出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル26(2010年6月1日〜6月30日)

出版状況クロニクル26(2010年6月1日〜6月30日)


この数ヵ月で近隣の書店が2店続けて閉店した。1店は地場の書店、もう1店は地方チェーン店で、両者とも郊外店ラッシュの80年代に開店している。大型店でない80年代型郊外店の時代が終わりつつあるのだろう。
老舗書店は1店が営業しているが、これは吸収合併によって移転した場所にあり、すでに別の書店と考えたほうがいい。かくして地場の書店は消えてしまい、残ったのはTSUTAYAブックオフ、ゲオだけということになる。これは全国的に共通する現象だと考えられる。
相変わらず電子書籍狂騒曲が続いている。だがその背後で、80年代型郊外店ビジネスモデルの終焉があるにしても、脅迫にも似た大政翼賛会的均一報道に将来を断念し、閉店廃業していく書店が増えているのではないだろうか。                                                          
その書店状況であるが、アルメディアによる5月1日時点での調査結果が公表された。それによれば、書店数は1万5314店で、前年比451店、2.9%減、売場面積は141万7863坪で、同9339坪、0.7%減。
しかし書店数は店舗を持たない本部や営業所も含まれているので、それらを除くと1万4000店を下回り、売場面積も02年から8年ぶりに前年より減少。
アルメディアによる09年5月から10年4月にかけての出店、閉店状況を示す。
年月新規店閉店
 新規店 総面積
(坪)
平均面積
(坪)
 閉店数 総面積
(坪)
平均面積
(坪)
09年05月142,768198916,94589
09年06月204,821241856,13486
09年07月265,694219443,87190
09年08月111,703155775,68186
09年09月315,296171825,76879
09年10月305,255175757,397107
09年11月347,008206533,35366
09年12月212,576123653,50366
10年01月3510170603,48063
10年02月9915102746,204103
10年03月365,7111591119,199102
10年04月356,126175754,93271
合計27048,38317989266,46785
前年同期37080,7932181,14475,84274
増加率▲27.0%▲40.1%▲17.9%▲22.0%▲12.4%14.8%

リーマンショック以後の経済不況の影響を受け、出店は明らかに減少の傾向にある。それに反して閉店は高止まり状況が続いている。この状態は今年の後半も、また来年も変わらないだろう。それによる書店市場の縮小は出版物売上金額が落ち続ける中にあって、さらに返品率を上昇させ、膨大な返品となって、出版社へと跳ね返っていく。
 もし近い将来、書店数が1万店を割ることになれば、再販委託制ゆえに、返品によってどうしようもない窮地に陥ることになろう。
 それにまた全国の書店数を見ると、鳥取県が80店、佐賀県が81店となっていて、この数から判断すれば、書店難民もすでに発生しているのではないかと思われる。1970年代には2万3000店あった。そのうちの8000店近くが消えてしまったのだから、これも当然の事態と考えるしかない。おそらくそれは鳥取や佐賀のみならず、他県へも及んでいくだろう]

2.一方で出版社状況はどうであろうか。
出版ニュース』(5/中・下)が「日本の出版統計―『出版年鑑』2010年にみる書籍、雑誌、出版社」を掲載し、1980年から2009年にかけての出版社の推移も追っている。アレンジして表化してみる。

出版社数増減数出版社数増減数
19804,269-19954,561+ 74
19814,154▲ 11519964,602+ 41
19824,327+ 17319974,612+ 10
19834,231▲ 9619984,454▲ 158
19844,169▲ 6219994,406▲ 48
19854,183+ 1420004,391▲ 15
19864,258+ 7520014,424+ 33
19874,258+ 020024,361▲ 63
19884,282+ 2420034,311▲ 50
19894,282+ 020044,260▲ 51
19904,309+ 2720054,229▲ 31
19914,320+ 1120064,107▲ 122
19924,284▲ 3620074,055▲ 52
19934,324+ 4020083,979▲ 76
19944,487+ 16320093,902▲ 77

[これを見ると、出版物売上金額が上昇を続けていた1980年代の出版社数はほぼ横ばいで、90年代に入って微増し、97年に4612社と最も多くなり、それをピークにして減り始めていることがわかる。この数には創業出版社も含まれているわけだから、この間に既存の出版社が少なくとも1000社以上消えていったのである。


 奇しくも出版物売上金額の減少を見たのは97年であり、それとパラレルに出版社も減り始めていたことを、この表は示している。そして書店と同様に、こちらもまたさらに減っていくだろう]

3.小学館は売上高1177億円で、前年比7.7%減、2年連続赤字決算。最終損失は44億円。内訳は雑誌が691億円、前年比6.7%減、書籍が193億円、同5.2%減、広告が148億円、同27.5%減。
雑誌と広告の落ちこみは、マス雑誌の苦戦と広告収入の急速な減少を告げている。この2年間で広告は100億円減少したようだ。

小学館講談社と同じ2年連続赤字となった。最も気になるのは雑誌売上に含まれているコミックで、それは258億円、前年比8%減である。この数字が10年度のコミックの総売上の反映でなければよいのだが。


 ブックオフの主力商品が小学館集英社講談社のコミックであるのは自明のことだろう。その3社とDNPグループの株式買収が追い風となり、ブックオフが売上を伸ばしていることは何とも皮肉な光景だ。それがコミックの落ちこみと結びついているのは明らかで、集英社講談社のコミックも同様だと思われる。何のための買収だったのか、もう一度問うてみるべきだ。ブックオフを支援して自らの墓穴を掘る大手出版社という構図しか浮かんでこないからだ]

4.『日経MJ』(6/6)が「ブックオフ中古百貨へのON」特集と佐藤弘志社長へのインタビューを掲載している。
それによれば、創業20年の今期から古本に依存せず、衣料品、スポーツ用品などの中古品も広く扱う総合リユース事業へと転換し、新しい事業モデルを構築する。そのために新卒社員67人のうちブックオフ事業33人、リユース事業34人という配置となる。
ブックオフ事業はすでに成熟状況にあり、新刊書籍市場の収縮、電子書籍の普及が進めば、中古本市場も頭打ちになるというのが佐藤の言である。

[これらは以前から伝えられていて、目新しいものではないが、この特集で驚いたのはブックオフ株式買収チャートである。そこには「小学館など出版3社やDNP丸善、CCC」が引き受けたと記されていた。ブックオフの株主はCCCではなく、TSUTAYAだから間違いではないかと思い、『会社四季報』で確かめてみると、いつの間にかCCCが株主になっていた。出版社3社とDNPグループの買収とパラレルに、TSUTAYAからCCCに株主も変わっていたことになる。しかしこの株式の移動はまったく報じられていない。


 そもそもブックオフの株式は04年上場時にCCCが有し、06年にTSUTAYAに移り、09年10月にCCCに戻されたことになる。会社分割や解散が絡んで、複雑である。

 本クロニクル25で、TSUTAYAの所有ブックオフ株式の行方に注意すべきだと書いたが、それはすでにCCCに移動していたのだ。だがこの事実を知るにつけ、ブックオフのTカードからの離脱や、CCCのネットオフとの資本業務提携にはどのような事情が秘められているのだろうか。


 また子会社のブックオフオンラインは売上高20億円で、100億円まで伸ばすのが目標。さらに7月にはさいたま市に「BOOKOFF SUPER BAZAAR大宮ステラタウン」1346坪を開店する]

5.トーハンは売上高5472億円で、前年比4.8%減、経常利益21億円で、同47.9%減だが、純利益10億7800万円、同5.5%増。



 6.日販は売上高6130億円で、前年比3.1%減の12年連続売上減、経常利益30億円、14.0%減だが、純利益は13億円、同21.3%増。



 7.日販とCCCの合弁会社MPDの売上高は2189億円で、前年比4.7%増、経常利益は10億円で、同17.1%増の増収増益。



 8.大阪屋は売上高1257億円で、前年比1.9%減、経常利益2億円で同43.0%減だが、最終利益は昨年の赤字から一転し、1億2700万円の黒字。



 9.太洋社も売上高402億円で前年比4%減だが、船橋流通センター売却もあり、大幅な黒字となる模様。



10.日教販は日販、旺文社、学研ホールディングス世界思想社教学社増進堂、文英堂など12社を引受先とする2億3000万円の第三者割当増資を実施。

[5から9はいずれも今期の取次の決算だが、増収増益のMPD以外の4社は減収増益という内容になった。これも横並びという印象が強い。だが10年以上に及ぶ売上高減が続いても、取次にはまだ体力があり、コスト改善の手段が残されているということなのだろうか。

 危機の中にある出版社と書店の間にあって、取次だけが利益を上げていることになるが、これは来年も続くのだろうか。


 10は大阪屋に続く取次の第三者割当増資で、筆頭株主東京三菱UFJ銀行系列となっている]

11.今年の3月に『日販60年のあゆみ』が刊行されている。これは60年のうちの50年は第1部でまとめてダイジェスト化され、2000年から09年がこの社史のコアとなっている。

[これは日販ならではの、委託制による近代出版流通システムから、責任販売制を主とする現代出版流通システムへ向かう模索と軌跡の社史とも見なせよう。

 それがSCM(サプライチェーンマネージメント)の確立を中心にして語られている。しかし日販のこの時期はCCC=TSUTAYA、つまりCD、ビデオ、DVDとともに歩んできた歴史であり、MPDの設立はこの事実を象徴している。だがCDは危機的状況に入り、DVDレンタルの行方もきわめて不安定なもののように映る。これらの状況は取次にどのように影響を及ぼしていくのだろうか]

12.『日販60年のあゆみ』は知り合いの書店から恵贈されたのだが、09年刊行の『有隣堂100年史』は入手できず、まだ読んでいない。
実は有隣堂に返信用はがきを入れた手紙を書き、出版史を研究しているので入手方法を訪ねたところ、次のような返事が戻ってきた。


このたび刊行いたしました社史は、当初より弊社の株主、主たる取引先ならびに従業員と退職者に配布先を限定しております。また弊社の基幹従業員の名簿を収録しておりますため、個人情報保護法の定めるところにより、従業員各自より掲載の許諾書を得ております。許諾の条件としまして、先記の配布先への限定を約束しております。
まことに勝手ながらこうした事情により、一般の方々への提供を行っておりません。ご賢察賜り、何卒お許しいただけますようお願いを申し上げます。

付け加えて、神奈川県下の図書館の大半に入っているので、そちらでの閲覧をと記されていた。そこで図書館相互貸借サービスを通じて調べてもらうと、『有隣堂100年史』は横浜市立中央図書館のみが所蔵していて、9年12月刊行のため10年12月まで規定で貸出できないという返答があった。そのために現在に至るまで読むことができない。

[「個人情報保護法」云々はともかく、いかにもマニュアルにのっとった杓子定規な返答で、社史刊行は出版史や文化史に開放されるものではなく、自社だけで閉じてしまっている印象を受ける。

 これは推測だが、有隣堂の歴史は横浜文化史とも大きくつながっているはずで、個人情報をカットしたかたちでの刊行が望まれる]

13.トーハンはCD・DVD卸大手の星光堂と資本、業務提携。トーハンが星光堂の株式8%を取得し、共同仕入れ、在庫の相互利用など業務の効率化をめざす。


14.文教堂は自社で展開してきたCD・DVDレンタル事業をすべて中止し、ゲオのFCに転換。


15.CD販売大手のHMVジャパンは、全国55ある店舗で最大の売場である渋谷の旗艦店HMVを閉店。本クロニクル24で伝えておいたように、CCCがHMVジャパンを買収する方向で検討中。


16.アメリカのDVDレンタル店はブロックバスター、ハリウッド・ビデオ、ハリウッド・エンターテインメントの3社が雄だったが、05年にハリウッド・ビデオがエンターテインメントを買収し、ムービー・ギャラリーとなり、2社体制であった。しかしそのムービー・ギャラリーがこのほど破産し、4000店を超える店舗が消滅するという。また残されたブロックバスターも倒産が囁かれているようだ。
このレンタル店の急激な衰退は、低価格の自動貸出機、宅配レンタル、ネット配信などとの競合が原因とされている。

[これまで繰り返し言及してきたように、90年代以後の儲かる書店のビジネスモデルはレンタルも兼ねた複合店で、取次もその出店に邁進してきた。日販とTSUTAYA=CCCの関係はそれを象徴してあまりある。

 しかし12から15の事実はレンタルも兼ねた複合店ビジネスモデルが成熟段階を過ぎ、衰退期に向かっていることを告げているのだろう。


 近隣のゲオとTSUTAYAは7月末までとの限定だが、ついに80円レンタル合戦に入ってしまった。この価格はアメリカの自動貸出機値段とほぼ同じで、それだけ見れば、レンタル店にもかかわらず、自動貸出機普及状況になってしまったことになる。だがそれにもかかわらず、レンタルはあまり増えていないように見受けられる。またここまでレンタル価格デフレが起きてしまうと、元の価格に戻すことは難しく、デフレ状況のまま進んでいくしかない。


 CCCの株価も相変わらず400円前半にとどまり続けている。株式市場もレンタルの行方を見守っていると思われる]

17.今月も電子書籍とリーダーに関する特集、記事ばかりで、今年の出版業界はそのことで明け暮れ、またそれは来年も続いていくのだろう。


 だがその中でも今月は異色の記事が『ニューズウィーク日本版』(6/16)に掲載されているので、それを紹介しておこう。それは「自殺工場、爆発する中国」で、アップルのiPhoneiPad の請負工場で続発する労働者の自殺に焦点を当てている。
この記事によれば、中国広東省の電子製品メーカーの富士康の工場で、10年に入って少なくとも10人の従業員が自殺し、そのほとんどが建物の屋上から飛び降りているという。その背景にあるのは厳密に管理された苛酷な労働であり、アップルだけでなく、マイクロソフト任天堂のマシンもこの富士康で生産された可能性が高い。中国の労働力なくして、この10年の新たなマシンの製造はできなかったであろう。その事実は次のように記されている。


 「世界のコンピューター産業が機能しているのは、月額にしてわずか300ドルほどの給料と引き換えに、1日12時間も工場の組立ラインで働く人たちがいるからにほかならない。(工場労働者の月給は、そのした工場で生産されるハイテク機器が先進国の市場で売られている価格にたいてい満たない。」

[グローバリゼーションとパソコンネット社会の影の部分がレポートされている。何十万人もの従業員たちはほとんどが10代後半から20代前半で、中国農村部からやってきた出稼ぎ労働者であり、孤独な寮生活を送っているようだ。

 そのイメージを考えると、最新のハイテク機器は中国農村部を出自とする「孤独な群衆」によって生産され、高度資本主義消費社会のこれまた「孤独な群衆」によって使用されていることがわかる。

 フリードマンは『フラット化する世界』においてこそ、イマジネーションが最も必要とされると述べているが、電子書籍報道にしても、このような視点が不可欠なのだ]

18.雑誌の電子書籍というタームに関する特集や記事への言及は17だけにするつもりだったが、月末になって『週刊東洋経済』(7/3)が「メディア覇権戦争 新しい支配者は誰か?」という広い視点からの特集を組んでいるので、これも紹介しておこう。
その特集は「[図解]アップル・グーグル・アマゾンの陣地争い」から始まり、第1章「電子書籍は『本』を救うのか」、第2章「『新聞』の暗中模索」、第3章「瀕死! 日の丸プラットフォーム」とインターナショナルな観点も含め、多岐にわたっている。

[すべてにはふれられないので、第1章だけに限定する。何よりもまずこの特集の特色は、電子書籍問題を背景としているが、第1章に入る前の前提として、次のような断言が書きこまれていることだ。


 「制度疲労を起こしている現在の出版流通の仕組みだ。再販制度と委託販売制度の組み合わせにより成り立ってきた日本の出版流通は、1996年をピークに縮小し、返品率40%という異常事態の中で到底維持できなくなっている。」


 さらにこれに続いて、従来の再販委託制を守るための「言い訳」を否定してもいる。メジャーな経済誌で、ここまで再販委託制が公然とネガティブに扱われたのは初めてだろう。

 本クロニクルの読者はこの一文が私の言葉かと錯覚するかもしれない。この特集の背景には本クロニクル24で既述した『週刊ダイヤモンド』の「電子書籍と出版業界」企画が没になった経緯があり、それらも含めて一歩踏みこんだ企画となったと推測できる。


 その他にもアメリカの最大の書店バーンズ&ノーブルの危機など、興味深い記事も多いので、出版業界の人間は買うしかない特集に仕上がっている]

19.フラット化しているのは電子書籍報道ばかりでなく、新聞書評も同様である。6月6日の新聞書評を見ていたら、『読売新聞』『日本経済新聞』『中日新聞』(『東京新聞』)の写真入り著者インタビューの欄に、いずれも集英社から『母―オモニ』を上梓した姜尚中が出ていた。

[著者にも作品にも罪があるわけではないが、新聞書評欄がいかにフラット化しているかの典型的な例であろう。6月8日の『毎日新聞』夕刊、6月24日の『朝日新聞』夕刊にも、ともに同様の写真入りインタビュー記事が出ていた。

 いくら何でも横並びも度が過ぎ、あきれる思いがする。新聞の文化部、学芸部のイマジネーションはもはや枯渇してしまったのであろうか。

 書評にしても評者と本のミスマッチが目立ち、その書評にも本に対する愛情が感じられない。新聞書評の影響力がなくなって久しいとされるが当然のような気がする。


 「出版社は新しいものを作り出す意欲や喜びを失ってしまったのか、書店は大量に売れる本ばかりを山積みにして満足し、多種多様な本を提供するという本来の目的をなおざりにしていないか、ベストセラーを追いかけてベストブックの紹介を忘れている書評家や書評欄はもはや無用、などという声が聞かれる。」


 この一文を目にしたのは『出版ニュース』(2/下)の伊藤暢章の「海外レポート/ドイツ」においてだったが、これは日本にもそのままあてはまるように思えてくる]

20.新潮社のコミック誌週刊コミックバンチ』が8月に休刊。01年に初めてのコミック週刊誌として72万部でスタートしたが、今年になって14万部まで落ちこんでいた。休刊は編集委託先のコアコミックスとの契約満了によると説明されている。年内には新たなコミック雑誌の創刊を予定。

[私見では組み合わせがミスマッチと思われるものに、新潮社とコミック、小学館と文庫、マガジンハウスと単行本書籍などが ただちに挙げられる。

余計な口出しかもしれないが、この際だから新潮社も思い切ってコミックから撤退したほうがいいように思われる]

21.これも知り合いの出版社から恵送されたのだが、『人文会ニュース』第108号が出た。この号は「本を選ぶときのポイント」と題され、千代田図書館での人文会の「連続セミナー特集」で、吉川弘文館未来社筑摩書房平凡社東大出版会みすず書房の経営者や編集者たちが、それぞれの柱である出版物や自らが編集したシリーズなどについて語っている。これだけの紙幅をとり、人文会が多角的に語られたことは以前にはほとんどなかったので、その意味でも記念すべき号といえるだろう。


 すべてを紹介できないので、筑摩書房の熊沢の話だけに限定する。筑摩書房の編集者といえば、「王様のブランチ」に出ていた松田哲夫が有名であるが、熊沢も手堅い編集者としてよく知られ、「ちくま学芸文庫」編集長を九二年から務めている。
それゆえに彼の話は「学芸文庫」が中心で、とても興味深い。初版六〇〇〇部からのスタート、絶版人文書の「どぶさらい」と「新訳」事情、企画の「文脈づけ」と「星座」の関係などが語られている。


 例によって『人文会ニュース』は非売品だけれど、広く読まれてほしいので、いずれかの出版社での単行本化が望まれる。

[なぜ熊沢の言を紹介したのかというと、この中で営業部時代に書店が主宰するベンヤミンの読書会に参加したこと、リブロに集ったすごい書店人たち、その一人から学芸文庫のラインナップに対するクレームが出されたことに言及がなされていたからである。


 これは名前は挙げられていないが、明らかに元リブロの今泉正光をさしている。実は今泉へのインタビュー集『「今泉棚」とリブロの時代』の編集を終えたばかりで、「本を売ることもひとつの思想である」という帯文を付し、8月には論創社から刊行できると思う。期待されている読者も多いと聞いている。もう少しお待ちいただきたい。

 今泉とはインタビューのために20年ぶりで会ったが、熊沢にはもう30年も会っていない。でも彼も達者で何よりだ。


 最後に付け加えれば、「学芸文庫」所収のジンメルとヴェブレンが「流行」と「消費」について先駆的に論じていると熊沢は語っているが、それ以前にゾラが『ボヌール・デ・ダム百貨店』(論創社)を書き、すでにこの両者の問題に正面から取り組んでいる。これは私が編集に携わったもので、ぜひ読んでほしいと思う]

22.拙著『出版状況クロニクル2』 も遅れてしまったが、7月6日には書店に並ぶはずである。

 書き下ろし150枚を付し、提案もしているので、よろしければご一読されたい。

出版状況クロニクル2

以下次号に続く。

◆バックナンバー
出版状況クロニクル25(2010年5月1日〜5月31日)
出版状況クロニクル24(2010年3月26日〜4月30日)
出版状況クロニクル23(2010年2月26日〜3月25日)