出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話878 土岐哀果『生活と芸術』

前回はふれなかったけれど、土岐善麿は歌人としての土岐哀果の名前で、朝日新聞社入社以前の大正時代初めに『生活と芸術』を創刊している。この雑誌は『日本近代文学大事典』に立項があるので、それを抽出紹介してみる。 「生活と芸術」せいかつとげいじゅつ…

古本夜話877 土岐善麿『外遊心境』

前回、「朝日常識講座」の『文芸の話』の著者土岐善麿を外したのは、彼のことを別に一本書くつもりでいたからである。彼の『文芸の話』はアメリカに見られる文学の大衆化から始まり、それが日本の大衆文学やプロレタリア文学にも投影されていると見なし、そ…

古本夜話876 朝日新聞社「朝日常識講座」

前回、「朝日常識講座」の一冊である米田実『太平洋問題』にふれた。これは朝日新聞社の昭和円本時代の企画と見なせるので、ここでその明細なども取り上げておきたい。なぜならば、何度か既述しているように、本連載の目的のひとつは円本の詳細を探索するこ…

古本夜話875 海軍有終会『増訂太平洋二千六百年史』

『増訂太平洋二千六百年史』という大著が昭和十八年に刊行されている。これも大東亜戦争下における南方問題と密接に関連しているというしかない。A5判上製、函入、本文一〇八六ページ、索引と付表が八八ページ、補遺が一三二ページ、定価は十五円で、編輯者…

古本夜話874 岩生成一『南洋日本町の研究』と地人書館

『世界名著大事典』(平凡社)などによって、岩生成一の『南洋日本町の研究』が名著であることは仄聞していたけれど、それを入手するまで、昭和十五年に発行所を南亜細亜文化研究所、発売所を地人書館として刊行されたことを知らないでいた。 その奥付によれ…

古本夜話873 岩倉具栄、大槻憲二、アンドレ・モーロア『詩人と豫言者』

前回、高橋鐵の『南方夢幻郷』の序に当たる一文を寄せているのが、太平洋協会理事の岩倉具栄であることを既述しておいた。幸いにして『現代人名情報事典』にその立項を見出せたので、それを引いてみる。 岩倉具栄 いわくら ともひで 政治学者、英文学者 【生…

古本夜話872 高橋鐵『世界神秘郷』、『南方変幻郷』、「蕃女の涙」

大東亜戦争下において、多くの人々が南方へと向かっていた。それは本連載9の戦後の性科学者として著名な高橋鐵も例外ではなかった。しかもそれは前回の太平洋協会の岩倉具栄の序を添えてであった。 だがそれを知ったのは近年のことで、高橋の『世界神秘郷』…

古本夜話871 古野清人編『南方問題十講』

前回の昭和十八年刊行の『バリ島』がA4判二段組、定価五円五十銭で、初版三千部だったことを示しておいた。これも所謂南進論関連の一冊として、軍関係の助成金を得ての出版だと見なせよう。だがこうした特殊な専門書ともいうべき『バリ島』ではなく、一般的…

古本夜話870 カヴァラビアス『バリ島』と産業経済社

前回の阿部知二の『火の島』に関して、ジャワ島だけで終わってしまったこともあり、今回はバリ島にふれてみたい。 (中公文庫) 阿部はバリのことを思い出してみると、ボオドレールの『悪の華』の「異国の香」の一節「ひとつの懶い島、そこに自然が恵むもの…

古本夜話869 阿部知二『火の島』とボゴール植物園

本連載866で、大木惇夫と一緒にジャワに向かい、同様に船を撃沈され、海を漂流した後、救助された人々の中に、阿部知二もいたことを既述しておいた。 帰国してから大木は「愛国詩」を盛んに書くようになるのだが、阿部のほうは昭和十九年に創元社から「ジ…

出版状況クロニクル129(2019年1月1日~1月31日)

18年12月の書籍雑誌推定販売金額は1163億円で、前年比1.8%増。 これは16年11月以来の2年1ヵ月ぶりのプラスである。 書籍は586億円で、同5.3%増。双葉文庫の佐伯泰英の新刊『未だ行ならず』(上下)、ポプラ社の原ゆたか『かいけつゾロリ ロボット大さくせん…