出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2015-03-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話465 青山虎之助、『新生』、『茉莉花』

続けて戦後の『スタイル』の復刊とその倒産に関して書いてきたこともあり、ここで『新生』を取り上げてみよう。それはこのところ出版界の長老というべき塩澤実信や原田裕へのインタビューで、あらためて戦後における『新生』創刊のインパクトを教示されたか…

混住社会論100 中上健次『日輪の翼』(新潮社、一九八四三年)

(河出文庫) 拙著『〈郊外〉の誕生と死』において詳述したように、一九八〇年代は郊外消費社会が隆盛を迎えつつあった。それは七〇年代にファミリーレストランを先駆けとし、駐車場を備えた郊外型商業店舗、所謂郊外店を増殖させたロードサイドビジネスの急…

古本夜話464 井上友一郎、野田誠三、野田書房

井上友一郎の「絶壁」のことを書くために、彼の自叙伝ともいえる『泥絵の自画像』(エポア出版)も読み、これまで知らなかった事実を発見したので、続けて記しておこう。 それは本連載215でふれた野田書房の野田誠三に関する事柄である。私は初版本や限定…

古本夜話463 井上友一郎のモデル小説『絶壁』

宇野千代のスタイル社について、もう一編書いておく。それは北原武夫をモデルとした小説が書かれているからである。その小説は井上友一郎の正続『絶壁』で、もちろん現在は絶版になっているにしても、かつては新潮文庫の『絶壁』に収録されていた。この小説…

混住社会論99 多和田葉子『犬婿入り』(講談社、一九九三年)

拙著『〈郊外〉の誕生と死』の中で、一九七〇年に発表された古井由吉の『妻隠』(河出書房新社)に言及し、郊外における都市と地方の混住のフォークロア的なゆらめきにふれたことがあった。若い夫婦が郊外のアパートに暮らす五年間のうちに、夫は東北地方出…

古本夜話462 日産書房と小林秀雄『文芸評論』

戦後復刊したスタイル社の短命に終わった季刊雑誌『文体』は、小林秀雄の『ゴッホの手紙』の連載や装丁が青山二郎などであったことから、戦前の『文体』の三好達治編集と比較するまでもなく、小林の人脈の色彩が強くなっていることを、前回既述しておいた。…

古本夜話461 坂口安吾『日本文化私観』と文体社

本連載458で、昭和十一年に明治書房から刊行されたブルーノ・タウトの『日本文化私観』を挙げ、それが『ニッポン』や岩波新書の『日本美の再発見』と並んでロングセラーとなっていた事実を述べておいた。それは昭和十年代において、タウトによって発見さ…

混住社会論98 本間洋平『家族ゲーム』(集英社、一九八二年)

戦後の日本は一九七〇年代半ばに至る三十年の過程で、近代から現代への転換がなされ、戦前からの農耕社会、高度成長期における工業社会、オイルショック以後の消費社会へとシフトしていった。それに伴い、家族のイメージも近代家族から現代家族へと変容して…

古本夜話460 三笠書房『現代小説選集』と『現代長篇小説全集』

前回既述したように、石川淳の『白描』は三笠書房の『長篇文庫』に連載され、昭和十五年に三笠書房から出版されている。しかし石川淳研究にあっても、『白描』の『長篇文庫』連載と三笠書房からの刊行はその経緯と事情が不明のようで、渡辺喜一郎の『石川淳…

古本夜話459 明治書房、版画荘、石川淳『白描』

前回、明治書房から出されたブル−ノ・タウトの『ニッポン』と『日本文化私観』の二冊のタイトルを挙げておいたが、私の所持するのは前者が昭和十年六月第三刷、後者は同十五年十一月第八刷である。なぜこのことにふれるかというと、酒井道夫の「戦前昭和ヴィ…

混住社会論97 黒岩重吾『現代家族』(中央公論社、一九八三年)

前回ふれたように、吉本隆明は『共同幻想論』(角川文庫)の「対幻想論」において、典型的な家族小説として、夏目漱石の『道草』を挙げているが、それに加えて森鴎外の「半日」も論じられている。そしてどちらの場合も、そこに表出している家族が「当事者の…

出版状況クロニクル82(2015年2月1日〜2月28日)

出版状況クロニクル82(2015年2月1日〜2月28日) 15年1月の書籍雑誌推定販売金額は1088億円で、前年比0.6%増。13年5月以来、20ヵ月ぶりに前年を上回っているが、前年が5.5%減と大きかったことに加え、送品増加と返品減少によるものである。 その内訳は書籍…