出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2014-01-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話366 上村哲彌、先進社「子供研究講座」、第一公論社

先進社の出版物で最も印象に残っているのは、青野季吉の『サラリーマン恐怖時代』だが、青野の回想録『文学五十年』(筑摩書房)の中には、同書や先進社に関する言及はまったくない。また林房雄の小説『都会双曲線』も先進社から出ていたので、かつてそれら…

古本夜話365 先進社『一平全集』と『人の一生』

大正時代に楽天とともに、岡本一平が日本漫画界の双璧と謳われたことにふれておいたので、『一平全集』にも言及しておくべきだろう。これもやはり昭和円本時代に『楽天全集』と並んで刊行されているからだ。しかも両者の全集は昭和四年から五年にかけて、ほ…

混住社会論51 吉本由美『コンビニエンス・ストア』(新潮社、一九九一年)と池永陽『コンビニ・ララバイ』(集英社、二〇〇二年)

前回は現代詩の中に表出するコンビニ、それも日常の言葉によって織りなされているけれど、実質的には多彩なイメージと抽象性、あるいは深いメタファーを伴う詩的言語の世界に姿を見せているコンビニだった。そこで今回はより散文的なコンビニ、すなわち小説…

古本夜話364 アルスのバーゲンと東京出版協会の図書祭記念『特売図書目録』

本連載でずっとアルスの出版物を取り上げてきたし、これもアトリエ社と関連するので、販売に関する一編を挿入しておきたい。それは昭和四年に敢行されたと思われる「アルスの均一大特売」である。その事実を知ったのは本連載340の『現代商業美術全集』に…

古本夜話363 北沢楽天と『楽天全集』

少しばかり飛んでしまったけれど、アトリエ社について、時間を巻き戻し、もう一度ふれてみる。白秋の弟の北原義雄は兄の鉄雄が経営するアルスに入社し、大正十三年にアトリエ社を創業し、美術雑誌『アトリエ』を創刊し、多くの美術書を出版していく。その一…

混住社会論50 渡辺玄英『海の上のコンビニ』(思潮社、二〇〇〇年)

コンビニがアメリカで発見され、日本へと導入されたのはいずれも一九七〇年代前半で、ファミリーマートは七二年、セブン-イレブンは七四年、ローソンは七五年に第一号店を出している。最初は都心部から始まり、後に郊外へとシフトし、ロードサイドビジネス化…

古本夜話362 ナウカ社、『文学評論』、島木健作『獄』

『ゴオゴリ全集』の端本の他に、一冊だけナウカ社の単行本を持っている。それは島木健作の『獄』で、「癩」「苦悶」「転落」「盲目」「医者」の五編を収録している。これは柳瀬正夢装丁の並製四六判で、奥付には昭和九年十月印刷納本、十年九月十五版発行と…

古本夜話361 大竹博吉、ロシア問題研究所、平凡社『ロシア大革命史』

前回ナウカ社と大竹博吉にふれたので、大竹が翻訳、編纂、著述に携わった円本も取り上げておきたい。それは昭和六年に平凡社から刊行された『ロシア大革命史』全十巻である。ただこの企画は『平凡社六十年史』 においてはまったく言及されておらず、「発行書…

混住社会論49 いがらしみきお『Sink』(竹書房、二〇〇二年)

この娘、ただ栗をのみ食ひて、さらに米の類を食はざりければ、 「かかる異様の者、人に見ゆべきにあらず」とて、親、ゆるさざりけり。 『徒然草』第四十段より 前々回に続いて、もう一編コミックを取り上げてみる。それはいがらしみきおが〇一年から〇五年に…

古本夜話360 二つの『ゴオゴリ全集』

埴谷雄高の昭和十年代後半における翻訳は、前々回挙げた『埴谷雄高全集』第二巻にまとめて収録されているわけだが、やはり戦時下の出版状況と密接に絡んでいたといっていい。しかし埴谷の翻訳以上に奇妙な思いにかられるのは、同時期にロシアとフランスの作…

古本夜話359 小山書店と伊藤熹朔『舞台装置の研究』

同時代の出版であっても、前回の洸林堂書房の『フランドル画家論抄』とは異なり、その出版の経緯と事情が刊行者によって記録されている大判美術書も存在する。それは伊藤熹朔著『舞台装置の研究』で、昭和十六年に小山書店から出されていて、私が所持するの…

出版状況クロニクル68(2013年12月1日〜12月31日)

出版状況クロニクル68(2013年12月1日〜12月31日)13年は大きな事件は起きなかったにしても、出版業界は正念場を迎え、14年はあからさまな解体の時期として顕在化してくるであろう。出版危機は本クロニクルで既述してきたように、日本特有の出版業界の歴史と…