出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2015-06-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話486『サンデー毎日』と「大衆文学」

本連載で何度か取り上げた『講談倶楽部』の編集長だった菅原宏一の『私の大衆文壇史』において、『文学建設』の中心人物は「正統歴史文学の興隆」をめざす海音寺潮五郎と村雨退二郎で、二人は盟友であったが、昭和三十年頃に袂を分かち、一朝にして氷炭相容…

混住社会論110 藤原伊織『名残り火』(文藝春秋、二〇〇七年)

前々回の庄野潤三の『夕べの雲』には出てこないけれど、その丘の上の家ではもう一人の子供が生まれていて、それは三男にあたる庄野音比古である。そうとばかり思っていたが、庄野潤三の年譜にその名前は見えないので、庄野の甥かもしれない。それはともかく…

古本夜話485 佐々木邦のユーモア小説の行方

小学館の円本『現代ユウモア全集』の第一回配本が『佐々木邦集』だったと既述したし、また佐々木は講談社の『少年倶楽部』において、『苦心の学友』などの少年小説の著者として人気を博し、彼は日本の大衆文学としてのユーモア小説の開拓者であった。私も本…

古本夜話484 小学館『現代ユウモア全集』

これまで言及してきたユーモア小説は『新青年』系の作家の作品であるが、ユーモア小説といえば、円本時代の『現代ユウモア全集』を外すわけにはいかないだろう。大正時代における新しい文学としての時代小説、探偵小説、少年少女小説、児童小説を加えて、ユ…

混住社会論109 ピエール・ブルデュー『住宅市場の社会経済学』(藤原書店、二〇〇六年)と矢崎葉子『それでも家を買いました』(大田出版、一九九〇年)

一九六〇年代半ばに書かれた庄野潤三の『夕べの雲』には明らかに「一戸建て」の思想が見てとれた。だが八〇年代から九〇年代を背景とする宮部みゆきの『理由』になると、家を建てるという一戸建ての時代は後退し、マンションを買うというハビトゥスが時代の…

古本夜話483 村雨退二郎『明治巌窟王』と国民文学

『文学建設』のめざすところが何であったかを、作品に物語らせよう。それは村雨退二郎の『明治巌窟王』(講談社)である。創刊時に四十二名を擁し、その後も多くが参加した『文学建設』は全員の名前を挙げられないが、海音寺潮五郎と丹羽文雄を除いて、大半…

古本夜話482 中野実『東京無宿』

もう一人ユーモア作家を取り上げたい。それは彼も東方社の『新編現代日本文学全集』に収録されているし、最近になって樋口進写真、川本三郎文の『小説家たちの休日』(文藝春秋)の中で、思いがけずに彼の姿を見たからでもある。その名前は中野実という。東…

混住社会論108 庄野潤三『夕べの雲』(講談社、一九六五年)

前回の宮部みゆき『理由』のテーマのひとつは高層マンションに住む家族のイメージの変容であり、この作品は二一世紀を迎えようとしていた時代における家族レポートの色彩に包まれてもいた。また実際に二一世紀に入り、都市における住居の高層化はさらに進み…

[古本夜話] 古本夜話481 摂津茂和と林二九太

東方社の『新編現代日本文学全集』は古書市場にも在庫が少なく、第39巻の『摂津茂和集』と第40巻の『林二九太集』は見つけられなかった。そこで図書館の相互貸借サービスを利用し、ようやく読むことができた。なぜこの二冊にこだわったのかといえば、摂津と…

古本夜話480 昭和十年の流行作家竹田敏彦と『涙の責任』

昭和三十年代前半に東方社から刊行された『新編現代日本文学全集』全50巻の中に『竹田敏彦集』があり、本連載477で既述した『乾信一郎集』の他に、この一巻も所持している。竹田も乾も、この全集に収録されている藤沢桓夫、菊田一夫、井上友一郎、北条誠…

出版状況クロニクル85(2015年5月1日〜5月31日)

出版状況クロニクル85(2015年5月1日〜5月31日)15年4月の書籍雑誌の推定販売金額は1273億円で、前年比4.9%減。その内訳は書籍が5.2%減、雑誌は4.6%減。雑誌のうち月刊誌は2.7%減、週刊誌は12.4%減である。 返品率は書籍が36.0%、雑誌は43.2%である。…