出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話1400 『雨雀自伝』、『新思潮』、潮文閣

本書1388の『雨雀自伝』は戦後の昭和二十八年に美作太郎の新評論社から刊行された。戦前の美作に関しては拙稿「日本評論社、美作太郎、石堂清倫」(『古本屋散策』所収)などで既述しているが、『雨雀自伝』は後に未来社から出版された『近代出版史探索Ⅱ』20…

古本夜話1399『戦艦ポチョムキン』と映画評論社『定本世界映画芸術発達史』

中野重治の『空想家とシナリオ』でただちに連想されたのはエイゼンシュテインの『戦艦ポチョムキン』のことであった。この作品の中で、彼が想定しているシナリオとは『戦艦ポチョムキン』のように思われてならないのだ。『空想家とシナリオ』は高杉一郎の要…

出版状況クロニクル181(2023年5月1日~5月31日)

23年4月の書籍雑誌推定販売金額は865億円で、前年比12.8%減。 書籍は483億円で、同11.6%減。 雑誌は382億円で、同14.2%減。 雑誌の内訳は月刊誌が324億円で、同15.1%減、週刊誌が57億円で、同8.9%減。 返品率は書籍が31.9%、雑誌が42.3%で、月刊誌は41.2%、…

古本夜話1398 中野重治『空想家とシナリオ』

高杉一郎は『ザメンホフの家族たち』の「中野重治」、『往きて還りし兵の記憶』の「務台理作と中野重治」「その後の中野重治」において、いずれも主として前者は戦前、後者は戦後の中野に関して言及している。ここでは戦前の中野にふれてみる。 高杉は中野が…

古本夜話1397 『文芸』編集者小川五郎と宮本百合子「杉垣」

高杉一郎は『ザメンホフの家族たち』所収の「目白時代の宮本百合子」において、『文芸』の責任編集者としてのポジションを語っている。それは昭和十年以後、海外の作家の動向から考えても、日本の文壇もファシズムと文化の問題に直面せざるをえないだろうが…

古本夜話1396 小坂狷二『エスペラント文学』と日本エスペラント学会

高杉一郎は『ザメンホフの家族たち』所収の「日中エスペラント交流史の試み」において、国際文化研究所、『国際文化』、夏期外国語大学のエスペラント学級講座の開設が三位一体のようなかたちで、多くの社会主義的、マルクス主義的エスペランティストたちが…

古本夜話1395 高村光太郎訳『回想のゴツホ』

前回、大正時代に高田博厚が高村光太郎たちと交流して彫刻を続ける一方で、叢文閣からロマン・ロランの『ベートーヱ゛ン』などを翻訳していたことにふれた。 それは高村のほうも同様で、やはり同時代に叢文閣から『続ロダンの言葉』(大正九年、『ロダンの言…

古本夜話1394 高田博厚『分水嶺』と「パリの日本人たち」

もう一編、高田博厚の『分水嶺』(岩波書店、昭和五十年)を参照し、パリの片山敏彦とアランに関して続けてみる。 高田は大正九年に東京外語伊語科を中退し、コンディヴィ『ミケランジェロ伝』(岩波書店、同十一年)を翻訳する一方で、高村光太郎たちと交流…

古本夜話1393 アラン『文学論』とシモーヌ・ヴェイユ

片山敏彦はアランの『文学語録』を翻訳し、昭和十四年に創元社から刊行している。この邦訳名「語録」は原タイトルの Propos de Littérature(1944)を反映させ、「プロポ」のアランの翻訳を意図したのであろう。だが私の所持するのは、やはり創元社版である…

古本夜話1392 片山敏彦『詩心の風光』とロマン・ロラン

前回、高杉一郎の「片山教室」体験にふれたが、私のような戦後世代にとって、片山敏彦のイメージは希薄で、翻訳はともかく、著書も一冊しか入手していない。 『日本近代文学大事典』における片山の立項は一ページ近いので、清水徹によるシンプルな『[現代日…

古本夜話1391 片山敏彦とツヴァイク『権力とたたかう良心』

前回の片山敏彦に関して続けてみる。高杉一郎『ザメンボフの家族たち』に「片山敏彦の書斎」という小文がある。 高杉は『文芸』の編集者として、昭和十二年から十九年の応召に至るまで、片山の書斎訪問を繰り返し、「片山教室」の「生徒」だったことを語って…

古本夜話1390 小尾俊人と高杉一郎

またしても飛んでしまったが、みすず書房創業者の小尾俊人は『昨日と明日の間』(幻戯書房、平成二十一年)所収の「高杉一郎先生と私」で、次のように書いている。 私が高杉先生のお仕事のお手伝いをいたしましたのは、昭和二十九(一九五四)年からのことで…

古本夜話1389 叢文閣「マルクス主義芸術理論叢書」、啓隆閣、マーツア『二〇世紀芸術論』

本探索1386の秋田雨雀『若きソウエート・ロシヤ』の版元である叢文閣に関しては『近代出版史探索Ⅱ』204、206、207、208などで言及してきたが、出版目録は出されていないこともあって、その全貌は明らかではない。有島武郎との関係はよく知られ、彼の個人誌『…

出版状況クロニクル180(2023年4月1日~4月30日)

23年3月の書籍雑誌推定販売金額は1371億円で、前年比4.7%減。 書籍は905億円で、同4.1%減。 雑誌は466億円で、同5.7%減。 雑誌の内訳は月刊誌が398億円で、同5.0%減、週刊誌が67億円で、同10.1%減。 返品率は書籍が25.6%、雑誌が39.6%で、月刊誌は38.7%、週…

古本夜話1388 『雨雀自伝』とロシア文学者たち

『雨雀自伝』の中で、彼がロシア文学によって教育され、生活の意義への問いを喚起されたと告白している。それは明治末期のことで、ドストエフスキーの英訳に読みふけり、二葉亭四迷訳のゴーリキーやアンドレイエフを愛読していたとされる。 前回の演劇のトレ…

古本夜話1387 森鷗外訳『ジョン・ガブリエル・ボルクマン』、自由劇場、画報社

続けてふれてきた国際文化研究所や『若きソウエート・ロシヤ』などからわかるように、戦前において、秋田雨雀は社会主義や演劇運動のキーパーソンの一人であった。この際だから、そこに至る雨雀の前史を見ておこう。『雨雀自伝』(新評論社、昭和二十八年)…

古本夜話1386 秋田雨雀『若きソウエート・ロシヤ』

高杉一郎は前回の『スターリン体験』の国際文化研究所外国語夏期大学のところで、秋田雨雀所長の『若きソウエート・ロシヤ』の書影を挙げている。これは昭和四年に叢文閣から刊行された一冊だが、やはり同年の再版が手元にある。 この『若きソウエート・ロシ…

古本夜話1385 高杉一郎、国際文化研究所外国語夏期大学、『国際文化』

エロシェンと神近市子をたどり、かなり迂回してしまったが、高杉一郎に戻る。彼は『スターリン体験』(岩波書店「同時代ライブラリー」、平成二年)において、「国際文化研究所の外国語夏期大学」という一章を設け、駿河台の文化学院で、昭和四年七月十五日…

古本夜話1384 笹沢左保『見かえり峠の落日』と木枯し紋次郎

前回の峠に関してはただちに本探索1306の中里介山『大菩薩峠』が思い浮かぶけれど、ここでは戦後の時代劇と時代小説にまつわる話を書いておこう。もはや半世紀前のことになってしまうのだが。 ひとつは村上元三原作、市川雷蔵主演、池広一夫監督『ひとり狼』…

古本夜話1383 青木書店、深田久彌編『峠』、有紀書房『峠』

前回の「日本新八景」における山岳、渓谷、瀑布、河川、湖沼、平原、海岸の選定が、美しい景観への再認識と景勝地への旅行を促進させたことにふれておいた。そしてそれは出版界にとっても同様で、これも前回の「湖沼」だけでなく、多くの旅行ガイドも兼ねた…

古本夜話1382 田中阿歌麿『趣味と伝説 湖沼巡礼』

『みづゑ』の「水彩画家大下藤次郎」に収録された水彩画を見ていると、彼が湖を好んで描いていることに気づく。具体的には湖のタイトルを付しているものだけでも「木崎湖」「本栖湖」「猪苗代湖」「久々子湖」「松原湖の秋」「宍道湖の黄昏」などが挙げられ…

古本夜話1381 国画創作協会同人、大阪時事新報社編『欧州芸術巡礼紀行』

本探索1365の島崎藤村の「水彩画集」ではないけれど、そのモデルの丸山晩霞のみならず、水彩画の先駆者である大下藤次郎や三宅克己も、明治三十年代に欧米旅行に出かけている。 それは大正時代を迎えると、第一次世界大戦後の円高の影響も受けてか、画家たち…

古本夜話1380 徳田秋声『縮図』と小山書店

徳田秋声の『縮図』は昭和十六年六月から『都新聞』で連載が始まったが、九月までの八十日で中断し、秋声は十八年十一月十八日に七十三歳で亡くなり、未完のままになってしまった。 (『縮図』) だがその一周忌がすみ、帝都の空襲が激しくなる中で、小山書…

古本夜話1379 都新聞出版部と金井紫雲『花と鳥』

中里介山の『大菩薩峠』を連載した『都新聞』にもふれてみたい。それは浜松の時代舎で、都新聞出版部から刊行された金井紫雲を編集者とする『花と鳥』を入手し、都新聞社が出版も手がけていたことを知ったからである。 『花と鳥』は四六判函入、上製五〇五ペ…

出版状況クロニクル179(2023年3月1日~3月31日)

23年2月の書籍雑誌推定販売金額は997億円で、前年比7.6%減。 書籍は634億円で、同6.3%減。 雑誌は363億円で、同9.7%減。 雑誌の内訳は月刊誌が305億円で、同8.9%減、週刊誌が58億円で、同13.4%減。 返品率は書籍が31.0%、雑誌が41.2%で、月刊誌は39.9%、週刊…

古本夜話1378 田中貢太郎『貢太郎見聞録』とシナ居酒屋放浪記

実は上海滞在中の村松梢風を訪ねてきた人物もいるのである。それは『近代出版史探索Ⅲ』545の田中貢太郎で、しかも村松は「Y子」とともに彼を迎えたことを『魔都』で書いている。 私とY子 がそんな生活を始めて四五日経つた処へ、私の親友の田中貢太郎が日本…

古本夜話1377 大谷光瑞『見真大師』と上海の大乗社

前々回は村松梢風の『魔都』において、その不夜城にして物騒な都市の領域をクローズアップすることに終始してしまった。だが村松は上海の魔都だけに注視しているのでなく、思いがけない人々とも交流し、それらに言及している。例えば、「唯一の新芸術雑誌」…

古本夜話1376 芥川龍之介『支那游記』

前回、芥川龍之介の『江南の扉』にふれたが、その後、浜松の典昭堂で同じく芥川の『支那游記』を見つけてしまった。改造社から大正十四年十月初版発行、入手したのは十五年五月の訂正版である。それは函無しの裸本で、褪色が激しく、背のタイトルも著者名も…

古本夜話1375 村松梢風『魔都』

前々回の中里介山の『遊於処々』において、上海に向かう長崎丸の利用者に村松梢風たちがいると述べられていた。それを読み、村松に上海を舞台とした『魔都』という一冊があり、しばらく前に浜松の時代舎で入手したことを思い出した。 同書は四六判上製のかな…

古本夜話1374 中里介山『日本武術神妙記』と国書刊行会『武術叢書』

かつて国木田独歩とともに「同じく出版者としての中里介山」(『古本探究Ⅱ』所収)を書いた際にはその内容に言及しなかったけれど、昭和八年の介山の大菩薩峠刊行会版『日本武術神妙記』 の書影だけを掲載しておいた。 ところが前回の隣人之友社版『遊於処々…