出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話1420 野口冨士男『感触的昭和文壇史』と青木書店

前回の渡辺一夫との関連で、『近代出版史探索Ⅶ』1383の青木書店のことも続けて書いておこう。それは野口富士男の『感触的昭和文壇史』(文藝春秋)を読んだからでもある。 野口は青山光二、井上立士、田宮虎彦、船山馨、牧屋善三、南川潤、十返一と 青年芸術…

古本夜話1419 渡辺一夫『まぼろし雑記』と高杉一郎

これは前回ふれなかったけれど、高杉一郎『極光のかげに』の「小序」は渡辺一夫によって書かれている。そこで「僕には、他人の著書の序文など書く資格は全くない」としながらも、それに応じたのは「高杉氏及び『人間』編集長木村徳三氏の御要求に従つて」の…

出版状況クロニクル183(2023年7月1日~7月31日)

23年6月の書籍雑誌推定販売金額は792億円で、前年比8.1%減。 書籍は420億円で、同4.7%減。 雑誌は371億円で、同11.7%減。 雑誌の内訳は月刊誌が313億円で、同11.1%減、週刊誌は58億円で、同15.0%減。 返品率は書籍が41.5%、雑誌が48.4%で、月刊誌は41.6%、週…

古本夜話1418 木下一雄『希臘倫理史』と目黒書店の出版市場

前回の雑誌『人間』、目黒書店、目黒謹一郎に関しては『近代出版史探索Ⅳ』788でふれているが、戦前の目黒書店は書籍専門取次として、六合館、浅見文林堂、柳原文盛堂、杉本翰香堂、松邑三松堂と並んで大手であった。小川菊松の『出版興亡五十年』によれば、…

古本夜話1417 高杉一郎『極光のかげに』と目黒書店

またしても飛んでしまったが、高杉一郎へと戻らなければならない。彼の『極光のかげに』を読んだのは冨山房百科文庫によってなので、昭和五十年代になってからだった。ただそれ以前に内村剛介『生き急ぐ』(三省堂新書、昭和四十四年)や石原吉郎『望郷と海…

古本夜話1416 吉田孤羊編著『啄木写真帖』

前回、耕進社の既刊書リストを掲載したが、その中に吉田孤羊編『啄木研究文献』があり、私も二十年以上前に彼の編著『啄木写真帖』を入手していたことを思い出した。 それは函入の桝形本で、昭和十一年に改造社からの刊行である。当時の啄木研究や詩人、作家…

古本夜話1415 耕進社とその出版書籍リスト

本探索1407の山室静と耕進社の関係については『近代出版史探索Ⅱ』208、214で言及し、山室を通じて耕進社から矢野文夫訳『悪の華』が出版の運びとなったこと、及び山室たちのリトルマガジン『明治文学研究』が刊行されたことを既述しておいた。その際に、耕進…

古本夜話1414 嵩山房といろは屋貸本店

かつて大阪の出版業界を調べる資料として、足立巻一の『立川文庫の英雄たち』(中公文庫)も読み、思いがけない記述に出会ったので、それも書いておこう。実は同書の中に、『近代出版史探索Ⅲ』418の嵩山房が登場しているのである。 立川文庫を刊行した立川文…

古本夜話1413 榎本法令館「錦文庫」と「キング叢書」

増進堂・受験研究社の前身岡本増進堂が、「立川文庫」に類する「新著文庫」や講談本を刊行していたことを既述しておいたが、最近になって浜松の典昭堂で、大正時代の榎本法令館の類書を入手している。それらはいずれも極彩色の表紙の『侠客稲妻重三』と『忍…

古本夜話1412 岡本増進堂と立川文庫『乃木将軍』

『近代出版史探索Ⅱ』282で、既述しておいたように、錦城出版社は増進堂の他に、やはり『同Ⅱ』274や281の立川文明堂、崇文館などが参画した大阪の共同出版社だった。それが戦時下の企業整備によって増進堂へと吸収合併されたことは前回もふれたばかりだ。その…

古本夜話1411 添田知道『教育者』

これもいずれ取り上げなければならないと思っているうちに、十年以上が過ぎてしまった。それは添田知道の『教育者』で、やはり「新日本文芸叢書」と同じく、錦城出版社から刊行されている。ただその編集者の大坪草二郎との関係は不明で、彼と添田の組み合わ…

古本夜話1410 富田常雄『姿三四郎』出版史

前回『近代出版史探索Ⅱ』282「錦城出版社、大坪草二郎、太宰治『右大臣実朝』」を確認して、「なお富田常雄の『姿三四郎』も錦城出版社から刊行されたのだが、こちらは後述することにしよう」と書いていたことを思い出した。 考えてみれば、その後『近代出版…

古本夜話1409 錦城出版社「新日本文芸叢書」と長谷川幸延『大阪風俗』

前々回の赤塚書房「新文学叢書』と同様に、昭和十年代に刊行された錦城出版社の「新日本文芸叢書」のうちの長谷川幸延『大阪風俗』も、ほぼ同じ頃に入手しているので、それも続けて書いておきたい。(『大阪風俗』) 長谷川は大阪市曽根崎生まれの劇作家、小…

出版状況クロニクル182(2023年6月1日~6月30日)

23年5月の書籍雑誌推定販売金額は667億円で、前年比7.7%減。 書籍は366億円で、同10.0%減。 雑誌は311億円で、同4.9%減。 雑誌の内訳は月刊誌が252億円で、同6.1%減、週刊誌は58億円で、同0.7%増。 返品率は書籍が40.8%、雑誌が45.9%で、月刊誌は46.3%、週刊…

古本夜話1408 竹村書房と正宗白鳥『旅行の印象』

前回松本八郎の『日本古書通信』における赤塚書房「新文学叢書」への言及を取り上げたが、彼が赤塚書房と並んで、プロフィルが不明なのは竹村書房と竹村坦も同様だと書いていた。 松本ほどではないにしても、私も同じような思いを抱く。かつて「尾崎士郎と竹…

古本夜話1407 山室静『現在の文学の立場』と赤塚書房「新文学叢書」

『近代出版史探索Ⅶ』1385の秋田雨雀を所長とする国際文化研究所はその後プロレタリア科学研究所へと改組されていくのだが、その芸術学研究会には山室静、平野謙、本多秋五たちもいて、彼らは初期の力作を発表していたとされる。しかしペンネームでの執筆だっ…

古本夜話1406 『辞苑』と新村猛『「広辞苑」物語』

続けて「南蛮物」の著者としての新村出を取り上げたが、新村といえば、やはり岩波書店の『広辞苑』の編纂者ということになるだろう。 『近代出版史探索Ⅴ』852で明治大正のロングセラーの定番辞典として、上田万年などの『大日本国語辞典』、大槻文彦の『大言…

古本夜話1405 村岡典嗣『吉利支丹文学抄』

例によって浜松の時代舎で、村岡典嗣の『切支丹文学抄』を見つけた。菊判上製、付録を合わせると三五〇ページの一冊である。裸本ながら藍色の本体に寄り添うような、天金ならぬ天青の造本は、神父の僧服を彷彿とさせるし、三円五十銭の定価はこうした分野の…

古本夜話1404 長沼賢海編『南蛮文集』と「南蛮物」

前々回ふれなかったが、三島才二編校註『南蛮稀聞帳』は浜松の時代舎で見つけたもので、そこに長沼賢海編『南蛮文集』(南陽堂、昭和四年)もあり、一緒に購入してきている。 (『南蛮稀聞帳』) 前者の鮮やかな色彩の装幀は既述したが、後者は黒衣をまとっ…

古本夜話1403 「万有文庫」とクロポトキン『相互扶助論』

まったく偶然だが、前回の潮文閣の高橋政衛を発行者とする「万有文庫」をまとまって十六冊入手した。それはヤフーのオークションを通じてで、妻が発見してくれたのである。そこで一編挿入しておきたい。( 万有文庫)「万有文庫」のことは『近代出版史探索Ⅱ…

古本夜話1402 潮文閣と三島才二編校註『南蛮稀聞帳』

前々回、『雨雀自伝』において、『新思潮』の出資者が長谷川時雨の親戚にあたる木場の旦那との指摘から、それが材木問屋の数井市助であることが判明した。またその編集所が潮文閣と呼ばれていたという事実は、『近代出版史探索Ⅱ』217などの潮文閣の始まりも…

古本夜話1401 片山潜、『労働世界』、『平民新聞』

あらためて『近代出版史探索Ⅶ』1388の『雨雀自伝』を読んで、日露戦争をはさんでの数年が、日本の社会主義トレンドの隆盛期だったことが伝わってくる。雨雀は明治三十六年における体験を次のように記している。いかにも雨雀らしい率直な告白なので、これもそ…

古本夜話1400 『雨雀自伝』、『新思潮』、潮文閣

本書1388の『雨雀自伝』は戦後の昭和二十八年に美作太郎の新評論社から刊行された。戦前の美作に関しては拙稿「日本評論社、美作太郎、石堂清倫」(『古本屋散策』所収)などで既述しているが、『雨雀自伝』は後に未来社から出版された『近代出版史探索Ⅱ』20…

古本夜話1399『戦艦ポチョムキン』と映画評論社『定本世界映画芸術発達史』

中野重治の『空想家とシナリオ』でただちに連想されたのはエイゼンシュテインの『戦艦ポチョムキン』のことであった。この作品の中で、彼が想定しているシナリオとは『戦艦ポチョムキン』のように思われてならないのだ。『空想家とシナリオ』は高杉一郎の要…

出版状況クロニクル181(2023年5月1日~5月31日)

23年4月の書籍雑誌推定販売金額は865億円で、前年比12.8%減。 書籍は483億円で、同11.6%減。 雑誌は382億円で、同14.2%減。 雑誌の内訳は月刊誌が324億円で、同15.1%減、週刊誌が57億円で、同8.9%減。 返品率は書籍が31.9%、雑誌が42.3%で、月刊誌は41.2%、…

古本夜話1398 中野重治『空想家とシナリオ』

高杉一郎は『ザメンホフの家族たち』の「中野重治」、『往きて還りし兵の記憶』の「務台理作と中野重治」「その後の中野重治」において、いずれも主として前者は戦前、後者は戦後の中野に関して言及している。ここでは戦前の中野にふれてみる。 高杉は中野が…

古本夜話1397 『文芸』編集者小川五郎と宮本百合子「杉垣」

高杉一郎は『ザメンホフの家族たち』所収の「目白時代の宮本百合子」において、『文芸』の責任編集者としてのポジションを語っている。それは昭和十年以後、海外の作家の動向から考えても、日本の文壇もファシズムと文化の問題に直面せざるをえないだろうが…

古本夜話1396 小坂狷二『エスペラント文学』と日本エスペラント学会

高杉一郎は『ザメンホフの家族たち』所収の「日中エスペラント交流史の試み」において、国際文化研究所、『国際文化』、夏期外国語大学のエスペラント学級講座の開設が三位一体のようなかたちで、多くの社会主義的、マルクス主義的エスペランティストたちが…

古本夜話1395 高村光太郎訳『回想のゴツホ』

前回、大正時代に高田博厚が高村光太郎たちと交流して彫刻を続ける一方で、叢文閣からロマン・ロランの『ベートーヱ゛ン』などを翻訳していたことにふれた。 それは高村のほうも同様で、やはり同時代に叢文閣から『続ロダンの言葉』(大正九年、『ロダンの言…

古本夜話1394 高田博厚『分水嶺』と「パリの日本人たち」

もう一編、高田博厚の『分水嶺』(岩波書店、昭和五十年)を参照し、パリの片山敏彦とアランに関して続けてみる。 高田は大正九年に東京外語伊語科を中退し、コンディヴィ『ミケランジェロ伝』(岩波書店、同十一年)を翻訳する一方で、高村光太郎たちと交流…