出版状況クロニクル32 (2010年12月1日〜12月31日)
日本だけで起きている特異な出版危機について、再販委託制に基づく近代出版流通システムの限界と破綻をずっと指摘してきた。
しかし96年に比べて、3分の1近い出版売上高の消滅という異常なまでの凋落は、それに加えて、出版物の内容の恐るべき劣化も影響しているのではないだろうか。つまりこの失われた十数年において、システムと出版物の劣化がパラレルに進行したゆえではないだろうか。
1920年前後に立ち上がった出版社・取次・書店という近代出版流通システムの歴史は、出版物のそれぞれの分野におけるコンテンツの充実、作品性としての進化などによって売上を伸ばし、読者を増やし続けてきた。
それに関して多くの例は挙げられないが、例えばコミックを考えても、戦後は貸本漫画から始まり、描写技術、物語、作品において、すばらしい進化と達成を示し、日本の誇るべきカルチャーへと変貌した。そのことによって、コミックの売上も読者もドラスチックに増加し、コミックの全盛を迎えたのである。それはミステリーにしても時代小説にしても同様の軌跡をたどっている。そしてこれらは実生活に何も役立たない本の無用の用という重要な内実を告げていた。
だが失われた十数年において、出版物における企画や編集の劣化に伴い、また書店にあっても本を売ることは二の次とされ、出店というハード、複合店モデルの推進によって、作品やコンテンツの内実は問われず、大量生産、大量販売、大量消費の道だけをひたすら歩んできた。それがシステムとともに出版物の大いなる劣化を招き、さらに出版危機を加速させていったように思える。
1.トーハンと日販の年間ベストセラーが発表された。それを次に示す。
順位 (トーハン) | 順位 (日販) | 書名 | 著者名 | 出版社名 |
1 | 1 | もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの、『マネジメント』を読んだら | 岩崎夏海 | ダイヤモンド社 |
2 | 2 | バンド1本でやせる! 巻くだけダイエット | 山本千尋 | 幻冬舎 |
3 | 4 | 体脂肪計タニタの社員食堂 | タニタ | 大和書房 |
4 | 15 | ポケットモンスターブラック・ホワイト公式完全ぼうけんクリアガイド | 元宮秀介、 ワンナップ編著 | メディアファクトリー |
5 | 3 | 1Q84 BOOK(3) | 村上春樹 | 新潮社 |
6 | 16 | ポケットモンスターブラック・ホワイト公式イッシュ図鑑完成ガイド | 元宮秀介、 ワンナップ編著 | メディアファクトリー |
7 | 5 | 伝える力 | 池上 彰 | PHP研究所 |
8 | 8 | 新・人間革命(21・22) | 池田大作 | 聖教新聞社 |
9 | 20 | 創造の法 | 大川隆法 | 幸福の科学出版 |
10 | 7 | くじけないで | 柴田トヨ | 飛鳥新社 |
11 | 11 | これからの「正義」の話をしよう | マイケル・サンデル 鬼澤 忍訳 | 早川書房 |
12 | 10 | マネジメント(エッセンシャル版) | PHドラッカー 上田惇生訳 | ダイヤモンド社 |
13 | 13 | 日本人の知らない日本語(2) | 蛇蔵 海野凪子 | メディアファクトリー |
14 | 6 | 知らないと恥をかく 世界の大問題 | 池上 彰 | 角川・エス・エス・コミュニケーションズ発行 角川グループパブリッシング発売 |
15 | − | モンチャンダイエットプレミアム | チョン・ダヨン | 扶桑社 |
16 | 17 | 天地明察 | 冲方 丁 | 角川書店発行 角川グループパブリッシング発売 |
17 | − | ゲゲゲの女房 | 武良布枝 | 実業之日本社 |
18 | − | あたしンち(16) | けらえいこ | メディアファクトリー |
19 | − | 誰とでも15分以上会話がとぎれない!話し方66のルール | 野口 敏 | すばる舎 |
20 | − | 母−オモニ− | 姜 尚中 | 集英社 |
− | 9 | 1Q84 BOOK(1・2) | 村上春樹 | 新潮社 |
− | 12 | 葬式は、要らない | 島田裕巳 | 幻冬舎 |
− | 14 | くらべる図鑑 | 加藤由子ほか | 小学館 |
− | 18 | 神のカルテ(1・2) | 夏川草介 | 小学館 |
− | 19 | 親鸞(上・下) | 五木寛之 | 講談社 |
[この表を見てすぐに気づくことは、小説を除いて、ほとんどが実用書であるという事実である。とりあえずビジネス書、健康書、ゲーム攻略本、宗教書、啓蒙書と分類できるにしても、ここでは本はすぐに役立つことを目的とする有用の用をめざしていると見なせるだろう。そうした意味において、小説も例外でないように思えてくる。
ここに日本の社会のマスイメージがあり、出版業界の2010年がくっきり描かれている。本の作り方、売り方、買われ方のすべてが余裕のない現在の社会を象徴し、たちまち役立つ本に集中してしまう事実を物語っている。そこには本の重要な資質とでもいうべき無用の用はもはや追放されてしまっているかのようだ。
ちなみに96年のベストセラーも参照してみよう。出典は『出版データブック1945〜1996』(出版ニュース社)による]
順位 | 書名 | 著者名 | 出版社名 |
1 | 脳内革命(1・2) | 春山茂雄 | サンマーク出版 |
2 | 「超」勉強法 | 野口悠紀雄 | 講談社 |
3 | 神々の指紋(上・下) | グラハム・ハンコック | 翔泳社 |
4 | 猿岩石日記(1・2) | 猿岩石 | 日本テレビ放送網 |
5 | EQ | ダニエル・ゴールマン | 講談社 |
6 | 患者よ、がんと闘うな | 近藤 誠 | 文藝春秋 |
7 | 弟 | 石原慎太郎 | 幻冬舎 |
8 | ぼくはこんな本を読んできた | 立花 隆 | 文藝春秋 |
9 | ソフィーの世界 | ヨースタイン・ゴルデル | 日本放送出版協会 |
10 | あのころ | さくらももこ | 集英社 |
[こちらを見ると、いささかほっとした気分にさせられる。1と2は10年の実用書に近いにしても、まだかつての本の世界のイメージがただよっているからだ。しばらく さくらももこの名文を読んでいないが、『特製ちびまる子ちゃん』全5巻を最近 買ったので、それこそ無用の用として楽しむことにしよう。
私はとりたててナショナリストでもないし、欧米と比較して日本の欠点をあげつらう言説を好む者でもないが、この10年のベストセラー表を外国からの視点で判断した場合、日本はどのような国に映るのだろうか。
『朝日新聞』の「GLOBE(グローブ)」が毎号海外のベストセラーを紹介してとても興味深いし、そこから各国の出版事情がうかがえるし、読者の一端も伝わってくる。だから「GLOBE」も国際化をめざしているのなら、この10年のベストセラーを世界に示し、恥ずかしさに耐えてでも、出版物に表われた日本の現在の状況を提示しておくべきだろう]
2.ポプラ社の齊藤智裕(水嶋ヒロ)の『KAGEROU』は初版30万部でスタートし、たちまち7刷に達し、異例の累計100万部を達成。
[1の年間ベストセラーは11月末までの集計なので、12月まで入れれば、『KAGEROU』も当然のことながらこのランキング表に加わっていたことになる。
しかしいくつかの週刊誌の報道によれば、この作品のポプラ社小説大賞受賞は、そこに至る過程には様々な人物や仕掛けが絡み、明らかな「出来レース」と見なされても仕方がないと思われる。
これもまた賞、作品、編集の劣化を物語る何よりの例と判断するしかない。おそらく『KAGEROU』はコミック化、ドラマ化、映画化へと進み、メディアミックス化して消費され、収益が上がる新しい小説のビジネスモデルとなり、似たような作品が次々と生み出されていくのではないだろうか]。
3.これも1のベストセラーに入っている柴田トヨの『くじけないで』の編集者である飛鳥新社の五十嵐麻子が『日経ウーマン』主催の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2010」を受賞。その「授賞理由」は次のようなものだ。
98歳のアマチュア詩人の詩集『くじけないで』を編集。さわやかな装丁と熱心なプロモーション活動で幅広い層の読者を獲得し、詩集では異例の75万部を突破。
[どのような本であれ、編集者にとっても出版社にとっても本が売れることはめでたいことで、それ自体は歓迎すべきことだが、やはり一言加えておきたい。
老人の呟きが詩となる社会はユートピアとされる。しかしこれは詩と呼ぶにふさわしくないし、分かち書き感想呼びかけ文とでも称したほうがいい。
近代詩もまた悪戦苦闘を重ね、欧米の詩に劣らない独自の日本語による高度な達成を遂げてきた。
しかし残念ながら『くじけないで』は武者小路実篤の詩のような呟きであり、それは詩の原型を浮かび上がらせているにしても、作品と呼ぶことはできない。これもベストセラーに見られるひとつの劣化と考えるしかない。同じ詩のベストセラーであっても、茨木のり子の『倚りかからず』の売れ方と共通していると見なせるかもしれないが、詩の内容が異なっている。
この際だから、ここに書いておこう。私の古い友人である詩人の池井昌樹が詩集『母家』(思潮社)を刊行していて、今年刊行された詩集の中でも最も優れた達成だと思われる。それは私だけの判断ではなく、『現代詩手帖』12月号の「今年度の収穫」アンケートが示していよう。
難しい言葉も表現も用いられていない。ほとんどが平仮名で書かれている。しかしその世界の奥行きは広くて深い。言葉が日常の生活を全身で抱擁しているかのようで、本当に池井ならではの詩の世界を堪能させてくれる。それなのにこのすばらしい詩集は千部も売れていないのではないだろうか。この詩集は「町の本屋」という一編で終わっている。
それはわたしがうまれたばかりのころは
それはしずかなまちでした
ぱんやさんやおもちゃやさんや
くすりやさんやとけいやさんと
のきをならべておりましたと始まり
このまちでうまれそだって
このまちでいきてきました
わたしはまちのほんやです
みよりたよりはありませんと閉じられている。
彼自身も町の本屋で長い間働き、今も働き続けている。
池井昌樹に幸いあれ]
4.民事再生法を申請した理論社はビックカメラの子会社であるデジタルハイビジョン放送の日本BS放送に事業譲渡。しかしその譲渡金額は1億円プラス小口売掛金の50%、債権者配当は2%とされている。
[しかし西原理恵子が2000万円の印税未払いを告白しているように、全体では多大な印税未払いがあると推測される。それゆえに配当率からいっても、著者による版権引き上げも生ずるだろうし、現経営陣の退任、加盟する児童図書十社の会との関係もありスムーズに新会社へと移行するわけにはいかないだろう。
本クロニクルで、TRCが理論社の「足長おじさん」となる可能性について言及したが、22億円の負債に加えて、様々な問題が複雑に絡みすぎて、救済できなかったということなのだろうか。
2のポプラ社といい、この民事再生に至った理論社といい、児童書出版社もかつてない変貌と選択を迫られているにちがいない]
5.矢野経済研究所は『2010年版出版社経営総覧』を刊行した。それによれば、4年後の2014年の出版物販売金額は09年の23%減の1兆4900億円で、その内訳は書籍6700億円(同21.1%減)、雑誌8200億円(同24.5%減)とされている。
[10年の販売金額は前年より600億円減の1兆8700億円台と推定されているが、出版業界のみならず、調査、研究機関も下げ止まりはまだ続くと予測している。ちなみに01年からの前年比マイナスの数字を示してみる。
これらのマイナスの推移はゼロ年代に出版業界が急速に縮小していったことを如実に物語り、それは10年代も確実に続いていくのである。それは改革に時間の余裕がないことを証明している]
前年比
マイナス
(億円)2001 ▲717 2002 ▲144 2003 ▲827 2004 +149 2005 ▲463 2006 ▲439 2007 ▲672 2008 ▲676 2009 ▲822
6.日書連の大橋信夫会長(東京堂書店)が出版販売年末懇親会で、売れ残り商品についての最終処分決定権を書店に与えてほしいと発言。
[この発言は東京都書店商業組合での議論をふまえたもののようで、日書連が再販制絶対堅持の立場を守ってきたことからすれば、書店からのかつてない再販見直し案と見なせるだろう。
この発言に応じて、出版流通改善協議会で、書協副理事長の菊池明郎(筑摩書房)は時限再販の活用で対応できると表明した。
『出版状況クロニクル2』において、出版業界の選択する道筋は時限再販しかないと既述しておいた。来年はようやくそれに向かって改革が進められていくのだろうか。
だが最も肝心なのはスピードであり、単なる書店の発言と出版社からの返答だけのセレモニーに終わってほしくない。もはや再生のための時間はそれほど残されていないからだ]
7.MARUZEN&ジュンク堂が安藤忠雄設計による国内最大型店2060坪、在庫洋書7万冊を含む200万冊でオープン。月商3億円が目標。
[丸善とジュンク堂VS紀伊國屋の本格的な梅田戦争の幕が切って落とされた。双方とも取次を巻きこみ、引くに引けない体力勝負ということになるだろう。そしてこの闘いに大橋発言と時限再販の行方はどのような波紋を投げかけていくのか、それが焦点となっていくようにも思われる。
その一方で、紀伊國屋は売上高1129億円の減収減益決算の発表を行なっているが、高井昌史社長の昇格を含めた役員人事の内幕は伝わってこない。しかし丸善やジュンク堂の相次ぐ出店が大日本印刷傘下に入ったことで可能になったのであるから、きっと紀伊國屋も再編や提携を模索しているにちがいない]
8.電子書籍端末「リーダー」をソニー、「ガラパゴス」をシャープがそれぞれ発売。
そのかたわらで、公取委は「ネットワークを通じて配信される電子書籍は『物』ではなく情報」との見解を示し電子書籍は非再販と表明。
[電子書店はメーカー、通信、印刷、新聞社、書店、出版社などのあらゆる関係業種が提携して立ち上げ、電子書籍狂騒曲の1年にふさわしく、すでに乱立状態になっている。
消費社会のメカニズムの一つの動因は紛れもなく安さである。電子書籍に対する非再販との公取委のお墨付きは電子書店の価格設定にどのような影響を与えていくのか。
例えば、本クロニクル31で既述した村上龍の『歌うクジラ』電子版は紙の半額であったが、確実に部数が見こめる雑誌、コミックや書籍の新刊が紙の3分の1の価格になった場合、紙と電子雑誌、書籍、リアル書店と電子書店の関係はどうなっていくのだろうか]
9.書籍のデジタル化をめぐって、総務省、文化庁、経産省の「デジタル三省懇談会」が立ち上げられ、一方では国会図書館の長尾構想による電子図書館プロジェクトが進められている。
[8の電子書店は民間で設立されたものだが、公のデジタル化プロジェクトの行方はどうなっていくのだろうか。前者のコンクリートなイメージはまだ伝わってこないので、後者にふれてみる。
長尾構想によれば、国会図書館の蔵書をデジタル化し、第3者NPO法人電子出版物流通センター(仮称)を設け、一定の貸し出し料金を課し、公共図書館、法人、個人に配信するものである。
これにはいくつもの疑問が浮かぶが、ここでは流通だけに言及してみよう。電子出版物流通センター構想はデジタル書籍の流通の一元化の試みと見なせるし、それは戦時下の総動員法によって進められた300社の取次を一元化した日本出版配給株式会社のイメージを彷彿させる。それは3500を数えた出版社を200余へと統合させる結果となった。もし一元化された場合、タブーも含んだ様々な書物の配信は可能なのか、書物の自由は保証されるのだろうか。誰がそれを監視するのだろうか、そのような疑問が次々に浮かんでくる。
折しも実質的な漫画規制である東京都青少年健全育成条例改正案の成立を見たばかりだ。「電子書籍元年」はそのような問題も孕みつつ進行していることを忘れるべきではない]
10.ソフトバンクの孫正義やマイクロソフトの樋口泰行などが発起人となってスタートしたデジタル教科書教材協議会(DiTT)は、学校におけるその普及に向けた「アクションプラン」を発表し、市場規模は4兆円と試算。
[メーカーや通信系にとって、デジタル教科書普及は大きな利権が絡んでいることは明らかだ。小中学校の授業の3割での利用、全生徒への情報端末配布、教室内無線LAN100%普及などがもたらす新しい市場は、現在の出版物売上高の倍以上と想定されていることからもよくわかる。
確かに全生徒への情報端末配布を考えただけでも、大きな市場となることが予測され、立ちどころにメーカーの争奪戦が目に見えるようだ。
しかしこの出版業界の失われた十数年を考えると、いつもハードが先行し、ソフトは置き去りにされ、その劣化を招いたとリードで既述したように、教科書教材問題においてもそれがあからさまに露出してくるような気がする。
だが8や9の問題とパラレルに、こちらも進められていくのだろう]
11.小学館労働組合が12月6日に2時間の時限ストライキを決行し、1枚のビラを配布した。ストライキの「合い言葉」は「WHY26?」で、そこには次のように記されていた。
小学館の社員は、現在約790名。そのうち、なんと26名が取締役なのです。もちろん、会社はそれなりに必要性があるから、役員を増やしたのだと言います。それならば、3期連続赤字がほぼ確定的になっているのに、誰も責任をとらないのはなぜなのでしょうか。それに加えて、4半世紀以上も保ってきた年末一時金の水準を、約束してきた「安定支給」のラインを割り込むところまできています。経営陣が責任をとれないなら、せめて、最低限の一時金は出すべきではないでしょうか。そうでないなら、なぜ新入社員は5名程度しか採用できないのに、26人の取締役が居座っているのでしょうか。
[日本を代表する大手出版社における「責任をとらない」構造は、そのまま出版業界を代表する役員ばかりが多い諸団体の姿と重なってくる。
だからこそ小学館労組は自社の「3期連続赤字」の背景にある失われた十数年の出版業界の構造にも目を向け、小学館も含んだ「責任」をも問うべきだろう。そのことによって「関係先お取引先」に他ならない書店の「みなさまにも恩返しができる」ような姿勢を示さなければ、恵まれた一時金闘争だけで終わってしまうことは明白だ]
12.本クロニクル31で、ノセ事務所の能勢仁による「消えた書店」レポートに言及し、彼が北海道の老舗冨貴堂の現在の凋落を悲しんでいると記した。
その冨貴堂の旗艦店MEGA店が1月で閉店。
[アルメディアによれば、10月末の書店閉店数は615店である。前年同期の833店に比べれば、減っているにしても、毎日2店が今年も消えていったことになる。
出店も前年の231店に対して184店とこちらも減っているが、大型店化していることもあり、新規店による増床面積は前年と同様だと推測される。
今年のMARUZEN&ジュンク堂に代表される全国的な大型店の進出は、既存の書店に大きな影響を及ぼすことは確実だ。それゆえにそのあおりを受けた書店の閉店はまだまだ続き、さらなる書店の減少につながっていく]
13.少年画報社の『完全復刻版 少年画報』昭和35年正月号を買った。
[この号は子供の頃に買ったように記憶している。なぜならば、ふろくの絵葉書のビリー・パックの図柄を覚えているからだ。
解説によれば、この号は70万8千部を刊行し、94.1%の実売で、少年雑誌のトップの売れ行きを示していたようだ。『まぼろし探偵』や『赤胴鈴之助』などの別冊ふろく10冊、絵葉書30枚、『まぼろし探偵』の折りこみカルタから昭和30年代の少年雑誌の文化が伝わってくる。私たちはこのような『少年画報』『少年』『冒険王』を読んで育ち、長じてコミックへと移っていったのであり、これらの昭和30年代の少年雑誌の隆盛時代があったからこそ、後のコミック全盛時代を迎えられたのである。それは出版史の継承と連鎖を教えてくれる。
しかしこのような雑誌に対する世間の風当たりは強く、悪書と見なされていたことを、『少年』や『少女』の編集者だった黒崎勇が『皆がNOならやってみろ』(リヨン社)の中で証言している。彼によれば、まんがが多く、ふろくに玩具をつけるのは雑誌として低俗で、しかも行き過ぎだから、本文を増やし有益な読み物を多くせよと、参議院に呼び出され、文教筋から集中砲火を浴びせられたという。
私が官主導の電子書籍化、デジタル化を危惧するのは、このような検閲に他ならない出版史の事実に基づいている]
14.「ちょいワルオヤジ」のコンセプトで、一世を風靡した男性ファッション誌『LEON』の創刊編集長岸田一郎が設立した出版社KI&Companyが負債7億円を抱え、特別清算開始。同社は男性ライフスタイル誌『ZINO』を07年に創刊したが、1年後には休刊となり、会社解散の決議に至っていた。
[岸田は主婦と生活社の『LEON』が大ヒットしたことで、花形編集者としてもてはやされ、露出も多く、業界誌などにもよく顔を見せていた。しかし同種の雑誌の市場は限られ、二誌が共存するものではないこと、著名な編集者であっても老舗出版社から離れ、独立した場合にはほとんど成功しないという事実をこの特別清算は物語っているし、この時代における雑誌創刊のリスクと難しさを告げている。
10年の雑誌創刊は108点で、過去40年間において最も少ない。それに対して休刊は210点の見こみで、07年に続く過去2番目に多い休刊点数となっている]
15.アメリカのDVDレンタル大手のムービーギャラリーとブロックバスターの今年における破綻を本クロニクルでも報告してきた。この2社に代わって、ネットフリックスは宅配、レッドボックスは自動貸出機で急成長してきたが、両社もインターネット配信に主力を移ししつつあり、それは日本へも波及してくることは必至だ。
[立ち上がっていく電子書籍市場の一方で、かつてのニューメディアであり、出版業界の第3商品として位置づけられていたDVDの行方はどうなっていくのだろうか。
TSUTAYAとゲオの100円レンタル合戦は相変わらず続いている。だがCCC=TSUTAYAはCCCが電子書籍市場に参入しつつあるが、TSUTAYAのほうはそのビジネス上の制約からレンタル市場にあり、分裂しているかのように映る。
本年はTSUTAYAもゲオもどこに向かうのだろうか]
16.論創社「出版人に聞く」シリーズは、2として伊藤清彦『盛岡さわや書店奮戦記』が1月中旬に、3として緑風出版の高須次郎『流対協と再販制、グーグル問題』が2月に刊行予定である。
今年はこのシリーズを10までは出したいと思っている。編集が完了次第、著者と書名を発表していくので、ご期待下さい。