出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2013-01-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話270 泰光堂、河内仙介、和田芳恵『作家達』

昭和十七年に特価本業界の出版社である泰光堂から刊行された和田芳恵の『作家達』は彼の処女短編集で、実質的な小説デビュー作といっていいだろう。しかしその後、『作家達』は再刊されておらず、『和田芳恵全集』(河出書房新社)などへの作品収録はなされ…

混住社会論7 北井一夫『村へ』(淡交社、一九八〇年)と『フナバシストーリー』(六興出版、一九八九年)

大江健三郎の『万延元年のフットボール』における村も、スーパーの進出後には郊外へとその道筋をたどり、『飼育』から続いていた村は、おそらく幻の村と化してしまったと思われる。 私は『〈郊外〉の誕生と死』の「序」を「村から郊外へ」と題し、一九五〇年…

古本夜話269 矢貴書店、桃源社、『澁澤龍彦集成』

前回で特価本業界と全国出版物卸協同組合に属する出版社の本に関してはひとまず終えるつもりでいたのだが、もう少し続けてみることにする。それは『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』をまたしても読んでしまい、あらためて様々なことを教えてくれたこ…

古本夜話268 尾山篤二郎、「稿本叢書」、紅玉堂書店

前回で とりあえず特価本業界絡みの言及を終えたのだが、そのうちの本連載255「金児農夫雄、素人社書屋、矢部善三『年中事物考』」に関してだけ、補足の一編を書いておきたい。そこで素人社書屋が出版物などから類推し、紅玉堂書店と並んで、東雲堂書店グ…

混住社会論6 大江健三郎『万延元年のフットボール』(講談社、一九六七年)

日本の戦後社会の大文字のストーリーは民主主義、文化国家のスローガンに始まり、それは高度成長期へとシフトしていった。しかしそのかたわらにあったのは敗戦と占領、それらに起因するアメリカ人たちとの混住、そして彼らによってもたらされた、世界に例を…

古本夜話267 帆刈芳之助編著『波瀾曲折巨人の語る人生観』

特価本業界の著者や編集者は不明の人々が多いけれども、よく知られた人物も混じってはいる。ただ著者によってはそれが名義貸しの可能性も否定できないようにも思える。ここに帆刈芳之助を著者とする一冊がある。それは『波瀾曲折巨人の語る人生観』で、昭和…

古本夜話266 京文社、音楽書出版、松永延造『夢を喰ふ人』

前回に続いて、もう一回音楽書について書いてみる。といって私が音楽や音楽書に通じているわけではない。たまたまこれも後述するアルスの音楽書のところでもふれているけれど、均一台で音楽書を拾っているうちに、円本時代以後、音楽書がかなり多く出される…

混住社会論5 大江健三郎『飼育』(文藝春秋、一九五八年)

(新潮文庫版)私は『〈郊外〉の誕生と死』において、当初の構想では第4章「郊外文学の発生」を、大江健三郎の『飼育』から始めるつもりでいたのだが、彼の作品は次回言及する『万延元年のフットボール』も含め、スパンの長い郊外や消費社会の前史に位置づけ…

古本夜話265 鐡塔書院と兼常清佐『音楽に志す人へ』

八木敏夫は内外書籍株式会社と書物展望社の在庫処理を引受けた後で、続けて小林勇の鐡塔書院の出版物も手がけている。鐡塔書院は岩波書店を退職した小林が昭和三年に興した出版社で、幸田露伴の命名、ブレインの三木清による資金提供、岩波書店の著者たちの…

古本夜話264 山田順子『女弟子』と徳田秋声『仮装人物』

田山花袋に続けてふれ、大正九年に徳田秋声とともに生誕五十周年祝賀会が開催されたこと、またその秋声の『全集』のほうは近年 八木書店から全四十三巻として刊行されたことなどを記しておいた。『徳田秋聲全集』 それらに関連して、両者の発表年はかなり隔…

混住社会論4 山田詠美『ベッドタイムアイズ』(河出書房新社、一九八五年)

前回桐野夏生の『OUT』を論じるにあたって、2002‐3年版『首都圏ロードサイド郊外店便利ガイド』(昭文社)を手元に置き、参照していたことを既述しておいた。これはロードサイドビジネス900チェーンの、首都圏における2万店近くを掲載したものだが、それを繰…

出版状況クロニクル56(2012年12月1日〜12月31日)

出版状況クロニクル56(2012年12月1日〜12月31日)2012年の本クロニクルを通じて、出版業界にとって正念場の年ではないかと記してきた。それと連動するように、出版物売上高は落ちこむ一方で、これまでよりもさらに深刻な危機的状況へと追いやられている。そ…