出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

8 豊浦志朗「ハードボイルド試論 序の序―帝国主義下の小説形式について」

ハメットの『血の収穫』 は刊行から半世紀を経て、日本において正統的後継者を出現させた。ここでの使用テキストは、旧訳『血の収穫』(田中西二郎訳、創元推理文庫)であるので、再び邦訳名を『血の収穫』 に戻す。 ハメットの『血の収穫』 に関して、一九…

古本夜話37 岡書院の『南方随筆』

この際だから南方熊楠の『南方随筆』 にも言及しておこう。南方熊楠の著作の出版元年は大正十五年である。大正十五年二月に坂本書店から『南方閑話』、五月と十一月に岡書院から『南方随筆』 と『続南方随筆』 が刊行された。この三冊の刊行を機にして、熊楠…

7 トレヴェニアン『夢果つる街』

ゾラの『ジェルミナール』 とハメットの『赤い収穫』 の関連について仮説を述べてきたが、ゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」とミステリがダイレクトに結びついた作品が存在する。それは少し時代を隔ててしまうけれど、トレヴェニアンの『夢果つる街』 (北…

古本夜話36 南方熊楠と酒井潔

十九世紀末から二十世紀初頭にかけての欧米の文化史や文学史をたどっていくと、ホモセクシャルやレスビアンといった同性愛の陰影に気づく。それはおそらく二十世紀になって欧米で共時的に誕生した近代出版社の様々な雑誌や書籍を通じ、かつてない拡がりをも…

6 ドライサー『シスター・キャリー』とノリス『オクトパス』

ハメットとピンカートン探偵社の関係、それがもたらした彼のハードボイルドの世界への影響について既述してきた。しかしピンカートン探偵社の影響はハメットだけにとどまるものではなく、他のアメリカ文学にも表出し、近代アメリカ史が「私警察」としてのピ…

古本夜話35 今東光『奥州流血録』の真の作者 生出仁

少しばかり連載テーマからはずれてしまうけれども、前回今東光を取り上げたこともあり、この機会を得て、彼の作品とされている『奥州流血録』にまつわる話を挿入しておきたい。落合茂という戦前からの地味な作家がいて、昭和初年の文学シーンなどを描いた『…

5 IWW について

前回はハメットの『赤い収穫』 をピンカートン探偵社の側から見たが、今回は IWW に焦点を当ててみよう。だがその前に『赤い収穫』 で「世界産業労働者組合」と訳されている IWW について、簡略な説明を加えておくべきだろう。 IWW は Industrial Workers of…

古本夜話34 今東光の『稚児』

大正十四年に今東光を編集長とする『文党』が創刊され、第二号から梅原北明が加わり、その流れがあって『文芸市場』が誕生している。したがって今東光も梅原の出版人脈に数えられることになるのだが、その今も山崎俊夫や倉田啓明と立場や時代は異なるにして…

4 ダシール・ハメット『赤い収穫』

それならば、ジッドが絶賛するハメットの『血の収穫』 とはどのような物語なのか。もちろんゾラの『ジェルミナール』 以上に周知であるにしても、まずはその物語を示しておこう。これまで『血の収穫』 と書いてきたが、ここでは小鷹信光の新訳を使うので、そ…

出版状況クロニクル24(2010年3月26日〜4月30日)

出版状況クロニクル24 (2010年3月26日〜4月30日) 今回から本クロニクルが本ブログ【出版・読書メモランダム】に移行するにあたって、月末締め、1日更新とあらため、タイムラグが生じないようにした。 本クロニクルの移行によって、8ヵ月続けてきた【出版・読…