出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2014-01-01から1年間の記事一覧

古本夜話427 時代小説、探偵小説、平凡社『現代大衆文学全集』

これまで何回も江戸川乱歩に言及し、この数回続けて生田蝶介、国枝史郎、白井喬二、三上於菟吉といった新しい大衆文学としての「時代小説」にもふれ、この「時代小説」の物語祖型群が早稲田大学出版部の『近世実録全書』ではないかとも指摘しておいた。乱歩…

混住社会論80 国木田独歩『武蔵野』(民友社、一九〇一年)

明治三十四年、すなわち一九〇一年に出版された国木田独歩の『武蔵野』は、近代文学における郊外風景論の始まりと見なすべき一冊で、前年に刊行された徳富蘆花の『自然と人生』にしても、初出の「武蔵野」の影響を抜きにしては語れない。またそれは早くも一…

古本夜話426 『講談雑誌』と白井喬二「怪建築十二段返し」

「島原大秘録三部作」の著者である生田蝶介が編集長を務めた『講談雑誌』を一冊だけ持っている。四六判の三百二十ページ余の大正十二年十一月号で、武田比佐による伽羅色の地に枝にとまる鳥を描いた「秋の山」という表絵は斬新に感じられるが、折り込みの目…

古本夜話425 『近世実録全書』と生田蝶介『島原大秘録』

われは思ふ。末世の邪宗、切支丹でうすの魔法。 北原白秋「邪宗門秘曲」 前回、早稲田大学出版部の『近世実録全書』が、当時台頭しつつあった新しい大衆文学としての「時代小説」の物語祖型群ではなかったかと書いたので、その実例を挙げてみよう。二十年ほ…

出版状況クロニクル77(2014年9月1日〜9月30日)

出版状況クロニクル77(2014年9月1日〜9月30日)8月の書籍雑誌推定販売金額は1177億円で、前年比7.9%減。これは6月の9.5%減に次ぐ落ちこみである。その内訳は書籍が同4.8%減、雑誌は10.1%減で、雑誌のうちの月刊誌は9.5%減、週刊誌は12.3%減となってい…

古本夜話424 集古会と早稲田大学出版部『近世実録全書』

前回『日本名著全集』の、主として解説や編纂を担当したと考えられる早稲田の山口剛と集古会が親しい関係にあったのではないかと書いた。それは早大図書館長の市島謙吉及び、河竹黙阿弥の養嗣子となり、また坪内逍遥の弟子にして演劇博物館長を務めた河竹繁…

混住社会論79 水野葉舟『草と人』(植竹書院、一九一四年、文治堂書店、一九七四年)

まだ東京の郊外住宅地の開発が始まっていない明治末期から大正初期にかけて、郊外を舞台や背景とする小説や小品文を書いた作家がいる。それは水野葉舟で、それらの作品は『葉舟小品』(隆文館、一九一〇年)や『郊外』(岡村盛花堂、一九一三年)に収録され…

古本夜話423 集古会と興文社『日本名著全集』

本連載60「野村吉哉と加藤美侖」などで、誠文堂新光社の小川菊松の証言を引き、大正中期のベストセラー「是丈は心得おくべし」シリーズの著者である加藤美侖が、興文社の『日本名著全集』の企画者だったことを記しておいた。これは昭和円本時代の三五判箱…

古本夜話422 春陽堂『東海道中膝栗毛輪講』

林若樹を始めとする集古会の会員たちが採用した書物討論としての「輪講」がある。この形式は大正六年の『日本及日本人』に連載した『東海道中膝栗毛輪講』から始まり、『集古』『風俗』『彗星』などに引き継がれていった。これららの集大成は戦後になって、…

混住社会論78 小田内通敏『帝都と近郊』(大倉研究所、一九一八年、有峰書店、一九七四年)

(有峰書店復刻版) 日本版田園都市計画と称していいであろう郊外住宅地の開発が進められていくかたわらで、一九一八年に郊外論の先駆的一冊というべき、小田内通敏の『帝都と近郊』が刊行されている。かつて「郷土会、地理学、社会学」(『古本探究3』所収…

古本夜話421 横尾文行堂、狩野快庵『狂歌人名辞書』、浅倉屋

『欣賞会記録』に記された五百冊余の稀書珍籍の万華鏡的な壮観さを見るにつけ、このような蒐書がどのようにして成立したのだろうかと想像してしまう。それは『集古』も同様で、当時の多様な蒐集家人脈と、古本屋を始めとする古物を発掘し提供する、活発で多…

古本夜話420 幸田露伴・校訂『狂言全集』と三村竹清『欣賞会記録』

明治三十六年に博文館から刊行された幸田露伴・校訂『狂言全集』の下巻だけ持っている。四六判を横にした判型の和本で、『博文館五十年史』で確認してみると、上中巻も同時発売されたようだ。岡田村男が山本東の高弟として、狂言師の紫男名を有していたこと…

混住社会論77 『都市から郊外へ―一九三〇年代の東京』(世田谷文学館、二〇一二年)

(ポスター) 前回取り上げた一九九七年の関西の美術館、博物館、文学館のコラボレーヨンともいえる『阪神間モダニズム』の企画刊行と展覧会の実現は、多くの美術館や文学館にも大きな影響と波紋をもたらしたように思われる。それは十年余を隔てた二〇一二年…

古本夜話419 小林勇「隠者の焔」と青江舜二郎『狩野享吉の生涯』

狩野享吉は夏目漱石を友人とし、日本の自然科学思想史の開拓者であり、一高校長時代には田辺元たちに大きな影響を及ぼした。また京大文科大初代学長として、幸田露伴や内藤湖南などの大学出身者ではない碩学を招き、文部省と対立して辞職し、その後在野で過…

古本夜話418 坪井正五郎校閲、八木奘三郎著『日本考古学』と嵩山房

遺跡にてよき物獲んとあせるとき 心は石器(せつき)胸は土器土器 坪井正五郎坪井正五郎の単著はまだ一冊も入手していないが、彼が監修した本だけは持っている。それは坪井正五郎校閲、八木奘三郎著『日本考古学』で、大正三年に嵩山房から刊行されたものであ…

出版状況クロニクル76(2014年8月1日〜8月31日)

出版状況クロニクル76(2014年8月1日〜8月31日)7月の書籍雑誌推定販売金額は1183億円で、前年比0.4%減。これは今年になって最も低いマイナスだが、出版物市場が好転したわけではなく、前月の9.5%という大幅なマイナスの反動にすぎない。 その内訳は、書籍…

混住社会論76 『宝塚市史』(一九七五年)と『阪神間モダニズム』(淡交社、一九九七年)

『宝塚市史』 『阪神間モダニズム』 かなり前のことだが、都市住宅学会関西支部長の舟橋國男から、同学会での郊外をめぐるシンポジウムの基調講演の依頼を受け、大阪へ出かけていったことがあった。当時舟橋は阪大大学院建築工学の教授だったと思う。確認し…

古本夜話417 SHIP CHANDER の商標

前回の『紫艸』に見られる江戸時代の商標ではないけれど、実は私も一枚だけ商標を持っている。この際だから、箸休めとしての一編を書いてみる。それは縦五十センチ、横四十センチほどの板看板で、茜色の上の部分にSHIP CHANDER、ブルーの下の部分にEZEKIEL T…

古本夜話416 岡田村雄編『紫艸』

林若樹は明治四十四年に亡くなった岡田村雄の五年忌にあたる大正五年に、岡田編『紫艸』を刊行している。その広告が『風俗』第二号の巻末に「集古叢書第二編」の『紫草(ママ)』として掲載され、「此書も亦集古会誌へ続載せるもの江戸時代に於ける高名なる商標…

混住社会論75 小林一三『逸翁自叙伝』(産業経済新聞社、一九五三年)と片木篤・藤谷陽悦・角野幸博編『近代日本の郊外住宅地』(鹿島出版会、二〇〇〇年)

前回の山口廣編『郊外住宅地の系譜』(一九八七年)がサブタイトル「東京の田園ユートピア」に示されているように、東京の郊外住宅地を対象とするものだったことに対し、同じく鹿島出版会から出された片木篤・藤谷陽悦・角野幸博編『近代日本の郊外住宅地』…

古本夜話415 『風俗』と「三谷堀の話―お千代船より」

高浜虚子の「杏の落ちる音」の中で、緑雨=岡田紫男が、直樹=林若樹に残した「おしづ籠」はどうなったのだろうか。それは大正五年に創刊された『風俗』において、「三谷堀の話―お千代船より」として、同誌が終刊となる十二号まで連載された。『風俗』は『集…

古本夜話414 高浜虚子「杏の落ちる音」と内田魯庵「『杏の落ちる音』の主人公」

山路閑古が高浜虚子に俳句を学んだこととポルノグラフィの書き手であったことを知って、ひとつの連想が浮かんだので、それを書いておきたい。高浜虚子に「杏の落ちる音」という短編がある。これは『ホトトギス』の大正二年一月号に掲載され、同六年に北原白…

混住社会論74 柳田国男『明治大正史世相篇』(朝日新聞社、一九三一年)と山口廣編『郊外住宅地の系譜』(鹿島出版会、一九八七年)

(講談社学術文庫) 柳田国男は前回の『都市と農村』に続いて、一九三一年に『明治大正史世相篇』を刊行している。これは朝日新聞社編『明治大正史』全六巻のうちの第四巻として出されたもので、まさに明治大正の「世相」、柳田の「自序」の言葉によれば、「…

古本夜話413 木屋太郎訳のミラア『セックサス』

松川健文が営んでいたロゴスという出版社に関しては、斎藤夜居が『大正昭和艶本資料の探究』の中で、、十ページにわたって書いている。それは昭和二十七年に、中年の紳士が千代田区代官町にある国際文化会館を訪れる場面から始まっている。そこに図書出版の…

古本夜話412 西原柳雨、岡田甫編『定本誹風末摘花』、有光書房

たまたま古本屋に、前回ふれた岡田甫の川柳関連書などが六冊ほど出されているのを見つけ、いずれも古書価は安かったので、まとめて購入してきた。 それらの書名、出版社、刊行年を記せば、次のようになる。岡田のものは 『定本誹風末摘花』 (第一出版社、昭…

混住社会論73 柳田国男『都市と農村』(朝日新聞社、一九二九年)

(『柳田国男全集』4巻所収、筑摩書房) 前回記しておいたように、内務省地方局有志編纂『田園都市』が刊行されたのは一九〇七年のことだった。その当時、柳田国男は農商務省の若手官僚として全国農事会幹事を務め、『柳田国男農政論集』(藤井隆至編、法政…

古本夜話411 松川健文と『好色文学批判』

前回『誹風末摘花』は江戸の天保時代から戦前にかけて、ずっと禁書扱いにされ、その発禁の厄が解かれたのは昭和二十五年のことだったと書いた。それは同二十三年に葛城前鬼と柳田良一の校注共著として、『新註 誹風末摘花』が出され、発禁処分を受けたが、発…

出版状況クロニクル75(2014年7月1日〜7月31日)

出版状況クロニクル75(2014年7月1日〜7月31日)出版危機は歴史構造に基づくものであり、それが取次にも及んでいることを繰り返し既述してきた。本クロニクル74 で各取次決算にふれておいたが、大阪屋に象徴されているように、構造改革がなされない限り、深…

古本夜話410 山路閑古と『茨の垣』

まずは入手した関係から『四畳半襖の下張り』に連なるポルノグラフィを挙げてみる。本連載85で取り上げた日輪閣の『秘籍 江戸文学選』の監修者にして校注者の山路閑古は、ポルノグラフィ出版人脈の中にあっても、共立女子大教授の肩書ゆえか、岩波新書の『…

古本夜話409 永井荷風『日和下駄』と『明治の浮世絵師 小林清親展』

前回のそれぞれの文学者による『大東京繁昌記』を読みながら思い出されるのは、タイトルが借用されている寺門静軒の『江戸繁昌記』や服部撫松の『東京新繁昌記』だけでなく、内容からいえば、永井荷風の『日和下駄』であった。それはまた最近古本屋の均一台…