出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2023-01-01から1年間の記事一覧

古本夜話1445 小川菊松編『猟犬銃猟射撃事典』

誠文堂新光社の二代目小川誠一郎にふれたからには創業者の小川菊松にも言及しないわけにはいかないだろう。これまでも本探索で『出版興亡五十年』の著者として、しばしば登場してもらってきたが、『出版人物事典』の立項は引いてこなかったので、まずはそれ…

古本夜話1444 誠文堂新光社、小川誠一郎、玉川大学出版部『玉川百科大辞典』

続けて『釣りの四季』『シャボテン』と誠文堂新光社の趣味実用書といっていい「豪華版」を取り上げてきたが、これらの企画者と思われ、奥付発行者とある小川誠一郎は言及してこなかった。誠文堂新光社の小川菊松の長男の誠一郎は菊松の『出版興亡五十年』に…

古本夜話1443 龍胆寺雄『シャボテン』と誠文堂新光社

本探索1440の『釣りの四季』と同じく、誠文堂新光社から昭和三十八年に龍胆寺雄の『シャボテン』が刊行されている。これも函入B4判で「豪華版」と銘打たれ、定価は二四〇〇円である。 昭和三十年代に釣りとシャボテンの豪華本が出版された事情は分かるような…

古本夜話1442 資文堂と岩崎浩『花作り サツキとアザレア』

文化生活研究会絡みで、釣りの本などの道草を食うことになったのだが、もう少し続けてみる。本探索1436で文化生活研究会の実用書として、上原静子『家庭園芸と庭園設計』、田村剛『庭園の知識』を挙げておいた。しかしこれらの大正時代の実用書の入手はほと…

古本夜話1441 武井周作『魚鑑』と有隣堂

本探索は大手出版社や著名版元、古典や名著をコアとしているのではなく、小出版社や忘れられた版元の所謂「雑書」に広く言及することをひとつの目的としている。そのためにいつも脇道にそれたり、寄り道したり、道草を食ったりしてしまう。だが考えてみれば…

出版状況クロニクル185(2023年9月1日~9月30日)

23年8月の書籍雑誌推定販売金額は711億円で、前年比11.3%減。 書籍は378億円で、同10.6%減。 雑誌は333億円で、同12.0%減。 雑誌の内訳は月刊誌が277億円で、同12.0%減、週刊誌は55億円で、同12.0%減。 返品率は書籍が40.2%、雑誌が44.4%で、月刊誌は43.7%、…

古本夜話1440 小早川遊竿編『釣りの四季』

前回の志村秀太郎『畸人佐藤垢石』によれば、『つり人』の創刊が契機となって、佐藤の名声は上がり、マスコミの売れっ子になっていったようで、それは戦後の釣りブームの一端を教えてくれる。大正の『釣の趣味』や昭和戦前の『水之趣味』は、あくまで一定の…

古本夜話1439 佐藤垢石、竹内順三郎『渓流の釣り』

アテネ書房の復刻には見えていなかったので、前回は佐藤垢石、竹内順三郎共著『渓流の釣り』を取り上げなかった。だが同書は箱入菊半裁判上製三八五ページの一冊で、昭和十年に麹町区丸ノ内の啓成社から刊行され、発行兼印刷者はその代表者の布津純一となっ…

古本夜話1438 大橋青湖と『釣の趣味』

前回アテネ書房の「『日本の釣』集成」に言及したのは久しぶりであり、それに関連して三編ほど続けてみたい。 (「『日本の釣』集成」) 大正は趣味の時代であり、釣もそのひとつに数えられるし、そのことを象徴するように、『釣の趣味』という雑誌も創刊さ…

古本夜話1437 上田尚と洋々社『釣魚大全』

前回の文化生活研究会の著書や実用書は昭和を迎えると、円本企画へとも結実していったのである。それを体現したのは『釣の呼吸』や『釣り方図解』の上田尚に他ならない。 私はかつて「川漁師とアテネ書房の「『日本の釣』集成」(『古本探究』所収)を書き、…

古本夜話1436 森本厚吉と文化生活研究会出版目録

前々回の石垣綾子『わが愛、わがアメリカ』における彼女の自由学園をめぐる回想を読むと、あらためて大正時代において、新たなる学校や雑誌、思想や文化が立ち上がってきたことが臨場感をもって浮かび上がってくる。彼女はその時代の只中を通過してきたのだ。…

古本夜話1435 坂井米夫『ヴァガボンド・襄』

前回のジャック・白井に関連して、もう一編書いておきたい。 『日本アナキズム運動人名事典』の「白井・ジャック」の立項における参考文献として、坂井米夫『ヴァガボンド通信』(改造社、昭和十四年)が挙げられていた、それは著者にしても書名にしても、石…

古本夜話1434 石垣綾子、ジャック・白井、青柳優

前回の石垣綾子『回想のスメドレー』ではないけれど、石垣の「回想」によって、記憶に残された人たちがいる。彼らはジャック・白井と青柳優で、前者は『日本アナキズム運動人名事典』、後者は『日本近代文学大事典』に立項されているので、まったく無名の人…

古本夜話1433 スメドレー『女一人大地を行く』、白川次郎、尾崎秀実

アグネス・スメドレーは一九二八年にデンマークに赴き、その海辺で数ヶ月を過ごし、『大地の娘』(原題Daughter of Earth)という自伝的作品を書き上げた。それが次のように始められているのはそのことによっている。 私の前にはデンマークの海がひろがって…

古本夜話1432 ゴルゴ13、外浦吾郎原作、さいとうたかを「毛沢東の遺言」

前回、アグネス・スメトレーの高杉一郎訳『中国の歌ごえ』がもたらした広範な分野への影響にふれたが、それは著者や訳者も思いもかけなかったであろうコミックへも及んでいるのである。 昭和五十六年にさいとう・たかをはゴルゴ13を主人公とする「毛沢東の遺…

古本夜話1431 アグネス・スメドレー『中国の歌ごえ』と高杉一郎『大地の娘』

高杉一郎の翻訳はフィリッパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』(岩波書店)などの児童文学も含め、多岐にわたっているが、アグネス・スメドレーの『中国の歌ごえ』(みすず書房、昭和三十二年初版、同四十七年改版)は記念碑的な翻訳のようにも思える。 アメリ…

古本夜話1430 淡徳三郎訳『フランス大革命』と改造社『露和辞典』

かつてクロポトキンの『フランス大革命』を淡徳三郎訳で読んだことがあった。それは昭和四十六年の新人物往来社版で、戦前の改造文庫版、戦後の青木文庫版の改訳であり、とてもリーダナブルだったことが記憶に残っている。それは今でも変わっていないと思わ…

出版状況クロニクル184(2023年8月1日~8月31日)

23年7月の書籍雑誌推定販売金額は738億円で、前年比0.9%減。 書籍は388億円で、同2.2%減。 雑誌は350億円で、同0.5%増。 雑誌の内訳は月刊誌が293億円で、同3.2%増、週刊誌は56億円で、同11.7%減。 返品率は書籍が41.0%、雑誌が42.9%で、月刊誌は42.0%、週刊…

古本夜話1429 長谷川潾二郎画文集『静かな奇譚』

本探索において、前回の長谷川四郎で長谷川四兄弟のうちの三人は取り上げてきたので、もう一人の次兄である潾二郎にも言及しておくべきだろう。前回は画家と紹介しておいたけれど、彼は『探偵趣味』や『新青年』に地味井平造のペンネームで「煙突綺談」など…

古本夜話1428 長谷川四郎『シベリヤ物語』

前回、長尾辰夫の『シベリヤ詩集』を取り上げたのだが、長谷川四郎の『シベリヤ物語』に言及しないわけにはいかない。しかもこの二冊は詩集と小説の違いはあるにしても、出版は昭和二十七年と同じで、前者が二月に対して、後者は八月に刊行されている。やは…

古本夜話1427 長尾辰夫『シベリヤ詩集』

オキュパイド・ジャパン・ベイビーズと呼ぶところの、占領下に生まれた私たちの世代は、当然のことながら戦争と無縁ではなかった。必ず家族が戦死したり、戦地から帰還したり、外地から引揚げてきたりしていたし、そこにはシベリア抑留者たちも含まれていた…

古本夜話1426 高杉一郎『往きて還りし兵の記憶』と平澤是曠『哲学者菅季治』

ここで高杉一郎と『極光のかげに』に関連して、その補遺的二編を付け加えておきたい。 高杉は『往きて還りし兵の記憶』で、その一章を「菅季治の死」に当てている。私はそこで菅の名前を初めて知ったが、占領下日本とシベリア抑留問題を通じて、菅の死は社会…

古本夜話1425 『海坂』と藤沢周平

続けて『萬緑』を取り上げてきたので、ここでもうひとつの俳誌に言及する間奏的一編を書いてみよう。二十年ほど前に静岡の百貨店の古書市で、俳誌『海坂』の昭和三十一年から三十四年にかけての合本三冊を見つけ、購入した。それは私がこの分野に関心があっ…

古本夜話1424 瀬田貞二と中村草田男『風船の使者』

中村草田男の『萬緑』とみすず書房の関係に絡んで、北野民夫の他にもう一人の重要人物がいる。それは瀬田貞二で、彼は平凡社の『児童百科事典』の編集者、福音館の『落穂ひろい』の著者、評論社のトールキン『指輪物語』などの翻訳者である。 これらのうちで…

古本夜話1423 中村草田男句集『萬緑』と北野民夫

浜松の時代舎で、中村草田男句集『萬緑』を見つけ、入手してきた。この句集の存在は知っていたが、実物を手にしたのは初めてで、四六判上製函入、装幀は武者小路実篤によるものだった。版元は甲鳥書林で、昭和十六年に「昭和俳句叢書」の一冊として刊行され…

古本夜話1422 みすず書房『片山敏彦の世界』

片山敏彦とみすず書房の緊密な関係は、その生誕百年を記念して平成十年に編まれた『片山敏彦の世界』にも明らかである。片山敏彦文庫の会編とされているが、もちろん編集構成は小尾俊人によるもので、帯文には「〈詩人の清らかな手がすくうと/水は玉になる…

古本夜話1421 尾崎喜八『詩集 此の糧』

高杉一郎の「片山敏彦の書斎」( 『ザメンホフの家族たち』所収)に次のような一文がある。 さて、ここに書きつけるのはつらいことだが、先生の古くからの心の友だちであり、「ロマン・ロラン友の会」の仲間でもあった尾崎喜八さんが、昭和十七年であったか…

古本夜話1420 野口冨士男『感触的昭和文壇史』と青木書店

前回の渡辺一夫との関連で、『近代出版史探索Ⅶ』1383の青木書店のことも続けて書いておこう。それは野口富士男の『感触的昭和文壇史』(文藝春秋)を読んだからでもある。 野口は青山光二、井上立士、田宮虎彦、船山馨、牧屋善三、南川潤、十返一と 青年芸術…

古本夜話1419 渡辺一夫『まぼろし雑記』と高杉一郎

これは前回ふれなかったけれど、高杉一郎『極光のかげに』の「小序」は渡辺一夫によって書かれている。そこで「僕には、他人の著書の序文など書く資格は全くない」としながらも、それに応じたのは「高杉氏及び『人間』編集長木村徳三氏の御要求に従つて」の…

出版状況クロニクル183(2023年7月1日~7月31日)

23年6月の書籍雑誌推定販売金額は792億円で、前年比8.1%減。 書籍は420億円で、同4.7%減。 雑誌は371億円で、同11.7%減。 雑誌の内訳は月刊誌が313億円で、同11.1%減、週刊誌は58億円で、同15.0%減。 返品率は書籍が41.5%、雑誌が48.4%で、月刊誌は41.6%、週…