出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

9 黒人との合流

  

◆過去の「謎の作者佐藤吉郎と『黒流』」の記事
1 東北書房と『黒流』
2 アメリカ密入国と雄飛会
3 メキシコ上陸とローザとの出会い
4 先行する物語としての『黒流』
5 支那人と吸血鬼団
6 白人種の女の典型ロツドマン未亡人
7 カリフォルニアにおける日本人の女
8 阿片中毒となるアメリカ人女性たち


9 黒人との合流

第九章の「志士」で、荒木は大坂と後藤の二人を連れ、三万人近い日本人が活動しているロスアンゼルスの「日本人街」に向かい、日本人経営のホテルに宿泊するつもりでいた。この途中で、荒木は東と出会う。東は帝国平原を離れ、昨年からここでホテルを経営していた。小山は大学に入り、社会学を専攻しているという。東のホテルは「ゴリキイの夜の宿」よりも風変わりで、「黒人(ネグロ)専門の宿屋」であり「俺達の理想としている黒人種との提携の一端」が開かれつつあると東は語る。それと同時に荒木のダイヤの指輪、高級な服装、鰐皮の鞄などに驚きを見せた。すでにここで荒木が日本人離れした存在になっていることを暗示させている。荒木たちは東のセント・オーガスチン・ホテルに泊まることにした。東は荒木に「黒人の青年志士」ジョウを紹介する。ジョウは語り始める。

 「有色人種の現在は、御承知の通り極く貧弱なもんです。只日本と云ふ代表的な力(パワー)が現はれて居る丈けで、他は全く貧弱なもんです。別けて我々黒人種は奴隷の境遇から解放された今日でも、人間として当然与へうるべき権利さへも、平気で蹂躙されて今日に至つたのです。が私達は決して現在の様な境遇に満足する事は出来ないんです。私達は地球上に生存する神の子の一人として、自由と平等を要求して居るんです。その為めには血を流してもかまひませんよ。私達の身体からだつて斬れば真紅な血が流れ出ますからね」

そしてジョウは故郷に戻り、黒人のためのアフリカ共和国建設をめざす運動に加わり、同志を募っているのだった。「黒人の為めに、堪えず同情を後援として居られる日本及び日本人に対して、(中略)感謝して居る」ともジョウは語り、白人による黒人への罪悪を一見すべきだと言った。荒木は「黒人労働者(ニガーレーバー)に変装し、ジョウと黒人専用の白人淫売窟に出かけた。黒人の金を取り上げるための地獄のようなものだった。金髪の下品な表情の白人女たちがやってきて、ウイスキーと料理をねだり、ダンスに誘った。

 彼はジャズバンドに合わせて、踊つて居る群集の方へ、手を組んで踊りながら入つて行つた。女共は、盛んに挑発的な態度を採つた。踊り乍ら、次の室へ消えて行く男女もあつた。まるで腐肉と腐肉とが触れ合ふて居るのだつた。此処では冒瀆が何の意識なしに行はれて居るのだつた。白と黒がルツボで煮られて居るのだつた。

白人の偽善と仮面の下で黒人は白人女に餓鬼のように群がっていた。ホテルに戻り、荒木がジョウに阿片による「白人社会の壊滅を謀つて居る団体」に属していると告白すると、ジョウはただちに参加すると表明した。

次回へ続く。