出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2010-04-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話33 佐治祐吉の『恐ろしい告白』

井東憲が『変態作家史』の中で、これもまた「大正の変態心理小説」とよんでいる佐治祐吉の短編集を、神保町の金沢書店で入手した。それは大正十年に宝文社から刊行された『恐ろしい告白』で、七つの作品を収録した短編集である。佐治は山崎俊夫や倉田啓明と…

3 『ジェルミナール』をめぐって

どのアメリカ文学史でも、スティーヴン・クレイン、フランク・ノリス、シオドア・ドライサー、アプトン・シンクレアたちは、ゾラに代表されるフランス自然主義の影響を受けていると指摘している。ゾラに代表されるフランス自然主義とは、主として「ルーゴン=…

古本夜話32 『現代猟奇尖端図鑑』と『世界猟奇全集』

「エロ・グロ・ナンセンス」の時代を出版企画として体現したのは、梅原北明たちのアンダーグラウンド的出版社や武俠社のような小出版社ばかりでなく、すでに著名な出版社となっていた新潮社や平凡社も同様だった。ここでは新潮社と平凡社のそれらの本につい…

2 『ナナ』とパサージュ

「ルーゴン=マッカール叢書」が近代という新しい時代を迎えて、これまでなかった社会インフラの出現によって新しい欲望に目覚めていく物語ではないかと記したが、それと同時に新しい時代のインフラと欲望についての多くの謎を提出している。それらは遺伝、都…

古本夜話31『近代犯罪科学全集』と『性科学全集』

前回記したように、武俠社の『近代犯罪科学全集』と『性科学全集』については手持ちが少ないこともあって、それらの明細と著者を省略するつもりでいた。しかしその後、浜松の時代舎で、双方の美本を十冊ほど入手し、その中には発禁となった『近代犯罪科学全…

1 「ルーゴン=マッカール叢書」

「消費社会をめぐって」の連載で、ゾラの『ボヌール・デ・ダム百貨店』を取り上げたが、ここではこの小説を含む連作としての「ルーゴン=マッカール叢書」に言及し、その現代的意味と もたらした波紋について、考えてみたいと思う。既述しておいたように、「…

古本夜話30 柳沼沢介と武俠社

北島春石や伊藤晴雨の親しい交流人脈には出版者も加わっていて、結城禮一郎や柳沼沢介の名前も出てくる。結城についてはすでに「結城禮一郎の『旧幕新撰組の結城無二三』」(『古本探究3』 所収)でふれ、武俠社の柳沼に関しても、かつて「古本屋散策」(『…

大藪春彦とスティーヴンスン

少年時代の読書は小説が中心だったけれども、その主人公やストーリーに引きこまれるだけでなく、物語の展開の中にあって、登場人物たちが言及する別の小説や書物にも必然的に興味を抱かされたものだった。そのような作家のひとりに大藪春彦がいて、以前に彼…

出版状況クロニクル 23 (2010年2月26日〜3月25日)

出版状況クロニクル 23 (2010年2月26日〜3月25日) 本クロニクル21で、新潟の老舗書店北光社の閉店を記しておいたが、『朝日新聞』(3月1日)の「朝日歌壇」に山田昭義という人の次のような一首が掲載された。 北光社書店の今日を限りの閉店を惜しみて客はレ…

古本夜話29 三人の画家と「宿命の女」

浅草の硯友社系の二流の小説家北島春石の「春石部屋」に集まっていた人々の中に伊藤晴雨の顔があったことも既述しておいた。春石の家に来客が多かったのは彼の親分肌の鷹揚さもあったが、その夫人も少女時代には剣舞小屋の舞台に立ったりしていたことから、…