出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話255 金児農夫雄、素人社書屋、矢部善三『年中事物考』

『年中事物考』 前回の『全植物図鑑』とほぼ同年の河野書店の本にふれてみる。それは矢部善三の『年中事物考』である。といってこの一冊は出版社が河野書店と明記されているわけではなく、発行所は素人社書屋となっている。しかし奥付の発行者は二人いて、一…

古本夜話254 村越三千男『大植物図鑑』と河野書店版『全植物図鑑』の謎

特価本業界は近代出版史に残る大きなプロジェクトや辞典、図鑑類にも関係している。昭和九年に八木敏夫が『日本古書通信』を立ち上げると同時にめざしたものは、古書の相場情報の全国的発信とリバリューであった。その一方で、彼は六甲書房をもスタートさせ…

ブルーコミックス論60 星野之宣『ブルー・ワールド』(講談社、一九九六年)

運命ノ導クトコロ、イズレノ道ナリト辿リユカン ヴェルギリウス 前回ふれた『諸星大二郎(西遊妖猿伝の世界)』の中に、「西遊鼎談」が収録されている。それは八四年における手塚治虫、諸星大二郎、星野之宣の座談会で、諸星と星野が手塚の影響を受け、さらに…

古本夜話253 モウパッサン、広津和郎訳『美貌の友』をめぐって

八木書店の八木壮一にインタビューする機会を得て、特価本、見切本業界に関する話を聞くことができた。このインタビューにおける私の眼目は、こちらを出版業界のバックヤードと見なすことにあった。そしてその歴史と記録『全国出版物卸商業協同組合三十年の…

古本夜話252 芦谷芦村、日本童話協会、『模範実演童話』

大正時代に鈴木三重吉の『赤い鳥』に続いて、『良友』『金の船』『童話』『コドモノクニ』といった童話、童謡雑誌が創刊され、新たな児童文学の幕開けとなり、それらの流れが昭和円本時代の『小学生全集』と』『日本児童文庫』へと向かったことを既述してお…

ブルーコミックス論59 諸星大二郎『栞と紙魚子と青い馬』(朝日ソノラマ、一九九八年)

私が諸星大二郎を読み始めたのは、一九七八年に「SF怪奇短篇集」として刊行された『アダムの肋骨』(奇想天外社)からなので、三十年以上にわたって諸星のファンだったことになる。 (奇想天外社版) (集英社版)久しぶりに取り出して見ているうちに、またして…

古本夜話251 木星社書院と山岳書、山と渓谷社と朋文堂

福田久道と木星社書院に関しては本連載214、小島烏水が前川文栄閣から出した『日本アルプス』に始まる山岳ブームについては同225でふれておいたのだが、浜松の時代舎で今井徹郎の『山は生きる』を入手し、それが昭和七年に木星社書院から刊行されたも…

古本夜話250 近田澄と甲子出版社『精神修養逸話の泉』、「浪六叢書」、『浪六全集』

本連載218や227で、三星社とその発行者の近田澄、三星社の別名と見なしていい三陽堂と東光社に関してふれておいた。その後三星社と近田の名前が出てくるシリーズを見つけたので、それらを書いておきたい。そのひとつは高島平三郎編『精神修養逸話の泉…

ブルーコミックス論58 森岡倫理『青、青、青』(Bbmfマガジン、二〇〇九年)

森岡倫理の『青、青、青』の英語タイトルblue blue blue、そう、句読点を除くと先に取り上げた岡崎京子の作品と同じということになる。「Blue Blue Blue」( 『恋とはどういうものかしら?』所収)そのイントロダクションを示す。 『そこは誰もが訪れることの…

古本夜話249 松本苦味訳『どん底』と金桜堂「パンテオン叢書」

大正時代の文芸叢書をまた見つけてしまった。それは金桜堂書店の「パンテオン叢書」の一冊で、ゴオリキイ作、松本苦味訳『どん底』である。しかしこれは初めて見るものではなく、本連載203などでふれてきた硨島亘の『ロシア文学翻訳者列伝』(東洋書店)…

古本夜話248 佐々木孝丸訳『ファンニー・ヒル』と解説「十八世紀英京倫敦遊里考」

本連載21などで、翻訳者としての佐々木孝丸にふれ、彼が梅原北明のポルノグラフィ出版人脈の一人で、昭和二年にジョン・クレランドの『ファンニー・ヒル』の最初の翻訳者であることを記しておいた。しかしこの『ファンニー・ヒル』は城市郎の『発禁本』(…

ブルーコミックス論57 伸たまき『青また青』(新書館、一九九〇年)

『青また青』 (獸木野生短篇集2) 作家のビダー・ボイドは画家のフェルと知り合う。フェルはビダーのファンで、七千部の処女作『午前の光』の一冊を買い、その後の雑誌に発表された短編を追いかけて読んでいるという。フェルは自分がホモセクシャルだと告白し…

出版状況クロニクル54(2012年10月1日〜10月31日)

出版状況クロニクル54(2012年10月1日〜10月31日)先月ふれられなかったのだが、『週刊東洋経済』(9/8)が「『貧食』の時代」という特集を組んでいた。 サブタイトルは「壊れるニッポンの『食』」で、そのリードは次のようなものだ。 買物が困難になり、新…