出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話1245「新進作家叢書」と志賀直哉『大津順吉』

前回の『代表的名作選集』と「新進作家叢書」のラインナップをあらためて通覧し、大正時代における新潮社のこのふたつのシリーズが、大正文学の確立と広範な普及において大きな役割を果たし、影響を与えたことを実感した。だから続けて「新進作家叢書」にも…

古本夜話1244『代表的名作選集』と里見弴『善心悪心』

例によって浜松の時代舎で、もう一冊、里見弴の『善心悪心』を見つけ、購入してきた。これは前回の「感想小品叢書」に先駆ける新潮社の『代表的名作選集』の35として、大正九年に刊行されたものである。(『善心悪心』、新潮社)(「感想小品叢書」) 新潮社…

古本夜話1243「感想小品叢書」、里見弴『白酔亭漫記』、大杉栄

新潮社の「感想小品叢書」に関しては『近代出版史探索』176で、菊池寛『わが文芸陣』と中村武羅夫『文壇随筆』にふれておいたが、その後、里見弴『白酔亭漫記』も入手している。(『わが文芸陣』)(『白酔亭漫記』) その巻末リストには「文壇諸家の主張と…

出版状況クロニクル166(2022年2月1日~2月28日)

22年1月の書籍雑誌推定販売金額は853億円で、前年比4.8%減。 書籍は510億円で、同0.9増。 雑誌は343億円で、同12.3%減。 雑誌の内訳は月刊誌が275億円で、同14.4%減、週刊誌は67億円で、同2.3%減。 返品率は書籍が30.2%、雑誌は43.3%で、月刊誌は43.8%、週刊…

古本夜話1242「中篇小説叢書」と藤森成吉『旧先生』

しばらく間があいてしまったが、ここで新潮社に戻る。本探索1203の「海外文学新選」と併走するように、新潮社から「中篇小説叢書」が刊行されていた。同じく四六判並製、一六〇ページのフォーマットだが、装幀は佐藤春夫によるとされる。この「叢書」は次の…

古本夜話1241 廣文堂『小さい社会学』と新しい高等学校市場

『近代出版史探索Ⅵ』1198で廣文堂書店を取り上げ、この版元が大正時代前半には小中村清矩遺著『有聲録』や黒岩周六『実行論』などの多くの「クロース綴函入頗美本」を刊行していたが、譲受出版と見なされるかたちで、石川文栄堂へと版権が移ったことを既述し…

古本夜話1240 中央出版社の「仏教・精神修養書」

本探索1209の「袖珍世界文学叢書」を刊行した中央出版社に関して、新たな発見があったので、それを書き留めておきたい。 浜松の典昭堂で、背文字も定かならぬ一冊の裸本を目にした。何気なく手にしてみると、それは中央出版社から出された、日下敞道『加持祈…

古本夜話1239 松山敏、愛文閣『レ・ミゼラブル』、巧人社「世界詩人叢書」

本探索1208の西牧保雄訳『女優ナナ』と同1218の堺利彦訳『哀史梗概』に絡んでの話だが、ユーゴー原著、松山敏訳『レ・ミゼラブル(噫無情)』を入手している。これは大正十年に著訳者を松山として、神田区錦町の木村愛治郎を発行者とする愛文閣から刊行され…

古本夜話1238 面家荘佶、佐藤春夫『李太白』、而立社『歴史物傑作選集』

佐藤春夫の『李太白』という短編集がある。大正十三年に発行者を面家荘佶とする赤坂区青山南の而立社から、『歴史物傑作選集』の一冊として刊行されている。これはタイトルの「李太白」を始めとする佐藤の「歴史物」八編を収録したものだが、その巻頭に「編…

古本夜話1237 雄文閣、中村吉蔵『明治畸人伝』、日高只一「新時代学芸叢書」

本探索で続けてふれてきた新潮社や天佑社に関係の深い中村吉蔵に関して、触発された一編を書いておきたい。それは手元に中村の『明治畸人伝』なる一冊があり、一度書いておくべきだと考えていたからだ。同書は昭和七年に小石川区原町の井上垂穂を発行者とす…

古本夜話1236 再びの聚英閣と聚芳閣

これは何度もふれているが、以前に「聚英閣と聚芳閣」(『古本屋散策』所収)を書き、他にも『近代出版史探索Ⅵ』1179などで、聚英閣がゾラの井上勇訳『制作』を刊行していたこと、また『同Ⅵ』116で聚英閣に井伏鱒二が編集者として在籍していたことを取り上げ…

古本夜話1235 小栗虫太郎『白蟻』、ぷろふいる社、熊谷晃一

同じく沖積舎からもう一冊、小栗虫太郎の『白蟻』も覆刻されているので、これも取り上げておくべきだろう。これは表題作の他に、「完全犯罪」「夢殿殺人事件」「聖アレキセイ寺院の惨劇」を収録した中編集とよんでいい。「推讃」は江戸川乱歩、甲賀三郎、水…

古本夜話1234『黒死館殺人事件』を戦地へと携えていった青年は誰か

『ドグラ・マグラ』といえば、やはり同年の昭和十年に新潮社から刊行された小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』を想起せざるをえない。それに『黒死館殺人事件』も同じく沖積舎から平成二年に覆刻版が出ているのである。(沖積舎版)(新潮社版) (沖積舎版) …

出版状況クロニクル165(2022年1月1日~1月31日)

21年12月の書籍雑誌推定販売金額は1030億円で、前年比10.2%減。 書籍は541億円で、同2.0%減。 雑誌は489億円で、同17.8%減。 雑誌の内訳は月刊誌427億円で、同18.4%減、週刊誌は62億円で、同14.0%減。 返品率は書籍が30.0%、雑誌は38.5%で、月刊誌は37.2%、…

古本夜話1233 夢野久作『ドグラ・マグラ』

春秋社・松柏館の探偵小説シリーズの出版は昭和十年一月夢野久作『ドグラ・マグラ』から始まったのではないだろうか。幸いにして『ドグラ・マグラ』は平成七年に沖積舎から覆刻版が出され、その函背には「幻魔怪奇小説」と謳われ、松柏館書店版とあった。ま…

古本夜話1232 春秋社・松柏館の「探偵小説」シリーズ

柳田泉編『世界名著解題』は発行所を春秋社、発売所を松柏館として刊行されている。これはあらためていうまでもないけれど、編集と生産は春秋社、流通と販売は松柏館が担うという同族会社の出版分業システムと見なすべきであろう。つまり取次口座は松柏館名…

古本夜話1231 柳田泉編『世界名著解題』

春秋社の『大思想エンサイクロペヂア』は異なるバージョンの企画も生み出していく。それは昭和十三年に刊行された柳田泉編『世界名著解題』全三巻で、そのうちの二冊が手元にある。 (『大思想エンサイクロペヂア』)(『世界名著解題』) 柳田は拙稿「春秋…

古本夜話1230 春秋社『大思想エンサイクロペヂア』と高畠素之人脈

本探索1224、1225の『世界大思想全集』に続いて、春秋社から菊判の『大思想エンサイクロペヂア』も刊行されていく。しかしこちらも書誌的にいって全巻数の確認が難しいようで、『全集叢書総覧新訂版』では全二十一巻、『春秋社図書目録創業100年二〇一八年度…

古本夜話1229 暁書院『小麦』と鄰友社『地』

前々回の暁書院のフランツ・ノリス『オクトパス』は入手していないけれど、やはりノリスの犬田卯訳『小麦』は手元にある。これは上下巻で、昭和十七年に牛込区新小川町の片山量雄を発行者とする肇書房から刊行されている。 しかし『小麦』を古書目録で見つけ…

古本夜話1228 東方出版「世界文学大綱」

春秋社の「世界家庭文学名著選」ではないけれど、円本と認識されていないシリーズはまだ他にもいくつもあり、「世界文学大綱」もそのひとつと見なすべきだろう。それは大正十五年に東方出版株式会社(東方出版)から全十八巻で刊行されている。この版元は京…

古本夜話1227 加藤朝鳥『十字軍』、シヨウ『神を探す黒人娘の冒険』、暁書院

前回の春秋社「世界家庭文学名著選」の訳者の一人である加藤朝鳥をたどって、大正時代の翻訳も兼ねた文学者のポルトレを描いてみたい。それは浜松の時代舎で、加藤が訳したバアナアド・シヨウの『神を探す黒人娘の冒険』を買い求めたばかりだし、数年前にそ…

古本夜話1226 春秋社「世界家庭文学名著選」

前回の最後のところでふれた春秋社の「世界家庭文学名著選」のラインナップを挙げてみる。このシリーズは「全訳」が売りのようで、大半のタイトルにそれが付されているが、ここでは省略する。 1 フアラア 村山勇三訳 『三家庭』 2 マロック 中村千代子訳 『…

古本夜話1225 コントと石川三四郎訳『実証哲学』

前回のエドワード・スペンサーと同様に、オーギュスト・コントもまた忘れられてしまった思想家であろう。それにコントの場合、森村進編訳『ハーバート・スペンサー』のような新訳アンソロジーも編まれておらず、その復権は難しいように思われる。しかし清水…

古本夜話1224 スペンサーと澤田謙訳『第一原理』

本探索1219で、板垣退助が明治十六年の外遊の際に、スペンサーとも会っていたことにふれておいた。それゆえに板垣が持ち帰った英仏独の数百巻の中にスペンサーの著作もあったはずだ。 しかしスペンサーの『社会平権論』はすでに明治十四年から松島剛訳によっ…

出版状況クロニクル164(2021年12月1日~12月31日)

21年11月の書籍雑誌推定販売金額は955億円で、前年比0.6%増。 書籍は542億円で、同11.0%増。 雑誌は412億円で、同10.4%減。 雑誌の内訳は月刊誌344億円で、同10.8%減、週刊誌は68億円で、同8.1%減。 返品率は書籍が33.6%、雑誌は41.3%で、月刊誌は40.7%、週…

古本夜話1223 森田思軒訳『十五少年』と白石実三  

前回ふれなかったが、『巌窟王』を収録した春陽堂『明治大正文学全集』8は『森田思軒 黒岩涙香篇』で、思軒のほうはジュール・ヴェルヌの『十五少年』が選ばれている。これはいうまでもなく、思軒訳を発祥として、その邦訳タイトルに使われることになる『十…

古本夜話1222 黒岩涙香『巌窟王』

黒岩涙香のことは『近代出版史探索』102、103で、『天人論』や『現今名家碁戦』などの朝報社の出版物に言及しているが、本探索1218の堺利彦『哀史梗概』に関連づけられる涙香の『巌窟王』や『噫無情』の翻訳にはふれてこなかった。 涙香は明治二十五年に『万…

古本夜話1221 大鐙閣と木蘇穀訳『血縁』

実は『労働』に続いて、大正十二年六月に大鐙閣から「ルーゴン=マッカール叢書」の木蘇穀訳『血縁』が刊行されている。これは『近代出版史探索』193でふれ、同188の吉江喬松訳『ルゴン家の人々』にあたるが、『血縁』のほうが先行しているし、拙稿「天佑閣と…

古本夜話1220 大鐙閣「ゾラ傑作集」と飯田旗軒訳『労働』

本探索1217で、堺利彦がゾラの「四福音書」のうちの『労働』を『労働問題』として翻訳し、明治三十七年に春陽堂から刊行されていることにふれた。これは大正九年に叢文閣の『労働』(「労働文芸叢書」2)としての再版が出ているけれど、『堺利彦全集』所収を…

古本夜話1219 板垣退助監修『自由党史』と五車楼

前回のヴィクトル・ユゴーのことだが、板垣退助が明治十年代に外遊し、その際にユゴーに会い、読むべき書物として彼の小説を勧められ、『レ・ミゼラブル』などの著作を持ち帰ったというエピソードを想起させる。 それは確か板垣退助監修『自由党史』(岩波文…