も出され始めている。

 まだ業界紙には掲載されていないが、日販の主たる新設、廃止組織機構はいずれも16を数えている。

 それには「コンプライアンス推進室」や「ビジネスサポート事業部」が見られ、これらの役割に注目すべきだろう。

 またグループ会社日販図書館サービス(NTS)も整理対象となり、17年3月で事業終了。同社は1977年に日本図書館サービスとして始まり、公共図書館150館などに装備図書や「ニッパン・マーク」を納入していた。

 トーハンの機構改革は管理本部の廃止だけで、大きな変化は見られない。

[日販の機構改革と連動してか、TSUTAYAもグループ再編が行なわれている。T‐MEDIAHDの吸収合併、地域別カンパニーの新制分割として、北海道TSUTAYA、中国四国TSUTAYA、九州TSUTAYAの設立、物流事業などの日本サプライサービスも設立される。

おそらくNTSの経営環境悪化による撤退は、今後のTSUTAYA図書館の展開の断念と結びついているのだろう。

トーハンンのほうだが、近隣のあおい書店の大型店がゲオへとリニューアルしている。調べてみると、あおい書店は蟹江店、茜部店などもドラッグストアやバイク店などに変わっているようだ。まだ詳らかでないが、さらにこのような転換が進めば、書店のナショナルチェーンのリストラということになろう。

なお中古店「お宝ワールド」があおい書店グループであり、それで取次がトーハンだったことがわかる]

6.1から5の日本の出版業界の状況の中で、『週刊東洋経済』(3/5)が特集「12兆円の買い物帝国アマゾン」を組んでいる。それを要約抽出してみる。

 まず「世界を股にかけるアマゾン経済圏」がチャート化で示されている。

週刊東洋経済
推定年間宅配戸数は40億個、年間利用者3億人。

売上高は12兆円で、日系小売り大手と比べた場合、セブン&アイ・HDの6兆円の倍。ただ営業利益は低く2500億円。

ネット通販では世界14ヵ国でライバルを圧倒し、英国、ドイツ、フランスでも売上高首位で、米国と日本は2ケタ成長。

 続いてアマゾンジャパンも同様に示される。

本・洋書、CD・DVD、家電、おもちゃ&ホビー、ヘルス&ビューティ、ファッション、コスメ、食品&飲料、DIY・工具、楽器、ペット商品、kindle、中古車などの2億個の商品を揃える。それに日本独自のサービスも付加。

年間4億個の商品が流通し、翌日配送まで含めると、95.1%をカバー。

売上高1兆円で、11年の売上高5240億円から倍増。セブン‐イレブン・ジャパン店平均売上高の4166店分、イオンの同184店分。

通販サイト月間訪問数は3740万人で首位。

正社員数は昨年半年で500人を採用し、3500人。

国内に13カ所の物流センターを保有し、さらに川崎市高津区に巨大物流センターを建設中。

 これらを支えるシステムは次のようなものである。

メーカーから直接仕入れて販売する「直接販売モデル」。

それを個人も含めた外部の販売事業者がアマゾンサイトに出品する「マーケットプレイス」。

この自社の巨大サーバーとシステムをクラウドサービスとして他社に提供する「Amazon Web Services(AWS)。

注文から最短1時間で荷物を届けてくれる[プライム・ナウ」。

 そしてさらにアマゾンの「独自経済圏の磁力」などへと続いていくのだが、それは直接読んでもらったほうがいいだろう。

[このようなアマゾンのこの5年間の成長とそのシステムの進化を見ると、日本の出版流通システムの旧態依然の状態を眼前に突きつけられたような気がする。

本クロニクルでも3PLシステムの導入によるロジスティクスの進化と変容にふれてきたが、取次のロジスティクスはまったく変わっていない、あるいは変えられなかったゆえに、栗田にしても、太洋社にしても破綻するしかなかったようにも思われる。そのこともあり取次の送返品を含む物流センターとロジスティクスは汎用性がなく、他業界では生かすことができないシステムと見なされ、売却することも困難な状況に追いやられていたとも考えられる。

実際に3PLが主体となっている物流センター関係者に問い合わせてみると、既存の倉庫現場をアマゾン物流センターのような機能を有するものへと転換するためには高コストを要するので、新たに建設するほうがベターだという答えが戻ってきた。これがそのまま取次の物流センターに当てはまるかどうかは断定できないけれど、今後のトーハンとオムニチャンネルの組み合わせの行方がそのことを明かしてくれるだろう。

奇しくも『日経MJ』(3/4)が「ネット通販黒字の疲弊」を一面特集、トラック物流問題に言及し、「即日配送」、「返品無料」といったネット通販尾サービスがもたらす、長時間労働と低賃金による人手不足、下請け構造に焦点を当てている。

また続けて『日経MJ』(3/25)は「お届け進化総力戦」と題し、ヤマトの山内雅喜社長とアマゾンのジャスパー・チャン社長にインタビューしている。アマゾンのより安くより早い「プライム・ナウ」を利用できる「アマゾン・プライム」(年会費3980円)をめぐっての攻防が展開され始めている。そうした状況の中に出版物も置かれているのだ。

なお出版物に関して補足しておけば、アマゾンバイスプレジデント村井良二書籍担当の証言から、書籍・雑誌の出版社の直取引は20%台後半とされている。トータルの出版物売上は2000億円ほどと推定できるので、直取引は500億円前後ということになる。しかしそのアマゾンの出版物売上高もピークアウトしたのではないかとも考えられることを付記しておく]

7.アマゾン商品として、出版物に続き、CD・DVDが挙げられているし、こちらの動向も示してみる。

 『キネマ旬報』(3/下)の「映画業界決算特別号」で、映像メディア総合研究所の四方田浩一が「パッケージ概況・配信状況」についてレポートしている。

 日本映像ソフト協会によれば、DVD・ブルーレイなどのパッケージソフトの15年メーカー出荷金額は2180億円で、前年比5.2%減。その内訳は販売用1626億円、2.9%減。レンタル用543億円。11.7%減である。

 とりわけDVDに関してはピーク時の04年3754億円と比べると、40%以上も落ちこみ、また同年のレンタル用1144億円に限れば、半分になっている。

 またレンタル店だが、16年1月で3137店、これも2000年には6257店あったわけだから、15年で半減してしまった。

 そのようなレンタル状況の中で、ネットフリックスが上陸し、15年は動画配信元年となり、16年は各社のサービスが加速し、それらが既存サービスへの影響となって、数字に反映してくるであろう。

キネマ旬報
[TSUTAYA やゲオにしても、FCと直営の相違はあるにしても、レンタル事業がコアとなっているわけだから、ネットフリックスなどの動画配信サービスの加速の影響を受けざるをえない。

それが日販やMPD,トーハンにも及んでいくことは必至で、これらもまた取次へ大きな影響をもたらしていくはずだ]

8.『出版月報](2月号)が特集「紙コミック&電子コミックの最新動向―コミック市場2015」を組んでいるので、これも紹介しておく。

 まずはコミック推定販売金額推移を示す。




















■コミックス・コミック誌の推定販売金額 (単位:億円)
コミックス前年比コミック誌前年比コミックス
コミック誌合計
前年比出版総売上に
占めるコミックの
シェア(%)
19972,421▲4.5%3,279▲1.0%5,700▲2.5%21.6%
19982,4732.1%3,207▲2.2%5,680▲0.4%22.3%
19992,302▲7.0%3,041▲5.2%5,343▲5.9%21.8%
20002,3723.0%2,861▲5.9%5,233▲2.1%21.8%
20012,4804.6%2,837▲0.8%5,3171.6%22.9%
20022,4820.1%2,748▲3.1%5,230▲1.6%22.6%
20032,5492.7%2,611▲5.0%5,160▲1.3%23.2%
20042,498▲2.0%2,549▲2.4%5,047▲2.2%22.5%
20052,6024.2%2,421▲5.0%5,023▲0.5%22.8%
20062,533▲2.7%2,277▲5.9%4,810▲4.2%22.4%
20072,495▲1.5%2,204▲3.2%4,699▲2.3%22.5%
20082,372▲4.9%2,111▲4.2%4,483▲4.6%22.2%
20092,274▲4.1%1,913▲9.4%4,187▲6.6%21.6%
20102,3151.8%1,776▲7.2%4,091▲2.3%21.8%
20112,253▲2.7%1,650▲7.1%3,903▲4.6%21.6%
20122,202▲2.3%1,564▲5.2%3,766▲3.5%21.6%
20132,2311.3%1,438▲8.0%3,669▲2.6%21.8%
20142,2561.1%1,313▲8.7%3,569▲2.7%22.2%
20152,102▲6.8%1,166▲11.2%3,268▲8.4%21.5%
 15年のコミックス売上は2102億円で、前年比6.8%減、コミックス誌は1166億円で、同11.2%減。コミックス誌はかつてない2ケタのマイナスとなり、ここでも雑誌の凋落が投影されている。

 それはコミックス、コミックス誌合計にも表われ、こちらも8.4%減という最大の落ちこみ、20年連続のマイナスである。

 新刊点数は1万2562点と、この5年ほどほぼ横ばいだが、販売部数はコミックスが4億25万冊、同8.6%減、コミックス誌が3億4788万冊、同12.5%減となっている。合計では10.4%減で、販売金額よりも落ちこみ幅は大きく、返品率も初めて30%を超え、30.3%に至っている。
 この紙のコミック市場に対し、5万タイトルを配信する電子コミック市場は1149億円で、同31.8%増。紙と電子コミック市場合計規模は4437億円である。

[この紙と電子と合わせ、4437億円の売上を有するに至ったコミック市場の行方はどうなるのか。これらの動向は近年の紙コミックス、コミックス誌の減少に対し、電子コミックス、コミックス誌が急成長したことによっている。

ただ確かに電子コミック市場は14年881億円に対し、1169億円と30%以上の伸びを示している。それとパラレルに紙コミック市場はマイナスが続いているので、コミック市場全体の販売金額は14年が4456億円、15年が4437億円で、0.4%減となっている。

 この15年の4437億円は、08年の紙のコミック市場規模の4483億円とほぼ同じ販売金額だが、1990年代前半の全盛期には5000億円後半を保っていた。それを考慮すれば、紙のマイナスを上回る電子の大幅プラスが毎年のように続かないと、5000億円を超える販売金額に至るのはかなり難しいと見ていい。

仮にもしそれが実現すれば、紙と電子の販売金額は逆転してしまうであろうし、そうなればコミックの意味、出版社、取次、書店にとってのコミックの位置づけといった、コミックを巡るあらゆるコンセプトが変わってしまうことになる。私たちはその端境期にいることになるのだろか]

9.講談社の決算が出された。

 売上高は1168億円、前年比1.9%減、当期純利益は14億5400万円、同47.2%減。

 売上高内訳は雑誌678億円、5.8%減、 書籍175億円、17.7%減、広告収入48億円、13.6%減、事業収入218億円、34.8%増、その他16億円、90.6%増、不動産収入31億円、1.5%増。

[講談社の売上高内訳に出版業界の現在が合わせ鏡のように映し出されている。雑誌はアシェット婦人画報社の雑誌売上を加えなければ、さらに落ちこんでいただろうし、コミックが前年を下回っている。

また書籍における文庫の18%近くのマイナスも尋常ではない。文庫や新書といった大量生産、大量消費出版システムも、もはや限界の時を迎えているといっても過言ではない。

それを裏づけるように、決算発表の場で、金丸徳雄取締役が「中堅取次の破綻が示すように、コンテンツが読者に自動的に届く時代が終わりを告げたと認識している」と話したという。それは本クロニクルがずっと指摘し続けてきた近代出版流通システムの崩壊に他ならない]

10.日本文芸社が、トレーニングジムのライザップなどを運営する健康コーポレーションの子会社化。

 健康コーポレーションは、日本文芸社の親会社の、電通、博報堂に次ぐ第三位の大手広告代理店アサツーディ・ケイから20億円で全株式を取得し、実用書の出版で実績のある同社の編集、販売機能を活用し、美容、建築関連事業などとのコラボレーションをめざすとされる。

[アサツーディ・ケイが日本文芸社を子会社化したことも知らなかったが、前者のIRによれば、平成26年2月に完全子会社化としたという。そこに示された日本文芸社の3年間の売上高は40億円を上回っているものの、3年連続赤字だったことを明らかにしている。

日本文芸社は『日本文芸社三十年史』(1990年)という社史も出していて、創業者の夜久勉こそは戦後の貸本、マンガ、エロ本業界のトリックスター的人間である。三洋社からの白土三平の『忍者武芸帖』出版にしても、夜久たちによっているのである。

その出版業界の裏通りの名門出版社が大手広告代理店の傘下となった果てに、『週刊文春』でさんざん叩かれたライザップを運営する企業に買収されてしまうのは、これも時代の巡り合わせということになるのだろうか]
忍者武芸帖(小学館、復刻版)

11.酣燈(かんとう)社が破産。負債総額は4億円。

 同社は1946年に設立され、月刊誌『航空情報』や航空関連書を刊行していた。2008年には年商1億6700万円を計上していたが、赤字続きで債務超過となり、14年には『航空情報』をせきれい社に譲渡し、15年には年商7000万円となっていた。

航空情報 
[鈴木徹造の『出版人物事典』(出版ニュース社)に、酣燈社に創業者として水野成夫の名前が掲載されているし、かつて.酣燈社は学術書や文芸書を刊行し、リトルマガジン『心』や『三田文学』の発行所でもあった。私も両者について、「水野成夫と酣燈社」(『古本探究2』所収)を書いている。

これは私見だが、堤清二がリブロポートに託した出版活動は、この水野と酣燈社の戦後の時期の出版のイメージに基づいているように思われる。

なお2月は『精神分析学辞典』『医大受験』などを出していた育文社が倒産、また学術書の昭和堂がミネルヴァ書房の子会社となっている]

12.ブックオフが2004年創業以来の赤字。

週刊東洋経済 
[これはブックオフのIRや『週刊東洋経済』(4/2)の「核心リポート」でもふれられているが、「グループ中期事業計画」のひとつとして、中古家電を取り扱い始めたところ、その仕入れ増と人員増強などの先行投資が影響し、当初予想を下回るものになった。

その結果、修正予想売上高は770億円と前年を20億円上回るものの、営業利益は50億円から1億5000万円の赤字となる。

本クロニクルでも、ブックオフのハードオフからの離脱、販売価格の変化などを既述してきた。その一方で、FC店は減少し、直営店が増えているようだが、おそらくブックオフも新たな段階へと入りつつあるのだろう]

13.『サイゾー』(4月号)が特集「文壇タブ―事情」を組み、「専業は一握り?“食えない小説家”のイマドキ事情とは?」や「芸能人作家増殖で芸能界の言いなりになる文芸の未来」などの本のレポートや座談会やコラムが掲載されている。

サイゾー 

[『噂の真相』が休刊となって以来、すでに十年余が経とうとしている。このディケードにおける出版と小説の失墜はいうまでもないけれど、作家や著者たちのスキャンダルや事件は一部を除き、ほとんど報じられなくなってしまった。

そのような中で組まれた特集で、現在の文芸書事情と売れ行き、有川浩の版権引上げ騒動、百田尚樹『殉愛』出版差し止め裁判内幕、KADOKAWSとドワンゴの関係などがレポートされ、それなりにゴシップを楽しませてくれた。

だがそれ以上に面白かったのは、寺尾隆吉のコラム「邦訳発売まで間もなくラテンアメリカ文学3選」で、フェルナンド・デル・パソの『帝国の動向』を早く読みたいと思う。どこから、いつ出るのだろうか]

14.『FACTA』(4月号)にジャーナリスト山口義正の「『空港島展示場』で大村・河村バトル」と題する一文が掲載されている。

 これは愛知県の大村知事と名古屋市の河村市長の間での国際展示場計画をめぐる問題である。

 前者は展示場を中部国際空港島に建設する、後者は名古屋港の展示場ボートメッセなごやを拡張する構想を抱いていた。この河村市長構想側に立っているのが、リードエグジビション・ジャパンの石積忠夫社長だとし、山口は書いている。

 リードは今年、全国区で164件の見本市開催を予定しており、収益規模はちょっとした上場企業並みだ。第一人者を自負する石積は、日本展示会協会(日展協)の会長も兼務し「国際見本市は経済効果が大きく、日本はその大国になるべきだが、もっと大きな規模の展示場が必要」と主張している。

 企業経営者としての顔だけでなく、石積は政商の一面も併せ持つ。日本では欧米に比べて大規模な展示場が少ないうえ、東京ビッグサイトさえイベントは飽和状態に近く、事業を拡大しようにもその余地が乏しいとして、箱モノの計画が持ち上がる方々でカネをばらまいていると評判だ。 
 

[ここに出てくるリードとは、毎年恒例の東京国際ブックフェアを主催する企業である。

本クロニクル75でも、フランクフルトのブックフェアなどと異なる東京国際ブックフェアにふれ、出版業界に関してのメリットに対する疑問、新潮社、文藝春秋、光文社、筑摩書房、中央公論社、ダイヤモンド社などが脱退した事実にふれ、このリードとは何なのかに留意してきた。ここで初めてまとまったリードに関する記述に出会ったことになる。

ここに東京国際ブックフェアを主催するリードの実態の一端が示されている]

15.『出版状況クロニクル4』が4月中旬に論創社から刊行される。

 4年分を詰めこみ、700ページを超えてしまうこともあり、3000円と高定価になってしまった。

 購入して頂ければ有難いが、図書館へのリクエストもお願いできればと思う。

 なお、論創社HPの「本を読む」の連載第2回は
「時代小説と挿絵」で、こちらもご覧下さい。