出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2011-11-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話154 龍吟社、大本教、『白隠和尚全集』

草村北星は隆文館を大正九年に退いた後、龍吟社を設立したとされている。その年代に関してだが、小林善八の、最も詳細だと思われる八百社近くに及ぶ、「明治・大正時代の出版業興廃表」(『日本出版文化史』同刊行会、昭和十三年)によれば、龍吟社は大正十…

ブルーコミックス論12 松本大洋『青い春』(小学館、一九九三年、九九年)

(93年版) (99年版) 松本大洋の短編集『青い春』のタイトルを見ると、高校時代に読んだヘンリー・ミラーの『暗い春』(吉田健一訳)を思い出す。それは一九六五年に集英社から出された『世界文学全集』6のミラー所収の作品で、英語タイトルはBlack Spring…

古本夜話153 埴谷雄高とヘッケル『生命の不可思議』

三百冊を超えるという「大日本文明協会叢書」の十五冊ほどしか所持していないけれども、拙稿「市島春城と出版事業」(『古本探究』所収)で、様々な十冊とルドルフ・シュタイナーの『三重国家論』、本連載72でクラフト・エビングの『変態性欲心理』、同7…

古本夜話152 草村北星と大日本文明協会

草村北星と大日本文明協会の関係については拙稿「市島春城と出版事業」(『古本探究』)の中で、流通販売の問題も絡めてラフスケッチしておいた。 本連載149でふれた「近代文学研究叢書」第六十七巻の「草村北星」において、明治四十一年に大隈重信を会長…

ブルーコミックス論11 鳩山郁子『青い菊』(青林工藝社、一九九八年)

鳩山郁子はずっと「青」と「少年」に執着してきた漫画家である。私は『スパングル』(青林堂、後に青林工藝社)と『青い菊』の二冊を読んでいるにすぎないが、そのように断定してもかまわないだろう。(青林工藝社版)『スパングル』の表紙は鮮やかな藍色の…

古本夜話151 隆文館の軌跡

草村北星(松雄)によって明治三十七年に創業された隆文館は、大正九年に北星の個人経営から、資本金二十万円の株式会社へと切り換えられた。これを機にして、北星は隆文館から身を引き、経営は北星と同じ熊本県出身の代議士松野鶴平、及びこちらも同じ代議…

古本夜話150 刀江書院『シュトラッツ選集』と高山洋吉

刀江書院と訳者の高山洋吉については戦後編でふれるつもりでいたけれども、前回の川崎安の『人體美論』はそれらの著者と著作を範とし、資料も同様なので、隆文館と異なる出版社の話になってしまうが、ここで続けて一編を書いておきたい。川崎は『人體美論』…

ブルーコミックス論10 魚喃キリコ『blue』(マガジンハウス、一九九七年)

紫がかった青である「花色」の表紙カバーに『blue』のタイトルと著者名が白抜きで銘打たれ、その横に若い女の顔と上半身がピンクの細い線で描かれている。そしてページを開いていくと、次のようなエピグラフめいた言葉が記され、この『blue』の物語の在り処…

古本夜話149 草村北星、隆文館、川崎安『人體美論』

前回の三浦関造の『革命の前』の版元は隆文館だと記した。奥付の正式な社名は隆文館株式会社である。この隆文館を興した草村北星については、以前に拙稿「家庭小説家と出版者」(『古本探究3』)で、出版者というよりも『浜子』(『明治家庭小説集』所収、…

古本夜話148 三浦関造『革命の前』、ブラヴァツキー、竜王文庫

本連載144「三井甲之と『手のひら療治』」において、三井の『手のひら療治』も同時代の太霊道、肥田式強健術、岡田式静坐法などの影響を受け、それらを統合して「国民宗教儀礼」に高めようとするものだったと既述した。 そしてさらに三井が『手のひら療治…

ブルーコミックス論9 山本直樹『BLUE』(弓立社、一九九二年)

(弓立社)(光文社)(双葉社) (太田出版)山本直樹はここで取り上げる『BLUE』を始めとして、性を物語のコアにすえてきたといえるだろう。それは彼が森山塔などのペンネームで「エロ」を描いてデビューしてきたことと関連しているにしても、山本にとって直…

古本夜話147 「赤本」としての築田多吉『家庭に於ける実際的看護の秘訣』

これまで書いてきたように、明治末期から大正時代にかけて、様々な健康法のブームがあり、それらを背景にして健康雑誌やスポーツ雑誌が創刊されたのであり、昭和四十九年の『壮快』(マキノ出版)の創刊とパラレルに始まった戦後の多彩な健康法の隆盛も、そ…

古本夜話146 桜沢如一『食物だけで病気が癒る新食養療法』と『新食養療法』

本連載113「藤沢親雄、横山茂雄『聖別された肉体』、チャーチワード『南洋諸島の古代文化』」において、横山が藤沢に言及した同書の「附録」である「玄米、皇国、沈没大陸」のタイトルを示しておいた。 それは次のような文章から始まっている。「現在は玄米…

出版状況クロニクル42(2011年10月1日〜10月31日)

出版状況クロニクル42(2011年10月1日〜10月31日)中小から大手に至る、書籍をメインとする大半の出版社が、かつてない大量返品によって、取次売上が激減している。これが一過性のものであるのか、それとも数ヵ月続くのか、またその果てに何が起きるのか、ま…