2012-01-01から1ヶ月間の記事一覧
前回の新光社に関する一文を書き終え、新光社とその出版物に対するこれ以上の言及はもう少し資料を集めてからと考えていた。しかしその後で、浜松の時代舎へ出かけたところ、またしても大正十三年に新光社から出された麻生久の『黎明』を見つけてしまったの…
羽生生 純の『青(オールー)』全五巻の表紙には主要な登場人物たちの裸の姿がコバルトブルーに染められ、描かれている。「オールー」とは「青」をさす沖縄方言で、それを告げるかのように、冒頭のページに沖縄の空と海の「青」が鮮やかな背景となって現前し…
大正時代の出版が宗教と奇妙な小説によって彩られていたことを既述してきたが、ロシア人を父とし、日本人を母とする日露混血で、ロシアやフランスでの生活を体験してきた大泉黒石も、そのような時代を象徴する多彩なキャラクターであったと思われる。それは…
二年前からずっと手がけている「出版人に聞く」シリーズ〈7〉として、筑摩書房の菊池明郎へのインタビュー集『営業と経営から見た筑摩書房』(論創社)を昨年の十一月にようやく刊行するに至った。その際に未刊のままになっている『大正文学全集』について尋…
『群青学舎』 『さよなら群青』発表年は相前後してしまうが、前回のさそうあきらの『さよなら群青』と同じく、タイトルに「群青」を含んだ作品がエンターブレインから刊行されているので、続けて言及してみる。それは入江亜季の『群青学舎』である。入江の『…
前回の広津和郎の出版事業に引き続き、同時代にもう一人の文学者が立ち上げた出版社のことも書いておこう。それは彼が代表作を田中掬汀の中央美術社から刊行していること、本連載166の巌谷小波のように息子によって評伝が書かれてもいるからだ。彼の名前…
二回ほど飛んでしまったが、草村北星や田口掬汀の出版事業にずっと言及してきたこともあり、やはり同時代に出版に携わったもう一人の文学者についてもふれておきたい。それは広津和郎である。そのひとつの理由として、遅ればせだが、一度見たいと思っていた…
さそうあきらは一貫してビルドングスコミックを描いてきたように思われる。しかしそれは熱情的な筆致や声高な語り口によって表現されるのではなく、その たおやめぶりを想起させるキャラクター造型と、描写にふさわしい物静かな淡々とした物語展開によって。…
尾崎紅葉の『金色夜叉』はその死によって未完に終わったが、紅葉門下の小栗風葉が書き継ぎ、明治四十二年に新潮社から『終編金色夜叉』として刊行した。大正四年の縮刷二版が手元にあり、この出版もまた前回の巌谷小波の『金色夜叉の真相』と同様に、『金色…
もうひとつ近代文学史にまつわる真相についてもふれておこう。こちらは前回の「文壇照魔鏡」のような匿名の著者ではなく、モデルと見なされた本人が自ら著した一冊があり、それは入手しているからだ。山口昌男の『「敗者」の精神史』(岩波現代文庫)の「明…
(フラワーコミックス) (小学館文庫) 前回の『青龍』に続いて、もうひとつの龍の話をしよう。それは「青龍」ならぬ「蒼龍」についてであり、篠原千絵のフラワーコミックス『蒼の封印』全11巻ということになる。 ただ「蒼龍」も「青龍」と同様に、方位の四…
二回にわたって言及してきた『美術辞典』に象徴されるように、田口掬汀における日本美術学院や中央美術社での出版が成功には至らなかったにしても、光の部分であったとすれば、影の部分を象徴する出版に田口が関わっていたことも記しておかなければならない…
前回日本美術学院の『美術辞典』にふれ、その編集者が石井柏亭、黒田鵬心、結城素明であると記しておいた。石井柏亭や結城素明はともに東京美術学校出身の画家であり、石井のラインをたどっていくと、平福百穂や結城とともに新日本画運動に参加し、山本鼎や…
『青龍』(以下ブルードラゴンを省略)は一九二四年の中華民国、北京の紫禁城の場面から始まる。清朝のラストエンペラー愛新覚羅溥儀は道教による神託を待ち、自らが皇帝として返り咲く可能性を問う。老祭司は神託の詩文を伝える。 「ご先祖様である女真族の…
出版状況クロニクル44(2011年12月1日〜12月31日)今回はリードとして、少し長くなってしまうが、以下の一文を掲載する。本クロニクルの読者であれば、これがその要約であるとただちにわかるだろう。ただこれは『東京新聞(中日新聞)』(12/11)の「出版こ…