出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話506 『国訳一切経』と大東出版社

前回見たように、高楠順次郎の場合、出版は息子の正男をも巻きこむようなかたちで、大雄閣として広く展開されていった。しかしそれは息子ばかりでなく、弟子や周辺の人物もまた同様だったように思える。『大正新修大蔵経総目録』の「会員名簿」や「関係者一…

混住社会論119 スタインベック『怒りの葡萄』(原書、一九三九年、第一書房、一九四〇年)とピエトラ・リボリ『あなたのTシャツはどこから来たのか?』(東洋経済新報社、二〇〇七年)

(The Grapes of Wrath) 『〈郊外〉の誕生と死』や本連載115 などで、アメリカが消費社会化したのは一九三九年であり、それが世界でも突出して早かったことに関して、その主たる要因は三〇年代におけるモータリゼーションの普及に伴う全国的なスーパーマーケ…

古本夜話505 高楠正男と大雄閣

前々回『大正新修大蔵経総目録』の「刊行経過要録」に収録された「関係者一覧」にふれたが、それは編輯部だけでも校合部、編集校正部、散在校合、加点加註、目録索隠(ママ)部に分かれ、百七十余名に及んでいる。編集部の他にも経営部、整版部、装釘部、抄紙部…

古本夜話504 高楠順次郎とマックス・ミューラー

大正時代を迎えて、『世界聖典全集』のような宗教書、及び『大正新修大蔵経』などの仏教書の出版が活発になるのだが、これらの中心にいたのは高楠順次郎に他ならなかった。そうした高楠の出版に対する情熱はどのようにしてもたらされたのか、私見によれば、…

混住社会論118 ゾラ『大地』(原書、一八八七年、論創社、二〇〇五年)と長塚節『土』(春陽堂、一九一二年)

本連載で続けて記してきたように、十九世紀後半から二十世紀初頭にかけて、欧米だけでなく、日本でも百貨店の出現に象徴される消費社会の誕生を見ることになるわけだが、その時代の主たる背景である農耕社会のコアとしての農村はどのような位相に置かれてい…

古本夜話503 大正一切経刊行会『大正新修大蔵経総目録』

前々回、仲摩照久の新光社は高楠順次郎の『大正新修大蔵経』の出版を進めていたが、関東大震災で会社が全焼し、その企画自体が烏有に帰してしまったことを既述しておいた。仲摩は大本教関係者とも伝えられ、大正五年に新光社を設立し、雑誌『科学画報』を創…

古本夜話502 『興亡史論』とナポレオン三世

前回に続いて、世界文庫刊行会のもうひとつのシリーズ『興亡史論』にもふれてみる。こちらも『世界国民読本』と同様に、四六判上製、ページ数は五〇〇弱で、二冊入手している。それらは正編第二巻『ケーザル時代羅馬史論』(以下『羅馬史論』)、同第四巻『…

混住社会論117 渡辺京二『逝きし世の面影』(葦書房、一九九八年)と久米邦武編『特命全権大使 米欧国回覧実記』(新橋堂、一八七八年)

(岩波文庫)(慶應義塾大学出版会) 前回見たように、フランスにおいてパリがパサージュや流行品店や百貨店によって消費社会の幕開けを迎えていた頃、日本はどのような社会であったのだろうか。 これも佐貫利雄の『成長する都市 衰退する都市』から抽出してみ…

古本夜話501 世界文庫刊行会と『世界国民読本』

前回、円本時代の『ルパン全集』(平凡社)の訳者保篠龍緒が、朝日新聞社の『アサヒグラフ』編集長星野辰男と同一人物であることを記しておいた。私にしても、この事実を知り、保篠=星野が世界文庫刊行会の翻訳者人脈の一員だったことを教えられた。本連載…

古本夜話500 保篠龍緒と星野辰男

前々回、松村喜雄の世代が保篠龍緒訳のルパンで、探偵小説の面白さにめざめたことを記しておいた。それは昭和円本時代に刊行された平凡社の『ルパン全集』全十四巻で、私も第三巻『虎の牙』を持っている。これも改造社の『世界大衆文学全集』と同じ四六半截…

出版状況クロニクル88(2015年8月1日〜8月31日)

出版状況クロニクル88(2015年8月1日〜8月31日) 15年7月の書籍雑誌の推定販売金額は1133億円で、前年比4.2%減。その内訳は書籍が514億円で、2.6%増、雑誌は619億円で9.3%減、そのうちの月刊誌は8.3%減、週刊誌は13.2%減。 書籍が前年を上回ったのは又…