出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話424 集古会と早稲田大学出版部『近世実録全書』

前回『日本名著全集』の、主として解説や編纂を担当したと考えられる早稲田の山口剛と集古会が親しい関係にあったのではないかと書いた。それは早大図書館長の市島謙吉及び、河竹黙阿弥の養嗣子となり、また坪内逍遥の弟子にして演劇博物館長を務めた河竹繁…

混住社会論79 水野葉舟『草と人』(植竹書院、一九一四年、文治堂書店、一九七四年)

まだ東京の郊外住宅地の開発が始まっていない明治末期から大正初期にかけて、郊外を舞台や背景とする小説や小品文を書いた作家がいる。それは水野葉舟で、それらの作品は『葉舟小品』(隆文館、一九一〇年)や『郊外』(岡村盛花堂、一九一三年)に収録され…

古本夜話423 集古会と興文社『日本名著全集』

本連載60「野村吉哉と加藤美侖」などで、誠文堂新光社の小川菊松の証言を引き、大正中期のベストセラー「是丈は心得おくべし」シリーズの著者である加藤美侖が、興文社の『日本名著全集』の企画者だったことを記しておいた。これは昭和円本時代の三五判箱…

古本夜話422 春陽堂『東海道中膝栗毛輪講』

林若樹を始めとする集古会の会員たちが採用した書物討論としての「輪講」がある。この形式は大正六年の『日本及日本人』に連載した『東海道中膝栗毛輪講』から始まり、『集古』『風俗』『彗星』などに引き継がれていった。これららの集大成は戦後になって、…

混住社会論78 小田内通敏『帝都と近郊』(大倉研究所、一九一八年、有峰書店、一九七四年)

(有峰書店復刻版) 日本版田園都市計画と称していいであろう郊外住宅地の開発が進められていくかたわらで、一九一八年に郊外論の先駆的一冊というべき、小田内通敏の『帝都と近郊』が刊行されている。かつて「郷土会、地理学、社会学」(『古本探究3』所収…

古本夜話421 横尾文行堂、狩野快庵『狂歌人名辞書』、浅倉屋

『欣賞会記録』に記された五百冊余の稀書珍籍の万華鏡的な壮観さを見るにつけ、このような蒐書がどのようにして成立したのだろうかと想像してしまう。それは『集古』も同様で、当時の多様な蒐集家人脈と、古本屋を始めとする古物を発掘し提供する、活発で多…

古本夜話420 幸田露伴・校訂『狂言全集』と三村竹清『欣賞会記録』

明治三十六年に博文館から刊行された幸田露伴・校訂『狂言全集』の下巻だけ持っている。四六判を横にした判型の和本で、『博文館五十年史』で確認してみると、上中巻も同時発売されたようだ。岡田村男が山本東の高弟として、狂言師の紫男名を有していたこと…

混住社会論77 『都市から郊外へ―一九三〇年代の東京』(世田谷文学館、二〇一二年)

(ポスター) 前回取り上げた一九九七年の関西の美術館、博物館、文学館のコラボレーヨンともいえる『阪神間モダニズム』の企画刊行と展覧会の実現は、多くの美術館や文学館にも大きな影響と波紋をもたらしたように思われる。それは十年余を隔てた二〇一二年…

古本夜話419 小林勇「隠者の焔」と青江舜二郎『狩野享吉の生涯』

狩野享吉は夏目漱石を友人とし、日本の自然科学思想史の開拓者であり、一高校長時代には田辺元たちに大きな影響を及ぼした。また京大文科大初代学長として、幸田露伴や内藤湖南などの大学出身者ではない碩学を招き、文部省と対立して辞職し、その後在野で過…

古本夜話418 坪井正五郎校閲、八木奘三郎著『日本考古学』と嵩山房

遺跡にてよき物獲んとあせるとき 心は石器(せつき)胸は土器土器 坪井正五郎坪井正五郎の単著はまだ一冊も入手していないが、彼が監修した本だけは持っている。それは坪井正五郎校閲、八木奘三郎著『日本考古学』で、大正三年に嵩山房から刊行されたものであ…

出版状況クロニクル76(2014年8月1日〜8月31日)

出版状況クロニクル76(2014年8月1日〜8月31日)7月の書籍雑誌推定販売金額は1183億円で、前年比0.4%減。これは今年になって最も低いマイナスだが、出版物市場が好転したわけではなく、前月の9.5%という大幅なマイナスの反動にすぎない。 その内訳は、書籍…