出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話180 『文藝春秋』創刊号、田中直樹、小峰八郎

前回、大正時代末から昭和初期にかけてのリトルマガジンと同人雑誌にふれたが、そのうちの一誌だけ創刊号を持っているので、それについて書いておくべきだろう。しかもそれは、これも同様に言及したばかりの鈴木氏亨も同人に加わっていた『文藝春秋』である…

ブルーコミックス論25 柳沢きみお『青き炎』(小学館、一九八九年)

石川サブロオの『蒼き炎』、島本和彦の『アオイホノオ』と続けてきたからには、もうひとつのほぼ同名のタイトルを有する作品に言及しないわけにはいかないだろう。それは柳沢きみおの『青き炎』である。 この作品はピカレスクコミックとよぶことができよう。…

古本夜話179 春陽堂『新小説』と鈴木氏亨

前回、中村武羅夫が『文壇随筆』の中で、関東大震災後の春陽堂の伝統ある『新小説』が娯楽雑誌に変わるという噂にふれ、有力な文芸雑誌が『新潮』だけになってしまうと懸念を表明し、文芸雑誌を絶滅させないためには編集者や発行者のものではなく、「公器」…

古本夜話178 中村武羅夫『文壇随筆』

同じく「感想小品叢書」の中村武羅夫の『文壇随筆』も菊池寛の『わが文芸陣』と同様に、大正文学状況がリアルに伝わってくる一冊である。また中村は菊池の『文藝春秋』に対抗し、『不同調』を創刊しているので、この二冊は大正文壇の見取図のようにも読める…

ブルーコミックス論24 島本和彦『アオイホノオ』(小学館、二〇〇八年)

前回の石川サブロウの『蒼き炎』は読者よりも同業者に対して大きな影響と波紋を生じさせたようで、それは第5巻のやはり表紙カバーの見返しの部分に寄せられた星野之宣の言葉に明らかであろう。星野は石川の『北の土龍』や『蒼き炎』以前には「絵画の世界を扱…

古本夜話177 窪田十一と『人肉の市』

前回ふれたように、菊池寛が『わが文芸陣』の中で、「文芸の名の下に、春画的興味を、そそるが如き広告をする者」とよんでいるのは講談社のことであり、その広告とは『人肉の市』をさしていると断言していい。石川弘義・尾崎秀樹共著『出版広告の歴史1895年…

古本夜話176 新潮社「感想小品叢書」、菊池寛『わが文芸陣』、『座頭市地獄旅』

ずっと大正時代の出版物にふれてきたこともあって、久しぶりに紅野敏郎の『大正期の文芸叢書』(雄松堂出版)を開いてみた。するとこの大正時代に出版された文芸書シリーズのエンサイクロペディアは何度読んでも面白く、またしても拾い読みしてしまった。最…

ブルーコミックス論23 石川サブロウ『蒼き炎』(集英社、一九九〇年)

石川サブロウの『蒼き炎』全12巻は、山間の村の風景と、それに添えられた「明治中期、ある小さな村で二人の赤ん坊が生まれた」という一節から始まっている。一人は地主の長男の川上龍太郎、もう一人は小作人の同じく長男の大山竹蔵であり、二人は小学生の頃か…

古本夜話175 阿野自由里『ミスター弥助』

もう一冊、大正時代の小説とも旅行記とも見なせる作品を紹介しておきたい。それは阿野自由里の『ミスター弥助』で、これも本連載170の『飢を超して』と同様に、均一台から拾ったものである。これは記さなかったが、171の大泉黒石の『老子』と同様に耳…

古本夜話174 江原小弥太、越山堂、帆刈芳之助

大正時代の宗教小説といえば、もう一人江原小弥太の存在を挙げなければならないだろう。江原については宮島新三郎の『大正文学十四講』(新詩壇社、大正十五年)におけるリアルタイムでの証言を、まずは引いてみる。 江原小弥太氏と言えば、大正十年度の文壇…

ブルーコミックス論22 志村貴子『青い花』(太田出版、二〇〇六年)

志村貴子の『青い花』というタイトルから、ドイツロマン派のノヴァーリスの同名作品『青い花』(青山隆夫訳、岩波文庫)を思い浮かべてしまうが、内容的にはまったく異なっていて何ら共通するものはない。その「青」はミスティックなものではなく、少女のひ…

古本夜話173 新光社と『日本地理風俗大系』

前回記したように、それこそ新光社の出版物に対するこれ以上の言及は、もう少し企画や編集の詳細が判明してからと考えていた。ところが最近になって、昨年の三月に二村正之の『ニッポン時空写真館1930−2010』という写真集が誠文堂新光社から刊行されたことを…

出版状況クロニクル45(2012年1月1日〜1月31日)

出版状況クロニクル45(2012年1月1日〜1月31日)今年は出版業界にとって、本当に正念場の一年だと思われる。書店の年末年始の売上も低迷し、総じて10%近いマイナスだったと伝えられている。取次調査によれば、日販は8.8%減、トーハンは7.4%g減で、2012年の困…