出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話1378 田中貢太郎『貢太郎見聞録』とシナ居酒屋放浪記

実は上海滞在中の村松梢風を訪ねてきた人物もいるのである。それは『近代出版史探索Ⅲ』545の田中貢太郎で、しかも村松は「Y子」とともに彼を迎えたことを『魔都』で書いている。 私とY子 がそんな生活を始めて四五日経つた処へ、私の親友の田中貢太郎が日本…

古本夜話1377 大谷光瑞『見真大師』と上海の大乗社

前々回は村松梢風の『魔都』において、その不夜城にして物騒な都市の領域をクローズアップすることに終始してしまった。だが村松は上海の魔都だけに注視しているのでなく、思いがけない人々とも交流し、それらに言及している。例えば、「唯一の新芸術雑誌」…

古本夜話1376 芥川龍之介『支那游記』

前回、芥川龍之介の『江南の扉』にふれたが、その後、浜松の典昭堂で同じく芥川の『支那游記』を見つけてしまった。改造社から大正十四年十月初版発行、入手したのは十五年五月の訂正版である。それは函無しの裸本で、褪色が激しく、背のタイトルも著者名も…

古本夜話1375 村松梢風『魔都』

前々回の中里介山の『遊於処々』において、上海に向かう長崎丸の利用者に村松梢風たちがいると述べられていた。それを読み、村松に上海を舞台とした『魔都』という一冊があり、しばらく前に浜松の時代舎で入手したことを思い出した。 同書は四六判上製のかな…

古本夜話1374 中里介山『日本武術神妙記』と国書刊行会『武術叢書』

かつて国木田独歩とともに「同じく出版者としての中里介山」(『古本探究Ⅱ』所収)を書いた際にはその内容に言及しなかったけれど、昭和八年の介山の大菩薩峠刊行会版『日本武術神妙記』 の書影だけを掲載しておいた。 ところが前回の隣人之友社版『遊於処々…

古本夜話1373 介山居士紀行文集『遊於処々』

前回、中里介山の『大菩薩峠』の出版をめぐる春秋社、大菩薩峠刊行会、隣人之友社などの入り組んだ関係にふれておいたが、その後、介山居士紀行文集『遊於処々』を入手している。これは昭和九年に介山を著作兼発行者として刊行された四六判上製の一冊で、発…

古本夜話1372 『石井鶴三挿絵集』と中里介山

挿絵に関連して、ここでもう一編書いておきたい。それは浜松の典昭堂で、ずっと探していた『石井鶴三挿絵集』を入手したからである。正確にいえば、同書は『石井鶴三挿絵集』第一巻だが、近代挿絵史上の一大事件といっていい著作権問題を引き受けるかたちで…

古本夜話1371 陸軍美術協会出版部『宮本三郎南方従軍画集』

平凡社『名作挿絵全集』第六巻の「昭和戦前・現代小説篇」を繰っていると、前々回に挙げた獅子文六『胡椒息子』の挿絵を描いている宮本三郎も「挿絵傑作選」のメンバーに含まれて、そこには次のようなポルトレが提出されていた。 石川県生まれ。川端画学校洋…

古本夜話1370 新潮社「挿絵の豊富な小説類」と角田喜久雄『妖棋伝』

これは前回の岩田専太郎編『挿絵の描き方』の巻末広告で知ったのだが、同じ昭和十年代に新潮社から「挿絵の豊富な小説類」が刊行されていたのである。それらの挿絵は岩田のほかに、林唯一、富永謙太郎、小林秀恒、志村立美が担っていて、まさに新潮社も「挿…

古本夜話1369 岩田専太郎『挿絵の描き方』と新潮社「入門百科叢書」

前回、長谷川利行の人脈に岩田専太郎も含まれていることを既述しておいた。それは大正を迎えての新聞や雑誌の隆盛に伴う挿絵の時代を想起させるし、岩田に関しては『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』(「出版人に聞く」12)で、飯田豊一が戦前における岩田の…

古本夜話1368 『長谷川利行展』と「カフェ・パウリスタ」

もう一冊、展覧会カタログを取り上げてみよう。浜松の典昭堂で『長谷川利行展』(一般社団法人 INDEPENDENT 2018)を見つけ、買い求めてきた。これは利行の最新の展覧会本で、一四四点の絵がカラーで掲載され、その「年譜」や「長谷川利行が歩いた東京」「参…

出版状況クロニクル178(2023年2月1日~2月28日)

23年1月の書籍雑誌推定販売金額は797億円で、前年比6.5%減。 書籍は474億円で、同7.0%減。 雑誌は323億円で、同5.8%減。 雑誌の内訳は月刊誌が266億円で、同3.3%減、週刊誌が56億円で、同16.0%減。 返品率は書籍が32.8%、雑誌が41.8%で、月刊誌は41.3%、週刊…