2016-01-01から1年間の記事一覧
前回も挙げておいたが、宮沢正典の『増補ユダヤ人論考』によれば、同じく本連載で言及してきたように、ナチス文献の翻訳が盛んになる一方で、昭和十年に入ると、ユダヤ関係の出版物も激増していった。そして従来の一般雑誌に加えて、ユダヤ問題専門の雑誌も…
前回、長野敏一が挙げたユダヤ人問題書として、ヘンリー・フォードの『世界の猶太人網』があったことを示しておいたが、世界の自動車主のフォードこそがユダヤ人陰謀論の冠たるイデオローグだったのである。 本連載160などでふれた宮下軍平の二松堂書店か…
前々回に続いて、もう一冊ゾンバルトの戦前の翻訳があるので、これにもふれてみたい。それは昭和十八年に長野敏一によって訳された『ユダヤ人と資本主義』で、出版社は国際日本協会である。奥付に「訳者略歴」が見えているので、それを記すと、「大阪出身、…
前回、ウィットフォーゲルの『東洋的社会の理論』収録の「経済史の自然的基礎」というフランス産業史の発展から、ゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」の諸作品を想起し、それにゾンバルトの『恋愛と贅沢と資本主義』を重ね合わせてしまったことを記した。 (…
前回はふれることができなかったが、ウィットフォーゲルの『東洋的社会の理論』の第四編は「経済史の自然的諸基礎」と題され、意外なことに中国やアジアではなく、一七八九年以後のフランス産業の発展をたどることから始められている。そこでウィットフォー…
本連載582などで、『新独逸国家大系』やナチス関連書のことを書いてきたけれど、日本評論社は多くの研究書や学術書も出していて、ウィットフォーゲルの『東洋的社会の理論』もその一冊で、訳編者は平野義太郎と森谷克巳である。美作太郎は『戦前戦中を歩…
もう一社、戦後の小出版社にふれてみたい。前回の『風雪』の参照のために、中村八朗の『文壇資料十五日会と「文学者」』を読んでいたら、小笠原貴雄と大学や同人誌『辛巳』を同じくした山田静雄という人物が出てきた。おそらくこの山田が実質的に小笠原の遺…
前回、六興出版社の大門一男が文芸誌『風雪』の発行を引き受け、それに専念しようとしたことを、清水俊二の『映画字幕五十年』を通じて記しておいた。 その『風雪』だが、これは『日本近代文学大事典』に立項されている。それは意外に長いもので、この『風雪…
これも日本評論社とは関係ないけれど、本連載585と586でふれた六興出版社(部)のことが判明したので、少しばかり飛んでいるが、ここで書いておきたい。その後身の六興出版社も同599に出てきたばかりだからだ。同586でエドマンド・ウィルソンの…
戦後のことが続いてしまうが、人生論雑誌に関して、もう一編書いておきたい。それは『人生手帖』に先行する雑誌として、『葦』があり、それにもふれておくべきだと思われるからだ。『葦』についても、『戦後史大事典』に立項があるので、こちらも引いてみる…
出版状況クロニクル103(2016年11月1日〜11月30日) 16年10月の書籍雑誌の推定販売金額は1079億円で、前年比12.1%減。 書籍は499億円で、同15.1%減、雑誌は579億円で、同9.3%減。 雑誌内訳は月刊誌が464億円で、同8.5%減、週刊誌が115億円で、同12.3%減…
これは日本評論社と直接の関係はないのだけれど、文理書院についても書いておきたい。それは美作太郎が『戦前戦中を歩む』の中で、前回の千倉書房にふれた際に、「序でながら、その後の千倉書房の編集部からは、文芸評論家の瀬沼茂樹や、『人生手帖』の創始…
前々回の大畑書店の他にも、日本評論社から独立して出版を始めた者もいて、それは千倉豊である。彼は『出版人物事典』にも立項されているけれど、美作太郎に語らせたほうがいいだろう。美作は千倉の写真を掲載し、『戦前戦中を歩む』の中で、次のように述べ…
前回、服部之総の『黒船前後』の書名を挙げただけで、その内容にふれなかったこともあり、服部の軌跡を含め、ここで書いておくことにしよう。『黒船前後』は戦後になって三和書房、角川文庫版が出され、昭和四十一年に増補の上で筑摩叢書、五十六年には新編…
前々回、『唯物論研究』の第二〇号だけが大畑書店を発行所として出されたことにふれておいた。 (『戦前戦中を歩む』) 大畑書店は本連載588でもその名前を挙げた大畑達雄が立ち上げた出版社である。彼は日本評論社の翻訳者、編集長だった。美作太郎は『戦…
実は最近になって、古本屋の店頭で福田久道の木星社書院の単行本を見つけたので、前回の『唯物論研究』の発行とも関連しているはずだし、ここで書いておこう。それは瀬沼茂樹の『現代文学』で、昭和八年一月の出版である。『唯物論研究』創刊号が七年十一月…
唯物論研究会や「唯物論全書」「三笠全書」に関しては三笠書房との関連で、後にまとめて言及するつもりでいたが、本連載594、595、596と三回続けてふれ、小山弘健、赤木健介、古在由重、式場隆三郎といったメンバーも取り上げてきたので、ここで唯…
前々回、『チャタレイ夫人の恋人』の健文社版は未見だと既述したけれど、戦後の小山書店版は入手している。確認してみると、これは『ロレンス選集』第一、第二巻として、昭和二十五年四、五月に上下巻で刊行されたもので、このチャタレイ夫人の恋人の翻訳出…
昭和十年代初頭の健文社によるロレンスの伊藤整訳『チャタレイ夫人の恋人』を始めとする作品の翻訳は、そのまま三笠書房の同十一年から刊行の『ロレンス全集』へと継承されたと思われる。だがそれは『チャタレイ夫人の恋人』を含め、五巻ほど出たところで中…
前々回、伊藤書店の伊藤長夫のプロフィルは定かでないけれど、健文社の役員を務めた後、伊藤書店を興したことを既述しておいた。そこで続けて健文社にもふれておこう。幸いにして健文社の鮎川秀三郎に関しては、出版タイムス社編『日本出版大観』(昭和五年…
前回、伊藤書店の「青年群書」の一冊が式場隆三郎の『これからの結婚』で、彼もまた唯物論研究会のメンバーだったことを既述しておいた。しかしそれは初めて知る事実で、式場に関しては『日本近代文学大事典』の次のような立項に沿う知識しか持ちえていなか…
出版状況クロニクル102(2016年10月1日〜10月31日) 16年9月の書籍雑誌の推定販売金額は1374億円で、前年比2.9%減。 書籍は717億円で、同3.2%減、雑誌は657億円で、同2.6%減。 雑誌内訳は月刊誌が545億円で、同2.0%減、週刊誌が112億円で、同5.8%減。 …
伊藤書店に関して、もう一編続けてみる。それは表紙には記載がなく、背表紙も薄れていて出版社名がわからなかったのであるが、開いてみると、それが伊藤書店の刊行だと判明したからだ。その書名は『読書案内』、それは「青年群書」というシリーズの一冊で、…
日本評論社や企画院絡みの出版物にふれてきたが、やはり両者の近傍にあったと思われる出版社についても取り上げておきたい。それは伊藤書店である。この版元を知ったのは石母田正の最初の著作『中世的世界の形成』の初版が、昭和二十一年に伊藤書店から刊行…
昭和研究会は近衛文麿と一高時代の同級生で、彼を首相の座につかせようとする後藤隆之助によって、近衛のシンクタンク的団体として立ち上げられ、正式には昭和十一年に発足している。それは前回の同十二年の企画院の設立とほぼ時を同じくしていて、当然のこ…
本連載589のところで挙げた古書目録に、昭和十六年刊行の菊地春雄『ナチス労務動員体制研究』があり、出版社は東洋書館だった。これは未見だが、同じ著者、同じ出版社の『ナチス戦時経済体制研究』は入手している。奥付を見ると、昭和十五年発行、十七年…
前回ふれた慶応書房と岩崎書店を通じ、戦前から戦後にかけて出版に携わってきた岩崎徹太は出版業界において、とても重要な人物であり、多くの出版インフラとバックヤードの形成に貢献している。しかし岩崎書店が児童書の版元という事情ゆえなのか、現在では…
前回、及び本連載565でふれた岩崎徹太の慶応書房も、バジーリイ『ソヴエート・ロシア』(岡田篤郎訳)、リヤシチェンコ『ロシヤ経済史』(東健太郎訳)といった左翼出版物を刊行するかたわらで、多くのドイツ関連書も出している。それらを後者の巻末出版…
本連載582で、中絶してしまったが、昭和十年に刊行され始めた日本評論社の『ムッソリーニ全集』について、このような出版傾向は日本評論社だけでなく、ファシズムやナチズム関連本が多く刊行されるようになったとの美作太郎の証言を紹介しておいた。私も…
本連載581から美作太郎の『戦前戦中を歩む』や石堂清倫の『わが異端の昭和史』などを参照しながら、戦前において社会科学書の重要な出版社だったと見なせる日本評論社に関して、断続的にふれてきた。まだ何冊か、戦前の日本評論社の単行本が残されている…