出版状況クロニクル41(2011年9月1日〜9月30日)
東日本大震災に続く、かつてない台風の被害に伴い、「深層崩壊」というタームが語られるようになってきている。これはあらためていうまでもないかもしれないが、台風による山崩れや崖崩れにおいて、滑り面が深部で発生し、表土層だけでなく、深層の地盤までが崩れてしまう、規模の大きな崩壊現象を意味している。それは降水量が400ミリを超えると発生しやすいとされる。
この「深層崩壊」というタームは台風災害のみならず、出版業界の現在にもそのまま当てはまるものではないだろうか。失われた十数年の果てに、戦後の再販委託制による出版社・取次・書店という近代出版流通システムは「深層崩壊」的状況にあり、8000億円の売上を失う危機へと追いやられてしまった。
その「深層崩壊」をもたらした原因について、本クロニクルで詳細に言及してきたが、それは依然として食い止められず、現在も絶えざる崩壊現象に見舞われている。その次に待っているのは「想定外」の様々な出来事であるように思えてならない。
東日本大震災と原発事故、台風や「深層崩壊」と続いた日本社会の2011年は、まだ何が起きるのか、予断を許さない。それはまさに出版業界も同様である。
1.11年1月から8月までの出版物販売金額の推移を示す。
推定総販売金額 | 書籍 | 雑誌 | ||||
月 | (百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) |
1 | 128,326 | ▲1.6 | 61,435 | 3.6 | 66,891 | ▲5.9 |
2 | 169,797 | ▲4.0 | 82,905 | ▲2.5 | 86,893 | ▲5.5 |
3 | 209,629 | ▲3.7 | 111,533 | ▲1.3 | 98,096 | ▲6.4 |
4 | 150,038 | ▲7.3 | 68,944 | ▲2.8 | 81,094 | ▲10.8 |
5 | 119,116 | ▲5.6 | 53,440 | ▲4.0 | 65,676 | ▲6.9 |
6 | 147,276 | ▲0.1 | 64,153 | 6.6 | 83,123 | ▲4.7 |
7 | 126,911 | ▲8.8 | 50,501 | ▲7.8 | 76,410 | ▲9.5 |
8 | 133,023 | ▲1.5 | 53,778 | 1.0 | 79,245 | ▲3.2 |
[おそらく11年度の出版物売上は1兆8000億円を割ってしまうだろう。これはピーク時の1997年の2兆6600億円に比べれば、9000億円が失われたことになる。
それは売上水準がほぼ1980年前半に逆戻りしている現象を示し、雑誌は1兆円、書籍は8000億円を下回るはずだ。しかも歯止めがかからず、さらに落ちこんでいくと考えられる。
この絶えざる出版危機、日本だけで起きている出版危機に対して、出版業界を代表する4団体である日書連、書協、雑協、取協は危機の構造を直視し、正確に把握することもできず、失われた十数年をいたずらに看過してきたと見なされても仕方がないだろう。
本クロニクル40でふれた出版太郎の『朱筆』(みすず書房)が、すでに1973年の段階で、「書協はサロンから脱皮できるのか」を書き、書協の体質と実態を記し、大いなる危惧を表明していた。その「サロン」的性格は日書連、雑協、取協にも共通するものであろうし、それらが再販委託制という実質的に破綻しているシステムを護送船団的に維持してきたことによって、かつてない出版危機が深刻化したと判断するしかない]
2.集英社の決算が発表された。今期も含めてその推移を示す。
年 | 総売上高 | 前年比 | 雑誌 | 前年比 | 書籍 | 前年比 | 広告収入 | 前年比 | 当期利益 | 前年比 |
2001 | 145,398 | 0.1 | 103,882 | ▲2.7 | 21,308 | 21.1 | 18,929 | ▲4.6 | 6,606 | 51.3 |
2002 | 144,616 | ▲0.5 | 104,315 | 0.4 | 19,691 | ▲7.6 | 18,757 | ▲0.9 | 5,193 | ▲21.4 |
2003 | 141,825 | ▲1.9 | 100,785 | ▲3.4 | 18,575 | ▲5.7 | 19,703 | 5.0 | 2,580 | ▲50.3 |
2004 | 137,844 | ▲2.8 | 98,129 | ▲2.6 | 17,648 | ▲5.0 | 18,636 | ▲5.4 | 4,530 | 75.6 |
2005 | 137,848 | 0.0 | 95,786 | ▲2.4 | 18,771 | 6.4 | 19,227 | 3.2 | 2,174 | ▲52.0 |
2006 | 139,982 | 1.5 | 95,974 | 0.2 | 18,594 | ▲0.9 | 19,824 | 3.1 | 3,823 | 75.9 |
2007 | 143,437 | − | 93,744 | ▲2.3 | 19,159 | 3.0 | 19,077 | ▲3.8 | 4,122 | 7.8 |
2008 | 137,611 | ▲4.1 | 87146 | ▲7.0 | 18,633 | ▲2.7 | 19,065 | ▲0.1 | 249 | ▲94.0 |
2009 | 133,298 | ▲3.1 | 83,936 | ▲3.7 | 18,445 | ▲1.0 | 15,878 | ▲16.7 | 655 | 163.1 |
2010 | 130,470 | ▲2.1 | 87,339 | 4.1 | 17,922 | ▲2.8 | 11,947 | ▲4.8 | ▲4,180 | − |
2011 | 131,865 | 1.1 | 88,924 | 1.8 | 18,055 | 0.7 | 11,023 | ▲7.7 | 5,547 | − |
[売上高1318億円で前年比1.1%増、当期純利益55億円と前年の赤字から大幅増益となっている。
しかしこれは雑誌売上のうちの452億円を占めるコミックの12.6%増が寄与したものであり、ひとえに2億冊を売り上げたという『ワンピース』効果によっていることが明らかだ。
雑誌と広告収入はパラレルで落ちこんでいるので、集英社は雑誌出版社というよりも、コミック出版社として好決算を迎えたことになる。
1970年代に秋田書店が水島新司の『ドカベン』によって驚異的な利益を上げていたことを彷彿させる。だが問題なのは『ワンピース』効果がいつまで続くかであろう]