出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2016-06-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話566 若林 半『回教世界と日本』、榎本桃太郎、イブラヒム

本格的に集めておらず、その方面の知識もまったく欠けているのだが、昭和戦前期にイスラム関係の書物がかなり多く出版されていて、先日もある古書市で五、六冊を目にした。この時代における日本とイスラムの関係の詳細をつかんでいるわけではないけれど、日…

古本夜話565 大川周明『安楽の門』、『古蘭』、岩崎徹太

前回、井筒俊彦と大川周明の関係について述べたが、両者に共通している事柄がある。それは二人が『コーラン』を訳していることで、井筒訳は昭和三十二年に岩波文庫の三巻本として刊行され、アラビア語からの名訳と評され、現在に至るまで読み継がれているが…

混住社会論145 窪 美澄『ふがいない僕は空を見た』(新潮社、二〇一〇年)

私は格別うれしくもなく、「人非人でもいいじゃないの。私たちは生きていさえすればいいのよ。」 と言いました。太宰治『ヴィヨンの妻』窪美澄の『ふがいない僕は空を見た』は五つの短編、中編からなる連作集で、それは次のような構成になっている。 1 ミク…

古本夜話564 大川周明、井筒俊彦、東亜経済調査局

前回挙げた大塚健洋の『大川周明』(中公新書)の中に、大川がポール・リシャールと親交を重ねる一方で、東亜経済調査局に採用され、その編輯部長となったことが記されている。てもとにその東亜経済調査局編の一冊があるので、大川とイスラムや井筒俊彦との…

古本夜話563 リシャル著、大川周明訳『永遠の智慧』

もう一冊、警醒社発行の翻訳書があるので、続けて紹介してみる。それはリシャル著、大川周明訳 『永遠の智慧』で、大正十三年に刊行されている。以下リシャールと表記する。 この一冊を古本屋で買い求め、それからしばらくしてこれも本連載204でふれた、…

混住社会論144 畑野智美『国道沿いのファミレス』(集英社、二〇一一年)

(集英社文庫) 前回の森絵都の『永遠の出口』の中で、主人公の紀子が高校生になり、欧風レストランでアルバイトをする一章が設けられていた。しかしその店名と上質な料理には言及したが、そこでのアルバイトの具体的な仕事と人間関係についてはふれてこなか…

古本夜話562 ニコル著、柏井園訳『基督伝』と警醒社

本連載558で海老名弾正『耶蘇基督伝』の書名を挙げ、また同560でルナンの『耶蘇伝』を紹介してきたが、やはり明治三十五年に再版とあるロボルトソン・ニコル著、柏井園訳『基督伝』が警醒社書店から刊行されている。 [f:id:OdaMitsuo:20150908202802j:…

古本夜話561 ルナン『幼年時代青年時代の思ひ出』、創元社、大和幻住

前回の『イエス伝』を著わしたルナンは、一八二三年にブルターニュに生まれ、聖職者を志し、パリのサン=シュルピス神学校で学んだ。だがヘーゲルなどのドイツ哲学の影響を受け、『聖書』の文献的研究に傾倒する中で、教会に懐疑的となり、正統的信仰を失い…

混住社会論143 森絵都『永遠の出口』(集英社、二〇〇三年)

二一世紀に入り、新しい作家や新たな物語が出現し、それまでと異なる郊外や混住社会が描かれていくようになる。だがそれらはまったくかけ離れているわけではなく、地続きであり、二〇世紀の風景をベースにして組み立てられた二一世紀の光景のようでもある。…

古本夜話560 ルナン、綱島梁川、安倍能成訳『耶蘇伝』

前々回の井上哲次郎の『釈迦牟尼伝』が、マックス・ミューラーを始めとする六人の西洋の仏教と釈迦研究者の影響下に成立していることを既述しておいた。そこには仏教や釈迦の研究者ではないけれど、もう一人の名前を付け加えることができる。それはルナンで…

出版状況クロニクル97(2016年5月1日〜5月31日)

出版状況クロニクル97(2016年5月1日〜5月31日)16年4月の書籍雑誌の推定販売金額は1259億円で、前年比1.1%減 。 書籍は612億円で、同6.5%増、雑誌は647億円で、同7.4%減。 書籍の前年比増は、店頭売上は1%増であるけれど、石原慎太郎の『天才』(幻冬舎…