出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2010-07-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話45 宮武外骨と紅夢楼主人『美少年論』

南方熊楠と岩田準一の長きにわたる書簡による男色談義にもかかわらず、あえて両者がふれなかったと思われる一冊がある。それは紅夢楼主人の『美少年論』で、岩田は『男色文献書志』 の745にこれを掲載している。 その解題によれば、著者を紅夢楼主人とする『…

16 『FAULKNER AT NAGANO』について

昨年、このブログでも述べておいた、前リブロの今泉正光へのインタビューが実現に至り、三月初旬に彼が住む長野を訪ねてきた。興味深い話題をつめこんだ内容のインタビュー集の編集を終えたところだ。「今泉棚」と称されたリブロ時代の、まさに当人によるオ…

古本夜話44 中野正人、花房四郎、『同性愛の種々相』

もう一冊「同性愛」という言葉を含んだ単行本がある。それはドクトル・アルベール著、花房四郎訳『同性愛の種々相』で、昭和四年に文芸市場社から、発行者を中野正人とする「談奇館随筆第四巻」として刊行されている。岩田準一の『男色文献書志』 にも花房四…

15 フォークナー『サンクチュアリ』

『ハヤカワミステリマガジン』一月号の「ハメット復活」特集で、小鷹信光と対談している諏訪部浩一は、〇八年に『ウィリアム・フォークナーの詩学1930−1936』(松柏社)という著作を上梓し、フォークナーにおける新世代の研究者として出現した。 この諏訪部…

日本出版学会とExLibris

[古本夜話] の連載は先が長いので、一度たりとも休みたくないと思い、週一回更新を守り、10ヵ月続けてきた。 だが何度か注意を促したにもかかわらず、ExLibrisという匿名の人物が本ブログ、及び[古本夜話]をただクサすことだけを目的として、執拗に御託宣を…

14 フォークナーと「ヨクナパトファ・サーガ」

さらに仮説を続けてみよう。アメリカプロレタリア文学やハードボイルドだけでなく、私はゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」とフォークナーの「ヨクナパトファ・サーガ」にも多くの共通性を感じてしまうのだ。しかしウィリアム・フォークナーの場合、従来の研…

古本夜話43 澤田順次郎の『神秘なる同性愛』

江戸川乱歩も『男色文献書志』の「序」で述べているが、岩田準一がこの本を「後岩つつじ」と命名していたことからわかるように、北村季吟の『岩つつじ』に強く感化され、文献渉猟の道へと歩み出したのである。 それは『伊勢物語』 から始まり、昭和十八年刊行…

13 レイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』

ハメットのことばかり書いてきたが、チャンドラーについても一章を割いておこう。ハードボイルド小説を読み始めた中学時代には、チャンドラーが先行していたことも事実であるからだ。しかも同じ創元推理文庫で読んだのだ。私たち戦後世代にとってとりわけ顕…

古本夜話42 吉田幸一の古典文庫と『男色文献書志』

十年間にわたって岩田準一と交わされた書簡による男色談義は、昭和十六年に南方熊楠が死去したことで終わりを告げる。岩田準一は十八年に『男色文献書志』の草稿を完成したが、彼もその刊行を見ずに二十年一月に亡くなっている。岩田も北村季吟に触発された…

出版状況クロニクル26(2010年6月1日〜6月30日)

出版状況クロニクル26(2010年6月1日〜6月30日) この数ヵ月で近隣の書店が2店続けて閉店した。1店は地場の書店、もう1店は地方チェーン店で、両者とも郊外店ラッシュの80年代に開店している。大型店でない80年代型郊外店の時代が終わりつつあるのだろう。 …