出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2010-06-01から1ヶ月間の記事一覧

12 ケネス・アンガー『ハリウッド・バビロン』

ずっと重いテーマばかり続いてしまったので、少しばかり異なる間奏曲的な一章を挿入してみたい。もはやクイックフォックス社という出版社を覚えている読者は少ないと思われる。これは一九七〇年代に設立された外資系出版社で、詳細は不明だが、数年間の出版…

古本夜話41『岩つつじ』と「未刊珍本集成」

南方熊楠が横山重から「稚児物語草子類」の出版リストを送られ、これに『岩つつじ』と『藻屑物語』を加えてはどうかと岩田準一に手紙を出したことを記したが、『岩つつじ』に関しては岩田が『男色文献書志』に取り上げ、解題を付している。著者の北村季吟は…

11 ハメット『デイン家の呪い』新訳

小鷹信光によるハメットの最後の新訳『デイン家の呪い』 (ハヤカワ文庫)が〇九年十一月に刊行された。これでハメットの五作の長編の小鷹新訳版が出揃ったことになる。とりわけこの『デイン家の呪い』は「ハヤカワポケットミステリ」に収録されていた村上啓…

古本夜話40 横山重と大岡山書店

『南方熊楠男色談義』 (八坂書房)の中には、思いがけない人物の名前が出てくる。それは昭和十四年六月十九日付の南方から岩田への手紙で、次のように書かれている。 今日十二日出状をもって、東京横山重君より交渉有之(これあり)、氏と巨橋頼三氏と二人の…

10 『篠沢フランス文学講義』と La part du feu

前回、大修館書店の『篠沢フランス文学講義』 全五巻を挙げたこともあり、またこの連載はゾラをめぐるものなので、渡辺利雄の『講義アメリカ文学史』 に言及しておいて、篠沢の講義にふれないのは片手落ちということになる。だから一章を設けるしかない。そ…

古本夜話39 田中直樹『モダン・千夜一夜』と奥川書房

前回取り上げた田中直樹について、もう少し付け加えておこう。彼には著書が一冊だけあり、それは『モダン・千夜一夜』で、昭和六年にチツプ・トツプ書店から刊行されている。菊半截判、二百ページ弱の小著だが、本文とは別に五十枚余の西洋人女性の乳房もあ…

9 渡辺利雄『講義アメリカ文学史』補遺版

渡辺利雄の「東京大学英文科講義録」のサブタイトルを付した『講義アメリカ文学史』 全三巻が、研究社から刊行されたのは〇七年だった。これはサブタイトルからくるアカデミックな印象と異なり、作家を中心として、多くの原文引用を示し、明晰な語り口で楽し…

古本夜話38 岩田準一と田中直樹

『南方熊楠男色談義』 (八坂書房)の岩田準一の書簡を読んでいて、教えられるのは男色の文献に関してばかりでなく、彼の東京生活が四、五年であったにもかかわらず、いくつかの出版シーンに立ち合い、その後も出版社の内実に絶えずアンテナを張っていたとい…

出版状況クロニクル25(2010年5月1日〜5月31日)

出版状況クロニクル25(2010年5月1日〜5月31日) 今月の出版業界に関する報道はあきれるほどiPadと電子書籍問題一色に染められ、それはまだ続いていくのだろう。 だが本クロニクル24でも書いておいたように、これらの報道は現在の出版業界の危機の本質を隠蔽…