出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ブルーコミックス論33 原作江戸川啓視、作画クォン・カヤ『プルンギル―青の道―』(新潮社、二〇〇二年)

新宿の廃ビルで、身体中の関節を外され、血を抜かれ、捻じ曲げられた若い女性の奇怪な全裸死体が発見された。死体のそばの壁には血で書かれたハングルの文章が残されていた。ちょうど一ヵ月前にも横浜で同じ状態の女の死体が見つかっていて、明らかに連続殺…

古本夜話197 島中雄三、文化学会、『世界文豪代表作全集』

前回井上勇訳として『ナナ』も挙げておいたが、これは大正十五年に刊行され始めた『世界文豪代表作全集』(同刊行会)の第十五巻所収で、いまだに見つけられない。『ナナ』の私訳の際に参考にするつもりでいたけれど、それは発行部数が少なかったゆえなのか…

古本夜話196 井上勇『フランス・その後』とゾラ『壊滅』

前回ゾラの先駆的訳者として、飯田旗軒を紹介したが、彼に続く同じような訳者の一人でもある井上勇についても書いておこう。井上も大正時代におけるゾラの翻訳者として、『ナナ』『制作』『罪の渦』を刊行している。私の手元にある『制作』(上下)と『罪の…

ブルーコミックス論32 高橋ツトム『ブルー・へヴン』(集英社、二〇〇二年)

高橋ツトムの『ブルー・へヴン』は映画『ポセイドン・アドベンチャー』から『タイタニック』に代表される、大型客船パニックドラマの系列に連なる作品と位置づけられるだろう。 巨大な豪華客船が冒頭の見開き二ページに描かれ、その次にバンドを背景に歌手が…

古本夜話195 ゾラの翻訳の先駆者飯田旗軒

大正時代におけるゾラの翻訳者として、まず挙げなければならないのは飯田旗軒であろう。しかも彼は「ルーゴン=マッカール叢書」の『金』だけでなく、「三都市叢書」の『巴里』、「四福音書」の『労働』も翻訳していて、ゾラの三つのシリーズの訳者ということ…

古本夜話194 特価本出版社成光館

前回成光館における翻訳書と譲受出版にふれたこともあり、かなり前に書いたものだが、ここで成光館に関する一文を挿入しておきたい。その全貌はつかめないのだが、梅原北明出版人脈は特価本業界にまで及んでいて、それらの刊行物は特価本出版社によって紙型…

ブルーコミックス論31 タカ 『ブルーカラー・ブルース』(宙出版、二〇一〇年)

前回、貸本漫画の読者として想定された「非学生ハイティーン」という言葉が、一九七〇年以後、成立しなくなったことを既述した。それと同様に工場労働者を意味する「ブルーカラー」も死語となり、ほとんど使われなくなってしまった。それは「ブルーカラー」…

古本夜話193 大正時代における「ルーゴン=マッカール叢書」の翻訳

思いがけずにゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」について、続けて言及することができたので、この機会にもう少し「叢書」の翻訳史をたどってみたい。本連載188で、フランス語からの初訳として吉江喬松による『ルゴン家の人々』を取り上げたが、実は大正時…

古本夜話192 「ルーゴン=マッカール叢書」(論創社版)邦訳完結に寄せて  『図書新聞』(〇九年五月二三日)掲載

論創社版のエミール・ゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」は七年かかって一三巻を刊行し、同時期に出版された藤原書店の「ゾラ・セレクション」の六巻などを合わせると、ようやく日本語で「叢書」の全二〇巻を読むことができるようになった。フランスにおける…

ブルーコミックス論30 立原あゆみ『青の群れ』(白泉社、一九九六年)

一九六七年から七〇年代にかけて、『漫画主義』という同人誌が刊行され、当時の多くのリトルマガジンと同様に、特約の書店や古本屋で売られていた。『漫画主義』の同人メンバーは石子順造、梶井純、菊地浅次郎、権藤晋で、そのアンソロジーが六九年に青林堂…

古本夜話191 改造社「ゾラ叢書」、犬田卯訳『大地』、論創社「ルーゴン=マッカール叢書」

春秋社の『ゾラ全集』とほぼ同時期に、改造社から「ゾラ叢書」が刊行されている。だが「ゾラ叢書」も『ゾラ全集』のように二冊だけで終わったのではないにしても、三巻を出したところで中絶してしまっている。それらを示せば、第一篇『獣人』(三上於菟吉訳…

古本夜話190 ゾラの翻訳者としての武林無想庵

春秋社の『ゾラ全集』や改造社の「ゾラ叢書」の企画や編集をめぐる直接的な証言は残されていないけれども、訳者である武林無想庵に関するいくつかのエピソードとしては、山本夏彦の評伝『無想庵物語』(文藝春秋)の中で語られている。しかし山本が戦前の出…

出版状況クロニクル47(2012年3月1日〜3月31日)

出版状況クロニクル47(2012年3月1日〜3月31日)昨年の暮れに、映画館で40年ぶりに山下耕作監督の『総長賭博』を観て、様々に思い出されることがあり、10本ほどの一連の雑文を書いてしまった。ちなみに補足しておけば、この鶴田浩二主演の『総長賭博』は1960…