出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話238 楠山正雄と『国民百科大辞典』

既述しておいたように、楠山正雄は明治末期から昭和十年代にかけて、三つの辞典の編集に携わっている。最初は早稲田文学社の『文芸百科全書』で、これは隆文館から刊行され、後の中央公論社の『世界文芸大辞典』全七巻のベースとなったものである。そして冨…

古本夜話237 冨山房「模範家庭文庫」と平田禿木訳『ロビンソン漂流記』

楠山正雄の「模範家庭文庫」というと、たちどころに山本夏彦の同名のエッセイ「模範家庭文庫」(『「戦前」という時代』所収、文春文庫)を思い出す。そこで山本は次のように書いていた。 模範家庭文庫は文庫とはいえ菊判(今のA5判よりやや大)、厚表紙、天…

ブルーコミックス論52 原作朝松健・漫画桜水樹『マジカルブルー』(リイド社、一九九四年)

物語のプロローグとして、Dを横にしたマークを掲げた魔術スクールの授業シーンが描かれ、そこで学んだひとりの女子学生が魔術儀式を行ない、ペットを虐殺したり、男子高生を死に追いやったりする場面がまず提出されている。魔術スクールと彼女の背後にいる…

古本夜話236 博文館「近代西洋文芸叢書」とシユニツツラア、楠山正雄訳『広野の道』

これから楠山正雄の編集者としての軌跡をたどっていくつもりだが、その前に早稲田文学社の『文芸百科全書』に続く仕事として、博文館の「近代西洋文芸叢書」におけるシユニツツラアの『広野の道』の翻訳にふれておきたい。博文館の「近代西洋文芸叢書」は『…

古本夜話235 楠山正雄『近代劇十二講』

しばらく飛んでしまったが、大正時代の戯曲や演劇のことにもう一度ふれてみたい。 大正時代の戯曲や演劇をめぐって何編か書き、『秋田雨雀日記』なども参照してきたが、それらに必ず登場してくる人物がいて、それは楠山正雄である。金子洋文の『投げ棄てられ…

ブルーコミックス論51 名香智子『水色童子K.K.』(小学館、二〇〇四年)

この『水色童子K.K.』を取り上げるべきか、いささか迷ったのだが、これもタイトルはブルーに属しているし、挙げておくべきだと判断したのである。本連載で後述することになるボリス・ヴィアンに『北京の秋』(岡村孝一訳、早川書房)というブラックユーモア…

古本夜話234 大原社会問題研究所と同人社『日本社会主義文献』第一輯

前回の同人社と大島秀雄について、その後法政大学社会問題研究所編『大原社会問題研究所五十年史』を読んだこと、及び昭和四年の同研究所編、同人社刊行『日本社会主義文献』第一輯を入手したこともあるので、もう一編書いておきたい。それはまたこれまで参…

古本夜話233 同人社、大島秀雄、石浜知行『闘争の跡を訪ねて』

梅田俊英は『社会運動と出版文化』(御茶の水書房)において、改造社が『改造』を左翼的編集にすることで当った現象を背景に、大正九年頃からジャーナリズムの左翼化が生まれ、商業的左翼出版社も発生していったと述べ、それらの出版社として叢文閣、大鐙閣…

ブルーコミックス論50 吉田基已『水の色 銀の月』(講談社、二〇〇六年)

『水の色 銀の月』のストーリーを紹介することから始めてみよう。これは2巻本だが、1巻と2巻は登場人物が同じであるにしても、主人公も物語も異なるものなので、それは1巻についてだと了承されたい。亜藤森は日吉ヶ丘芸術大学の6年生で、2浪に2留を重ねてい…

古本夜話232 光風館、中興館、矢島一三『八洲漫筆』

前回泰平館と提携していた中興館にふれたこともあり、ここで中興館に関する一編を書いておきたい。本連載63や203でも中興館を取り上げてきたが、創業者の矢島一三も含めて断片的であり、『出版人物事典』における立項をベースにして、いくつかの事柄を添えた…

古本夜話231 クロポトキン『相互扶助論』、『飼山遺稿』、泰平館書店

クロポトキンの『相互扶助論』に関する翻訳のことは、もう少し後で論じるつもりだった。だが『山川均自伝』にすでに記されていたように、三徳社のクロポトキン原著、山川訳補『動物界の道徳』が、『相互扶助論』の第一章の「動物の相互扶助」であり、幸徳秋…

出版状況クロニクル52(2012年8月1日〜8月31日)

出版状況クロニクル52(2012年8月1日〜8月31日)『出版状況クロニクル3』において、10年に日本古書通信社から刊行された『古本屋名簿』を紹介しておいた。これは全国の2000余の古本屋を紹介した最新の情報を収録している。 そこにも収録されている三島の北…