出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2010-08-01から1ヶ月間の記事一覧

21 オイディプス伝説とマクドナルド『運命』

『三つの道』に象徴的に表われたギリシャ神話や悲劇、及びアメリカ特有の精神分析的自我心理学を物語のベースにすえ、「リュウ・アーチャーシリーズ」は書き始められたと考えていいだろう。それらはシリーズの第二作『魔のプール』において、はっきりとした…

古本夜話49 中山太郎と『売笑三千年史』

岩田準一の『男色文献書志』 にまとめられた明治以後の大半の文献が、埋もれたままで放置されていると既述したが、その代表的な著者と著作を挙げれば、中山太郎とその仕事であろう。それに中山は、岩田が南方の他に「先生」と仰いでいる一人でもあり、また岡…

20 ケネス・ミラーと『三つの道』

ゾラが『テレーズ・ラカン』(小林正訳、岩波文庫)や『クロードの告白』(山田稔訳、河出書房)を書いた後、「ルーゴン=マッカール叢書」へと向かったように、ロス・マクドナルドもまた「リュウ・アーチャーシリーズ」以前には、本名のケネス・ミラー名義で…

古本夜話48 通俗性欲書と南海書院

昭和初期円本時代は同時に「艶本」の時代だったと書いてきたが、それはまた性科学雑誌と性典ブームの時代でもあった。それを担ったのが既に記した澤田順次郎、羽太鋭治、田中香涯の三人で、かつて『彷書月刊』(二〇〇一年一月九日号)が「性科学の曙光」と…

19 ロス・マクドナルドにおけるアメリカ社会と家族の物語

ここでようやく「ハメット・チャンドラー・マクドナルド・スクール」と称された三人目のロス・マクドナルドを登場させることができる。この命名はミステリー評論家アンソニー・バーチャーによるもので、アメリカの正統的ハードボイルドの系譜を表象している…

古本夜話47 文芸市場社復刻版『我楽多文庫』

数回前にプロレタリア文学と文芸市場社が表裏一体の関係にあったのではないかと書いておいたが、その出版物から見ると硯友社まで含まれていて、文芸市場社の周辺には以前に言及した北島春石のような硯友社系統の作家たちも存在していたと思われる。ポルノグ…

18 カミュ『異邦人』

ハードボイルドとフランス小説の関連といえば、かならずケインの『郵便配達はいつも二度ベルを鳴らす』 がもたらした、カミュの『異邦人』 (窪田啓作訳、新潮文庫)への影響について語られる。実際に渡辺利雄も『講義アメリカ文学史』 でふれているし、『英…

古本夜話46 折口信夫「口ぶえ」

前回に引き続き、宮武外骨と男色文献の関連を書いてみる。大正二年に外骨は小林一三の社屋提供と資金援助を受け、日刊新聞『不二』を創刊する。その一面論評主任が天王寺中学の元教師の大林華峰であったことから、彼の友人で今宮中学校の教師を務める折口信…

17 ジェームズ・ケイン『郵便配達はいつも二度ベルを鳴らす』

ハメットやチャンドラーがヒーローとしての私立探偵を造型することで、二人のハードボイルドの世界にくっきりとした華を添えたことと異なり、ジェームズ・ケインの『郵便配達はいつも二度ベルを鳴らす』 において、そのようなキャラクターやヒーローは出現し…

出版状況クロニクル27(2010年7月1日〜7月31日)

出版状況クロニクル27(2010年7月1日〜7月31日) まだ幸いにして大きな倒産は起きていないが、出版社、書店、古本屋の売上は ほぼ最悪の状態になっている。 創業・開店以来、最悪だといういくつもの声すらも聞こえてくる。もちろんそれは取次も例外ではない…