出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2010-01-01から1年間の記事一覧

古本夜話67 三谷幸夫訳のヴォルテール『オダリスク』

所持している操書房のヴォルテールの『オダリスク』の訳者三谷幸夫は、後年のミステリ作家にして研究者の松村喜雄のペンネームであり、それが松村喜雄の署名入り献本ゆえにわかると既述した。その献本は花崎清太郎宛になっていた。花崎清太郎とはどのような…

10 ローザとハリウッド

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話66 宮本良『変態商売往来』と松岡貞治『性的犯罪雑考』

もう一度、南柯書院に戻る。 これも既述したように、南柯書院は上森健一郎、宮本良、西谷操などによって、昭和三年に設立された。その編集責任者は宮本良で、彼は発藻堂書院や前衛書房の編集事務も兼ねていた。また宮本は文芸資料研究会の「変態十二史」第七…

9 黒人との合流

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話65 南宋書院、湧島義博、田中古代子

「奢灞都南柯叢書」の『黄金宝壺』と『タル博士とフエザア教授の治療法』の二冊を刊行した南宋書院について、一編補足しておきたい。日夏によれば、平井の「友人稲田稔が南宋書院を起して赤書印刻をやり始め」、その影響を受け、平井が急速に左傾したとされ…

8 阿片中毒となるアメリカ人女性たち

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話64 典文社印刷所と蘭台山房『院曲サロメ』

これはまったく偶然であるが、平井功の「古逸叢書」の遺志を継いだ者が存在していたことを知った。それは土井庄一郎の「築地書館の50年」というサブタイトルが付された社史『めぐりあいし人びと』(築地書館)においてだった。一章の「父の思い出」の扉に、…

7 カリフォルニアにおける日本人の女

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人 7 カリフォルニアにおける日本人…

古本夜話63 平井功『孟夏飛霜』と近代文明社

平井功は一冊の詩集と四冊の『游牧記』を残し、「古逸叢書」刊行計画の挫折の後、急速にマルクス主義へと向かい、昭和七年に淀橋署に検挙され、留置場で背負いこんだ病にかかり、急死してしまった。享年二十六歳だった。日夏耿之介はその平井を追悼し、「か…

出版状況クロニクル31 (2010年11月1日〜11月30日)

出版状況クロニクル31 (2010年11月1日〜11月30日) ブックオフで、ヘーゲルの『精神現象学』(樫山欽四郎訳、平凡社ライブラリー)上下巻が各100円で売られていた。『精神現象学』を読む試みには何度も挫折し、この訳は河出書房版でも持っているので、入手…

6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人「夜」の舞台はサンフランシスコ…

古本夜話62 平井功と『游牧記』

西谷操=秋朱之介がポルノグラフィから始めて、特異な装丁家として、書局梨甫や以士帖印(エステル)社などの限定版書肆を設立し、それから三笠書房の創立に参画していったことは既述した。西谷のそのような装本美学は、日夏耿之介と「南柯叢書」の企画編集者だっ…

5 支那人と吸血鬼団

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 5 支那人と吸血鬼団 第五章の「宣誓」は二人がサンフランシスコにやってきて、すでに一ヵ…

古本夜話61 南柯書院と南柯叢書

これまで何度かその社名を挙げてきた梅原北明グループの南柯書院がずっと気にかかっていた。前回林芙美子を登場させたこともあり、そのことに言及してみよう。南柯書院は上森健一郎、宮本良、西谷操たちによって、昭和三年に設立され、『変態黄表紙』を刊行…

4 先行する物語としての『黒流』

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会い 4 先行する物語としての『黒流』 ここまでの要約で、『黒流』の物語の序章的流れは説明できたと思う。時代は一九一九年から…

古本夜話60 野村吉哉と加藤美侖

前々回のマリー・ストープスの『結婚愛』の巻末広告を見て、思い出される事柄があった。それらにまつわる本を入手していないので、仮説にとどまるが、これも記しておくことにする。それは見開き二ページの加藤美侖著「人間叢書」全十編の広告で、「新旧世界…

3 メキシコ上陸とローザとの出会い

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会 3 メキシコ上陸とローザとの出会いそして第三章「南国」に入る。メキシコに上陸した荒木は大海会長からの紹介状を持ち、三村という雄飛会員を訪ねた。三村は医…

古本夜話59 マリー・ストープスと能

もはや忘れられていたと思われるマリー・ストープスが再び召喚されたのは、一九九四年の荻野美穂の『生殖の政治学』 (山川出版社)のようなバース・コントロール研究の領域ばかりではない。彼女は思いがけないことに、近年の比較文学研究において、これまで…

出版状況クロニクル30(2010年10月1日〜10月31日)

出版状況クロニクル30(2010年10月1日〜10月31日) 今年は例年になく、各地に出かける機会が多かった。そして今さらながらに、21世紀に入っての巨大な郊外ショッピングセンターの出現によって、ただでさえ衰退していた地方の商店街が壊滅的な打撃を受け、と…

2 アメリカ密入国と雄飛会

◆過去の「謎の作者 佐藤吉郎と『黒流』」の記事 1 東北書房と『黒流』 2 アメリカ密入国と雄飛会『黒流』は全十四章立てで、その第一章は「国境」と銘打たれ、北アメリカとメキシコの国境のシーンから始まっている。それは近代文学の書き出し、及び自然、風…

古本夜話58 マリイ・ストープス『結婚愛』

前回 矢野目源一が伊藤竹酔の国際文献刊行会から『補精学』なる訳書を刊行したことを記しておいた。そこで伊藤の名前を出したこと、及び本連載17 「『竹酔自叙伝』と朝香屋書店」で書き残したこともあるので、それを補足しておきたい。それはマリイ・スト…

1 東北書房と『黒流』

まえがき この論稿は四年前に書かれたものである。私が住む地方は日系ブラジル人があふれるようになり、十年ほど前に始まった日系ブラジル人たちとの本格的な混住社会に移行する段階へと至ったことを実感するようになった。日系ブラジル人といっても外見的に…

古本夜話57 異能の翻訳者 矢野目源一

西谷操が営む操書房刊行のアンリ・ド・レニエの矢野目源一訳『ド・ブレオ氏の色懺悔』を持っていると既述した。その矢野目の名前を久し振りに目にした。それは09年に出た長谷川郁夫の『堀口大學』(河出書房新社)の中においてで、「忘れられた奇才・矢野目…

28 ガルシア・マルケス『百年の孤独』

前回で「ゾラからハードボイルドへ」というタイトルの連載の目的は終わりにこぎつけたのであるが、番外編として、もう一編付け加えておきたい。このような機会を逸すると、あらためて書くこともないように思われるからだ。これまで書いてきたように、私見に…

古本夜話56 尾崎久彌と若山牧水

もう一編、尾崎久彌のことを記す。尾崎の著書に『綵房綺言』があり、これはやはり春陽堂から昭和二年に刊行されている。『綵房綺言』は「自序」の「昨日の花ハ今日の夢。二十歳の夢。三十路の夢。凡て昨日ハ今日より。美しきものぞかし。」の書き出しに示さ…

27 スティーグ・ラーソン『ミレニアム』

二一世紀に入ってスウェーデンから送り出されたスティーグ・ラーソンの『ミレニアム』三部作は、今世紀初頭を飾る力作であり、これまでのミステリ、ハードボイルド、警察小説、スパイ小説、サイコサスペンスなどの物語ファクターの最良のエキスを集約したシ…

古本夜話55 尾崎久彌『江戸軟派雑考』

秋朱之介の『書物』の寄稿者に尾崎久彌がいる。尾崎の名前は城市郎のチャートに出ているが、それは彼が『江戸軟派研究』を発行していること、及び「変態文献叢書」のうちの『会本雑考』を封酔小史のペンネームで刊行していることによると思われる。しかし尾…

26 ジェイムズ・エルロイと『ブラック・ダリア』

初めてブラック・ダリアを目にしたのは、ケネス・アンガーのHollywood Babylon 2 (Dutton Adult,1984)においてだった。『ハリウッド・バビロン』 についてはこの連載の12で既述しているが、『ハリウッド・バビロン2』 (明石三世訳)も同じくリブロポ…

出版状況クロニクル29(2010年9月1日〜9月30日)

出版状況クロニクル29(2010年9月1日〜9月30日)『出版状況クロニクル2』 が刊行され、3ヵ月になるが、例によって書評はひとつも出ない。再販委託制問題に加えて、本クロニクルが大手新聞や総合誌などを批判していることも作用しているのだろう。 それでも…

古本夜話54 西谷操と秋朱之介の『書物游記』

梅原北明の出版人脈の中にあって、その文章がまとめられ、出版や翻訳や装丁に携わった「書物一覧」も編まれている人物が一人だけいる。それは西谷操で、秋朱之介『書物游記』として、書肆ひやね から昭和六十三年に刊行された。そこには荻生孝による「秋朱之…