2015-01-01から1年間の記事一覧
岩野喜久代の『大正・三輪浄閑寺』にはここにしか書かれていないと思われる人物のエピソードも含まれているので、それも紹介しておきたい。しかもその人物は本連載83の『プラトーン全集』の訳者にして、『世界聖典全集』の『波斯教聖典』の訳者でもあるか…
出版状況クロニクル89(2015年9月1日〜9月30日)15年8月の書籍雑誌の推定販売金額は1094億円で、前年比7%減。 その内訳は書籍が497億円で、前年比1.5%減、雑誌は597億円で11%減、そのうちの月刊誌は11.3%減、週刊誌は10.6%減。雑誌は5月に続いて2ケタの…
前回見たように、高楠順次郎の場合、出版は息子の正男をも巻きこむようなかたちで、大雄閣として広く展開されていった。しかしそれは息子ばかりでなく、弟子や周辺の人物もまた同様だったように思える。『大正新修大蔵経総目録』の「会員名簿」や「関係者一…
(The Grapes of Wrath) 『〈郊外〉の誕生と死』や本連載115 などで、アメリカが消費社会化したのは一九三九年であり、それが世界でも突出して早かったことに関して、その主たる要因は三〇年代におけるモータリゼーションの普及に伴う全国的なスーパーマーケ…
前々回『大正新修大蔵経総目録』の「刊行経過要録」に収録された「関係者一覧」にふれたが、それは編輯部だけでも校合部、編集校正部、散在校合、加点加註、目録索隠(ママ)部に分かれ、百七十余名に及んでいる。編集部の他にも経営部、整版部、装釘部、抄紙部…
大正時代を迎えて、『世界聖典全集』のような宗教書、及び『大正新修大蔵経』などの仏教書の出版が活発になるのだが、これらの中心にいたのは高楠順次郎に他ならなかった。そうした高楠の出版に対する情熱はどのようにしてもたらされたのか、私見によれば、…
本連載で続けて記してきたように、十九世紀後半から二十世紀初頭にかけて、欧米だけでなく、日本でも百貨店の出現に象徴される消費社会の誕生を見ることになるわけだが、その時代の主たる背景である農耕社会のコアとしての農村はどのような位相に置かれてい…
前々回、仲摩照久の新光社は高楠順次郎の『大正新修大蔵経』の出版を進めていたが、関東大震災で会社が全焼し、その企画自体が烏有に帰してしまったことを既述しておいた。仲摩は大本教関係者とも伝えられ、大正五年に新光社を設立し、雑誌『科学画報』を創…
前回に続いて、世界文庫刊行会のもうひとつのシリーズ『興亡史論』にもふれてみる。こちらも『世界国民読本』と同様に、四六判上製、ページ数は五〇〇弱で、二冊入手している。それらは正編第二巻『ケーザル時代羅馬史論』(以下『羅馬史論』)、同第四巻『…
(岩波文庫)(慶應義塾大学出版会) 前回見たように、フランスにおいてパリがパサージュや流行品店や百貨店によって消費社会の幕開けを迎えていた頃、日本はどのような社会であったのだろうか。 これも佐貫利雄の『成長する都市 衰退する都市』から抽出してみ…
前回、円本時代の『ルパン全集』(平凡社)の訳者保篠龍緒が、朝日新聞社の『アサヒグラフ』編集長星野辰男と同一人物であることを記しておいた。私にしても、この事実を知り、保篠=星野が世界文庫刊行会の翻訳者人脈の一員だったことを教えられた。本連載…
前々回、松村喜雄の世代が保篠龍緒訳のルパンで、探偵小説の面白さにめざめたことを記しておいた。それは昭和円本時代に刊行された平凡社の『ルパン全集』全十四巻で、私も第三巻『虎の牙』を持っている。これも改造社の『世界大衆文学全集』と同じ四六半截…
出版状況クロニクル88(2015年8月1日〜8月31日) 15年7月の書籍雑誌の推定販売金額は1133億円で、前年比4.2%減。その内訳は書籍が514億円で、2.6%増、雑誌は619億円で9.3%減、そのうちの月刊誌は8.3%減、週刊誌は13.2%減。 書籍が前年を上回ったのは又…
百貨店の創立とともに、歴史上はじめて消費者が自分を群衆と感じ始める。(かつては彼らにそれを教えてくれたのは欠乏だけであった。)それとともに、商売のもっている妖婦めいた、人目をそばだたせる要素が途方もなく拡大する。 ベンヤミン『パサージュ論』…
昭和円本時代の講談社の『講談全集』については本連載486で既述したが、それと同時期にもひとつの円本『修養全集』も刊行されていた。こちらも昭和三年から翌年にかけて、全十二巻が刊行され、総発行部数は三百万部に達したとされている。これらの『講談…
前回の講談社の『少年倶楽部』における多彩な物語のかたわらに、翻訳探偵小説も対置としておくべきであろう。それは私たち戦後世代の読書とダイレクトにつながっているからだ。松村喜雄の「フランス・ミステリーの歴史」、及び日本における翻訳史をテーマと…
合衆国が消費社会の典型(パラダイム)である。 ロザリンド・H・ウィリアムズ『夢の消費革命』(吉田典子他訳、工作舎) 拙著『〈郊外〉の誕生と死』において、欧米と日本の消費社会化の時期に言及し、イギリスやフランスや日本が一九七〇年前後であったのに…
小山勝清の「彦一頓智ばなし」は柳田門下にいた頃、故郷の球磨地方を始めとする九州の民話に関して調べたことに端を発するとされている。しかしそれだけでなく、立川文庫の『一休禅師頓智奇談』などによって全国的に広まっていた頭のいい少年によるトリック…
講談社の『少年倶楽部』の編集長だった加藤謙一の回想記『少年倶楽部時代』に、円本時代の『講談全集』をめぐる思いがけないエピソードが記されている。戦後における『講談全集』の焼直し出版が東都書房設立のきっかけとなったことは既述したし、私がインタ…
一九七〇年代前半にコンビニやファストフードは都市の内側において誕生し、その後半から郊外化していった。それらはストリートビジネスからロードサイドビジネスへと変容することで、八〇年代の郊外消費社会の隆盛に不可欠な装置となり、その機能システムと…
村雨退二郎が歴史文学研究会を主宰し、南條範夫もその会員だったことは既述した。村雨の死の五年後に当たる昭和三十九年に南條範夫編『考証江戸事典』が人物往来社から出された。 これは南條範夫が「あとがき」で記しているように、村雨の遺稿を整備編纂した…
村雨退二郎の歴史考証随筆『史談蚤の市』や『史談あれやこれ』(いずれも中公文庫)は、新しい歴史文学を構想するにあたって大きな影響を受けた三田村鳶魚の衣鉢を継ぎ、これまでの時代小説に描かれている間違った歴史事物について、多くの言及に及んでいる。…
(講談社文庫 上) (下) 続けて言及してきたリッツアの『マクドナルド化する社会』の中で、「マクドナルド化」の先駆としてテーラーの科学的管理法やベルトコンベアによる大量生産のフォードシステムなどが挙げられていた。ここでは前者の科学的管理法を取…
出版状況クロニクル87(2015年7月1日〜7月31日) 15年6月の書籍雑誌の推定販売金額は1188億円で、前年比4.6%減。 その内訳は書籍が550億円で、0.6%増、雑誌は638億円で8.8%減、そのうちの月刊誌は7. 2%減、週刊誌は14.6%減。 書籍が前年を上回ったのは送…
前回、集英社の『新日本文学全集』にふれたが、この全集も昭和四十年代にどこの古本屋でもその端本が売られていたものだった。しかし最近はほとんど見かけないけれど、この全集でしか読むことができない作品もかなりあるはずだ。『平野謙全集』(新潮社)の…
少年時代に新潮文庫などに収録されていた時代小説を読み始めたのだが、私の当時のリテラシーと物語嗜好も反映して、愛読したのは柴田錬三郎と山田風太郎である。その他にも手当り次第読んでいき、司馬遼太郎や早乙女貢なども読んだけれども、面白いと思えず…
まず藤田 田に関するささやかなポートレートを提出してみる。彼は一九二六年に大阪に生れ、旧制松江高校を経て、戦後の四八年に東大法学部に入学する。在学中は授業料と生活費を得るためにGHQの通訳として働き、その一方で藤田商店を設立し、クリスチャン・…
小山勝清の『それからの武蔵』の 東都書房版全六巻を所持していると前回書いておいた。その巻末広告に昭和三十九年五月刊行開始とある『忍法小説全集』が掲載されていた。十八巻のラインナップを示す。 1 柴田錬三郎 『赤い影法師』 2 司馬遼太郎 『梟の城』…
江馬修と柳田民俗学の関係は定かに見えてこないし、『一作家の歩み』に柳田国男は出てこない。柳田の側から見ても、江馬は『柳田国男伝』に妻の三枝子と並んで言及されているが、『ひだびと』に関してだけである。しかしひょっとすると、『山の民』は柳田の…
リッツアの『マクドナルド化する社会』(正岡寛治監訳)はアメリカで初版が一九九三年、改訂新版が九六年に刊行され、後者に基づく邦訳版は九九年に出されている。原タイトルはThe McDonaldization of Society で、直訳すれば、『社会のマクドナルド化』とな…